ダークブリングマスターの憂鬱(エリールート)   作:闘牙王

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第三十七話 「金」

混沌を極めるルカ大陸のジンの塔。それに導かれるように三隻の船が姿を現す。共通することは全てが闇の組織であるということ。DCを除けば三本の指に入る力を持っている。その三隻の船の中で一際輝きを放つ船があった。

 

『リバーサリー』

 

それがその要塞の名。闇の組織の一つ『鬼神』の本拠地である船。その名が示すように、乗組員たちは全て人間ではない。

 

『鬼』

 

人間を遥かに超えた身体能力を持つ亜人の一種。鬼神のメンバーは全て鬼で構成されている。その身体能力と共にDBを駆使することで闇の世界でも無類の破壊力を持つ組織。

 

その船の中枢で一匹の鬼が凄惨な笑みを浮かべている。まるで待ちに待った祭りを前にしたような歓喜を体中から発している。しかし、その気配、重圧だけで部屋は軋み始めてしまう。その男は巨大だった。人間とは比べ物にならない巨体に屈強な肉体。そして金でできた鎧を身に纏った姿。まさに鬼の頂点に相応しい貫録と力を持った王。

 

『オウガ』

 

それが鬼神のリーダー、総長である男の名。その圧倒的な力を以て世界を、世界中の女を我が物にするという野望を持つ存在。だがそんな世迷言とも取れる野望を実現しかねない力をオウガは持っている。その証が胸元で確かな光を放っていた。

 

『ラストフィジックス』

 

持つ者に無敵の肉体を与えるシンクレア。最強の身体能力を持つオウガがそれを持てばまさに鬼に金棒。かつて闇の頂きとまで呼ばれたDC最高司令官キングに勝るとも劣らない実力を持つ王者だった。

 

 

「なるほどなァ……どうやら例の情報とやらは本当だったみてェだな」

 

 

オウガは武者震いを必死に抑えながら目の前の光景に笑みを抑えきれない。そこにはジンの塔がある。いや、そこにいるであろう男こそがオウガの目的。

 

 

「はい、確定した情報ではありませんでしたけど……どうやら間違いなかったみたいです」

 

 

そんなオウガから少し離れたところに控えるように一匹の鬼がそう答える。オウガとは対照的な小柄な体。ぶつぶつと独り言を呟いている姿はまるで根暗な少年のよう。彼の名はゴブ。とても鬼とは思えない風貌とは裏腹にゴブは特別な役職に就いていた。参謀長。その名の通り作戦の立案や指揮、主に頭脳労働を行うことを役割としている。ある意味で鬼神におけるナンバー2と言っても過言ではない幹部だった。そんなゴブもまた目の前の光景に気が高ぶってしまうのを抑えることができない。

 

今日、ジンの塔にてDC最高司令官であるキングがエンクレイムを行う。

 

その情報を半年ほど前に鬼神たちは手に入れていた。情報の出所も真偽も不明。本当ならただの出まかせ、デマだと切って捨てるのが普通。だが調べれば調べるほどそれを裏付ける情報が出てくる状況。何よりも臆病者、小心者でもあるゴブが動くことを決断したの理由。それはエンクレイムの際に、キングは六祈将軍を連れていないという情報。ゴブたち鬼神が闇の組織で覇権を取ることができていない最大の理由はDCの完璧にも近い組織力。闇の頂とも言われるキングの強さは脅威だがオウガの強さもまたそれに劣るものではない。故に問題はそれ以外の戦力。DC最高戦力である六祈将軍こそが最大の障壁と言っても過言ではなかった。それがいない、単独行動のキングを狙うことができる千載一遇のチャンス。もし情報がブラフ、罠だったとしても船で移動している自分たちであれば撤退も容易。結果は見ての通り。その情報は正しかった。もっともその全てがゴブにとって予測通りとはいかなかったのだが。

 

 

「どうやら情報を知っていたのは自分たちだけじゃなかったみたいですけど……情報を流している奴はかなり曲者みたいですね」

 

 

その証拠にこの場に姿を見せたのはゴブたち鬼神だけではない。BGにドリュー幽撃団。自分たちに匹敵する二つの闇の組織もまたこの場に姿を現している事実にゴブは警戒心を強めるしかない。今の状況はあまりにもできすぎている。恐らくはエンクレイムの情報を流した人物はこうなることを狙っていたに違いない。その狙いは分からないがそれでも曲者であることは事実。だが

 

 

「そんなことはどうでもいいんだよ! それよりもキングの野郎はどうなった? まさかくたばりやがったんじゃねェだろうな?」

 

 

そんなことなどどうでもいいとばかりにオウガはそうゴブに詰め寄ってくる。そう、今のオウガにとって必要なのは戦いのみ。同格でありながら組織力の差によって長い間煮え湯を飲まされ続けてきた屈辱。それを晴らすことができる待ち望んだ瞬間。鬼の王に相応しい、力こそが全てを体現する存在。ある意味ゴブとは真逆の在り方。オウガが力でゴブが知。それが噛み合ってきたからこそ今の鬼神は存在していると言っても過言ではない。

 

 

「お、落ち着いてください総長……! まだキングは死んでいません! ですがもう戦闘によって重傷を負って動けないみたいですけど……」

「重症……? オレ様よりも先にキングをやった奴がいるってのか? ドリューの奴か? それともハードナーか?」

「い、いえ……どうやら金髪の悪魔の仕業みたいです……そいつもシンクレアを持ってるとのことで……」

 

 

今にも胸倉を掴んできかねないオウガの剣幕に怯えながらもゴブは今確定している情報を伝える。鬼神の情報収集、後方支援を行うヤンマと呼ばれる鬼によってゴブは今の戦況を確実に把握している。

 

千里眼(ドーブレビスタ)

 

その名の通り全てを透視する力を持つサングラス型のDB。それを扱うことによって鬼神たちはジンの塔の内部も、その者たちの情報もすべて見通すことができる。こと情報戦においては無類の強さを発揮する能力。

 

 

「金髪の悪魔……? 聞いたこともねェな、それよりもシンクレアを持ってるだと?」

「そうです……ですから総長が持っているのも含めれば、四つのシンクレアがここには集まってることに」

 

 

自らの主であるオウガの無知さに呆れながらもゴブは冷静にこれからの先を見据える。偶然か必然か。この場には五つある内の四つのシンクレアが集まっている。当初はキングを倒すことでDCを壊滅させ、その後にシンクレアの争奪に動く予定だったがそれが早まった形。ならばこの戦闘、大戦は誰が早くシンクレアを手に入れるかが全て。一人でもシンクレアを二つ持てばその瞬間、形勢は一気に傾く。ならば現時点で戦闘によって消耗しているであろう金髪の悪魔のシンクレアを狙うのが最善手。だが

 

 

「そうか……なら話は早ェ……ゴブ、コイツでさっさと決着をつけるぞ」

 

 

オウガはそれすらも覆すもう一つの最善手、禁じ手を指す。あまりにも危険であるが故にゴブの選択肢から抜け落ちてしまっていた禁忌。オウガはその巨大な拳でそれを叩く。そこは壁があった。何の変哲もないただの壁。だが唯一普通ではない点。それはその壁が、床が、天井が、全て『銀色』であったこと。

 

 

「っ!? そ、総長ダメです!! コレは我が軍の最終兵器!! 使えば世界中を敵に回すことになります! 本当の土壇場に使うべきです!!」

 

 

それは懇願にも近い進言。それはゴブ自身が誰よりも理解していたから。自らがいる要塞、船の力を使えばどうなるか。まさに世界を破壊しかねない力がこの銀の船にはある。だが

 

 

「今がその時じゃねえか。千載一遇のチャンスだ。ここにいる奴らを全員消してシンクレアを全て手に入れる。それだけだ」

 

 

銀の船の主であり金を扱う鬼の王は嗤いながら告げる。自らの決定を。世界を敵に回すことすら恐れない。自らの金の力とシンクレア、そして銀術の最終兵器があればどんな敵も恐れるに足らないと。

 

 

「…………どうなっても知りませんよ」

 

 

もはや何を言っても無駄なことを悟ったゴブはそのまま船の外で活動している構成員たち全員を緊急指令で帰還させた後、船の中枢にある機械のパネルへと近づいて行く。そこにパスワードを打ち込むことで全ては完了する。いや、全ては消滅する。その意味を知るゴブは大きく息を飲む。だがこれがある意味理にかなっていることは認めざるを得なかった。多少の犠牲は払うことになるがその力を使えばドリュー幽撃団であろうがBGだろうが敵ではない。問題は本当に跡形もなく全てを消し去ってしまうことだけ。ゴブはその封印を解かんとする。要塞リバーサリー。だがそれは仮初の名前だった。

 

『シルバーレイ』

 

それがこの銀の船の本当の名前。かつて一人の銀術師(シルバークレイマー)が作り上げた最高の芸術品であり最悪の兵器。だがそれを作ったグレンは生涯それを後悔した。例え芸術品としての価値があろうと多くの人を殺める兵器を作ってしまったことを。だがそれだけではなかった。シルバーレイの力。それはその名の通り、銀術の力を以て破壊を行う。

 

『絆の銀』

 

信じあう二人の銀術師が揃うことで可能な銀術の究極技。それこそがシルバーレイの攻撃の正体。その規模は『絆の銀』の比ではないが根本は全く同質のもの。だがそれを為し得る核をグレンは生み出した。それは娘であるレイナへの愛情。それを込めた絆の銀こそがシルバーレイの正体。パスワードもそれに合わせてREINA。娘を想う父の作品が今、再び人々を消し去らんとしている。

 

瞬間、銀の光が全てを飲み込んでいく。全方位、逃げ場などどこにもない。ルカ大陸全てが消滅してしまう無属性魔法にも似た衝撃。原子レベルで対象を消滅させる波動。だがそれは破壊をもたらすことなく、消滅してしまった。

 

 

「え…………? な、何だ……? まさか不発……? いや、そんなことあり得ない! 発動したら止めることなんてできないはず……!?」

 

 

しばらく呆然としたまま立ち尽くすものの、ゴブは我に返りパネルを弄るも理解することができない。間違いなくシルバーレイは発動した。パスワードを入力したらゴブですら止めることはできない。にも拘わらずモニターには未だにジンの塔も他の二隻の船も大陸も存在している。何が起こったのか理解できない。そう、まるで何もかもが無かったことにされてしまったのよう。ゴブは知らなかった。時間逆行という名の禁忌を為し得るもう一人の王の存在を。そして

 

 

「……ゴブ、頭を下げてろ。邪魔だ」

「え……?」

 

 

それに付き従う、閃光の存在を。

 

 

それはまさに刹那。瞬きすら許されない時間の狭間にゴブは確かに見た。一筋の閃光が現れるのを。その光が一瞬でオウガの背後を取るのを。それを伝えようとするも間に合わない。音すら置き去りにしかねない速さ。戦斧の一撃。首どころか体ごと両断されるであろう断頭台の一撃を

 

 

「――――へえ、中々やるじゃねェか」

 

 

振り返ることなく、不敵な笑みと共に難なく鬼の王は受け止める。

 

 

「――――っ!?」

 

 

それは果たして誰の声だったのか。ただ分かるのは目の前の光景に対する驚愕の声だったことだけ。閃光にも等しい速度と超重量の戦斧による圧倒的な物理攻撃。単純であるがゆえに防ぐことも避けることもできないはずの一撃を、オウガは難なく受け止めていた。それは金。オウガが身に纏っている純金の鎧がまるで生き物のように変化し、その攻撃を受け止める。その衝撃と威力によって地面は凹み、ゴブは呆気なく吹き飛ばされてしまう。それでもオウガは微動だにせず、その金にも傷一つつかない。激しい金属音と火花が散るものの、戦斧は金の守りを突破できない。

 

金術師(ゴールドクレイマー)

 

それがオウガのシンクレアではないもう一つの力。金属を操る、銀術からさらに進化した力。絶対安定元素、金属の王である金を操ることができる者を示す称号。その強さは銀術の比ではない。金を扱うには銀とは比較にならない程の力が必要となる。だがオウガにはそれが為し得る。王に相応しい力を持つ証。世界に一人しかない金術師、それがオウガ。

 

一瞬でその力量を感じ取ったのか、間髪入れず閃光はそのままその場を離れ動きを止める。身の丈を超えるほど巨大な戦斧を携えた、ネイティブアメリカンの風貌と戦士に相応しい風格を持った姿。

 

 

「せ、閃光のルナール……!? ど、どうやってここまで……!?」

 

 

ゴブはただ恐怖によって震えながらそう呟く。

 

『閃光のルナール』

 

閃光のDB『ライトニング』を持つBG副船長でありナンバー2。六祈将軍のリーダーでありDCのナンバー2である無限のハジャに匹敵する強さを持つとされる存在。何よりもゴブが戦慄しているのはその速さに加えて隠密性。どうやってシルバーレイの中枢であるここまでやってきたというのか。侵入者であれば誰も気付かないはずがない。

 

 

「なるほど……てめェがルナールか。話に聞くよりずっといい女じゃねェか。どうだ、オレに仕えてみる気はねえか? あんな萎びた野郎よりも満足させてやるぜ?」

 

 

そんなゴブの怯えなど気にすることなく舌なめずりしながらオウガはそう告げる。その視線はルナールの肢体に釘付け。先ほど命を狙われたことなど些事だと言わんばかり。世界中の女を我が物とすることがオウガの目的。目の前のルナールはその強さに加えて美貌もまた並外れている。オウガからすれば喉から手が出るほど欲しい物。しかし

 

 

「……愚問だな。この命はハードナー様だけのもの。貴様のような獣には髪の毛一本たりともくれてやるつもりはない」

 

 

ルナールはそれを一蹴する。その命を救ってもらったあの瞬間から自らの命は主であり、父でもあるハードナーのものなのだと。加えて目の前にいる鬼ですらない獣同然であるオウガに対する軽蔑。

 

 

「いいぜ……なら無理やりにでもオレの物にしてやる。手足が無くなるぐらいは覚悟するんだなァ!!」

 

 

その言葉に激高するよりも先に狂乱しながらオウガは咆哮する。自分に抵抗する女を組み伏し、無理やり我が物とすることこそがオウガの至上の喜び。それに呼応するように金が暴れだす。狙うは目の前にいる獲物のみ。だからこそオウガはもちろん、ゴブも気づくことができなかった。

 

 

「――――その必要はない。私の役目はこれで果たされた」

 

 

この場に侵入できた時点で、ルナールの役目は達成されていたのだと。

 

 

一度大きく目を閉じた後、ルナールは静かに戦斧を振りかぶる。天に向かって戦斧を突きだすかのように。今までに見せたことのない構え。それは正真正銘全力のルナールの姿。その体から発せられる空気も先程までとは比べ物にならない。

 

『閃光化』

 

閃光のDB『ライトニング』を極めたルナールだからこそ可能な奥義。自らの身体を閃光と化しいかなる力も無効化、すり抜ける力。それによってルナールは一瞬でシルバーレイの中枢、オウガたちの元へと奇襲をかけていた。ルナールの前ではどんな防壁も結界も意味を為さない。ルナールはDBではない、、もう一つの切り札を解放する。

 

『ラブリュス』

 

それがルナールが持つ戦斧の名。雷神が雷をおこすために使っていたとされる逸話を持つ物。鍛えた人物も年代も不明。一説には本当に神々が使っていたという説もある伝説の武具の一つ。ルナールはそれを己が武器としていた。それには二つの意味があった。

 

一つが自らの速度、光速に耐えられること。普通の武器ではルナールの速度に耐えることができず壊れてしまうという単純な理由。

 

そしてもう一つ。それこそがラブリュスの真の力。持ち主の力を増幅させる物。雷神がそれを手にすれば雷を巻き起こしたようにルナールがそれを持つことで閃光のもう一つの力を使うことができる。

 

ルナールはそのまま自らの全ての力を込めた一撃を避けられた勢いのまま地面へと叩きつける。だがその瞬間、光が生まれる。とてつもない、目も開けられない程の光がルナールの持つ戦斧、ラブリュスから放たれる。それは唯の光ではない。まるで太陽が生まれたかのように光と共にある力が全てを支配する。閃光の力、速さと共に生まれるもう一つの力。熱量という力。それが今、ラブリュスから生まれ出す。同時に周囲にあるものが跡形も残らずに消滅していく。まるで全てが蒸発していくかのように。その圧倒的熱量によって小さな太陽とでも言うべき力がシルバーレイを襲う。

 

炉心融解(メルト・ダウン)

 

それがルナールのもう一つの奥義。速さに費やしていたライトニングの力をラブリュスによって熱に変換する切り札。触れた物を全て消滅させるリミットブレイク。だがそれはルナールだからこそできる技。閃光化という力を持っていなければ技を使った瞬間に使い手であるルナールも蒸発してしまう自爆技。だがそれは今この瞬間は違う。閃光化しているルナールはダメージを受けないまま相手だけを融解に巻き込むことができる。物理攻撃が通用しない相手でも瞬時に抹殺できる反則技。だがルナールは直感していた。自らの奥義を以てしてもオウガを討つことは叶わないであろうことを。キング、即ち自らの王であるハードナーと同格とされる相手。故にこの一撃で消耗させることができれば御の字。何よりもその最大の目的は

 

 

「っ!? てめェ、まさか最初から――――!?」

 

 

この戦況を一瞬で覆しかねない銀の船を破壊すること。

 

 

瞬間、凄まじい熱の波が辺りを支配する。疑似的な太陽を思わせる放熱。それによってシルバーレイの核は跡形もなく蒸発し、消え去っていく。娘を愛する父の愛も、それによって消し去られてしまった罪のない人々の無念も、それを探し求める娘であるレイナの想いも、それを探し出し破壊せんとするムジカの決意も。その全てを消し去りながら銀の翼はその心臓を失い、地に堕ちる。

 

 

それが銀術兵器、シルバーレイの最期だった――――

 

 

 

「あ、あれ……? 何で生きて……?」

 

 

目を覚まし、自分の手足が、体があることにゴブは呆然とするしかない。当たり前だ。あんな攻撃を目の間で繰り出されてしまったのだから。その狙いが自分ではなかったとしてもその余波だけで間違いなく蒸発してしまったはず。なのにどうして。そんな疑問は

 

 

「やっと目を覚ましやがったかゴブ……」

 

 

見上げた先にいるオウガの姿によって全て消え去ってしまう。その姿は全くの無傷。自分と同じ。同時に悟る。オウガがその胸にかけている闇の頂が妖しく輝いているのを。そう、自らの王もまた理という禁忌を破ることができる力を持っているのだと。

 

 

「さっさと他の奴らを連れてこい……行くぞ」

「そ、総長……? 行くってどこに……? ま、まさか……!? 待ってください! まだこっちの被害の確認も何も」

 

 

そのまま進み始めたオウガに必死にゴブは食い下がる。命はとりとめたものの、自分たちの要塞であり切り札であるシルバーレイは失ってしまった。それでも乗組員たちは健在だが墜落のショックで少なくないダメージを負ってしまっている者もいる。このまま追撃するなど参謀長としてはあり得ない。だが

 

 

「ごちゃごちゃうるせェぞゴブ……オレは今最高に気分が悪いんだ。ここまで女にコケにされたのは生まれて初めてだからな……許さねェ……絶対に殺してやる……邪魔者は皆殺しだ!!」

 

 

怒れる鬼の王の前には何の意味も持たない。その形相はまさに鬼そのもの。触れればその瞬間、参謀長であるゴブすら命はない。あるのはただ殺戮本能のみ。それこそがオウガの強さ。それに呼応するように鬼神たちは咆哮を上げる。ルナールは、BGはまだ知らない。自分たちが触れてはいけない鬼の怒りを買ってしまったことを――――

 


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