機動戦士ガンダムSEED・ハイザック戦記   作:rahotu

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10話

10話「単眼の巨人」

 

南極条約が結ばれた次の日には、月で連合軍とザフトとの本格衝突が再開していた。

 

ザフトは早期に連合軍を撃滅すべく、戦線にジン・ハイマニューバを投入しその機動力をもってエンディミオン・クレーターに迫る。

 

対する連合軍は第3艦隊と虎の子のメビウス・ゼロ部隊を派遣し、徹底抗戦の構えを見せ。

 

ここに両軍のエース部隊が激突する事となったのである。

 

 

 

 

 

エンディミオン・クレーター内部では、漆黒の空間を彩るビームの砲火が交り、ミサイルが獲物を目掛けて突き進む。

 

両軍のMSとMAは互いに有利な位置を取ろうと死の舞踏を繰り広げ。

 

艦隊の必死の抵抗を嘲笑うが如く対空砲火の弾幕を掻い潜り、ジンが次々と艦艇を堕として行く。

 

「くそ、調子に乗りやがって。ソラのバケモノめ!」

 

「宇宙人は地球から出てけ!」

 

メビウスのパイロットは数の差を生かそうと、ジンに群がるが。

 

「は、ナチュラルが」

 

「遅いんだよ、お前らは!」

 

ジンの圧倒的機動力の前に、簡単に回避されてしまう。

 

そして攻撃を回避されたメビウス達を、今度は少数のジンが追いつめていく。

 

「おらおら、さっきの威勢はどうした‼︎」

 

背後を取られジンのライフルの直撃を受け爆散する機体や、直上から重斬刀で真っ二つにされるものなど。

 

メビウス達は蜘蛛の子を散らすが如く、蹴散らされていく。

 

このままメビウスが全滅するのは時間の問題かと思えた時、その様子を月の天井方向から見下ろす5つの機影があった。

 

「リーダー機から各機へ。味方は潰乱状態だ、我々はこのまま突入し艦隊が体勢を立て直すまでの間援護に回る」

 

「突入後は散会し、各自の判断で交戦せよ。オーバー」

 

「さあ、花火の中に飛び込むぞ!」

 

5つの機影は姿勢変更ノズルを噴射させ、機首を月面の地表へ向けると一気に加速し戦場へと突入する。

 

突入時の速度は通常のメビウスの比では無く、グングンと加速し彼等の操る機体が特別である事が分かる。

 

そして今正にメビウスに襲いかかろうとするジンに狙いを定めると、5機からの集中砲火を浴びせかける。

 

「⁉︎」

 

哀れジンのパイロットは、真上からの攻撃に全く反応出来ずに直撃弾を幾つも喰らい、機体ごと爆散して果てる事となった。

 

爆発した機体の横をすり抜けた5機は、そのままそれぞれの方向に散会し戦場に散って行く。

 

そしてその先々で、次々とジンを叩き落としていくのだ。

 

「メビウス・ゼロだ!メビウス・ゼロが来たぞ‼︎」

 

「エース・オブ・エースの御登場だ!良いぞプラントの連中なんかヤッちまえ!」

 

メビウス・ゼロの活躍によって俄かに活気立つメビウスのパイロット達に、「エース」と呼ばれる彼等は一体何者か?

 

彼等は連合軍の中でも特に希少な「空間認識能力」保持者であり、メビウス・ゼロが装備する有線式遠隔誘導兵器「ガンバレル」を自在に操る事が出来る。

 

そして現場連合軍の中で数少ないプラントのMSに対抗出来る戦力であり、その希少性と専用機の存在から前線のパイロットからは羨望の眼差しで見られていた。

 

それ故「エース」と呼ばれる彼等の存在は、そこに居るだけで味方を大きく鼓舞し同時に敵に畏怖を与えるのだ。

 

事実メビウスのゼロの登場によって、先程まで優勢だったジンの動きが鈍くなり、中にはその隙を突かれメビウスに撃墜される機体もあった。

 

第3艦隊提督のビラード准将もこの活躍に「良し!」と膝を叩く程であり。

 

メビウス・ゼロの奮闘によりこのまま五分の状況に推し戻せるかと思われたが、ザフトも負けじと増援を繰り出し。

 

それが返って災いし、互いの機体が広範囲に広がって混じり合い、自分が今何処にいてどんな状況かさえ分からない程の混戦となってしまった。

 

だがそんな大混戦を他所に、冷静に戦場の外から戦いを見つめる目があった。

 

月面の地表に這いつくばる様にして、機体の上からステルス加工を施されたシートを被り。

 

その隙間から、カメラだけを外に向ける機体があった。

 

「よーしよし、カメラの録画はOKだな。後は…手の位置を左に2度傾けられないか?」

 

「無茶言わないで下さい、コッチはいつ敵に見つかるか分からないんですよ」

 

そう悲鳴を上げそうな声で抗議するパイロットを他所に、観測用の機材を操る管制官はあくまでも情報を持ち帰る事を優先した。

 

「心配ないNJの濃度も濃いし、あの混戦状態では誰も足元なんぞ気にも止めまい」

 

そう言われて、仕方なくパイロットら機体を慎重に操作しながらカメラを言われた方向に傾ける。

 

「よし其処だ、丁度いい戦場のど真ん中だ」

 

カメラのピントを操作して画像を合わせると、管制官は興奮した様子で今度は各種観測機をパッシブ状態にして情報を集める。

 

彼等が乗るこの機体はハイザックを偵察用に改修した機体で名前をアイザックと言い、特徴的なのは各種センサーを内蔵したレドームとプロペラント・タンクが一体となった円形の頭部を備え、これにより高い索敵能力と航続性能を誇る反面。

 

偵察機故殆ど非武装であり、手に持つセンサーカメラの他今の彼等には武器が装備されていなかった。

 

そもそも何故この場に共和国のMSが居るのかを説明せねばなるまい。

 

共和国は南極条約が結ばれる前、いち早く敵の侵攻を察知する為月面の各所に極秘裏に偵察機を送り込み。

 

連合軍とザフトの動きを監視しつつ、その動向を探っていた。

 

その中で、現在エンディミオン・クレーターの底で身を潜める彼等は連合軍宇宙艦隊の本拠地。

 

プトレマイオス基地の情報を集めるべく、単身敵地に潜入していたのだが。

 

その途中で「南極条約」が締結され、しかもザフトと連合軍の戦闘が再開されてにっちもさっちも行かなくなり。

 

結果エンディミオン・クレーターの底に潜伏していた所、偶然にも両軍の艦隊戦が始まりそれを監視する好機を得たのだ。

 

「しかし連中も派手だね〜こんな盛大にデブリを撒き散らして」

 

観測機の操作に夢中な管制官を他所にパイロットは戦闘の映像を見てそうボヤくが、彼の目からは目の前の光景は壮大な資源の無駄遣いとしか思えなかった。

 

「地球やコーディネイターの皆様にとっちゃあ、水や空気なんて資源幾らでも掃いて捨てる程有り余ってるんでしょうかね〜」

 

彼がそう思うのは、何も長期間単騎潜入のストレスからでは無い。

 

共和国では戦争が始まって配給制こそ敷かれていないものの、地球からの物資は途絶えがちであり。

 

各種鉱物資源こそ月面のグラナダから輸出される物やアステロイドベルトから持ってきた採掘施設用衛星があるものの、国民生活に大きな負担となっていた。

 

特にMSを作る工場に必要な水と、何よりも定期的に入れ替えが必要な大気の不足が懸念されていた。

 

一(いち)スペースノイドとしてこんな戦争早く終わって欲しいのだが、彼の様な者にとってナチュラルもコーディネイターもそう変わらないのである。

 

「おい、何をボヤいているか知らないが、そういう時はフライトレコーダー位切っとけ」

 

とタンデム型コクピットの後ろから、管制官にそう言われて慌ててフライトレコーダーを切るアイザックのパイロット。

 

「か、管制官聞いてたんですか⁉︎趣味悪いですよ」

 

バツの悪そうなパイロットはそう言って後ろを振り向くが、管制官の方も。

 

「お前が勝手にボヤき始めたんだらうが。それよりちゃんと任務に集中しろ、此処から無事ウチに帰れるかはお前の腕にかかってるんだからな」

 

と、そう言ってパイロットを注意するだけに留めた。

 

しかしその時、コクピット内のアラームが鳴り響く。

 

「⁉︎接近警報、こんな月面の底まで降りて来た奴がいるのか」

 

パイロットは直ぐ様頭を切り替え、機体の制御に集中しろ何時でも脱出出来るよう準備を整える。

 

その間に、管制官が接近する機影の割り出しと位置の特定を急ぐ。

 

「…見つけた!3時方向、距離20000、数は2機、猛烈なスピードで突っ込んで来るぞ」

 

「管制官、掴まって下さい!此方の位置が暴露た可能性があります」

 

パイロットは緊急時のマニュアルに従い、機体の離脱を最優先させようとするが、管制官の声がそれを遮った。

 

「いや待て!これは…1機がもう1機に追い回されている?」

 

向けられたセンサーカメラの映像から、各種ノイズキャンセラーがかけられCG補正した姿が浮かび上がる。

 

そこには赤い機体と、それを追い回す銀色に塗装されたMSの姿があった。

 

直ぐにアイザックのデータベースと照合が行われ、追い回されている赤い機体は「メビウス・ゼロ」と判明し、もう1機はMSジンとの類似性が指摘された。

 

「メビウス・ゼロにジンの新型タイプとのドックファイトか。こりゃ見ものだぞ」

 

「冗談言ってないで、早く離脱の許可を!」

 

アイザックの管制官は滅多に見れない光景に、データを取るのに夢中になる一方。

 

その間にも2機は互いに激しく縺れ合い、絡み合いながら真っ直ぐ自分達の方に突っ込んでくる。

 

それを見て、気が気で無いパイロットは早く離脱したがったが、管制官からの許可はいっこうにに降りない。

 

「凄いぞこれは、どんどん新しいデータが取れる。間違いない、あの2機は間違い無くエースだ!」

 

興奮気味の管制官はパイロットに向かってそう叫ぶが、パイロットの方も我慢の限界に来ていた。

 

「管制官!もう限界です、離脱を開始します」

 

「あ、待て⁉︎おい…!」と管制官の制止する声を無視して、パイロットが機体を動かそうとした時。

 

「⁉︎」

 

突如として機体の周りに砲弾が降り注ぎ、着弾の衝撃で巻き上げられた月の砂利が、アイザックの視界を塞ぐ。

 

メビウス・ゼロとジン・ハイマニューバの2機からの流れ弾が、偶々アイザックの方に言ってしまった為に起こった偶然だが。

 

着弾の衝撃で、アイザックの機体に被せていたシートが何処かへと吹き飛んでしまう。

 

突然目の前に共和国のMSが現れ、これに驚いたメビウス・ゼロは慌てて急制動をかけて機体を上昇させ、後を追うジン・ハイマニューバもアイザックを一先ず無視してメビウスを追う。

 

2機はそのまま機体の上昇を続けながら、激しいドックファイトを繰り広げて戦場の何処かへと消えてしまう。

 

それを唯呆然と眺める事しか出来なかったアイザックのパイロット達は、漸く自分達が見逃された事に気付き、急ぎ戦場からの離脱を図る。

 

「管制官、あの2機が戻ってくる前に離脱しましょう」

 

「分かった、離脱を許可する。しかしザフトがクレーターの底まで降りてくるとは、ここも騒がしくなるぞ」

 

この後、管制官の予想は大いに当たっていた。

 

一時期メビウス・ゼロの活躍によって戦線を押し戻すかに見えた第3艦隊だが、ザフトは対共和国のMS用に月に派遣されたジン・ハイマニューバ部隊を投入し。

 

連戦で消耗した所を狙い撃たれメビウス・ゼロ部隊は次々と撃墜される憂き目となり、戻りかけた均衡が再び崩された事で、連合軍は総崩れとなっていた。

 

そしていよいよザフトが、陸戦部隊を資源採掘施設に揚陸させる秒読み段階に入った所で、間一髪離脱に成功したアイザックはそのままグラナダを目指していた。

 

「いやー間一髪、心臓に悪いですよ。もうこんな任務は懲り懲りだ」

 

月面の地表スレスレを這うように飛ぶアイザックの中、パイロットは戦場の息苦しさから漸く解放された気分から、コクピットの中でグッと伸びをした。

 

「ちゃんと前見て運転しろ。玄関の前で月面とランデブーなんて嫌だからな」

 

とそう言いながら、管制官は今まで収集したデータを回収用ポッドに移し変えておく。

 

(行きは良い良い帰りは怖い、か。我ながら心配性だな)

 

実際ここまで緊張の連続だった為、管制官自身少々神経過敏では無いかと思いつつも、万が一に備えた処置を予め施しておく。

 

「帰還報告は基地に着いてからでいい、兎に角安全運転で頼むぞ」

 

と管制官が言おうとした時、突如として機体の観測機がアラームと共に異常な数値を指し示す。

 

「な、何だ⁉︎機械の故障か?」

 

「直ぐに機体の各部のチェックに、それと気密の確認だ。さっきの流れ弾で何処かに穴が空いたのかもしれん」

 

パイロットと2人で分担して機体のチェックを行うが、観測機以外全て状態に異常が見当たらなかった。

 

「機体各部、操縦系統共に異常なし。気密も特に大穴が開いている様子はありません」

 

「となれば、観測機に何か異常な事が起きたと言うのか…?」

 

機体に異常が無い以上、彼等には観測機が何らかな影響で故障したとしか思えなかった。

 

「兎に角、グラナダに戻れば何か分かるかも知らん。悪いが最短ルートを飛行してくれ」

 

「了解」

 

一先ず問題を先送りにした彼等は、この時自分達が本当に間一髪の所で助かった事を知らない。

 

グラナダに辿り着き、故障したと思われていた観測機からのデータを解析した結果、後になってその事が判明したのだ。

 

あの時エンディミオン・クレーターの採掘基地奪取を図るザフトに対し、壊滅し組織的反攻が不可能となった第3艦隊提督ビラード准将は施設の自爆を決定。

 

レアメタル採掘用のサイクロプスの暴走により、エンディミオン・クレーターは一瞬で溶鉱炉と化しそこにいたもの全員を見境無く飲み込んだ。

 

結果、ザフトは甚大な被害を被り、連合軍も多数の味方が巻き込まれる事態となった。

 

あの時アイザックが感知した異常なデータの正体こそ、サイクロプスの暴走による自爆であり。

 

それは南極条約に記されていない、新たな大量破壊兵器誕生の瞬間でもあったのだ。

 


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