やはりセルデシアでも、俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:カモシカ

6 / 10
あれ……いつの間にか5000字……


三話 特技確認 ユイ&コマチのターン

「ヒ、ヒッキー!何これ何これ!?」

 

 騒いでいるのは由比ヶ浜。【施療神官(クレリック)】である彼女は、ある意味いつも通り騒いでいた。彼女が指す先には、光り輝く蛍の幻獣バグスライトがいた。魔法職なら誰でも覚えている基本的な魔法だ。〈バグスライト〉、〈マジックライト〉と名前は違うが性能はほぼ同じである。だがそんな普通のゲームだったら大したことの無い小技でも、今の由比ヶ浜からすればとんでもないことで。だからこそ由比ヶ浜は興奮していた。

 

「ただの光源だ。心配しなくともちゃんと特技は使えてるよ」

「いや、そうなんだけど……うわぁー、魔法かー」

 

 あんなに混乱していたのに随分と楽しそうだ。なんとも現金なやつである。

 

「わかったら次の確認するぞ。全部使えるとは思うが、万が一を起こさないようにすべきなんだからな」

「万が一って……やっぱり、モンスターとかいるんだよね?」

「確認はして無いが、ガロウが居たんだからいるだろうな」

「そっか」

 

 そんなことを言いながら特技の確認を続ける。まだレベルも低く、そんなに種類がある訳でも無いのですぐに終わった。回復魔法の〈リアクティブヒール〉、〈ヒール〉、〈キュア〉、攻撃魔法の〈ホーリーライト〉、蘇生魔法の〈リザレクション〉。もう少しレベルが上がれば上位蘇生魔法の〈ソウルリヴァイヴ〉を習得する。

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 そして最後は小町の番だ。小町の職業は【神祇官(カンナギ)】だ。小町の清楚な可憐さと巫女服のコンビネーションは控えめに言って最高である。日本サーバマジグッジョブ。

 

「お兄ちゃんがキモい……」

「小町ちゃんがヒドイ(´・ω・`)……」

 

 そんな下らない事をほざきながらも、ちゃっちゃと特技確認を済ませていく。神祇官の固有回復魔法、〈障壁〉は中々のぶっ壊れ性能だからな。まあ使い手を選ぶ職業ではあるが。

 魔法職なら名前は違えど必ず覚えている〈燈明招来(バグスライト)〉、敵の体勢を崩す〈露払い〉、凶祓いの名を持つ神祇官用の武器攻撃技〈雲雀の凶祓い〉、〈白蛇の凶祓い〉、基礎的な回復魔法〈治癒の祈祷(ヒール)〉、神祇官を代表するダメージ遮断魔法、〈禊ぎの障壁〉。

 可憐さと可愛さ、無邪気さや純真さが相まって最早神々しい。まじ小町天使。いや巫女か。

 

 そんなことを考えていると、確認の終わった小町が【通常品(ノーマルアイテム)】の低レベル神祇官用の薙刀杖を降ろし、こちらを見やる。どうやら今度は思考を読まれることは無かったようだ。

 

「これで全部だけど……なんて言うか、未だに信じられないや」

「そりゃそうだ。俺もまだ夢だって言われた方が納得できる。……だが、俺一人ならともかく、お前らまで一緒に居るんだ。臆病なほど慎重に、保険を掛けて安全を確保する。何がなんでもな」

「お兄ちゃん……」

 

 ゲームキャラの姿だからか、いつもの俺が言うはずもない言葉が漏れてしまった。こちらを見る小町の顔には驚きと微笑みが浮かんでいる。具体的には超ニヤニヤしてる。……嫌な予感が。

 

「……雪乃さーん!結衣さーん!いろはさーん!お兄ちゃんが!お兄ちゃんが凄いこと言ってましたー!」

「おいこらてめぇ!」

 

 小町を止めようとするも時既に遅し。レベル90の筈の俺よりも圧倒的に速く下へ降りていった。特技の確認を終え、二三階の居住区で休む雪ノ下達に俺の発言を届けるのだろう。また俺のブラックヒストリーに新たな一ページが……

 

 

 半ば諦めて降りていったら、ニヤける双子メイドと顔の赤い三人(メンバーについてはご想像にお任せします)に出迎えられました。……ぐすん。

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 全員の特技の確認を終えた、その夜。俺達は二階のダイニングに集まっていた。思えば深夜までゲームをして、その後も何だかんだで運動していたのだから腹も空く。という訳で遅めの昼食兼夕食だ。その分量は多めである。

 

 俺が【ダザネックの魔法鞄(マジックバック)】から出したのは、ピザ、ハンバーガー、フライドポテト、サンドイッチ等のファストフード。サブ職が【料理人】の雪ノ下は、まだレベルが低いためサラダぐらいしか作れず悔しがっていた。

 

 十人以上は優に座れる大きなダイニングテーブルに座る。俺の右隣は雪ノ下、左隣は由比ヶ浜である。小町が楽しそうなので小町が犯人だろう。対面には、小町、一色、エリス、ミーナの順で座っている。双子メイドは主人と同じ机に座るのは……と言って(形だけは)遠慮していたが、由比ヶ浜達コミュ力高い組の説得と冷たい視線に急かされた俺のお願いに(喜んで)折れ、無事同じ机に着いてくれた。

 

「じゃ、食うか」

「ええ。流石に空腹だわ」

「なんか太りそうなメニューだけど……」

「まあ今日ぐらいは良いですよね」

「これで太ったら先輩のせいですからね」

「え……」

 

 色々理不尽はあったが、各々好きな物を手に取り───

 

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

 ───瞬間、世界が固まった。

 味が、しない。決して不味くはなく、しかし味が無い。吐き出す程に不味いのならば諦めはつくが、食えない程では無いからタチが悪い。強引にこの味を表現するなら……そう、食用ダンボール。水に浸されたスナック菓子の様な。栄養の摂取だけを目的に作られた非常食の様な。

 

「……何だ、これ」

 

 思わず口から溢れたその言葉が、双子メイドを除く俺達の心情を代弁していた。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 ▶名前:ハチマン

 ▶レベル:90

 ▶種族:狼牙族

 ▶職業:暗殺者(アサシン)

 ▶サブ職業:調教師(テイマー)

 ▶HP:9913

 ▶MP:9821

 

 ▶アイテム1:吸魂刀

  この世界がゲームだった頃に、放蕩者の茶会(デボーチェリティーパーティー)で参加した大規模戦闘(レイド)のクリア報酬。幻想級(ファンタズマル)アイテム。攻撃時、与ダメージの1%MPを回復する。また武器としても優秀で、幻想級の名に恥じぬ攻撃力である。吸魄刀とのセット効果がある。

 ▶アイテム2:吸魄刀

  この世界がゲームだった頃に、放蕩者の茶会で参加した大規模戦闘のクリア報酬。幻想級アイテム。攻撃時、与ダメージの1%HPを回復する。吸魂刀と同時に装備する、且つ装備者が【暗殺者】である場合、防御力が10%下がる代わりに回復率が10%に変更される追加効果が発生する。

 ▶アイテム3:闇狼王子の召喚笛

  【調教師】のカンストクエストにて低確率で入手可能な秘宝級アイテム。闇狼族の王子と友情を深めた印である。ガロウは笛で召喚される中では珍しく、戦闘に参加出来るモンスターだ。それ故多くの【調教師】がこのクエストに挑戦するも、闇狼王子と友情を深めることが出来ず、未だにハチマン一人しか所有者が居ないアイテムだ。本人は狼の友達より人間の友達が欲しいと思っていたが、大災害以降何だかんだ気に入ったのか一日に一度は呼び出して愚痴を吐いている。

 

 

 

 

 ▶名前:ユキノ

 ▶レベル:12

 ▶種族:ハーフアルヴ

 ▶職業:妖術師(ソーサラー)

 ▶サブ職業:料理人

 ▶HP:983

 ▶MP:1439

 

 ▶アイテム1:必殺の短杖(ワンド)

  市場で売っている初心者向けの短杖。そのまま棍として使うには攻撃力耐久力ともに些か心許ない。接頭語の『必殺の』は、僅かにクリティカル率が上昇していることを指す。

 ▶アイテム2:雪猫の髪留め

  初心者向けクエスト、『迷子の雪猫』のクリア報酬。僅かに防御力が上昇する効果しか無いが、雪を思わせる真っ白な猫を象ったデザインが気に入り、本人は肌身離さず身につけている。

 ▶アイテム3:猫妖精(ケット・シー)の召喚鈴

  ハチマンがユキノに強請られ(脅され)、こころよく譲り渡したアイテム。猫妖精を召喚する魔法の鈴。猫妖精は戦闘も騎乗も出来ないが、部屋の片付けなど雑事を手伝ってくれる。見た目の可愛さから、大災害以前も女性プレイヤーを中心に人気であった。

 

 

 

 ▶名前:イロハ

 ▶レベル:11

 ▶種族:ヒューマン

 ▶職業:吟遊詩人(バード)

 ▶サブ職業:木工職人

 ▶HP:1376

 ▶MP:1198

 

 ▶アイテム1:ファイア・ショートボウ

  市販の低レベル魔法級(マジックアイテム)。攻撃時にごく低確率で火傷の追加ダメージを与える。射程はそこまで長くないが、前衛を支援するのが本職のイロハには問題無い。

 ▶アイテム2:投げナイフ

  ナイフと言うには長く、短刀と言うには短い微妙な投げナイフ。投げて良し、直接斬って良しの汎用性を持つが、その分攻撃力は最低クラス。ハチマンと【デュエット】をする為に購入した。

 ▶アイテム3:木工セット

  木工職人に必要な工具が最低限揃っている工具セット。低レベルの内はこのセットだけで、作成可能なほとんどのアイテムが作れる。

 

 

 

 ▶名前:ユイユイ

 ▶レベル:13

 ▶種族:ヒューマン

 ▶職業:施療神官(クレリック)

 ▶サブ職業:教師

 ▶HP:1413

 ▶MP:1029

 ▶アイテム1:癒しの長杖

  低レベル向けダンジョンの宝箱で発見したアイテム。低レベルで装備可能な割には能力が高いが、装備可能なのは【施療神官】だけであった。回復魔法の効果を少し高める。

 ▶アイテム2:女教師のメガネ

  何か頭よさそう!というバカ丸出しの叫びと共に購入したアクセサリー。一見ただの黒縁メガネだが、装備者のサブ職業が【教師】だった場合僅かにダメージを減少させる効果を持つ。

 ▶アイテム3:サブレの召喚笛

  ハチマンがプレゼントした子犬の召喚笛に名付けを行ったアイテム。戦闘や騎乗は出来ないものの、失くした物を見つけ出す事が出来る。見た目の愛くるしさもあって大災害以降も女性プレイヤーを中心に人気のアイテム。

 

 

 

 ▶名前:コマチ

 ▶レベル:12

 ▶種族:ヒューマン

 ▶職業:神祇官(カンナギ)

 ▶サブ職業:見習い徒弟(アブレンティス)

 ▶HP:897

 ▶MP:1002

 ▶アイテム1:白の薙刀杖

  柄だけでなく刃の部分まで真っ白な薙刀。だと言うのに何故か杖の効果まで持っている。と言うか杖の先から刃が生えている。攻撃と回復を効率よく行える。だがこんな形状のアイテムはこの薙刀杖しか確認されておらず、武器としての性能も低いためハズレとされている。だがコマチは何故かこれを使いこなし、攻防一体のような気がする戦い方をしている。

 ▶アイテム2:お兄ちゃん観察日記

  大災害が起きてからと言うもの、余りサボり癖を見せず真面目に行動する兄を観察し、それを纏めた日記。大災害以前から何かとフラグを立てていた兄の恋愛を見守ろうと奮闘するも、たまに見せる真剣な顔がかっこよく見えてきて混乱している。何だかんだ言いつつブラコンである。

 ▶アイテム3:カマクラの召喚鈴

  ハチマンから貰ったアイテム、白猫の召喚鈴に名付けを行ったアイテム。その名の通り白猫が召喚され、ネズミ系モンスターとの遭遇率を下げる。召喚されると五分ほど居なくなり、帰ってきた時には口周りに何かが着いている。ネズミを狩ってくるのだろうか。

 

 

 

 ▶名前:エリス

 ▶レベル:10

 ▶種族:ヒューマン

 ▶職業:メイド

 ▶HP:449

 ▶MP:417

 ▶アイテム1:家妖精(ブラウニー)のハタキ

  家妖精からクエストのクリア報酬として貰える。家事を行うような職業の効果を助ける。女性陣から糾弾されたハチマンがプレゼントした。このハタキはNPCにプレゼントすると好感度が上がるらしいが、ハチマンは狙った訳ではない。ただその効果が後から判明し、ハチマンはロリコン疑惑を深めることになった。

 ▶アイテム2:メイド服

  大地人用のメイド服では無く、サブ職業【メイド】用の服。これから迷惑もかけるだろうと特別報酬としてハチマンが与える。大地人用のメイド服よりも丈夫で、近隣の大地人仲間に羨ましがられている。

 ▶アイテム3:双子姫の指輪

  故郷の村を出る時に木工職人の父から貰った、木製の簡素な指輪。その名の通り二つで一つの指輪であり、双子の姉妹がそれぞれ装備し、なおかつ近くに居る時幸運値が上昇する。

 

 

 

 ▶名前:ミーナ

 ▶レベル:10

 ▶種族:ハーフアルヴ

 ▶職業:メイド

 ▶HP:419

 ▶MP:493

 ▶アイテム1:家妖精(ブラウニー)の箒

  家妖精のクエスト第二弾のクリア報酬。一部職業の効果を助け、NPCに贈ると好感度が上がるらしい。女性陣の糾弾に負けたハチマンがプレゼントした。エリスの時とおなじくロリコン疑惑を更に加速させていく。

 ▶アイテム2:メイド服

  エリスとお揃いのメイド服。これもハチマンの贈り物だが、待遇がドンドン良くなっていくのが最近怖くなってきた。だが貰えるものは貰っておく主義のため、受け取りを拒否することは無い。

 ▶アイテム3:双子姫の指輪

  エリスとお揃いの指輪。簡素な木製だが、細工師に師事した幼馴染と父の共作である為、大地人が作れるものとしては破格の価値である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。