57話「コンペイトウの戦い・その6」
ミーティア、それは後に伝説となるとある2機のMSと共に語られることの多い兵器だが、当初のコンセプトはザフト版ストライカーパックと言うものであった。
しかし連合軍のG兵器に触発され、計画を大幅に変更。
極秘裏に開発が進められている「アレ」の搭載が決まり、過剰なまでの火力と推進力を追求した結果、誕生したのがこの化物兵器である。
今回コンペイトウに持ち込まれたそれはその試作機であり、大容量コンデンサに支えられた大出力と圧倒的な火力に機動性を有していた。
この時代を超越した超兵器の卵は、今までその調整に追われて出番がない状態であったが、しかしここに来てとうとうその秘密のベールを脱ごうとしていた。
「隊長、戦果を期待してます」
「おう、シャンパンを冷やしておけよ」
シグーに接続されたミーティア試作機は、その巨大の為艦に収容する事が出来ず、ナスカ級にワイヤーで牽引され戦場まで運ばれた。
当然整備性は悪化しており、機体の調整に行く大きく手間取る理由にもなったが、しかし今正に悪魔の子が戦場に生まれ出でようとしていた。
「進路オールクリア、ロック解除完了、発進のタイミングをパイロットに一任」
ナスカ級に乗っているミーティア専用オペレーターが次々と機体のロックを解除し、発進シークエンスが整えられていく。
「ミーティア試作機、出るぞ」
コクピットのフットペダルを大きく踏み込み、出力を上げたエンジンが唸りながら爆発的な推進力で機体を前方に押し出した。
「!!」
その瞬間圧倒的なGが機体と中のパイロットを襲い、強烈な振動が機体をガタガタと揺らしパイロットは押し潰されそうな加速の中何とか歯を食いしばって耐える。
コーディネーターの頑強な肉体を骨まで軋ませる殺人的な加速にに、パイロットは意識を飛ばされないように気をしっかり持つだけで精一杯であった。
当然機体のコントロールなど出来る筈もなく、進路がぶれない様固定するだけでかなりの体力が持っていかれる。
メインスラスターノズルから一条の光の様に伸びる噴射炎は、まるで流星に似て漆黒の宇宙を切り裂く。
「3分だ、3分持たせるんだ!」
反撃に転じられたコンスコン准将だが、彼は戦力の一部を抽出して突破されかかっている戦線へと振り分けた。
同時に突破されている方面とは反対の戦線で、圧力を強め敵の進撃を鈍らせようとする。
援軍到着まで「3分」の間、僅か12隻の艦船はそれだけでザフト全軍を相手しなければならなかったのだ。
「共和国を舐めるな!連中に本物の火力戦を見せてやる」
重砲師団は敵の突破を防ごうとありったけの砲弾を叩き込み、戦列を整えたバストライナー砲の一斉射が敵を押し止めようと薙ぎ払う。
空間ごと埋め尽くさんばかりの火線が漆黒の宇宙を彩り、目映い閃光が弾けては消える度誰かの命が散る。
しかしザフトは犠牲を問わずに突撃し、それを粉砕しようとする共和国との間で血みどろの戦いが繰り広げられた。
そしてその戦場に、一条の光と共に一つの流星が舞い降りる。
ミーティアのパイロットは戦場に到着する寸前、機体の推力を偏向し上方へと上がり抵抗を続ける共和国艦隊の頭上を取った。
逆噴射をかけ機体を制動し機首を艦隊の方向に向けると、ミーティアと連動したシグーのFCSがゆっくりと艦隊をロックオンする。
(遅い!)
パイロットは遅々とした速度に焦れったさを感じていた。
シグーは各種実験機に使われるほど優秀な機体だが、しかしミーティアをフルスペックで動かすには明らかに性能が不足していた。
ミーティアはあくまでも追加装備であり、それ単独では単なる大きな弾薬庫にしか過ぎない。
豊富すぎる武装とスペックを最大限発揮する為には、それ相応の機体でなければならなかった。
何機かのハイザックとゴブリンがミーティアに気付き、マシンガンの銃口を向けながら此方に近づいて来る。
ロックオン中のミーティアは動かす事が出来ず、このままではいい的になってしまう。
「くそ、もう待ってられん!」
パイロットの決断は早かった、彼はロックオンが不十分なままミーティアに一斉射させた。
極太のビームの奔流が向かってきたハイザックごと敵を薙ぎ払い、巨大な対艦ミサイルと小型ミサイルがまるで滝の様に共和国艦隊に向け放たれる。
一斉射の瞬間ミーティア試作機の大容量コンデンサは一瞬で空になり、シグーに搭載されているバッテリーが砂漠に吸われる水の如く無くなっていく。
ミーティアに向かってきたハイザックのパイロットはその光景を、「光の奔流」と言ったという。
巨大なミーティアがミサイルとビームの光で見えなくなる程の光の渦は、そのまま共和国艦隊に突き刺さった。
極太のビームはそのまま巨大な光の剣となってアレキサンドリア級を真っ二つに切り裂き、ミサイルの大群はサラミス級の対空防御を飽和させ次々と命中し内部で爆発する。
避けようもない弾幕の嵐にMSが部隊ごと飲み込まれて消息を断ち、攻撃が通り過ぎた跡にはポッカリと大きな穴が広がっていた。
「す、凄い...こいつが量産された暁には連合軍なんて目じゃない!?」
一斉射の衝撃でバッテリー枯渇の危機に瀕した機体が、強制的にミーティアをパージし中のシグーが無防備な姿で漆黒の暗闇に漂うなか、しかしパイロットは計器の光いがいない暗いコクピットの中でそう感嘆の声をあげる。
だがその時、ミーティアの一斉射を運良く生き延びだ一機のハイザックが近くのデブリの中に潜んでいた。
ミーティアの攻撃で仲間と船を失い、機体も片腕と下半身を失っているなか味方だった物の残骸の影に隠れたそのハイザックは、残されたライフルの銃口をミーティアとシグーに向けた。
「化物め、化物め、化物め!」
あまりの衝撃に半狂乱となったハイザックのパイロットは、コクピットの中に相手をロックしたとのアラームが響くと、震える手を抑える様に思いっきりトリガーを握りしめた。
ライフルの弾が次々とミーティアとシグーに吸い込まれ、残弾のメーターがゼロになるまでライフルから弾が吐き出され続ける。
巨大な弾薬庫であるミーティアにライフルの弾が引火し、動けないシグーを捲き込んで誘爆した。
それは戦場のどこからでも見える、一際巨大な光の閃光だった。
「あひひひひひ、やったやってやった...」
ハイザックのパイロットが仲間の仇を討って喜んだ瞬間、隠れていた残骸に戦場の何処からか飛来したビームが命中し、機体ごと中のパイロットを蒸発させる。
ザフトはミーティアによって開けられた穴に殺到し、敵味方の残骸を押し退けながら前進した。
結果としてはミーティア試作機とそれを運用していた機体はこの戦いで失われたが、その役目を十分に果たしたと言える。
そして増援が到着する直前に、12隻の艦船が一瞬にして壊滅したとの報告を聞いたコンスコン准将は、旗艦チベットの艦橋で部下の前にも関わらずこう取り乱したと言う。
「ぜ、全滅?12機の艦船が全滅?3分もたたずにかぁ?」