34話「ライラ隊、襲撃」
共和国宇宙軍サラミス改級ボスニアにて、ライラ・ミラ・ライラは不機嫌さを隠そうともせずに艦橋に上がってきた。
「何故良く分からないのです、現在追跡中の部隊がヘリオポリスを襲撃したに決まっている」
「ライラ・ミラ・ライラ、口の利き方は何とかならんか」
ボスニア艦長チャン・ヤー少佐は苦々しくそう漏らす。
「なら、欲求不満を晴らさせて欲しいな」
「出来るさ、追っている部隊は間違いなくザフトの船と連合軍の新造艦だ」
チャン少佐にはそう断言するだけの自信があった。
彼等は、元々ルナツーで艦の改修を終えその慣熟訓練の為にL3まで長期航海に出ていた。
その最中にヘリオポリスがMSの襲撃によって崩壊したとの情報を耳にし、真偽を確かめる為針路を変更し偶然にもヘリオポリスから脱出する船を見つけたのだ。
中立コロニーを態々MSで襲撃しよう等と、大それた事を実際にやるのはこの宇宙ではザフトくらいであった。
そしてザフトが中立を侵してまでする相手など、自ずと限られてくる。
「だがこのままだとアルテミスに逃げられてしまう。追いつけるか?ライラ」
「そう願いたいね」
ライラはそう言って艦橋から出てMSハンガーデッキへと降りて行った。
「いいな、足を止めて臨検をするんだ。沈めるのが目的では無いからな」
手元の端末で、MSハンガーデッキと通信を繋いだチャン艦長はライラに対し、そう念押しした。
例え相手が疑わしくとも、中立コロニーから出た以上船籍を確認し臨検する必要があった。
「分かっています、そんなに戦い好きに見えますか?」
ライラがそう茶化しげに言うと、チャンは「見えるな」と断言した。
「では、いつかご期待に応えましょう」
そう言ってライラは軽くサムズアップすると、カタパルトから勢い良く愛機を発艦させた。
ライラの後に続く様に、3機のMSも次々と発艦し編隊を組んでボスニアから離れて行く。
一方連合軍の新造艦、もといアークエンジェルはと言うと…。
「本艦に接近する機影を確認、数は3いや4」
「まさか、もうGを繰り出して来たと言うの!」
アークエンジェル艦長代理、マリュー・ラミアス大尉は奪われたGをもう敵が使い熟したのかと驚愕した。
「いえ方角が違います。本艦の真横からです」
「このタイミングで新手⁉︎艦長、急ぎ此方からもMSを出撃させましょう」
ナタル・バジルール少尉は唯一残ったストライクを出撃させる様ラミアス艦長に進言したが、その前に船のスクリーンに接近する機影が打ち上げた信号弾の光が映し出された。
「最大望遠で機影を確認、これは…ガルバルディです!」
「何ですって⁉︎」
「ルナツーのガルバルディ…共和国がもう嗅ぎつけたか」
マリューとナタルの両者の反応は様々であったが、しかし彼女達は自分達がザフトと共和国両方から挟み撃ちを受けていると痛感せざるを得なかった。
その頃アークエンジェルに急接近しつつあったライラ隊は、母船に相手の正確な位置を知らせていた。
「今の信号弾でボスニアにも相手の場所が分かった、だがそれで此方の位置も発見されてしまった」
ライラは機体の操縦桿を動かし、ハンドシグナルを送ると編隊を組んでいたガルバルディが散会していく。
全天周モニターにアークエンジェルの姿が見え映し出された時、流石のライラも少々驚いた。
「何だあの船は、あんな戦艦は連合にもザフトにも無い。中立的コロニーで作っていたとでも言うのか」
初めて目にするアークエンジェルの姿は、彼女が戦場で目にしてきた連合軍やザフトのどの船とも意匠を異なり、一体どんな船はなのか一目で区別がつかなかった。
しかも、本来敵味方の所属を明らかにする筈の認識コードすら無いときた。
「矢張り、臨検する必要があるな」
ライラは機体を一気に加速させアークエンジェルに近づく。
そしてアークエンジェルでもまた接近するガルバルディに備え戦闘準備が進められていた。
「総員、第1種戦闘配備。各パイロットは搭乗機にて待機!」
マリューの号令で俄かに艦内が慌ただしくなる。
艦内の隔壁が閉鎖され、必要な所以外の照明が落とされた。
アークエンジェルに救助された避難民達は、また戦闘が起きるのかと不安を募らせ狭い通路や部屋の中で肩を寄せ合った。
「ゴッドフリート一番二番展開、イーゲルシュテルンを起動、ヘルダート、コリントス装填急げ!」
ナタルのキビキビとした指示に従い、アークエンジェルの迎撃体制が整えられていく。
「ストライクとメビウスの発艦はまだか!」
「後もう少しです、それが終われば…」
しかし肝心のMSとメビウスの発艦に手間取り、苛立ちが募る中突如としてオペレーターが慌てた声で報告する、
「待って下さい!敵機から発光信号を確認、これは…停船信号です!」
「停船信号ですって!」
今日何度目かの驚いた声を上げるラミアス艦長、だがナタルには思い当たるフシがあった。
「此方に識別コードが出ていないから連合軍だとは思っていないのか?やはりザフトでは無いからか」
ナタルが相手の目的が何なのか考えを巡らすが、その前にライラが駆るガルバルディがアークエンジェルへ急接近した。
艦橋をわざと掠める様に飛び艦尾へと抜けるガルバルディ。
「速度を落とさない、やはりくさいなあの船」
ライラはこの時、アークエンジェルを単なる新造艦だとは思っていなかった。
今までの連合軍の船とは、明らかに設計思想の違うその姿にある既視感を覚えていたからだ。
ライラは機体を反転させ二度三度と同じ事を繰り返した後、今度はアークエンジェルの艦橋にゆっくりと近づいた。
「艦長、危険です今すぐ攻撃の許可を!」
「待って、此方から戦闘はしたくは無いわ」
ナタルが先制攻撃の許可を求めたが、しかしマリューはこの時許可しなかった。
この時アークエンジェルにはストライクの他に、ヘリオポリスから脱出した大勢の避難民が載っており、彼等を戦いに巻き込む訳にはいかなかったからだ。
その間にも相対速度を合わせたライラのガルバルディから伸ばされた機体の手がアークエンジェル触れた。
「聞こえるか、此方はボスニア所属ライラ・ミラ・ライラ大尉である。貴艦の所属を明らかにされたし」
俗に言うお肌の触れ合い通信と言う方法でアークエンジェルと通信を繋ぐライラ。
初めて聞く敵の肉声に、アークエンジェルのクルーは動揺した。
「女?」
「女の声だ」
「でも大尉って言ったし…」
アークエンジェルは現在ではとある理由によりマリュー・ラミアスとナタル・バジルールと言う2人の女性軍人がトップを務めている。
しかし軍と言うのは基本的には男社会であり、彼等もまさか自分達と通信を繋いだ相手が女だとは全く思わなかったのだ。
「当方の命令にこれ以上従わない場合、貴艦を敵対的存在と認定し撃沈する」
ライラのアークエンジェルを撃沈する、という発言に俄かに騒然となる艦内。
「撃沈するって、アークエンジェルを沈めちゃうって事ですか?」
「アークエンジェルをヤられたら私達やキラ、それに他の皆んなも死んじゃうってこと」
「そんなの嫌だ!誰か助けて」
現在とある理由により、ストライクのパイロットになっているキラ・ヤマトの学友達が顔を青くしたり白くしたりしている中、マリューとナタルもまた選択を迫られていた。
ナタルはマリューを見て2人は無言で頷き、マリューはライラのガルバルディとの通信を繋いだ。
「我々は連合軍だ、命令には従えない」
『我々は連合軍だ、命令には従えない』
ライラはまったく予想通りの返事を聞いて、少しも嬉しくはなかった。
しかしながらこれでこの船には何かある事が決定的となったと言える。
「了解した、貴艦を撃沈する」
ライラは誘爆を避ける為機体をアークエンジェルから少しだけ離し、ライフルの狙いを艦橋に定めようとした。
だがその瞬間こそ、アークエンジェルが狙っていたスキであった。
「今よ、バジルール少尉!」
「煙幕展張、始め!」
ナタルの号令によってアークエンジェルの艦橋の根元から、予め仕込まれていた白色のガスが吹き出しガルバルディの視界を覆った。
「ちっ、味なマネを!」
視界を確保すべく一旦距離を離したライラ、だがそれこそマリューの狙いでもあった。
「今よ、ストライクを発艦!ガルバルディを排除して」
アークエンジェルのリニアカタパルトが展開し、今までずっと待機していたストライクがハンガーからデッキへと移される。
「皆んなを守る為には戦わなくちゃならないのか、ストライクガンダム、キラ・ヤマト出ます!」
リニアカタパルトによって機体が加速し、船の外へと打ち出されるストライク。
アークエンジェルが展開した煙幕の中からガルバルディが待ち受ける漆黒の宇宙へと飛び立ったガンダムの新たな戦いが始まろうとしていた。
大体この話は原作4話〜5話の間くらいです。
ムウ無しの初期キラ&ストライクでの戦いになる予定。