機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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今回はお試しで前後編に分けました。
後編は次の日に投稿予定です。


47話

47話「黒い噂・前編」

 

アフリカ、キリマンジャロ基地にて岩肌に隠された宇宙港にアラビアからのザンジバルが着陸した。

 

山をくり抜いて作られたこの要塞は、この様な宇宙港や飛行場など重要施設は全て山の中に隠されており、敵に発見されづらくなっている。

 

以前ザフトの襲撃により、山の広場に作った格納庫や滑走路が破壊された経験から、全てこの様になっていた。

 

さてザンジバルにタラップが接続され、船の格納庫から輸送物資やMSが降りてくる。

 

ブライト達若いザンジバルクルーは、ここでの仕事を終えた後、ブースターを接続し再び宇宙へと上がるのだ。

 

さてランバ・ラルは基地司令に着任の挨拶をするべく、通りかかったジープを呼び止めようとした。

 

しかしその前に後ろから「ランバ、ランバ・ラルか⁉︎」と聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

後ろに振り返るラル、そこには少し見ぬ間に変わった格好をする様になった旧友が立っていた。

 

「ロンメル!いや失礼、今は少佐だったかな」

 

「何を水臭い、俺と貴様の中だ。昔通りロンメルでいい」

 

ランバ・ラルとロンメルは互いに肩を叩き合いながら、暫し旧交を暖めた。

 

「しかし暫く見ぬ間に変わった格好をする様になったのだな」

 

とラルは、ロンメルの服装を見てそう言った。

 

ロンメルの今の姿は、頭には白いターバンを巻き、口髭を生やし服装も見るからに砂漠の民の物であった。

 

「この国の人間は軍人を信用せんからな。それに髭を生やしておかんと大人として見られん」

 

成る程と、ラルはロンメルの言葉に多いに頷く所があった。

 

彼も地球にいた頃は、同じ様な経験をしたものだ。

 

寧ろ今のロンメルは嘗ての自分よりも、柔軟な考えを持っている様に見える。

 

「聞いたぞ、例の木馬の白いヤツとやりあったそうだな」

 

「ああ、中々に骨のあるヤツだったぞ」

 

と2人して、ハンガーに運ばれてきたMSを見上げた。

 

ラルの機体は装甲の至る所に弾痕や衝撃で凹んだ跡があり、その中でも機体胸部に刻まれた大きな刺し傷は目を惹いた。

 

「貴様がこうもヤられるとはな。矢張り連合のMSは侮れんな」

 

「儂も年甲斐も無く血が滾ってしまったわい。ハイザックだったら今頃ヤられてたかもしれんがな」

 

あの時と決闘で負った傷は、少し間違えれば致命傷となり、ここにラルはいなかっただろう。

 

「新型機か、どうだ使えるのか?」

 

持ってきて早々に連合のMSとぶつかり、深く傷付いた新型機を前に、ロンメルは疑念の眼差しを向けていた。

 

地上軍では本国企業が開発した様々な“新兵器”ならぬ“珍兵器”に辟易しており、新型機と聞くと将兵達はどうにも、疑り深くなっているのだ。

 

「パワーと装甲あとセンサー関係は保証しよう。色々と黒い噂の絶えない機体だが、まあこれから乗りこなしてみせるさ」

 

と快活に笑い飛ばすラルに、ロンメルもそこまで言うのならもう何も言うまいと、これ以上の追求は避けた。

 

果たして、共和国の新型機MSの性能とは、そして機体に纏わる黒い噂とは何なのか?

 

それを話す為には時を遡らなければならない…。

 

 

 

 

時はコズミック・イラ71年 2月の事であった。

 

それは丁度、第二次ビクトリア攻略戦と同じ頃、ザフトの新型機が発表された時期と重なる。

 

グラナダ、アナハイム・エレクトロニクス社の応接間にて、アナハイム・グラナダ支局支局長のメラニー・ヒュー・カーバインと1ら人の男がソファーに座り互いに向かい合っていた。

 

メラニー支局長はゆったりとくつろいだ風にソファーによりかかり、手には葉巻を持っていた。

 

「どうだね、君もやるかね」

 

と対面に座る男に、シガレットケースを進めるメラニー支局長。

 

男は「頂きます」と断りを入れ、一本の葉巻を取り出そうとする。

 

取り出す時、男の手は緊張で小刻みに揺れており、その震えがシガレットケースを通じてメラニーにも分かる程であった。

 

漸く葉巻を出し終えると、男は胸元からシガーカッターとガスライターを取り出す。

 

パンチで吸い口に丸い穴を開けるそれは、良くあるタイプのものである。

 

男は、それで吸い口を開けようとして「知らなかったよ」、男は途端にドキリと心臓が跳ねた。

 

「君が葉巻をやるとはね、こう言っては何だが君が分煙室を利用している所を見たことが無い」

 

見れば、互いの間にあるテーブルにはシガーケースにクリスタルの灰皿、シガーライターにシガーカッターまで取り揃えられていた。

 

明らかに、客人に進める為のものだ。

 

男は一瞬茫然となり、手に持っていた葉巻を取り落としてしまう。

 

慌ててそれを拾おうとすると、今度は膝をテーブルの隅にぶつけてしまう。

 

「〜っ!」

 

不意の痛みに堪えながら、何とか普段の営業スマイルを取り戻そうと努める男。

 

しかし額と手には脂汗が滲み、彼が動揺し緊張しているのは丸分かりであった。

 

「す、すみません。なにぶん、宇宙には不慣れなもので…」

 

「ああ、君はアースノイドだったか。さぞ月での暮らしは退屈だろうな」

 

「いえ、そんな事は…葉巻も取引先の勧めで知っているものでして…」

 

と言い訳をする男に、メラニーは「そうかそうか」と言って葉巻をすった。

 

「地球では、随分とお楽しみの様だったね」

 

「⁉︎わ、私は唯仕事をしていたまでです」

 

男はメラニーが何か知っていると感付きながらも、それでもいい逃れようと言葉を右往左往させた。

 

しかし、メラニーがと何枚かの写真をテーブルの上に滑らせると、男の顔は驚愕に染まった。

 

「こ、これは!」

 

そこには男が地球にいる愛人と一緒にいるところ、中にはかなり際どい写真もある。

 

他にも取引先との営業を行っている時間に、明らかに豪遊している様子、他にも男の不正や裏切りを示す証拠写真がズラズラと並べられていた。

 

「ご、誤解ですメラニー支局長!これは陰謀です。だ、誰かが私を貶める為に…!」

 

「社員の素行調査や監督も私の義務でね、確か君の奥さんはブロンドでは無かったはずだが?」

 

男は、この時終わったと悟った。

 

上司に自分の不正や浮気を知られ、あまつさえその証拠さえ握られたのだ。

 

だが男にはまだ逃げ道があった、そうこれさえ掴んでいれば再起可能な起死回生の一手がまだ彼には残されていた。

 

「私もね、若い時は相当やんちゃした経験があるからね。多少君の気持ちも分かるところがある」

 

「おや」とこの時男は話の流れが変わった事に気付く、もしや今回は注意だけに済むのでは無いのか、メラニー支局長は、「アノ」事に気が付いていないのではないか?

 

そういった希望的観測が男の脳裏をよぎる、具体的には「流れが変わる時に流れるBGM」と言った所か。

 

あと年代的には20年以上先の話なのだが、この時男は自分が助かる可能性を感じていた。

 

ここを切り抜ければ、後はアノことを頼りに高飛びすればいいだけの事、そう思っていたのだ。

 

だがしかし…。

 

「だがね、そんな私でも愛社精神と社に対する忠誠心は持っていた」

 

「お客様の期待と信頼に応える事、それが我々の喜びであらねばならないのだよ」

 

表情は至って穏やかなのに、メラニーが手に持っていた葉巻が真ん中から折れる。

 

「ひっ」

 

思わず悲鳴をあげる男、彼はメラニーの背後に揺らめく何かに怯えたのだ。

 

(間違いない、メラニー支局長はアノ事を知って…!こ、このままでは消される!)

 

男は恐怖にかられ、無様にも這い蹲りメラニーに赦しを請う。

 

「あ、あれは仕方がなかったんですメラニー支局長!わ、私はただ脅されて…それで仕方なく…」

 

「報酬に中立国に別荘と愛人がついてもかね?この商売はね、信用が第一なんだよ、それを君は裏切った」

 

メラニーは酷く冷徹な眼差しと、冷静な口調でそう言った。

 

彼の目には、最早男の事など入ってはいなかったのだ、

 

「メラニー支局長!お慈悲を、お慈悲をぉ…⁉︎」

 

男は恥も外聞もなく、メラニーの仕立ての良いスーツのズボンの裾に縋り付く。

 

だがメラニーがテーブルに置かれたボタンを押すと、直ぐに部屋の扉が開き外から警備員が入ってくる。

 

「シャトルまでお送りしろ」

 

「メラニー支局長!メラニー支局長助けて…‼︎メラニー支局長おぉぉぉ‼︎」

 

警備員に脇を抱えられ、引きずられる様に部屋から連れ出される男。

 

扉が閉まったのを確認すると、メラニー支局長はテーブルに置かれたまた別のボタンを押した。

 

「私だ、ウォン・リー君を呼んでくれ」

 

メラニー支局長はウォン・リーが来るまでの間、また新しい葉巻を取り出し、指で挟むタイプのシガーカッターで吸い口を作る。

 

火を付け、葉巻を加えたメラニー支局長は暫しその芳醇な芸術的とまで言われる香りを楽しんだ。

 

「メラニー支局長、お呼びでしょうか」

 

扉をノックする音が響き、メラニー支局長は葉巻をクリスタルの灰皿に置いて入室を許可した。

 

「ウォン・リー君、すまんがまた頼まれてくれるかね?」

 

「支局長がそう仰る事なら喜んで」

 

いつも紫の派手な上下のスーツを着た三白眼の凶相の男、ウォン・リーはそう言った。

 

「で、今回はどの様に?」

 

「シャトルを手配したが、強いて注文は特にない。故障して適当なアステロイドベルトにぶつけるも良し、取り敢えず穏便に頼むよ」

 

この時の穏便と言う表現は、精々社内報に乗る様な小さな事故として処理する様に、と言う意味である。

 

メラニーは決して裏切り者に手心を加える様な、軟弱な男ではない。

 

彼は決して裏切りを許さない、そして裏切り者がどんな末路を辿るのかを見せしめる必要があった。

 

ウォン・リーは恭しくメラニーに頭を下げると、部屋から静かな退出する。

 

そのあとメラニーはまた別の場所と連絡を取り、今度はシャトルの増産を指示するのであった。

 

 

 

その後、アナハイム社の廊下に置かれた社内報にて。

 

『アナハイム社社員を乗せたシャトルが消息不明、製造元は原因を調査中と…』

 

『当局は何らかの事故でアステロイドベルトに衝突したものと思われると発表。捜査は打ち切りに』

 

『役員1名が行方不明、安否は不明とのこと』

 

と小さく掲示された。

 

この事故を受け、各社は旧式のシャトルから新型の物に変えようと注文がアナハイムに殺到した事だけを明記する。

 

 


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