やはりセルデシアでも、俺の青春ラブコメはまちがっている。   作:カモシカ

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三話 特技確認 ユキノ&イロハのターン

ガロウをとっとと帰し、困惑が渦巻く女性陣に説明をし、色々あった後次は雪ノ下の特技を確認することとなった。

 

「……比企谷くん、特技というのはどうやって使えばいいのかしら」

 

ふと、屋上の真ん中に立った雪ノ下が疑問をぶつけてくる。つーか見てたなら分か……分か……らないよな、そもそもネトゲ自体が初めてらしいし。音声入力とかアイコンの操作とか理解しきっているわけではあるまい。ゲームの時は画面越しだったから操作もしやすかっただろうが。

 

というわけでウィンドウの開きかた、操作のしかたを教える。まあこう動けと念じれば動くのでそう難しいものでもないが。

 

「えっと……こう、かしら」

 

そう呟き、雪ノ下はおずおずとマーケットで売っていた初心者装備『必殺の短杖』を前に向ける。不安げに俺をちらちら見ているが、俺達パーティーのダメージディーラーになるであろう雪ノ下にはこのくらいは出来るようになってもらわなければ困る。自衛のためにも特技は使えなきゃだし。特に雪ノ下は近接攻撃手段がほぼ無いのだ。となればもう魔法しかない。

 

「……ふぅ……行くわ。〈フロストスピア〉……!」

 

些か緊張を感じさせる声で発動させた魔法はしかし、数秒の〈詠唱時間(キャストタイム)〉の後に真っ直ぐと放たれた。それは俺がゲーム時代に使っていた特技確認用の木製人形(秘宝級アイテム。耐久値が無限のため、いくら苛烈な攻撃をしても壊れることはない。ただし所有者の購入したゾーンでしか使用できない)に命中する。放たれた氷の槍が人形に穴を開けるも、すぐさま再生する。

 

「これが……魔法」

 

その魔法を放った本人も、自身が使用した魔法というものに感動とも畏怖ともつかない奇妙な視線を向ける。氷の槍は人形の再生と共に消えてしまったが、現実世界であれば簡単に人一人殺せる力だ。そうなるのも無理はない。

 

「ああ。取り合えず問題なく使えそうだな。特に疲労感とかそういうのはあるのか?雪ノ下」

「……いえ、特にこれと言って無いわね。少なくとも今は。MPも大体70程消費しているわ」

「そうか……【妖術師(ソーサラー)】だから仕方ないとは言え、中々燃費悪いな」

「そこをどう解決するかが、腕の見せ所でしょう?」

「はっ、頼もしいこって」

 

まあ実際、いくつかアドバイスしただけでゲーム時代には小規模ながらいくつかのループを作ってたからな。本人のスペックも規格外だし何とかなるだろ。まだ実戦は少し先にしたいが。

 

「うし、なら幾つか他のもやってみてくれ。連携に組み込むためにも把握しときたい」

「……そうね。外に出ればモンスターも居るのでしょうし」

「確認はして無いが、ガロウ達は居るみたいだしなぁ……」

 

そう。調教によって従うようになってはいるが、ガロウはれっきとしたモンスターだ。見えたレベルもゲームだった頃と同じだし、その他のモンスターも普通に闊歩していると考えるべきだろう。

 

「まあとにかく、一通り特技を使ってみるわ」

 

宣言通り、雪ノ下は〈フラッシュニードル〉、〈フレアアロー〉などの攻撃魔法、〈オービタルブラー〉、〈ルークスライダー〉、〈エンハンスコード〉などの補助魔法を使用していく。MP回復のために休みながらだったが、今取得している全ての特技を出しきった。

 

「……ふぅ。こんなところかしら」

「お疲れさん」

 

画面越しにエフェクトを見るのと、実際に自分が魔法を使うのとでは大きな差があるだろう。

 

「どうだ?何か魔法を使う上で注意した方が良いこととかあるか?」

「そうね。闇雲に特技を使うよりも、杖でどこに撃つかを指定した方が狙った所に撃てる気がするわね。勿論検証出来た訳ではないけれど……」

「いや、充分だ。ありがとな」

 

雪ノ下はMPがほぼなくなったので、大人しく隅のベンチに戻っていった。

 

「……ゆ、ゆきのん何あれ!?何か氷とか炎とか出てたよ!?」

「何を今更。私の職業は【妖術師】よ?魔法くらい撃てるわ」

 

……こう聞くと雪ノ下が厨二病に侵されたように聞こえるな。いやまあ実際魔法使っちゃってるんだけども。

 

「……せんぱーい、私にも〈特技〉って言うの使えるんですよね?」

「ああ。多分な」

「多分……」

「まあここまで来てお前だけ出来ないとか無いだろ」

「それもそうですね」

 

未だに混乱している由比ヶ浜と小町は放っておき、先に復活した一色の特技確認に移る。

 

「お前は確か吟遊詩人(バード)だったよな」

「はいですっ!……【アイドル】への転職クエストが難しすぎて計画が頓挫しましたが」

「……【アイドル】×【吟遊詩人】ってお前……」

 

狙いすぎたろ。もしくはあざとい流石あざはす。

だがまあ【アイドル】への転職はムズいな。そもそもクエストに必要なステージがどこにも無いんだもの。まあ運営側としても【アイドル】実装の経緯は黒歴史だからなぁ……

 

「……で、結局【木工職人】になったんだっけか」

「はい。よく考えたら【アイドル】とかそんなに意味無いような気がしてきたので。普通に【楽器職人】目指そうかなぁと」

「ま、それが妥当か」

 

サブ職談話はともかく。一色は【吟遊詩人】だ。……【アイドル】でも違和感無いけど。

 

「えっと……ウィンドウの中から特技を選べば良いんですよね?」

「ああ。それで問題なく発動する筈だ。慣れてきたら音声入力もやってみろ」

「はーい……あ、せんぱい、何か攻撃特技使ってもらっていいですか?」

「ん?なんで特技……あぁ、〈マエストロエコー〉か」

「ですです」

 

まあそんな訳で、その後も〈剣速のエチュード)とか〈デュエット〉とか〈猛攻のプレリュード〉とか〈慈母のアンセム〉とかの特技を使ってもらった。特に問題は無いようである。

 

「問題なく使えますね」

「あぁ。【吟遊詩人】がいるのといないのとじゃ戦闘効率が段違いだからな。お前が居てくれて良かった」

「な、なななな何言ってんですか口説いてるんですか今結構不安な気持ちなのでクラっと来ましたっていうかゲーム内だと案外イケメンかもあわわわなに言ってんだろ私!」

「あーうん。一回落ち着こう」

 

ほんと分からん。何がイケメンだよ。マジ魔性だわ。あざはすだわ。…………べっーわ。


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