描写をもっと深くしたいのですが、難しいですね……
ホグワーツ特急改
「トムさん、駅まで送って下さってありがとうございました。」
「ホグワーツは本当に楽しい所だ。君もきっと気に入るよ。また、夏休みに店においで。待っているよ。」
トムは駅までルクスリアを送ってくれた。ルクスリアが礼を告げると、トムは笑顔で送り出してくれた。
この二日間は、ルクスリアの人生の中で最も幸福な時間だった。ルクスリアに向けられる、欲望に支配されていない人の笑顔。顔を隠しているルクスリアに不信感を抱いている顔。相手に気を使うお喋り。全てが初めての経験だった。普通、不信感を向けられたり、気を使って話をすることは嬉しくないことだが、欲望の対象ではなく、ルクスリアとして見てもらえた事が何よりも嬉しかった。
この二日間の事を思い出しながら駅の中に入っていった。
[9と3/4番線ってどこなの……そんな所この駅に無いじゃん……]
ルクスリアは途方に暮れていた。早めに来たお陰で時間にはまだ余裕はあるが、既に30分以上駅の中をさ迷い続けている。
[トムさんが送ってくれたからこの駅で間違いは無いんだよね。…………ん?待てよ。魔法使いは魔法を秘匿しなきゃいけないから、マグルにバレないようにして暮らしてるんだよね。……ということは、何処かに隠してあるのかな?]
スネイプに教わった事を思い出し、ルクスリアは考え始めた。
[9と3/4番線ってことは9番線と10番線の間に何かが隠されてるのかな?……間に柱が立ってるからその3番目は……あそこかな?]
ルクスリアは目をつけた柱の前にたどり着いた。
[周りの人がこの柱を避けてる……何かの魔法がかかってるのかな?]
ルクスリアが柱に触れた瞬間、指先が消えた。
[ここが入り口になってるんだ。]
ルクスリアは意を決して柱の中へと進んでいった。思った通り柱の中に道が続いていた。そこを通り抜けるとそこにはもう1つ駅があった。たくさんの人がいるが、先程までの駅にいた人々とは違い、そこには魔法使いばかりがいる。何か黒い毛むくじゃらの生き物が入った箱を持ち、それを見せて驚かせている生徒。ダイアゴン横丁でたくさん売られていた、梟の入った籠を持った生徒達。どこかチグハグな服装で抱き合っている親子。皆が別れの気持ちと、これからの学校生活に対する期待に満ち溢れていた。
ルクスリアはその光景を見ながら、早めに列車へと乗り込んだ。
[仕方ないとはいえ、親子が仲良くしている姿を見るのはやっぱりちょっと……辛いな……]
適当に空いているコンパートメントを見つけ、外の様子を意識から遠ざける様に、教科書を読み始めた。
「ここ、空いてる?」
教科書に夢中になっていたルクスリアは、突然の声に少し驚いた。
「ごめん、読書を邪魔しちゃって。それで、ここって他の人もいる?もしいないなら一緒に座ってもいいかな?」
目の前には、ボロボロの眼鏡をかけた貧相な体つきの男の子が立っていた。
「いいよ。私以外にはいないし。」
男の子はホッとした様子で向かいの席に座った。
「僕の名前はハリー・ポッター。一年生なんだ。君の名前は?」
「私も一年生だよ。私の名前は……あの……私の名前ってさ、その、とても……変わっているんだけど…聞いても笑わない?」
「もちろん。人の名前を笑うなんてそんなことはしないよ‼」
「約束だよ。…………じゃあ、教えるね。私の名前は、ルクスリア……。姓は無いよ。」
「姓が無いなんて珍しいね?何かあったの?」
ハリーは、"ルクスリア"には言及せずに姓が無いことについて聞いてきた。ルクスリアは名前について余り語りたくなかったが、ハリーが純粋に興味を持っているだけの様なので仕方なく答えた。
「私孤児なんだ。生まれて直ぐの私を親は孤児院の前に置いていったんだって。だから、姓がないんだ。名前も孤児院の人が勝手につけたの。」
「そうなんだ。じゃあ、ルクスリアは僕と少し似てるね。」
「ハリーも孤児院育ちなの?」
「僕は孤児院じゃなくて伯母さん夫婦の所で育てられたんだ。両親は……僕の1歳の誕生日に悪い魔法使いに殺されちゃったらしいんだ。だから、僕も君と同じで両親の事を全然知らないんだ。最近ようやく両親と自分が魔法使いって事を知ったくらいなんだよね。」
「そうなんだ。私も最近自分が魔法使いって知ったのよ。じゃあ、私達は似た者同士ね。」
ハリーの思わぬ告白に、一瞬面食らったルクスリアだったが、ハリーも自分と似た境遇で育ったことに対し親近感を覚えた。
そこに、燃えるような赤い髪の男の子が通りがかり遠慮がちに声をかけてきた。
「ねぇここ空いてる?他の所はどこもいっぱいでさ……」
「「構わないよ。」」
二人の答えに安心した様子で男の子は入ってきた。
「僕、ロン・ウィーズリー。一年生なんだ。助かったよ。座れる場所が見つからなくて困ってたんだ。」
「僕達も同じ一年生だよ。よろしくロン。僕はハリー・ポッター」
「君があのハリー・ポッターなの?じゃあさ、本当にあるの?……あの…傷が…」
「うん、あるよ。」
そう言ってハリーは前髪をあげた。ハリーの額には稲妻の様な傷痕があった。
「うわー、君本当にハリー・ポッターなんだ。」
「……ハリーって有名人なの?」
ルクスリアはロンのハリーに対する態度に疑問を感じ、質問をした。すると、ロンは信じられないといった顔で話し出した。
「あたり前じゃないか‼例のあの人を倒して生き残った男の子だよ‼知らないの⁉」
ロンの大袈裟な態度にルクスリアは若干苛立ちを覚えた。
「知らないものは知らないよ。私、マグル育ちだから、魔法界のことなんて殆ど知らない。」
そう言うと、ロンは合点がいった様子で話した。
「なるほどね。マグル生まれの子なら仕方ないね。……ええとね。以前、ある物凄く力の強い闇の魔法使いが魔法界を恐怖に陥れていた時代があったんだ。その魔法使いに勝てる人は誰もいなくて、あのダンブルドアでさえ勝てなかったんだよ。それなのに、その魔法使いはある日突然敗れたんだ。今までどんなに強い魔法使いが闘っても勝てなかったのに、たった1人の子どもに負けたんだ。その子どもがハリー・ポッターなんだよ。だから、ハリーは魔法界では有名なんだ。」
ハリーは、ロンの説明を聞きながら少しうんざりしていた。
「色んな人が僕の事を知ってるんだけど、僕はその時の事を何も覚えていないんだ。皆が優しくしてくれるのは嬉しいんだけど、なんだか目の前にいる僕を見てくれていないみたいで少し嫌なんだ。」
ハリーの言葉を聞いてルクスリアは、表面上は平気な様に振る舞ったが、心の内ではハリーに激しく共感していた。
実際に経験していることは異なっているが、自分自身を見て欲しいというハリーの気持ちはルクスリアには痛いほど良くわかった。
「そうだよ、どんな過去があろうと私達の目の前にいるハリーのことを見てあげなきゃ。」
ルクスリアの言葉にロンは恥ずかしそうにしながらハリーに謝った。そして、誤魔化す様にルクスリアに話しかけた。
「君の名前も教えてよ。」
「……ルクスリア。姓は無いの。」
先程のこともあってか、ロンは名前について気になっているようだが何も聞いてこなかった。ロンが見せた気づかいに、ルクスリアはロンのことをちょっぴり見直した。
その後、3人で談笑していると、魔女がニコニコと笑いながらお菓子等が大量にのっているカートと共に現れた。
「坊っちゃん達、何か欲しいものはあるかい?」
「……僕はいいや。ママが作ってくれたものがあるし……」
「私もいらないです……。」
ロンとルクスリアは恥ずかしそうに答えた。しかし、チラチラと物欲しそうにカートのお菓子を見ていることにハリーは気がついた。
「ぜーんぶちょうだい!!」
ハリーはポケットからガリオン金貨を取り出しながら言った。魔女はお菓子を渡すと、満足そうに去っていった。
「これ3人で一緒に食べよう。僕ね、魔法界のお菓子って食べるの初めてなんだ。それに、友達とお菓子を分けて食べること、僕、経験したことが無いんだ……だから、一緒に食べよう‼」
ハリーの言葉にロンとルクスリアは喜び、お菓子を食べ始めた。ルクスリアは、初めてみる魔法界のお菓子に大興奮だった(ハリーとロンはものを食べる時に覗くルクスリアの形の良い唇に目を奪われていた)。本当になんでもありの百味ビーンズ、本物の蛙のように動く蛙チョコレート、そして何よりも他の人と普通に、楽しい時間を過ごせている事が何よりも嬉しかった。
そのまま談笑を続けていると、突然、栗色の豊かな髪の女の子が話しかけてきた。
「あなた達ヒキガエルを見なかった?ネビルって男の子のペットが逃げちゃったの」
「私達見てないよ」
ルクスリアが告げると、二人も頷いた。
「そう分かったわ、私ハーマイオニー・グレンジャー、マグル生まれの一年生よ、あなた達も見たところ一年生のようね、あら、驚いたあなたハリー・ポッターね、私あなたについての本を何冊か読んだわ、子どもなのに例のあの人を倒したっていったいどうやったの?」
ハーマイオニー・グレンジャーと名乗った女の子は一息で喋りきった。
「ハーマイオニー、本に載っていることなんかよりも目の前にいるハリーの事を見たら?」
ルクスリアはハーマイオニーの態度にイライラしながら言った。
「あら、本に載ってないことは実際に確かめるしかないと私は思うけど、そういえば貴女の名前は?なんでそんな髪型をしてるの?」
[[髪型について聞いちゃったよ!!]]
ハリーとロンも気になっていたが、ルクスリアに気を使い髪型については聞かないようにしていたのだ。ハーマイオニーのズバズバと言う態度に、ルクスリアは苛立ちを隠そうともせずに答えた。
「名前はルクスリア。髪型について貴女に教えるつもりは無いよ。なんと言われようと私はこの髪型を変えるつもりはないし。」
ルクスリアの強気な話し方にハーマイオニーも苛立ちを見せ始めた。ハリーとロンは、巻き込まれでもしたら大変だと互いに目配せをし、行動に移した。
「ああー!!そういえば僕の自己紹介をしてなかったね!僕はロン・ウィーズリー!ロンって呼んで‼よろしくねハーマイオニー!」
「そう言えばハーマイオニーはヒキガエルを探してるんじゃなかったっけ?!ここにはいないから他の場所を探してみたら?!」
二人は長年の友人の様に絶妙なコンビネーションを見せた。ハーマイオニーは本来の目的を思いだしたようだった。
「そうだったわ。じゃあ、私は行くわ。最後に、もう少ししたら到着だからあなた達も着替えた方がいいわよ。」
そういってハーマイオニーは去っていった。
「嵐の様な子だったね。確かにそろそろ到着しそうだから着替えようか。……さ、先に僕達が着替えるからルクスリアは外で待っててもらってもいい?」
そのまま服を脱ごうとしたハリーとロンはルクスリアの刺すような視線(実際は隠れているけど)を感じ、慌ててルクスリアに提案した。ルクスリアは呆れた様子で外に出た。
コンパートメントの前で待っていると、青白く顎の尖った不遜な態度の男の子が、体が大きくいかつい男の子二人を引き連れてやってきた。青白い男の子は嘲笑うかのような声で話しかけてきた。
「この辺にあのハリー・ポッターがいると聞いてきたんだけど、君は知ってるかい?」
「うん知ってるよ。今中で着替えてる。」
ルクスリアは嘘をつく必要もないと考え、ハリーについて教えた。
「そうかい、じゃあここで待たせてもらうとするよ。僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイだ。こいつらはクラッブとゴイル。君の名前はなんだい?」
「ルクスリアだよ。」
ルクスリアは、本日四回目となる自己紹介に、流石に名前を教えることへの抵抗が薄れてきていた。
「ずいぶんと個性的な名前だね。姓はなんだい?」
「ないわ。私孤児なの。」
「そうなのか。それは悪いことを聞いたね。」
マルフォイは全く悪びれた様子もなく、むしろ見下すような態度に変わった。
「お待たせルクスリア。君の番だよ。……彼らは誰だい?」
「ハリー、あなたに用があるらしいよ。じゃあ、私も着替えるてくるね。」
面倒なことが起こりそうな気がしたルクスリアは、さっさとコンパートメントの中に入っていき、鍵を閉めて着替え始めた。
着替え終えたルクスリアは二人に中に入っても良いことを伝えようとコンパートメントの扉を開けると、先程の三人組はいなくなっており、ハリーとロンは不機嫌になっていた。
その後は、到着迄の時間をお喋りをして過ごし(マルフォイの悪口が多かった)、そして遂にホグワーツに到着した。
列車から降りると、低く地面を揺らすかのような大声が聞こえてきた。
「イッチ年生‼イッチ年生はこっちだ。」
彼はハグリッドという森番らしい(ハリーが教えてくれた)。ハグリッドに着いていき、三人一組でボートに乗っていくとホグワーツが見えてきた。
[本物のお城じゃん‼]
ルクスリアは初めて見るホグワーツ城に大興奮だった。それは、他の一年生も皆同じようで歓声があがっているボートもあった。
岸に着き、城の中に入ると厳格そうな魔女が待っていた。
「マクゴナガル先生、一年生をお連れしました。」
「ありがとうございます、ハグリッド。ここからは私が案内します。一年生の皆さん、ホグワーツへの御入学おめでとうございます。私はミネルバ・マクゴナガル、変身術を担当しています。皆さんはこれより、大広間にて組分けの儀式を行います。これにより、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、そしてスリザリンのどの寮に所属するかが決まります。寮は皆さんが授業以外の時間を過ごす場所であり、ホグワーツにおいての家でもあります。アルファベット順に呼ばれますので、名前を呼ばれたら前に出てきてください。……ちなみにファミリーネームの無いものは最後に呼ばれますので、安心して下さい。」
ルクスリアは事情を知っている人達からの視線を感じていた。
[今から全員の前で名前を呼ばれるんだ……。腹をくくらなきゃなぁ……。]
「それでは入場します。ついてきて下さい。」
マクゴナガルがそう言うと、大広間の扉が開かれ光が射し込んできた。
ルクスリアはその光の中へと進んでいった。