13話「ジャブロー探索」
南アメリカ合衆国陸軍の脱走兵達のリーダー、フランシスコ・バリボルは自分達の事を「南米解放戦線」と名乗り連合軍の南米支配に抵抗している事。
カイ・シデンには、自分達の活動を世界に知ってもらう手助けをして貰っていると言う。
「南米は昔から大国の傘下に押し込められ、搾取されてきた。それが漸く一つの国として纏まりこれからという時に、また大国の思惑で祖国が踏みにじられパナマを奪われたんだ」
「だからこそ、私と共に同志達が立ち上がりこうして抵抗運動を続けていると言う訳だ」
自分達の事をそう熱く語るバリボルに、カイの方は「またか」といった表情で首をヤレヤレと横に振った。
「コイツは悪い奴じゃあないんだが、いかんせんちょっとロマンチストでな。だから妙に話し方が熱っぽくて、聞いてるこっちは何時もむさ苦しい思いをしている訳」
とバリボルを茶化すカイに、言われた方も対して不快に思った様子もなく。
レコアは少なくともこのカイとバリボルとの間には、確かな親交があると感じた。
「あら、女の身としてはロマンチストな殿方は好ましいものよ、カイ。初めましてバリボル少佐。私はレコア・ロンド、彼と同じスペースノイドで地質研究者よ」
「こちらこそ、とうキャンプ地に貴女のような美しい方をお招き出来光栄です」
「あら、お上手ね」と口に手を当ててオホホと笑うレコア。
レコアとバリボルがいい感じなのを見て、面白く無いカイは。
「なんでい、連れてきたのは俺だって言うの」
と2人からそっぽを向く。
大の大人が子供みたいに拗ねるのを見て、その滑稽さにレコアとバリボルは思わず吹き出してしまう。
2人に笑われて、益々臍を曲げるカイだがそれがまた2人の笑いを誘うのであった。
夜、月明かりが夜空を照らす中寝床として貸し出されたテントからそっと抜け出したレコアは、人目を避け洞窟の方へと向かう。
あの後カイの希望もあって、一晩ここで泊めてもらう事になったレコアは、その間出来る限りジャブローに関する情報の収集に当たった。
しかし南米解放戦線のグループは、ここ最近この場所に移動してきたらしく、付近の情報に余りに詳しくなく。
レコアとしても空振りに終わった分、久しぶりに思う存分シャワーを浴びれた事で良しとしようと思っていた。
しかし夜テントで寝ていた時、ふと気になる事があった。
それは、兵士達との会話の中で聞いた誰もキャンプ地の奥にある洞窟に近づかないと言う話だった。
なんでも洞窟の中は危険だからバリボル自身が、立ち入りを禁止しているらしい。
その話を聞いた時はそうなのかと聞き流したレコアだが、今思えば幾つか気になる点があった。
(洞窟の中が危険だと言うけれど、本当にそうかしら?)
(ひょっとして何か隠してるから、兵士達に洞窟に近寄らせないように言わせているのかもしれない)
そう思った時既に、レコアは寝袋から飛び出していた。
そして今、テントの影に隠れ歩哨をやり過ごしながら段々と洞窟に近づいていく中。
彼女は、自分の予想が正しいことを実感していた。
(洞窟に近づくにつれ歩哨の数が多い。よっぽど近寄らせたくない訳が有るのね)
レコアは洞窟の中に何があるのか、その正体を暴くべく潜入を続ける。
幸い、彼女は誰にも見つかる事なく洞窟の内部に潜入する事が出来たが、ここから先より一層注意深く進まなければならない。
目立たないよう懐中電灯のライトを赤色に変えると、彼女は奥へと進み始める。
洞窟の内部は暗く湿気でジメジメとしていて、折角シャワーで流した汗がまた吹き出して服と地肌がべったりと吸い付く。
しかしレコアは不快感を無視して先に進む中、途中奇妙な事に気がつく。
(おかしい。こういった洞窟には蝙蝠が生息していて、地面には糞やその堆積物で一杯の筈なのに。ここの地面はそれ程汚れていなくて天井にも蝙蝠の姿が見えない)
レコアは地球に降り立つ前、エージェント教育の一環として大学教師レベルの地質学の知識と、各種サバイバル技能を習得していた。
その中の一つに、洞窟に生息する危険な生物に関する知識があった。
地面を詳しく調べたレコアは、そこでまた新たな発見をする。
(轍の後もある、しかもごく最近出来たものが)
つまり何者かがごく最近、洞窟の中に何かを運んだという証拠であった。
カツン、コツン
レコアはハッと後ろを振り返ると、直ぐに赤色ライトを消し近くにあった岩の陰に身を潜める。
(迂闊だったわ、まさか尾けられてたなんて)
レコアはいざと言う時に備え、腰に下げたホルスターから銃を抜き安全装置のロックを解除した。
(銃を使うのは最終手段よ、この中で銃声が響けば、外まで聞こえてしまう)
そう自分に言い聞かせつつ、レコアはジッと身を潜めながらこちらに向かってくる相手の様子を伺った。
洞窟の中に足音が反響し段々とその音がレコアが隠れる岩に近付いた時、懐中電灯のライトがレコアの姿を映し出す。
「うっ」とライトの光を浴び咄嗟に顔を隠すレコア。
対する相手はレコアの姿を見つけると、懐中電灯の光を地面に下げた。
「やっぱりアンタだったんかい。後を尾けて正解だったぜこりゃ全く」
カイはジャングルで出会った時そのままの様子で、レコアに向かってそう言った。
レコアの方もまさか自分を尾けた相手がカイとは全く思わず、取り敢えず腰のホルスターに銃を収めた。
「カイ、貴方こんな所で何をしているの⁉︎」
「そりゃあこっちのセリフだぜレコアさんよ。どうしたってアンタこんな所に忍び込んだんだい?」
カイの立場からすれば、レコアの方こそここにいる事がおかしかった。
最も、レコアを追ってきたカイの方も人の事は言えないが。
「ちょっと冒険したくなってみただけよ。用が済めばさっさと帰るは」
「そりゃ安心した、で何かを見つかったのかい?」
レコアとしてはさっさとカイを追い返したかったが、カイの方はレコアについてくる気満々であった。
「はぁ、仕方無いわねえ。邪魔だけはしないでよ」
そう言って折れたレコアがさっさと先にある進み始め、その後をカイが口笛を吹きながらついてくる。
暫く互いに無言だったが、洞窟の中ほどまでくると目の前にシートで覆われた木箱が現れた。
「何かしら?これ」
「案外宝箱だったりしてな」
カイが悪ふざけを言うのを、レコアは聞き流しつつ木箱を調べる事にした。
「馬鹿言ってないで、調べるのを手伝って」
「なんで俺がぁ⁉︎」
「ここまでついてきたんでしょう」
レコアにそう言われて、カイは口では不平を言いながらもちゃんと手伝ってくれる辺り、彼の捻くれたヒトの良さが見て取れた。
そして木箱をこじ開け、中に入っていた物を取り出して懐中電灯で照らすと、それは金色に光った。
「もしかしてこれ」
「「金」」
と2人の声が聞こえ重なる。
手に待つ重さと、懐中電灯の光で黄金色に輝くその姿から、レコアとカイの2人にはこれが本物にしか見えなかった。
「どうしてこんな所に金が…」
「レコアさんよ、俺達トンデモないもん見つけちまったな。こりゃアレだ見つかったらヤバイパターンだ」
2人はそう言いながら、暫し呆然とした表情で木箱を眺めた。
少なくとも見える範囲で木箱は1ダース程はあった。
その中身が全て金だったとすると、その価値は計り知れない。
「多分バリボル少佐はこれを隠したかったのね。轍の跡もここで止まっているし、多分ここが終点」
「そりゃ必死になって隠すわな。こんなお宝見つけちまったな日には、どんな聖人だって悪い虫が騒ぐぜ全く」
この金塊の山をバリボル達がどうするかは分からないが、レコアもカイも余りにこれに関わりたいとは思わないタチであった。
「で、どうする?まだ続けるかい」
カイにそう聞かれて、レコアは少し悩んだ。
(こんなものを見つけてしまった以上、一刻も早くここを離れるのが賢明な筈。けれど洞窟の方はまだ奥の方に続いている)
探索をここで切り上げるか、それとも続行するか。
レコアはカイに無言で立ち上がった。
「行くのかい?」
カイの問いにレコアは唯黙っていた。
ここから先は単なる冒険では済まないかもしれない。
しかし彼女の勘が、この奥にまだ何かあるのを感じていた。
「はぁー、それじゃ行きますか」
そう言ったカイは立ち上がり、レコアの後をついていこうとする。
「こうなったら毒を食らわば皿までだ。それに女1人置いて帰るなんざあ目覚めが悪いぜ」
といつものふざけた調子のカイに、レコアは小声で「ありがとう」と伝えた。
それがカイに伝わったかわ分からないが、こうして2人は探索を再開した。
金塊が入った木箱が置いてあった場所から然程歩く事もなく、レコア達は巨大な横穴に遭遇していた。
「これは、明らかに人工に掘られたものだわ」
レコアは綺麗にくり抜かれた穴の断面から、機械による採掘の後だと当たりをつけた。
これがジャブローに繋がるものかはまだ分からないが、ジャングルを彷徨って見つけられなかった分彼女の中で期待感が高まっていた。
「ほえ〜こんな大穴開けて、一体何をしようってんだい」
そんなレコアの事など知る由もないカイは、只々横穴の大きさに驚いていたが、ふと何かに気付き耳をそばだてた。
「………水だぁ、この先水があるぜ」
カイにそう言われ、横穴に夢中になっていたレコアも耳を澄ませた。
「…確かに水が流れる音がするわ。行ってみましょう」
そう言うやレコアは横穴を乗り越えて先に進み、カイもまたその後をついていく。
30分程歩いた後、2人は洞窟の中を流れる巨大な川に出くわす。
そこから先への道は、川の水に阻まれ行けそうも無く此処が終着点となっていた。
カイとして先程の金に比べ、大したインパクトを受けた様子は無かったがレコアは違った。
彼女は川の流れとアーチ状に抉れた天井の様子を見て、慌てた様子で地図を取り出すと今自分達がいる場所と方角から川の水が何処から流れたかを調べた。
「?どうかしたのかい、レコアさん」
カイはレコアの様子が気になり何の気なしにそう言ったが、レコアは興奮した様子で。
「これを見て!今私達がいる場所とこの川が流れて来た方向。川を遡ると私が探してた物の位置の場所と一致するの」
「どうりで、幾らジャングルを探しても見つからない筈だけわ。まさか入り口や道も含めて全部地下に隠すなんて」
聞いた方のカイはレコアが何を言ってるのか全く分からなかったが、兎に角レコアが探し求めていた物が見つかったのだと納得した。
「へぇ、そりゃおめっとさん。で、まさか川を泳いで遡ろうって言わないよな」
カイは短い付き合いながら、レコアは望んで危険に飛び込むタイプだと見抜いていた。
ここに来るまでもそうだが、こう言ったタイプは無茶な事を平気で仕出かすのだ。
「そこまで無謀じゃないわ。地下水が流れ込んでいるから、大きな川に沿って行けば地上からでも行けるわ」
レコアの方はカイにそんな風に思われているなどつゆ知らず、目的を果たせる予感を前に喜びを隠せないでいた。
「ありがとう、カイ。貴方のお陰よ」
「よせやい、俺は別に何もしてないぜ」
「貴方が彼らの所に案内してくれなければ、私は私の目的を果たせなかったわ。だからこれはそのお礼」
カイの人生の中で、目の前で美人に素直な感謝を告げられたのは初めての経験で、背中が途端むず痒くなり、照れ臭そうに笑ってそれを誤魔化した。
「さぁ、夜が明ける前に戻るわよ」
「えぇ、もうかよ。ここまで歩き疲れたぜ」
ここまで歩き通しで、2人の足はパンパンに膨れている筈なのに、レコアの様子からはそれを微塵も感じさせなかった。
「男でしょ、しっかりなさい」
とそう言ってレコアは元来た道を戻り始め。
カイもまた「へいへい」と言いつつ、レコアの背中を追う。
こうして2人の長い夜の冒険は終わり、再び朝日が昇る。
洞窟で見たもについては、2人だけの秘密として誰にも言わない事を誓い合い。
カイと別れたレコアはキャンプを後にするのであった。