ハリー・ポッターと魅了の少女   作:栴檀若葉

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賢者の石もようやく終盤です。

今回は視点が変わるので、読みづらいかもしれません。







賢者の石

 

ルクスリア視点

 

炎の中を進み扉を潜ると、そこは広い円形の部屋だった。中央に大きな鏡が置かれており、私が写っている。あれは……みぞの鏡かな?

 

「まさか君が来るとは思わなかったよ。てっきりポッターかと思っていたのだがね。」

 

鏡の裏から人が出てきた。

 

「こんばんは。やっぱり貴方だったんですね、クィレル先生。」

 

そこにいたのはクィレル先生だった。普段の挙動不審な姿は全く無く、私を嘲笑うかの様な顔をしている。

 

「君はずいぶんと早い段階で、私を疑っていたね。ポッター等はセブルスを疑っていたのに。」

 

「生憎、スネイプ先生は貴方よりもずっと立派な先生でしたからね。疑う余地なんてありませんでしたから。」

 

クィレル先生は一瞬面白くなさそうにしたが、直ぐに獰猛な顔になり、私に杖を向けてきた。

 

「先日の禁じられた森では邪魔をされたが、今回はそういうわけにもいかないのでね。悪いが、少々痛い目に合って貰おう。」

 

赤い光線が飛んできた。

失神呪文だろう。

 

『プロテゴー護れー』

 

盾の呪文を使い隙を待つ。

 

禁じられた森の時と同じ様に、呪文が次々と飛んでくる。

私はひたすら呪文を撃つ隙を待つ。

 

少しすると、クィレル先生に隙が見えた。

 

今だ‼

 

『ステュ「二度も同じ手を使うとは、やはり呪文を使えるだけの子どもだな。」』

 

「ルクスリアー‼」

 

私の意識は、目に映る狂った笑みをしているクィレル先生と赤い光線、そして私の名前を叫ぶ男の子の声が聞こえたのを最後に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリー視点

 

「ルクスリア……大丈夫かしら?」

 

ルクスリアが炎の向こうに行ってしまい、取り残された僕にハーマイオニーが話しかけてきた。

 

僕だって心配だ。いくらルクスリアが一年生の中でも、多くの呪文を使えるからと言って、この先にいる魔法使いに必ず勝てるとは思えない。

 

でも、

 

「信じて待つしかないよ、ハーマイオニー。大丈夫、ルクスリアはいつも僕らを守ってくれたじゃないか。きっと、直ぐに帰ってくるよ。」

 

ここで僕達が弱気になっていても仕方がない。僕達はルクスリアを信じて待つんだ。

 

「ハーマイオニー、先に戻ってロンを看病してくれないかな?僕よりも君の方が、適任だと思う。」

 

「……分かったわ。ハリーはルクスリアが帰ってきたら、私の代わりに抱き締めてあげて。」

 

そう言って、ハーマイオニーは薬を飲み急いで戻っていった。

 

取り残された僕は、ひたすら扉を見つめルクスリアの帰りを待つ。

既に10分が経とうとしている。

 

キィンッ

 

突然机から音が鳴った。何事かと見てみると、さっきまで空っぽだった瓶が再び薬で満たされていた。

どうやら、ある程度時間が経つと補充される仕組みになっていたようだ。

 

僕は、迷わず進むための薬を飲みほす。

 

頭の上から氷水をかけられた様な感覚がした。

僕は、扉に向かって駆け出した。

 

 

 

扉を開けると、そこではまだ戦いが続いていた。

部屋の中央にクィレルがいて扉から左側に移動しながら戦っているルクスリアに攻撃をしていた。

 

クィレルと一瞬目が合った。

クィレルの顔が、普段からは想像できない程の歪んだ笑顔になった。

 

クィレルは直ぐに僕から目を離し、ルクスリアの方へ向き直った。

すると、クィレルに隙ができた。違う、作ったんだ。

 

ルクスリアは作られた隙だとは気づかずに、盾の呪文を消した。

 

『ステュ「二度も同じ手を使うとは、やはり呪文を使えるだけの子どもだな。」』

 

ルクスリアに赤い光線が迫る。

 

「ルクスリアー‼」

 

僕は、堪らず叫んだ。

 

ルクスリアは避けきれずに赤い光線に当たり、壁に打ち付けられた。

 

 

 

 

 

「やはり来たか、待っていたぞ、ポッター。」

 

クィレルが僕の方へ近寄ってきた。

勿論杖を僕に突き付けながら。

 

チラリとルクスリアを見る。全身から力が抜けてダランと手足が投げ出されている。

頭からは壁に打ち付けられた衝撃からか出血しており、ルクスリアの美しい髪の一部を真紅に染め上げている。

顔にかかっている髪が若干動いているため生きてはいるようだ。

 

「安心しろ、ただの失神呪文だ。死んではいないだろう。まあ、放っておけば出血多量で死ぬかもしれんがな。」

 

クィレルは安心しろと言ってきたが、そんなことできるものか。

 

「こんなことをしたら、ダンブルドアが黙っていないぞ‼」

 

「だろうな。ダンブルドアは、私が賢者の石を狙っている事を知っていた。あの老人は、それでも私を泳がせ続けていた。全くとんだ甘いやつだ。あの老人は誰にでもやり直すチャンスが与えられるべきだと思っている。その結果が、今夜の外出だ。私はやり遂げた。ようやく賢者の石の隠し場所に辿り着いた。」

 

クィレルは嘲笑の顔をしながら話していたが、段々と憤怒の形相に変わっていった。

 

「だが、肝心の石は何処だ⁉あるのはみぞの鏡だけ。あぁ、鏡の中の私は石を手にしているのに……。一体何処にあるのだ。」

 

クィレルは鏡を見つめ項垂れている。

 

「クィレルよ、その小僧を使え。」

 

突然何処からか声がした。

 

「ポッター、此処に来い‼」

 

クィレルは声に怯える様に叫んできた。

ここで逆らうのは、悪手な気がするので警戒しながら鏡の前に立った。

 

「何が見える⁉」

 

僕の両親……ではなかった。鏡には僕とクィレルが写っていた。

鏡の中の僕は、僕に笑顔で左手を振っている。そして、右手には何かを持っていた。

石だ。

真っ赤な血のような色をした石だ。あれが恐らく賢者の石なのだろう。

鏡の中の僕は、悪戯をする子どものような顔でその石をポケットに入れた。

 

ズン

 

なんと、僕のポケットに何かが入ってきた。

感触から石だと思う。

 

「何が見えるんだ⁉」

 

もう一度クィレルがヒステリックに叫んできた。

ここは嘘をつかなければ‼

 

「ぼ、僕がダンブルドアと握手してる。グリフィンドールがクィディッチで優勝したんだ‼」

 

「クィレルよ、俺様が直接話す。」

 

また、突然声がした。

 

「し、しかし我が君、貴方様はまだ万全ではありません。」

 

「話すだけならば問題ないだろう。それとも俺様の言うことが聞けんのか?」

 

そう言われると、クィレルは後ろを向き震える手でターバンを解き始めた。

ターバンが全て解き終わると、そこにはあるはずが無いものがあった。

 

顔だ。

クィレルの後頭部にもうひとつ顔がある。

蛇の様な顔だ。

 

ズキリ

 

顔を見た途端に、額の傷が強く疼き始めた。

まさか、こいつは。

 

「ヴォルデモート……。」

 

見たことはないけど、体中から警鐘が鳴っている。間違いなくこいつはヴォルデモートだ。

 

「そうだ、俺様がヴォルデモート卿だ。久し振りと言うべきかな、ハリー・ポッター。見ろ、貴様のせいで俺様はゴーストにも劣る存在となり、誰かに寄生しなければ実体化することすらできん。俺様が体を取り戻し、再び魔法界を支配するためには、貴様のポケットに入っている賢者の石が必用なのだ。」

 

バレている⁉

一体どうして⁉

 

「さあクィレルよ、小僧を捕まえッ……」

 

突然ヴォルデモートは言葉に詰まった。

 

「な、なんだ貴様は……なんなんだその眼は‼何故だ、俺様は貴様が欲しい‼あぁ、貴様を俺様のモノにし、ぐちゃぐちゃに成るまで汚しつくし、愛し尽くしたい‼」

 

ヴォルデモートの目に僕は映っておらず、何かに向かって身勝手な欲望をぶちまけている。

クィレルも突然のヴォルデモートの変貌に、戸惑っている。

 

「わ、我が君、い、いったいどうなさったのですか⁉」

 

「クィレルよ、小僧よりも先ずはあの娘だ‼俺様はあの娘が欲しい‼あの娘を捉えよ‼」

 

「わ、分かりました。」

 

クィレルが命令に従うためにルクスリアのいる方を見た。

 

ヒュッ

 

クィレルは一瞬息を止めた。そして、堰を切ったように喚き始めた。

 

「あぁ、あぁ、なんと愛しいのだ。あれだ。あれこそが私に必用なモノだったんだ‼あれは、私のモノだ。いくら我が君であってもあれは譲れない。あれは、私のモノだー‼」

 

そう叫ぶとクィレルは走り出した。

 

僕なんか路上の石のようにまるで目に入っていない。

 

慌てて後ろを振り向く。

 

この世のモノとは思えないほどの美しさを秘めたモノがいた。

普段は髪によって隠され、眼帯によって更に隠されているモノが全て顕になっている。

 

ルクスリアだ。

 

いや、分かっていた。

この部屋にいたのは僕とクィレルそして、ルクスリアだけだと。

 

彼女の普段隠されている美しい顔に、金色の右眼が爛々と輝いている。

 

クィレルとヴォルデモートは、誘蛾灯に集まる虫の様に一目散にルクスリアに向かっていく。

 

「ハリー‼今の内に逃げて‼」

 

ルクスリアが叫んできた。

 

君はそんなボロボロになりながら、まだ僕を守ろうとするのか。

それは嬉しい。嬉しいけど……

 

「嫌だ‼僕だって戦える‼今度は僕が君を守るんだ‼」

 

そんなの御免だ。

友達が危険な目に合おうとしている。

そんなの見過ごせるわけがない。

たとえ、僕がどうなろうが知ったことか‼

 

僕が守る。

 

「あぁ、こんな近くにあったのか。ようやく私の心が満たされる。」

 

ルクスリアの前に辿り着いたクィレルが、恍惚とした表情でルクスリアを見ている。

 

「貴様、クィレルよ‼その娘は俺様の、僕のモノだ‼貴様が汚していいものではない‼」

 

ヴォルデモートも喚き散らしている。

 

「ルクスリアから離れろ‼」

 

僕はクィレルの腰の辺りにしがみつき、ルクスリアから遠ざけようとする。しがみつくと同時に、疼いていた額の傷が頭が割れるのではないかと思うほど痛み始めた。

 

構うものか。

 

「わ、私の体が、や、焼ける、焼けてしまうー⁉」

 

何故かクィレルの体が焼け爛れ始めた。

なんでもいい。

ルクスリアからこいつを離す。

 

クィレルの体が焼け爛れドンドン崩れていく。

僕も額の傷の痛みのせいで意識が飛びそうになる。

 

クィレルは腰から下が崩れ落ちているのに、這ってでもルクスリアに近づこうとしている。

 

「あとすこし、あとすこしなのに……」

 

そう言って、クィレルは崩れ去った。

 

僕はルクスリアの前まで歩いていく。

 

「大丈夫?ルクスリア?」

 

ルクスリアは涙を浮かべた顔で、それでも僕を安心させるためか、笑顔で、

 

「大丈夫だよハリー。守ってくれてありがとう。」

 

良かった。

そうだ、ハーマイオニーと約束したんだっけ。

僕は、ルクスリアに近づきソッと抱き締めた。ルクスリアは少し驚いたみたいだったけど、優しく抱き締め返してきた。

 

あの時に嗅いだルクスリアの匂いに包まれ、安心した僕の意識は急速に遠退いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルクスリア視点

 

頭が痛い。

全身が怠い。

気持ち悪い。

 

「ぼ、………が、……ぶるど…………して……。」

 

何処からか声が聞こえてくる。

 

重い瞼を開けると、鏡の前にクィレル先生とハリーがいた。

 

なんでハリーがここに……。

 

「クィレルよ、俺様が直接話す。」

 

誰のでもない声が聞こえた。クィレル先生がその声に怯えている。

そして、後ろを向きターバンを解き始めた。

 

「ヴォルデモート……。」

 

ハリーが呟いた。クィレル先生の後頭部には顔があった。

あれがヴォルデモート卿。以前、魔法界を恐怖に陥れ、ハリーに敗北し、その後行方が分かっていなかったはずだけど、あんな風に生きていたなんて。

 

このままだとハリーが危ない。

だけど、杖は遠くに飛んでいってしまい魔法は使えない。

身体も全身に力が入らず、立ち上がることすら満足にできそうにない。

でも、どうにかしないとハリーが……。

 

 

 

 

あった。

一つだけ。

杖が無くても動けなくてもハリーを助けられる手段が。

 

 

 

 

形振り構わず眼帯を取り、髪を分け普段隠し続けてきた素顔を出す。

 

 

 

 

 

私を視ろ、ヴォルデモート卿‼

 

 

 

 

「さあ、クィレルよ。小僧を捕まえッ……」

 

眼と目があった。

 

ヴォルデモートは私を凝視している。

あぁ、あの目を私は知っている。孤児院にいた頃の人達と同じだ。

私を見ておらず、己の欲望のみを押し付けてくるあの目だ。

 

ヴォルデモート卿がクィレル先生に私を捕まえる様に命令した。

クィレル先生が私の方を向いた。

 

この人もだ。

この人も同じ目だ。

 

どちらも私に向かって身勝手な欲望を口にしている。

 

もう少しだ。ハリーからクィレル先生が離れれば、その内にハリーが逃げられる。

 

「あれは、私のモノだー‼」

 

クィレル先生が遂に私の方へ駆け出してきた。

 

「ハリー‼今の内に逃げて‼」

 

私は叫ぶ。

ハリーを守るために。

だけど……

 

「嫌だ‼僕だって戦える‼今度は僕が君を守るんだ‼」

 

ハリーは逃げなかった。

それどころかクィレル先生に向かっていき、飛び付いた。

 

すると、クィレル先生から肉の焼けるような音がし、ドンドン崩れていった。

 

ハリーはクィレル先生に必死にしがみつき、離そうとしない。顔は苦悶の表情をしていてとても辛そうだ。

 

「あとすこし、あとすこしなのに……。」

 

クィレル先生はそう言って、崩れ去った。

 

ハリーはフラフラと私の前へ歩いて来てくれた。

ハリーだって満身創痍な筈なのに、

 

「大丈夫?ルクスリア?」

 

私の心配をしてくれた。何より守ってくれた。とても心があたたかくなった。

 

瞳が潤み涙が出てきた。

悲しい涙ではなく、歓喜の涙だ。

 

「大丈夫だよハリー。守ってくれてありがとう。」

 

ハリーは私の言葉を聞き、安心した顔をした。

そして、私の前で膝をつき抱き締めてきた。

 

「?、?!」

 

突然の抱擁に、ハリーまで魔眼の呪いがかかってしまったのかと慌てたが、ハリーのとても優しい抱擁にそうではないと思えた。

その事実に安心し、私も抱き締め返す。

すると、耳元からする息遣いが非常に穏やかなものになった。どうやら、眠ってしまったようだ。

 

ハリーを楽な格好にしてあげ、私は顔をあげた。

 

「まだ、そこにいるんでしょ?ヴォルデモート卿。」

 

クィレル先生だったものから、霞の様なモノが浮かび上がった。

良く見ると、先程見たヴォルデモート卿の顔がうっすらと見てとれる。

 

「いずれ、貴様を俺様のモノにする。待っていろ。身体を取り戻し、必ず迎えに来る。」

 

「私は貴方のモノにはならないよ。どうしてもそうしたいなら、先ずお友達から始めようとしたら?卿を名乗るのに、女性の口説き方すら知らないの?」

 

「……そうすれば良いのだな?考えておこう。」

 

そう言って、ヴォルデモートは消えた。おそらく、新たな寄生先を探しに行ったのだろう。

 

完全にヴォルデモート卿がいなくなったことを確認すると、身体からドッと力が抜けた。

 

疲れた。

全身が痛い。

頭がフラフラする。

 

でも、膝に感じるハリーの温かさが心地いい。

 

そのまま私の意識はまたしても途切れた。

 

 

 

 

 

 

 




魅了の魔眼をやっと使いました。

ルクスリアは呪文の吸収は早かったのですが、結局それだけで、戦い方を学んでいるわけではないので、奇襲でもない限り成人の魔法使いには現状勝てません。

何か感想等あればお願いします。

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