今回はかなり駆け足です。
禁じられた森での罰則からしばらく経った。ローブのモノがクィレル先生じゃないかと三人に言ったら、一応納得してくれた。
ハリーと、ロンは渋々って感じだったけどね。
クィレル先生自体も、授業等では相変わらず挙動不審だ。
……元々挙動不審すぎて、変化があるのかないのかすら分からないってのもあるけど。
しかし、あくまで推測の段階で、証拠は掴めてないから何もしていない。
何より、私達は今危機にたたされているのだ。
そう、試験だ‼
学生にとっては、避けることのできない一大事。普段から真面目にやっている者、遊び呆けている者、誰にでも平等に訪れ心を揺さぶる。
私達にも例外なく訪れた。毎日空き時間があれば図書館に通い、知識を頭に一つでも多く詰め込み、またある時は今までに習った呪文の復習に明け暮れている。
ハーマイオニーは試験のストレスからか、若干ヒステリックになり突然泣き始めるし、ロンはどこか一点を見つめてブツブツ呟き始めるし、ハリーは記憶力が上がるという怪しげな薬を双子から買おうとしていた。
変な行動をしているのは、別に三人だけでなく多くの生徒が色々と変な行動をしている。
変化がないのは双子くらいか。以外と頭いいんだよね。だけど、怪しい物売るのはどうかしてる。
私も皆に比べればまだまだだけど、少しはストレスが溜まっている。
まあ、以前は毎日がストレスだったからこの程度はどうってことないんだけど。
それでも貯めるのは良くないので、小まめに発散している。今も絶賛発散中だ。
最近は同じように発散する仲間が二人できて、非常に楽しい。
「二人とも良く食べるね‼」
「「ん。」」
二人は私に目を向けて唸ると直ぐに食事に戻った。二人はあんまり喋らない。そんな暇があるなら食べる、と言わんばかりに料理を掻き込んでいく。
イギリスの料理は不味いと良く言われるらしいけど、ホグワーツの料理は本当に美味しい。しかも、イギリス料理だけでなく他の国の料理も日替わりで作ってくれる。私達にとっては天国だ。食べる手が止まらない。
「前から言おうと思ってたんだが、なんでグリフィンドール生の君がスリザリンのテーブルに来るんだい?」
声のする方に目を向けるとマルフォイが不快そうな顔で此方を見ていた。隣にはパンジー・パーキソンもいて、私を睨んでいる。
そう、私は今スリザリンのテーブルでクラッブとゴイルと一緒にご飯を食べている。
「いつも一緒のポッター達と食べれば良いじゃないか。何を好んでスリザリンのテーブルで、しかもまともに話さないクラッブとゴイルと食事をするんだ?」
「だって、ハリー達は勉強のためにサッと食べるからさ、それだと流石に足らないんだよね。でも、一人で食べ続けるのも寂しいからさ、一緒に食べる人を探してたら、たくさん食べてる人を見つけて、それがたまたまスリザリンのクラッブとゴイルだったの。ね、二人とも?」
「「ん。」」
クラッブとゴイルは、やっぱり唸るだけで直ぐに食事に戻った。
「君の事情は分かったけど、もう三人で食べるのはやめてくれ。」
マルフォイは心底嫌そうに言ってきた。回りのスリザリン生も無言で訴えてくる。
「私がグリフィンドール生だから?」
「それもあるけど、毎回毎回三人で大量に食べるのを見させられる此方の気分が悪くなるんだよ‼特に君だ‼君の食べる姿に魅せられている奴等もいるが、なんでその体にあれだけの食べ物が入るんだ⁉クラッブとゴイルよりも食べて、なお平気ってどうなっている⁉」
「食べれるんだからしょうがないじゃん。……でも、気分が悪くなるのは良くないか。んー、じゃあ不満だけど止めるよ。食事の時間が不快って嫌だもんね。」
せっかく仲間を見つけたけど仕方ないか。
別にたくさん食べなくても平気だし。
「二人ともありがとね、楽しかったよ。マルフォイもごめんね。」
スリザリンのテーブルを去ろうとすると、目の前に人影が現れた。
パンジーだ。
さっきまでマルフォイの隣にいたのに、いつの間にか私の前に立ち塞がっていた。
「あんたさ、本当はドラコに色目使うために来てたんじゃないでしょうね⁉あんなにバクバク食べるようなデブ女が調子のってんじゃないわよ‼着痩せするみたいだけど、そのローブの下は贅肉だらけなんでしょ?」
なんだか、すごい剣幕で話しかけられた。
私、そんな風に見られてるのかな?
「色目なんか使えないよ。顔隠してるし。後、何故かお肉が身体につかないんだよね。私も不思議なんだけどさ。」
「揚げ足とるんじゃないわよ‼それに、あれだけ食べて太らないわけないじゃない‼」
「本当だよ。触ってみる?」
「……ずいぶん余裕なのね。」
パンジーは予想外だったのか一瞬固まった。それでも意地悪い顔でお腹を触ってきた。
「嘘……なんであんなに食べてるのに、そんなに細いのよ。」
今度こそ本当に固まってしまった。まあ、そうなるよね。私も信じられないし。
「納得してくれた?これ以上いると、迷惑そうだから私行くね。」
また、勉強に戻らなきゃ。
試験は無事終了した。思ったよりできた、特に実技はほぼ完璧だったんじゃないかな?
ハリー達もそれぞれ自分の持ってるモノは全て発揮できたようで、試験の解放感に酔いしれていた。
だけと、私だけもう一つあるんだよね。
スネイプ先生との個人授業だ。
試験の内容は、守護霊の呪文を実践レベルの速さで唱えること、そして、守護霊に伝言を託しスネイプ先生に伝えることだ。
「スネイプ先生、失礼します。」
「入りたまえ。」
扉を開けるとスネイプ先生は待っていた。
「我輩は、この後に試験の採点がある。手短に済ませよう、直ぐに始めたまえ。」
スネイプ先生の言葉を合図に杖を素早く構える。
一瞬で身体が幸福感に包まれる。
『エクスペクト・パトローナムー守護霊よ来たれー』
杖先から銀色の煙が吹き出し狼の形になる。
私は守護霊に伝言を託す。
託し終えると、守護霊をスネイプ先生の方へ飛ばした。
守護霊はスネイプ先生の耳元に近づき伝言を伝えた。
「合格だ。」
良かった。無事伝えられたみたい。
「これで、個人授業の試験を終わりにしよう。この数ヵ月で君には、呪文だけでなくある程度の知識も授けた。来年度からは、自分で危険なモノは判別し安全なモノを選ぶことができるだろう。よって、個人授業は今回で終了だ。」
え、もう終わりなの?
まだまだ教えて欲しかったのに。
「スネイプ先生、私としてはできれば来年度も続けてほしいのですが?」
「我輩はこう見えて忙しいのだよ。それに、この授業は校長からの依頼があったから行ったのだ。」
スネイプ先生は皮肉たっぷりに言ってきた。今までに色々言われすぎて全然気にならないですよ、スネイプ先生。
「つまり、校長先生からの依頼が再びあれば引き受けざるを得ないということですね?」
「……悪知恵は相変わらず働くようだな。」
スネイプ先生は苦々しく言った。
「じゃあ今からダンブルドア校長先生の所に行ってきます。何処にいらっしゃるか御存知ですか?」
「残念ながら校長は今日はおらん。明日以降にしたまえ。」
えっダンブルドア先生いないの?
「ダンブルドア先生って、良く外出されるんですか?」
「全く出掛けないわけではないが、一日ホグワーツを離れるのは稀だ。もっとも、教員達に知らせているモノだけの話だがな。」
スネイプ先生は疲れた顔になった。
苦労してるんですね。
でも、タイミングが悪いな。直ぐにでも話したかったのに、たまたまいないなんて。
教員は皆知ってるなら、生徒にも教えてくれれば良いのにな。
あれ?
教員は皆知ってる。
ダンブルドア先生がいないのを。
ダンブルドア先生はとても強い。
そのダンブルドア先生がいない。
守りは弱まっている。
つまり、好機。
もしかして、今晩誰かが賢者の石を狙う可能性が高い‼
こうしちゃいられない。急いでハリー達に伝えよう。
「それでは、後日ダンブルドア先生を説得してきますね。ありがとうございました。」
そう言って、駆け足で教室を後にした。
ハリー達と合流した私は、ダンブルドア先生がいないことを告げると、私達は今晩賢者の石が狙われる可能性が高いという意見で一致した。
マクゴナガル先生に話してみると驚かれたが、守りは万全で心配することはないと言われてしまった。
なので、夜に寮を抜け出し守りに行くことにし、現在にいたる。
ベッドをこっそり抜け出した私とハーマイオニーは、他の二人を起こさないように談話室へと向かった。そこには既にハリーとロンもいた。
「よし、皆揃ったね。僕の透明マントで隠れながら行こう。」
私達が透明マントに隠れようとすると、物陰から人が現れ私達は飛び上がった。
ネビルだ。
ネビルはとても真剣な顔をしていた。あんな顔は見たことがない。何か勇気を持って決意した。そんな顔をしている。
「君達また寮を抜け出すつもりだろ?ダメだよ。あれだけ寮の点数を下げたのに、また下げたらどうするつもりなの?」
「そこをどけよネビル‼僕らにはやることがあるんだ。」
ロンが強気に言った。普段のネビルなら、ここで怯えるのだが、今日の彼は違った。
「君達がどうしても行くと言うなら、僕が止める。僕、闘うぞ‼」
まさか、ネビルにこんな一面があったとは。紛れもなくネビルはグリフィンドールに相応しい生徒なんだろうな。
だからこそ、ごめんね。
『ステューピファイー麻痺せよー』
ネビルは呪文によって気を失った。
「ルクスリア、君って時々おっかないよね。」
ロンが何か言っているけど気にしない。
さあ、賢者の石の元へ行こう。
「ここだね。賢者の石がある部屋は。」
「そうだよ。だけど、扉を開けると三頭犬が待ち構えているから慎重にね。」
扉にハリーが手をかけた。
ガチャリ
鍵は開いている。そっと、扉を開けると中から音楽が聞こえてきた。覗いてみると、魔法がかかっているのか、竪琴が勝手に音楽を奏でている。
その竪琴から視線を上げるとそれはいた。本当に頭が3つある。普段は恐ろしいであろう三頭(一頭?)は、音色に酔いしれているのか安らかな顔で寝息をたてている。
起きていないことを確認し、透明マントを脱いだ。
「本当に誰かが来たみたいだね。見て、三頭犬の足下の扉が開いてるよ。」
「あの中に入っていったんだわ。追いかけましょう‼三人とも、竪琴を倒さないように慎重にね。」
「まず、私が降りて安全を確認するね。」
扉を覗いてみると、真っ暗で底が見えない。
『ルーモスー光よー』
光を灯すと良く見えた。植物の太い蔦が、生い茂っている。
「えぃ」
飛び降りてみると、蔦は柔らかくクッションの様に受け止めてくれた。
「三人とも飛び降りて大丈夫だよ。」
私が声をかけると一斉に降りてきた。
三人とも無事着地し、怪我も無さそうだ。
「ここで行き止まりかしら?」
「いや、そんなことは無いでしょ。あの部屋には他に扉なんて無かったし。……それとも魔法で見えなくなってたのかな?」
見たところ、蔦の部屋にも何も見当たらない。でも、あの部屋にはあれ以上無さそうだし、一体どういうことなんだろう。
「うわぁ、や、やめろ‼」
考えているとロンが突然叫び始めた。どうしたの?って聞こうとすると、
スルスルッ
蔦が身体に巻き付いてきた。私が抵抗すればするほど蔦は強く巻き付いてくる。
その時、部屋の中が眩い光に照らされた。すると、蔦は私から離れていった。
ドスン
蔦が完全に私を離したため下に降りれた。見ると三人も無事に降りれたみたいだ。
「皆無事で良かった。あの光は誰がやったの?」
「私よ、ルクスリア。あの蔦は悪魔の罠って言われてるもので、日の光が苦手なの。さ、急ぎましょ。」
扉を潜ると、そこには不思議な光景が広がっていた。
鍵だ。たくさんの鍵。それに翼が生えて宙を舞っている。
「ダメだ、鍵が閉まってる。アロモホラでもダメだった。」
先に次の扉に向かっていたハリーが叫んできた。
鍵が閉まってて、呪文が聞かない。御丁寧に箒が置いてある。ということは、
「あの中に鍵があるんだね、きっと。ハリー、あなたにお願いしてもいい?」
「任せて。この中で最も箒で飛ぶのが上手いのは僕だと思うから。」
ハリーはそう言うと、颯爽と箒に跨がり鍵を取りに行った。
ハリーは飛んでいる鍵の中で唯一羽が折れている古ぼけた鍵に狙いを定めた。
流石最年少シーカーなだけあって、狙いを定めてから直ぐに捕まえた。
しかし、捕まえた瞬間今まで我関せずと飛び回っていた他の鍵達が一斉にハリーに襲いかかった。
ハリーは急いで私達の方に向かってきた。
「私に任せて『プロテゴ‼ー護れー』」
ハリーが通りすぎると同時に盾の呪文を展開し、鍵を全て防いだ。
「ルクスリア、鍵が開いたわ。直ぐにこっちにきて‼」
私は盾を維持したまま後退し、扉の中に滑り込んだ。
「これは……」
「巨大なチェス?」
その部屋は巨大なチェス盤だった。向かい側に、白の駒が手前側に黒が並んでいる。
「僕達がチェスの駒となって、ゲームに勝たなくては先に進めないのか。」
ロンが、真剣な顔をしながら話した。
「三人とも今回は僕にやらせてくれ。この中だと僕が一番チェスが強い。大丈夫、君達は僕が絶対に取らせない。」
私達はロンを信じ、ゲームの駒となった。
試合はかなり苦戦を強いられていた。ロンは普通のチェスとは違い、私達4つの駒を捨て駒にできないため、打つ手が限られてくる。しかも、駒を取る際に、相手の駒を粉砕するのだ。ロンの緊張感が伝わってくる。
ゲームは終盤になり、ハリーが取られそうになっている。
「…………この手しかない。ハリー後は頼んだよ。」
「ロン、ダメだ‼」
「君達は賢者の石を守るんだろ?僕が役に立てるのは、今なんだよ。ナイト(ロン)をh3へ‼」
ロンが移動し相手に取られてしまった。ロンは破壊の衝撃で地面に叩き付けられ動かない。
「二人とも動いちゃダメだ‼まだ、ゲームは終わってないんだ。」
そう言うと、ハリーはクイーンの前へ歩いていき、「チェックメイト」と告げた。
ロンは自分を犠牲にして勝利をもぎ取ったのだ。
ゲームが終わると、駒は道を開けた。
私達は、直ぐにロンのもとへ駆け寄った。
ロンは幸いにも、大きな怪我がなく気を失っているだけのようだった。
「先に進もう。ロンのためにもすぐに。」
「この臭い……まさかトロールがいるの?」
扉を開けると嗅いだことのある異臭がしてきた。
「見て、トロールが倒れてるわ‼」
ハーマイオニーが指差した方を見ると、トロールが横たわっていた。不細工ないびきが聞こえるので、まだ生きているようだ。
「トロールの意識が戻る前に急いで行こう。」
次の部屋には中央に丸い机が置いてあるだけだった。机に近づくと、部屋中に炎が吹き出した。出入口の間にも吹き出し、進むことも戻ることもできなくなってしまった。
机の上に目を向けると、いくつかの液体が入った瓶とメモが置いてあった。
「すごい、これはロジックよ‼魔法を知っているだけの人ならここで足止めされてしまうわ‼これを作った人は凄く知的な人間ね‼」
「ハーマイオニー解ける?」
「ちょっと待ってて……」
そう言うと、ハーマイオニーは紙を見つめたまま話さなくなった。
そして数分後、ハーマイオニーはやりきった顔で声をあげた。
「解けたわ。この薬が先に進むための薬。そして、こっちが戻るための薬よ。」
「流石ハーマイオニーだね。……先に進む薬は僕が飲むよ。二人は戻ってくれ。」
ハリーは自分が行くから戻れと言ってきた。
そんなのはダメだ。
ハリーは、呪文は一年生の中で優秀な方だし、身体能力も高い方だ。だけど……
「ダメだよ、ハリー。貴方より私の方がずっと強いよ。それは、分かるでしょ?」
ハリーを危険な目に合わせるわけにはいかない。今までは、四人でそれぞれの力を出してきたからこそここまで来れた。だけど、一人になった時は自分一人でなんとかしなければならない。
「でも……」
「私は大丈夫だよ。任せて。」
そう言って、私は瓶を取り一気に飲んだ。
脳天から氷水をかけられた様な感覚があった。火に触ってみると全く熱さを感じない。
「行ってくるね‼前の部屋に戻ったらロンを看病してあげてて‼」
さぁ、賢者の石を守りに行こう。
いかがでしたか?
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