萌えよ剣 壬生の狼の娘たち   作:越路遼介

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勇子復活

 翌日、新太郎と歳絵と薫は宝物殿が破壊された神社に調査に出た。しかし現場に来てみると警官が

「これから先、部外者は立ち入り禁止だ」

 と、警棒を突きつけて新太郎たちを通さない。

「納得できかねます」

 歳絵が詰め寄ると

「機動新撰組には出動を要請していないはず。立ち去るがいい」

「そうはいきません。聞いた情報によると壊され方が尋常ならざるものだと。物の怪の仕業かと云う観点を入れれば、たとえ府警の要請がなくても」

「くどい!!」

 新太郎の言葉にも聞く耳持たない警官。

「ちょ、ちょっと何で現場を私たちに隠すのですかぁ!何か府警にとって私たちに知られるとまずいことでもあるのですかぁ?」

 と、薫。しかし警官は退かない。

「何と言われようと通さない。帰るがいい」

 

 仕方なく退いた新太郎たち。

「参りましたね。弓月さんより府警に秘守が徹底されていると聞いてはいましたが、予想以上に頑なです」

「でも土方さん、時を経れば情報も現場から消えてしまいますよぅ」

「とはいえ、これ以上僕らが我を張れば府警も公務執行妨害と言ってくるのは明らかだ。悔しいな、サンダードーンの脅威が迫りつつある今、人間同士で争っている場合ではないだろうに」

 ため息を吐く新太郎と歳絵。薫もホッペを膨らませたまま歩いていた。しばらくすると

 

「おーい、兄ちゃん!!」

 竜之介が走ってきた。

「どうしたんだい竜之介」

「さっき屯所に使いが来てな。三恵神社に来てほしいと言うんじゃ」

「三恵神社、確か祇園の方にある神社だね」

「弓月さん、長崎屋さんが列挙されていた神社の中にはそこも」

 歳絵が添えた。

「そうなんじゃ。そこの宮司が機動新撰組に話があるそうじゃ」

「ありがたい、みんな行こう」

 

 三恵神社に向かった新太郎、歳絵、薫。境内に入ると

「やあ、弓月くん」

「も、盛川さん?」

 先日の盛川が新太郎たちを出迎えた。盛川の隣に宮司がいた。

「私が三恵神社の宮司や。急に呼び出してすまんかったな」

「君たち、神社破壊について情報が得られなくて困っているのだろう?」

 と、盛川。

「そうなんです。府警も何も情報を回してくれず…。自分たちで調べようとしても現場に入れてくれません」

「ではまず、宝物殿にご案内しよう」

 宮司は宝物殿に新太郎たちを連れていった。新太郎が他の宝物殿と見た時と同じ。内側から爆発したように破壊されている。室内の中央に台座がある。

「宮司さん、ここには何があったのですか?」

「金色の機械や」

「そ、それは機械の真ん中に『源』と云う赤い文字が」

「ああ、確かにあったで」

 顔を見合う新太郎たち。源内の予想は当たった。有馬温泉で見つけた機械と同じものに違いない。

「かつてそれは幕末のころ、新撰組の近藤が持ってきたもんなんや」

「近藤局長が?」

 と、歳絵。

「いきなり隊士数名を連れて、変な金色の機械を持ってくるなり『紗姫殿の遺命』と言って、この機械を神社で封印せよと言ってきたんや。しかしすでに紗姫殿も亡く、その言葉も容易に信じられず儂は断ったんや」

「それで近藤局長は?」

「業を煮やして儂に刀を突きつけよった。渋々やが受け入れるしかなかった」

「局長も必死だったんだよ」

 旧友を庇うように言う盛川。

「すいません宮司さん、紗姫殿って誰なんです?」

 と、薫。

「美姫さんのお母さんらしい」

 新太郎が答えた。

「その通り、早乙女家のご先代や。で、その美姫が先日来てな」

「え?」

「外国人二人連れていきなりやってきて『封印機』を返してもらうと言ってきた」

「「封印機?」」

 そういう名前なのかと初めて知った。

「儂は断った。近藤より誰にも渡してはならないと念を押されておったからな。だが美姫についていた双子の外国人が有無を言わさず押し通った」

「「双子?」」

「ああ、言い忘れていたな。美姫についていた外国人は容姿が同じやった。あれは双子やな」

 そして破壊されている天井を指した宮司。

「押し通されて間もなく、これや」

「封印機から何かを出したんだな…」

 新太郎の言葉に歳絵と薫も頷いた。

「中身が何なのかまでは儂も近藤から聞いていないのでな」

「弓月さん、源内さんの予想どおりです。封印機の中にあるものが美姫さんを強くしている…」

「盛川さんの要望だから話したが、実は今回のこと府警に口止めされている。ゆえに口外は無用に願いたい」

「分かりました宮司さん、ご協力感謝いたします」

 

 三恵神社を立ち去る新太郎たち。盛川も共に歩いた。

「そういえば局長のお嬢さんは元気かね?」

「いえ、あの件を聞いて以来、元気がなくて」

「局長が投降された経緯だね」

「はい」

「局長はけしてセバトの強さに屈してではない。仲間と京都の人々のため、あえて刀を置いたんだ」

「やはり…」

「局長は常に『刀は人を活かすためにある』と言っておられた」

「人を活かすため…」

「申し訳ない。あの時にもう少し詳しくお嬢さんに話せれば良かったのだが、私も気が動転していてね…」

「……」

「お嬢さんの師である勇五郎さんも存じていることなのだが、あえてこの件は教えなかったと見える。いや教えようがなかったのか、局長が魔物にあえて頭を垂れたなどと」

「いずれ知ることになることは分かっていたかもしれません」

「そうだろうな、お嬢さんも苦しいだろう。ご家族と離れている今、仲間の君たちが支えになってあげてほしい」

「はい」

「じゃあ私はこれで」

 盛川は去っていった。その背を見ていた竜之介。

「兄ちゃん、あれが親父と近藤勇の連絡役をしていたっちゅう人か」

「そうだよ」

「けんど近藤の姉ちゃんを支えてやれって言ってものう。部屋に閉じこもりっきりぜよ」

「朝ご飯も食べなかったけど…昼食は?」

「駄目じゃきに」

「そうか…。それじゃ局の士気に関わる。何とかしないと…」

 

◆  ◆  ◆

 

 屯所に帰った新太郎、勇子の部屋に行ってみた。

「勇子くん、いる?」

 返事はない。『お前が思っているほど私は強い女じゃない』昨夜勇子が言った言葉が頭に響く。いかに剣の腕は立っても勇子は十七の乙女、心の傷も受けて立ち直れなくなる弱さはある。

「勇子くん、話があるんだ。いいかな」

「…開いているよ」

 返事があった。部屋に新太郎が入ると勇子は窓際の壁にもたれて、左腕に刀を抱いてうつむいていた。顔に精気も覇気もない。

「勇子くん、何か食べなきゃ。みんな心配しているよ」

「…新太郎、あの火災は私のせいだ」

「…違う」

「そうなんだよ、私があの時に刀を置いてさえいれば二つの火災はなかった。多くの人々の幸せを奪っちまった。中には死んだ人だっているかもしれない…!」

「勇子くん…」

「私…もう駄目だよ。罪の意識に耐えられないよ…。う、ううう…」

「聞くんだ。セバトは信じられないが確かに炎を自在に操る力を持っている。だから勇子くんの、いや我々が刀を置く置かない、そんなの抜きにして京都を火の海に出来る。あいつは己の能力を示すとともに、君の心の破壊を狙ったんだ」

「……」

「つまりサンダードーンは君を、機動新撰組を恐れている。こんな姑息な手段を使ってでも君を潰しにきたんだ」

「でも…私の強情が二つの火災の火種になったのは確かだろ…」

「だから違うと!」

「もういいんだ。私、多摩に帰るよ…」

「……」

「親父の気持ちが今になって分かる。こんな思いが嫌で刀を置いたのだろうな」

「それは違うよ。実は今日の見回りで盛川さんと会ったけれど、その際に近藤勇の投降の経緯を聞いた」

「え…」

「勇子くんのお父さんは仲間たちを守るために刀を置いたんだ」

 キッと新太郎を睨む勇子。

「それじゃ刀の意味がねえだろが!!」

「勇子くん、刀は敵を斬れなきゃ意味がないのではなく、誰かを守れなければ意味がないんだ」

「守れなければ…」

「北辰一刀流の僕が言うに口幅ったいけれど、柳生新陰流にそんな言葉があるんだ『活人剣』敵を倒す剣ではなく、人を守り、活かす剣」

「…人を守り、活かす剣…」

「そう」

「私にそんな剣が使えるのかな…」

「誰よりも刀を愛する勇子くんならきっと出来るよ。だから多摩に帰るなんて言わないでほしい」

「新太郎…」

「君には何人もの仲間がここにいるんだから」

「…」

「それじゃ僕は行くね」

 ドアを閉めた新太郎。

「ふう、勇子くん立ち直ってくれたら良いのだけど」

 

◆  ◆  ◆

 

 そしてその夜、源内の調査が終わり、早乙女家が治めていた神社仏閣すべてが判明した。

「まだこんなに数があるのですか」

 かつての早乙女家の隆盛を見た思いの歳絵。

「一つ一つ手分けして当たりましょうよ」

 薫が言うが

「いや、それでは一人でつばめ組、もしくはサンダードーンの先兵と戦うことになってしまう。危険だ」

「私も新太郎さんの意見に賛成です。ことを焦らず、二手に分かれて神社仏閣を調査しましょう」

 と、おりょう。

「「了解!!」」

「私が二つ目星をつけました。中山神社と円蔵院です。ここには大きい宝物殿があるということ」

 源内の目星におりょうも同意。

「では円蔵院を新太郎さん、薫さん、歳絵さん。中山神社を竜之介と猫丸さんで張ることにいたします。美姫さんの力はかつてのものではありません。くれぐれも油断なきよう」

「「はい!!」」

「機動新撰組、出動!!」

 

 かくして円蔵院に到着した一行。静かだった。

「妙に静かだな…」

 新太郎が言った。歳絵も首をかしげる。

「妙ですね、私たちが目星をつけるくらいなのだから、当然府警も張っていると思っていたのですが」

「僕もそう思っていた」

 周囲を見渡す新太郎。

「府警どころか誰もいない…」

「アテが外れてしまったのかも…」

 と、薫。

「よし、もうしばらく待って何ごとも起きなければ中山神社の方に行ってみよう」

「そうしましょう。それでは弓月さん、私は宮司に用向きを伝え宝物殿を張らせてもらうよう頼んできます」

「うん、頼むよ」

 歳絵は神社に同意をもらい、新太郎たちは敷地内にある宝物殿に歩きだした、その時だった。

 

「…なんや、またウチの邪魔しにきたんか」

 闇夜から突如、早乙女美姫が現れた。左右に大きな外国人を連れていた。わずか月明かりが差して美姫の顔が見えたとき新太郎は唖然とした。

「み、美姫さんなのか?」

「…今度会ったときは容赦せん、そう言ったな新太郎」

「君は本当に早乙女美姫なのか…」

 美姫の両目には隈が出来ており、やせ細っていた。

「何て姿に…」

 今までのドレス姿から、巫女装束に姿を替えている美姫。早乙女家当主、本来の姿である。その巫女装束も、かつての覇気溢れる元気な美姫ならば、さぞや映えて美しかったろう。しかし今の美姫は気が触れた鬼婆さながらの様相だった。

「安易に得られる力に溺れし者の哀れな末路、見るに耐えませんね」

 歳絵は冷徹に言い放った。

「見損ないました。自分の努力で強くなろうとせず、魔物に魂を売って力を得るなんて。美姫さんがかつて新撰組の宿敵だったなんて思いたくありません」

 薫も侮蔑の眼差しを向けた。

「…お前たちに何が分かるんや」

 美姫の左右にいる外国人を睨む新太郎。一人はセバト、勇子の心を壊した男だ。もう一方はセバトと同じ顔の男。先日の宮司が言っていたように双子のようだ。名はテベトと云う。そのテベトの兄のセバトが

「近藤の娘はどうした?部屋に籠もって泣いているのか?」

 この場に勇子は来ていない。美姫も

「近藤はんがそないな腑抜けやったとは残念やなぁ」

「美姫さん、彼女はそんな弱虫じゃない。君が一番知っているだろう」

「ふん…」

 刀をテベトとセバトに突きつける新太郎。

「お前たち、早乙女美姫を使って何をする気だ」

「答える義理はない」

 一笑にふしたテベト。

「我らを倒すにしても、他の野心があるにしても、十七そこそこの娘を利用して目的を成そうなど恥ずかしくないのか!」

「まったくです。加えて我らの局長の心を破壊する姑息さ。サンダードーンには男子がおらぬと見えます」

 勇子を傷つけたセバトを睨む歳絵。

「喧嘩に強いだけのただの腰抜けたちですね」

 同じく薫、勇子を傷つけたことは知っている。

「ふっははは」

 テベトが前に出た。

「ずいぶんな言われようですね。ならば『喧嘩に強いだけ』を示して、その口を黙らせてあげましょう」

「やったりテベト、もうこの雁首ども見るのもウンザリや。殺してええで」

 殺さず、の美姫が初めて敵を殺せと指示した。

「ふふ、承知…」

「美姫さん!」

「新太郎、お前が悪いんや…。言うたやろ、次に会ったときは容赦せんとな」

「弓月さん、何を言っても無駄です。悪魔に魂を売った者など我らの宿敵の器にあらず」

「言うたな土方!」

「最後に言います。もう封印機の開放はやめなさい。間違いなく貴女は死にますよ」

「早乙女家を取り潰した明治政府を滅ぼした後ならば、なんぼでも死んだるわ!あっははは!」

「…やっぱり言うだけ無駄みたいです」

 溜息を吐く薫だった。

「哀れな…」

 

「ほらほら!お話に気を取られている場合ではありませんよ!」

 テベトが技を繰り出した。するとどうか、新太郎。歳絵、薫の足が凍りつき、地に縛られたように動かなくなった。

「「なっ…!?」」

「ホーホホホホッ!人の心配の前に自分の命の心配をすべきやったなぁ!もう遠慮はいらん!テベト、セバト!尋常に畳んでおしまい!」

「くそ…!一人が炎を操り、もう一人は氷か!」

「新太郎さぁん、動けません!」

「く…っ!不覚!」

 歳絵も必死に氷を振り払おうとするが抜け出せない。

「では上半身は焼いてくれようか。感謝しろ、これで女二人はウチのアダルに犯されずに死ねるのだからな!」

 セバトの手のひらに炎がうずまく。だが、その時だった。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

「加勢に来たニャーッ!!」

「兄ちゃんと姉ちゃんたち!ちぃと痛いぜよ!」

 勇子、竜之介、猫丸が加勢に来た。そして竜之介がバズーカを新太郎たちが縛りつけられている氷に向けた。

「「い…!」」

 真っ青になる新太郎、歳絵、薫

「いっちょ派手なん行くぜよ!」

 竜之介は的確に氷の塊の要所を砕いた。新太郎たちは自由になった。黒い煙を口から吹いている薫。

「も、もっと違う方法なかったんですかぁ!」

「ちゃちゃちゃ、贅沢はいかんちゃ」

 勇子は新太郎たちの前に出た。

「美姫!」

「……」

「ふん、多摩一番の美少女が見る影もないな」

「なんやて?」

「一緒に来てもらうよ。話してもらうことがある」

「やかましいわ。テベト、セバト、さあまとめて片付けちゃり!」

「まあよかろう…」

「少し遊んでやりましょう兄者…」

 テベトとセバトはついに正体を現した。彼ら兄弟は一体の魔物と変身。二つの首を持つ竜『ツインドラゴン』であった。勇子たちは構えた。

 

「熱き炎を刀に込めて、近藤勇子、行くぜ!」

 

 鋭い尾の一振りと炎と氷の息が怒涛のごとく機動新撰組を襲う。しかし

「「アダルほどじゃない…」」

 と、勇子たちは冷静に判断。

「ふん、心の破壊なんて姑息な手段使う奴なんてこんなもんか。よし新太郎、采配を」

 先のアダル戦で見事な作戦を立てた新太郎に采配を委ねた勇子。勇子は頭を使うことはせず攻撃に全力を注ぎたかった。

「分かった。薫くん」

「はい」

「あいつらの武器は炎と氷だ。封印することは出来るかい?」

「少し時間がかかりますが大丈夫、やれます」

「頼む、みなは薫くんがしようとしていることを敵に気付かれないよう注意してくれ」

「分かった」

「承知しました」

「任せとき」

「分かったニャ」

「炎と氷さえ封じれば恐れることはない。僕は尾を斬る。勇子くんと歳絵くんは右、竜之介と猫丸は左を頼む」

 

 戦闘開始、すぐに薫が式神玄武を呼び

『大地の恵みを与えるよ!』

 各自の耐久力をあげた。そして術の詠唱を始めた。そしてこの時の勇子の戦いぶりは今までセバトに傷つけられた心の痛みを一気に返しているかのようだった。

「今までよくもやってくれたな!親父の無念も付け加えて何倍にも返してやるぜ!」

「「小娘が!」」

 勇子に攻撃を加えようとしても、すぐに歳絵が攻める。戦いの喧騒を縫って新太郎が背後に周り、尾を使って攻撃しようとした瞬間に切り裂いた。

「「ギャアアア!!」」

「お前たちは僕たちを本気で怒らせた。覚悟するがいい!!」

「「小僧~ッ!!」」

 黙って戦いの行方を見守る美姫。薫をチラと見た。術の詠唱をしているのが分かる。しかし美姫はそれをツインドラゴンには言わない。たとえ言っても聞こえるとは思えない。

(阿呆が…。だから言ったやろ。お前は機動新撰組を本気で怒らせたんやと)

 ツインドラゴンは炎と氷の息を乱発、やはりこれは脅威だ。容易に近づけず、尻尾以外の痛手は自己修復していっている。しかし薫の術の詠唱が終わった。

「お待たせ!急急如律令!『氷炎封印』!」

 青い法衣を着た美童、式神青竜が降臨した。

『危ないものは、いないいないばあ!』

「「が…ッ!?」」

 頼みの綱の炎と氷の息が封じられた。

「あかん、こら負けやな…」

 美姫は急ぎ、円蔵院を去っていった。

「隼の太刀・三段!!」

 勇子が必殺の一撃を叩きつけた。

「「ぐうあああ!!」」

 テベト・セバトの正体『ツインドラゴン』は機動新撰組に討たれた。

 

「「よ、よもや人間どもに…。しかし我らを倒したとて何も変わらぬ。計画は遂行されるであろう…。テトラグラマトン様の強大なるパワーはもはや人間ごときが阻止できるものではないのだ!サンダードーンに栄光あれ!!」」

 ツインドラゴンは倒れた。しかし、すぐに亡骸は消えた。刀を収める勇子。

「また高見の見物をしているヤツが遺体を持っていったか…。て、おい美姫は?」

「…いない、テベトとセバトの劣勢を見て引いたのだろう」

 新太郎が答えた。

「ええ御身分じゃの。サンダードーンの幹部を露払いに使い、負けると分かれば見捨てるときちょる」

 吐き捨てるように竜之介が言った。

「しかし妙ニャ、今の美姫の力ならば魔物らを倒して疲労困憊したニャーたちに強力な物の怪の追い打ちをかけることも出来たはずニャ」

 と、猫丸。

「そこまで、まだ美姫は冷酷になれないと云うことか…」

 少しホッとした勇子だった。

「そうは思えません。美姫さんは今の姿から察するに、そうとう体に無理をさせています。魔物を召喚して体力を使いたくなかったのではないかと思います」

「確かに…今日の美姫さんはセバトらに何の迷いもなく僕らを殺せと言っていた」

「近藤さん、貴女と美姫さんが女童のころから友であったのは私たちも存じています。しかしもう彼女は貴女の知る早乙女美姫ではないのです」

「ならば、力ずくでも元のあいつに戻すまでだよ」

「勇子くん…」

「私は新太郎やお前たちがいたから心に傷を負っても立ち直れた。美姫にはいないんだ。私一人くらい最後まで面倒見てやんなきゃよ…」

「貴女らしい…」

 フッと歳絵は笑った。

「さて、弓月さん、我らは封印機の回収をしなければ」

「よし、勇子くん行こう」

 

 宝物殿に行き、戦いを見ていた宮司に『一連の宝物殿破壊は封印機を狙ってのものであって、これがある限り、あんなのがまた来るぞ』と言い聞かせ、勇子たちは機動新撰組の名のもとに回収させることが出来た。

 宮司が封印機を奥から持ってきた。機械の真ん中には『源』の赤い文字が刻まれてあった。

「これをあいつらは狙っていたのか…」

「そうらしい」

 宮司に聞くと、この機械も近藤勇が早乙女紗姫の指示によって運び込んだと云う。

「親父が美姫のお袋の指示でこんなのを運び込んだのか…」

「何があったんだろうね…。僕たちの父の時代に…」

「ああ…」

「でも良かった。勇子くん吹っ切ったんだね」

「…お前の言う通り、どんなに迷っても私は親父を裏切れない。どんなにつらくても受け入れるしかないと思ってな…。そのうえで自分が頑張っていけるよう強くならなくちゃね」

「勇子くん…」

「ありがとう新太郎。もしお前がヘコたれそうな時は私に言ってくれ。力貸すから」

「うん、その時は遠慮せず甘えるよ」

「ははは、じゃあこの封印機を源内さんのところに持っていこう」

 

◆  ◆  ◆

 

 京都の空、サンダードーン幹部のサイヴァがいた。

「愚かなるセバトとテベトの魂よ…。お前たちに最期の役目を与えよう…。お前たちの魔力はテトラグラマトン様の一部となり、永遠の時を生きるのだ…」


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