やはりセルデシアでも、俺の青春ラブコメはまちがっている。 作:カモシカ
「さて、まずは俺の家に移動しようと思う」
小町達と合流し、相変わらず目が腐ってると言われたが立ち直り、一つ提案をする。それは俺のホームへの移動。金だけはバカみたいにあったので町の中心から外れた所に建つ、古びたビルを買っていたのだ。そこに行けば取り敢えずの安全は確保されるし、寝床の心配も無くなる。
「ええ。それが良いわね。まだ詳しいことは分からないけれど、取り合えず襲われるような心配は無くなるのでしょう?」
「ああ。システム上、俺が許可したプレイヤー以外入れないはずだ。だがこうしてゲームが現実になっている以上、何が起きてもおかしくない。余りゲーム時代の知識を過信しない方が良いだろう」
「……そうね」
雪ノ下は納得したようで、神妙な面持ちで頷く。おお、雪ノ下が俺の提案を素直に受け入れた。まあここ一年で丸くなってきたからこういうこともあり得るか。
「……で、小町達も良いか?」
「小町は賛成!」
「はーい!あたしも!」
「私も賛成です。ていうかこの状況で付いてかないとかあり得ないですから」
「ん、じゃあ行くか」
距離は大して無い道を、我が家に向かって歩き出す。あんまりいじってないから間取りとか分からんけど。
****
「「お帰りなさいませ。ハチマン様」」
「えっ……あ、はい。ただいま……?」
無事家に帰りついた俺達を待ち受けていたのは、身長140センチ程の二人のメイドさん。顔が瓜二つなのは双子姉妹という設定だったからだろう。いきなりの事態に状況を飲み込めず、ドアを開けた姿勢のまま固まってしまう。ちなみにこのビルのドアは一階の階段を登ってすぐの位置にある。ビルと言っても四階建ての物で、一階が店、二階より上が居住区といった感じだったのだろう。
そしてここ、セルデシアにおいて――少なくとも、ゲームだった頃は――こういった購入されたゾーンは掃除や補修などの管理をしなければならないのだ。とは言え、ゲームでまで部屋の掃除などしたくはないだろう。だからこそとある特殊なNPCが存在する。それが、メイドや執事と呼ばれる者達だ。彼らはプレイヤーが雇うことの出来るNPCであり、その仕事は住居の手入れなどの管理。プレイヤーもサブ職によっては楽に行えるがそんなサブ職を取得するのは一部のロールプレイヤーだけだ。
さて、以上の事からここにメイドが居たとしても何の不思議は無い。俺だってこの剣と魔法の世界で掃除などまっぴら御免だ。だからメイドを雇った。当然だ。だから俺は悪くない。社会が悪い。
「お兄ちゃん……」
「ヒッキー……」
「比企谷くん……」
「せんぱい……」
「おい、待て。それはおかしい。何故そんな目で見る」
ちょっと呆けていただけだと言うのに女性陣から白い目で見られていた。訳分からん。確かにメイドさんは好きだがだからと言って何か変なことをしたわけでもさせたわけでも無い。だから俺は悪くない。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、あれ誰?」
「いや、だから管理用のNPCだって。さっき紹介しただろ」
「えー?でもあのときは特に話しかけて来ませんでしたよ?」
「そりゃ一色お前あれだろ、あれ、この謎現象でNPCが喋るようになってもおかしくはねぇだろ。つーか外で見ただろ?売店のNPCがプレイヤーと会話してたの」
そう。何故かは知らないが、NPCである筈の売り子がプレイヤーである冒険者の言葉を理解し、あるいは理解できず、
「ヒッキーってロリコンだったんだ……」
「おい待てやめろやめてください冤罪です」
「……まあ、それは良いのだけれど、兎に角中に入れてくれないかしら?」
「え、あ、ああ、すまん」
そして何故か雪ノ下と由比ヶ浜がメイドをちらちらと見ていた。そしてすぐに自分の格好を見て何か悩んでいた。どうしたのだろう。
****
「そうですね、私たち自身のことは《大地人》。反対にハチマン様のような方は《冒険者》と呼んでいます」
「《冒険者》、強い。でもどういう人か知らない。です。だから、ちょっと怖い。です」
メイド姉妹に案内され、由比ヶ浜の疑惑の視線に耐えながら応接用のソファーに座り、現状確認の為に色々と質問をさせてもらっていた。
ちなみにはきはきと返してくれたのが姉のエリス、片言なのが妹のミーナだという。雇ったときには知らなかったが名前が付いていたらしい。
今俺たちが居る応接室の内装は全体的に落ち着いた色で纏められていて、机やソファーなどの家具は質素だが良い物だと一目で分かる。余り広いわけでは無いのだが、天井が高いので解放感がある。
彼女らが言うには、ここで働くのは三年目らしい。受験勉強の合間に息抜きとして遊んでいた頃だろう。遊んだって言っても一日三十分かそこらだ。まあそれはどうでも良い。《エルダーテイル》では現実の十二倍の速度で時間が進む。俺がこのビルを購入したのも三ヶ月前なので確かに計算は合う。
だが今のように会話をしたのは初めてで、これまでは話しかけても答えてくれなかったとのこと。この発言により女性陣からの視線に冷気と殺気が混ざった。手段も必要もなかったのでしょうがないとは言え、こんないたいけな幼女を無視していたとなると良心に劇痛がはしる。ちょー痛い。視線も痛い。
「あー、その、スマンな。ずっと無視してたみたいで。俺もこうして会話できるとは思ってなかったんだ」
「い、いえそんな!確かに話しかけても無視されましたけど、ちゃんとお給金は貰ってますし酷いこともされてませんから、これで十分ですよ」
「何も、問題無い。です。最初は傷ついたけど、慣れれば大丈夫だった。です」
「お兄ちゃん……」
「せんぱい……」
「比企谷くん……」
「ヒッキー……」
「「「「「「最低」」」」」」
「ごばぁッ!!」
謝ったが撃沈。全面的に俺が悪いので甘んじて受け入れる。でもね、一つ言わせて欲しい。最後、メイド姉妹も混じってた。
……使用人に罵られる俺。
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