やはりセルデシアでも、俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:カモシカ

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遅くなりました。
今後もこんなベースだと思います。もちろん、筆がノったら上げますが。


第五話 情報交換

「……まあ、昨日一日で集めた情報はこんな所だね」

 

 シロエさんが一日で集めてくれた情報を聞き終える。《三日月同盟》のマリエールさんにも話したらしいその情報は、シロエさんらしく要点をついたものだった。

 

「シロエさん、ありがとうございます。果物や調味料には味があると分かったのは大きいです。これであの味のしない食い物だけってことは回避できそうです」

「そうだね。これからは果物が値上がりしていくだろう。欲しいなら今の内に買っておいた方が良いかもしれない」

 

 他にも、高レベルのステータスが体力やその他にも反映されているのは大きい。小町たちはともかく、俺の肉体スペックは大きく向上していることになる。なら、いざという時に戦う事ぐらいは出来る。

 

「……じゃあ、次は俺が気づいたことを話します。一つ目、装飾アイテムの設置についてです。ゲームでは、アイテムごとにある程度の面積が要求されて、プレイヤーが指定した空間に直接設置されます。しかしその制限が無くなっていました」

「……それは、例えばゲームではこの机の上にベッドなんかを置くことは出来なかったけど、今なら可能という事かい?」

「ここで試した訳では無いですが、おそらく」

 

 俺がこれに気づいたのは昨日の夜の事。部屋の机に置いてあるランプを倒してしまったのだ。ゲームならそんなことは起き得ず、プレイヤーがぶつかっても微動だにしない。という事は、だ。

 ────ゲーム的な制限が存在しない、もしくは緩和されている。

 

 それが意味するのは、ただ所有ゾーン内でのアイテム設置制限緩和による、自由度の上昇なんてものじゃない。もし、もし仮にだが、このゲーム的な制限の緩和が全てのものに適用されているとしたら。

 

 例えば、金属を加工し、火薬を作り、銃を作ることが出来たなら。

 例えば、大規模戦闘(レイド)級のモンスターを調教(テイム)できたなら。

 例えば、ゲーム時代には無かった、未知の効力を持つマジックアイテムや、魔法が開発されたなら。

 

 そんな、この手の転移もの小説にならありがちな展開が、何万人もプレイヤーが存在しているであろうこの世界で起きてしまったなら。

 

「ゲーム的な制限の緩和、か」

「?シロ、それって何か悪いことなのか?」

 

 そして、このことの問題点は、その事の深刻さに殆どの人間が気づいていないことにある。

 

「……うん。大したことじゃ無いように聞こえるけど、これって実は凄い事だ。だって、今のここは無法地帯。政府も法律も何も無いんだ。それなのに、冒険者としての圧倒的な力を持った人間が三万人居る。それだけでも大問題だ。なのに、プレイヤーに対して強制力を持つ筈のゲームシステムが緩和されている」

「……て、ことは……どういうことだ?」

「つまりさ、超人的な力と、この世界からしたらとんでもなく高い水準の知識を持った人間が、三万人以上も解き放たれてるって事だよ。大きな力を持った人間が、何をするかなんて分からない」

 

 シロエさんの言葉で、この場の全員が今の危うさを理解した。

 

「……まあ、今ここでそれを議論しても仕方ないでしょう。次の話に移りますね」

「うん、お願いするよ」

「じゃあ二つ目です。シロエさん、俺がテイムしたガロウって覚えてますか?」

「えっと……確か狼型のモンスターだったと思うけど」

「ええ。彼はゲームだった頃から、幾つかのワードに反応して答えを返すようなプログラムがされていました。そして昨日、俺は彼と()()をしました。AIが強化されているとかそういうレベルではありません。人間と同じように人格を持っていました」

「そっか……僕らも露店のNPCが、プレイヤーと同じように話しているのを確認している」

 

 エリスとミーナがそうだったから、街の大地人もそうじゃないかと思っていたがどうやら予感は的中していたようだ。

 

「そうですか……彼らは言うなれば先住民ですから、俺たちの知らないセルデシアを知っているかもしれません。NPCからの情報収集も必要でしょう」

「そうだね」

 

 そのからシロエさんは、マリエールさん達と作り上げたらしいゾーン接続図をくれた。もちろん【筆者師】の特技でコピーした物だが。

 

「……それと、今朝マリエさん経由で入った情報なんだけどね、どうやらこの世界。死からの復活が有るらしい」

「……それは、また」

 

 シロエさんから聞かされた情報に驚愕する。

 死からの復活。

 それは一見良いものに見えるが、この現実化した世界でどんなリスクがあるのかと考えると怖すぎる。ゲーム時代のルールからすれば、経験値や所持金に一定のペナルティがある筈だ。

 だがそれ以外のリスクがあったとしても不思議では無い。もちろん、復活するとしても死にたくは無いから検証はしないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 シロエさんから衝撃の情報を伝えられた後、俺はシロエさん、直継と一緒にフィールドゾーンに出てみないかと誘われた。

 

「もちろん無理にとは言わない。けど僕としては、来てくれると嬉しい。それに今の内に戦闘を経験しておいた方がいいと思ってる」

「……そう、ですね。俺も行きます」

 

 リスクとリターンを天秤にかける。

 この場合のリスクとは、モンスターとの戦闘によってダメージを負う可能性だ。だが俺とシロエさん達はレベル90だ。プレイヤータウン近辺のモンスターではダメージなどほとんど与えられない。

 そしてリターンは、現実化した世界での戦闘を経験出来ること。ゲーム化した世界で暮らすのなら、これはどの道経験する事になるだろう。

 

 結果として、俺はシロエさん達の提案に乗る事にした。

 

「……待ちなさい、比企谷君。それは戦闘をするという事なのでしょう?」

「そうだな。それが目的だ」

「何故」

「……何がだよ」

「何故あなたが行くの」

「……そりゃ、俺が行くのがベストだからだ」

 

 雪ノ下からストップが掛かった。やけに真剣な表情だ。

 

「あなたがまた、前のようなやり方をとろうとしているのなら、私は全力で止めるわよ」

「……そうじゃねーよ。俺はレベル90だ。そこらのモンスターなんてデコピンで倒せる。ここはそういう世界だ」

「そんなの分からないでしょう。ただでさえこんな非現実的な事が起こっているのだから、何が起こるかなんて分からない」

「分からないから行くんだよ。どうせ誰かが行かなきゃならない。だったらこの中で一番レベルが高い俺が行くべきだ。もちろん安全第一だし、できうる限りのリスク軽減をはかる。それじゃダメか?」

 

 雪ノ下の目をまっすぐ見る。雪ノ下も視線を逸らさないので結構怖い。

 そのままの状態で見つめ合う。由比ヶ浜や小町がオロオロしているが、空気を読んで(或いは飲まれて)黙っている。

 そして3分程経った頃、雪ノ下はふっと視線を外した。

 

「……そう。なら私は何も言わないわ」

「あ、ああ」

 

 どうやらお許しを頂けたようだ。心配してくれているのだろう。俺なんかには勿体ない限りだが、心配してくれている以上、無事に帰ってこなきゃな。

 

「お兄ちゃん!怪我したら怒るからね!」

「そうだよ!ヒッキーいっつも無理するもん!」

「私としても、先輩には無事に帰ってきて欲しいですかね」

「……分かったよ。無理しない。怪我もしない。無事に帰ってくるよ」

 

 小町達も心配してくれている。怪我するな。無事でいてくれ。そんな言葉が心地いい。三年前の俺なら、こんな言葉にさえ素直になれなかっただろう。

 だが俺は敢えて昔の俺に自慢する。『俺が得たものは、こんなに素晴らしいんだぞ』、と。

 

 もうぼっちだなんて言えなくなったが、まぁ、なんだ。

 

 これはこれで、良いもんだよな。




ゆきのんが妻してる……。

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