機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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44話

44話「ドバイの末裔」

 

アークエンジェルはマグリブそしてガウの追撃によりエンジンに被弾し、その修理の為アラビア半島の砂漠に身を隠していた。

 

不時着したアークエンジェルでは、夜を徹して行われた修理作業により、翌日には何とか自力航行出来る程度まで回復した。

 

しかし作業に当たったクルーや一日中見張りや警戒に当たった艦橋クルーにストライクやスカイグラスパーのパイロット達の疲労困憊激しく、また後一歩の所で離脱に失敗した事で艦全体がその士気を大きく減じていた。

 

ロンメルにより、あの砂漠の虎率いる部隊に勝利した事に水を差された形となり、乗員の失望具合も分からないでは無かったが、こう言った時に限って不幸と言うものは続くものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルが身を潜めるアラビア半島は、実を言うと中立国の勢力範囲だったりする。

 

その名を汎ムスリム会議と言いアラビア、アナトリア、西アジアと言った中東地域のムスリム達が協定を組み、成立した国家である。

 

今次大戦においては中立の立場であり、旧世紀に枯渇した石油資源の代わりに太陽光、太陽熱、風力発電施設などにより安定したエネルギー生産に支えられ、NJの被害に苦しむ各国の中では比較的堅実な経済と社会を維持していた。

 

しかしその一方で、連合国からの圧力により「人道支援」の名の下余剰エネルギーを無償で提供させられており、しかも北アフリカから撤退した連合軍によりスエズ運河対岸のシナイ半島を占拠されている。

 

その為、汎ムスリム会議構成各国及び市民の間に連合軍に対する不満が高まっており、またエネルギーで中立を買っている等との非難もあった。

 

そうした中、ここドバイに本社を置く太陽光発電施設を基幹産業とした巨大企業、「ガーベイ・エンタープライズ社」会長マハディ・ガーベイは国土と誇りを蹂躙される怒りに打ち震えていた。

 

彼は古き良き教えと慣習を守り、この世界では廃れて久しい先祖代々の信仰を固く守っていた。

 

その一方で、「開明的」或いは「文化的」と称される数々の企業業績や対外的イメージを持ち、一概に伝統に固執する様な人物では無いと見られている。

 

だが本心では古き良き信仰を取り戻したいと考えており、その為に表向きは連合軍の要求に対して従順に振舞いエネルギー供給ノルマを果たしつつも、裏では反連合組織に協力していた。

 

だが協力すると言っても、彼は決して無節操な売国奴では無い。

 

彼はブルーコスモスでは無いが、コーディネイターの存在を伝統に反すると考えており、その所業を禁忌と断じてきた。

 

故に裏で手を結ぶのはあくまでも伝統や誇りを取り戻したいとと言う組織であり、決してプラントと手を組む様な事は無い。

 

だがそんな事では結局の所、早晩立ち行かなくなる事は見えており、このまま単なるブルーコスモスの亜種として終わるかに見えた。

 

しかしそこに転機が訪れた、共和国地上軍司令マ・クベ中将が旧南アメリカ合衆国の外交官筋を頼りに、裏で接触を図って来たのだ。

 

当初ガーベイはスペースノイドの事を信仰を捨てた者、自分達とは到底相容れないものと考えていた。

 

だがマ・クベ中将はガーベイと最初会った時、とある物をプレゼントした。

 

初対面の相手に対し贈り物をして関心を惹こうとするのは珍しく無いが、軍人にしてはやけに世間慣れしているとガーベイは思った。

 

しかし、実際にプレゼントされた物を見てみると、ガーベイはマ・クベに対する態度を180度改めねばならなかった。

 

「南米のとあるコレクターから譲り受けた物だが、矢張りこう言った物は本来持つべき主に返すのが筋と言うもの」

 

マ・クベが差し出したそれは、再構築戦争の折失われた筈の自分達の秘宝であった。

 

「これは…まさか!」

 

ガーベイがその名を口にしようとした時、マ・クベは手を立ててそれを止めた。

 

目配せにより相手の意図を読み取ったガーベイは、何も言わずに素直に贈り物を箱に戻した。

 

しかし、彼は内心自らの興奮を隠せないでいた。

 

詳細は敢えて避けるが、これは決してここにあっていいものでは無い。

 

だがこれを受け取らないと言う事は、彼には出来なかった。

 

何故ならそれは、民族の誇りを裏切る事に繋がるからだ。

 

「一体どうやってこれを…いや、明言は避けよう」

 

「お互いその方が良いだろう。あくまで今回は顔合わせ、私はこれで失礼させて頂く」

 

マ・クベはそう言って部屋から出ると、一人残されたガーベイは直ぐさま貰った物を専門家に調べさせ、それが間違いなく本物だと確信する。

 

その後度々ガーベイの元にマ・クベが訪れたが、あまり長くは滞在せず話す事と言っても芸術や文化等の話題に終始した。

 

出国の際、マ・クベはガーベイにとあるカタログを渡し、その後南米へと戻った。

 

ガーベイは決して見送る様な不用意な真似はしなかったが、しかしこれ以降彼の邸宅には時折様々な美術品が届く様になる。

 

それは時に表には出せない物も含まれていたが、これ以降ガーベイ・エンタープライズ社は大型の“作業機械”の大量注文があり、それらは複数の国や組織を経由して輸入された。

 

更に事業の拡大にも乗り出し、人道的活動に興味を示したガーベイは、自社が保有する船を使った“アフリカ”の“戦争難民”達を支援する様になる。

 

この他時折、共和国の船らしきものがドバイにガーベイが保有する私的な空港に降り立つ事もあったが、真相は不明であった。

 

ただ一つ言えるのは、これ以降急速にマグリブの資金繰りや物資が充実し始めたことである。

 

もう一つに、汎ムスリム会議が保有する国軍から企業研修の名の下軍の関係者がガーベイ・エンタープライズに派遣され、軍需産業に参入するのではと人々の噂に登ったが、社内でいったい何が起きているのかは全く分からなかった。

 

さてそんなある時、ガーベイはアラビア半島の砂漠に、連合軍の船が逃げ込んだとの情報を察知した。

 

実はそれは、マグリブとロンメルが追い込んだ木馬ことアークエンジェルの事であった。

 

これを聞いて民族の誇りに燃えるガーベイが過敏に反応しない訳もなく、しかし自分が直接動く事は何かと問題がある。

 

その為、彼は密かに入港していた共和国の船と連絡を取った。

 

それが何を意味するのかは、ガーベイ以外まだこの時は誰も知らなかった。

 


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