ダンジョンで技名を叫んでから殴るのは間違っているだろうか   作:冬威

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ステイタス更新

 

 

 

廃教会の隠し部屋、一つだけあるベッドにヘスティアは腰掛けていた。

 

「…ゆっくり休むんだよ」

 

ヘスティアは既に夢の世界にいるベルの頭を、そっと撫でた。

 

昨日の夜から帰ってこない自神の眷属を寝ずに待っていた彼女。明方にようやく帰ってきた彼らは、傷だらけでおぼつかない足取りだった。

 

 

『2人共どうしたんだい⁉︎いったい何が…』

 

 

ヘスティアの声に、フランシスカに支えられたまま、ベルは顔を上げた。その顔は既に固まった血がこびり付き、泣いたのだろう涙の跡もあった。

 

 

『神様…。僕、強くなりたいです…』

 

 

何処か晴れやかに笑い、一言呟くとベルは意識を飛ばした。

 

その後、2人共がかりでベルの汚れを落とし、傷の手当てをしたのだ。

 

「ベルは寝てますか?」

 

声の方を向くとシャワーを浴び、濡れた髪をタオルで拭きながらフランシスカが立っていた。

 

 

「……」

 

 

ヘスティアは何も言わずに、ソファーに移りポンポンと自分の隣を叩く。

 

その動作に従いフランシスカがソファーに座ると、しっかりと顔を見つめ間髪入れずに問いかける。

 

 

「さて、怪我を見せてくれるかい?」

 

 

スッと両手を差し出す。拳は皮が剥け赤く腫れ、腕も痣と切り傷がついていた。そこにポーションを染み込ませたガーゼが当てられた。

 

 

「これだけじゃないだろ?脚を見せてくれないかい?」

 

「……」

 

 

その一言に黙って従い、ズボンの裾を捲り上げると腕よりも酷い有様だった。脛は全体的に青紫に変色し痣ができ骨にヒビも入り、爪先も爪が割れ何本か折れている、足の甲も痛々しく腫れ上がっている。

 

よくこれで歩けたものだ。

 

冒険者が授かる恩恵は、経験値(エクセリア)を稼ぎ更新されなければ意味を成さない。一昨日恩恵を刻んだフランシスカの全アビリティは0のまま、一般人と変わらないのだ。

 

上層とは言え無茶なダンジョンへの特攻が出来たのは、冒険者になる前から鍛え、自身に流れる血のおかげでしかない。

 

 

「はぁー、君は結構強がりだね?本当は歩くのも辛かったんじゃないのかい?」

 

「……」

 

 

何も言わないフランシスカに、ヘスティアはポーションを飲ませ、脚にもそっとポーションをかけた。

 

 

「ベル君の事を心配して、治療も手伝ってくれた気持ちは嬉しいけど、君自身に治療が必要な時はちゃんとしないとダメだぜ?」

 

「…ははは、すいません」

 

 

苦笑いをするフランシスカの目をジッと見つめる。

 

 

「自分の事も大切にしておくれ」

 

 

何処までも真剣な声、これに言い訳する事も出来ない。

 

 

「…はい」

 

「分かってくれれば良いんだよ!」

 

 

フワッと優しく笑った女神の笑顔は、包み込まれるように暖かかった。

 

 

「それじゃあ、フラン君もしっかり休むんだよ」

 

「ヘスティア様。その前にステイタスの更新をして貰えますか?初ダンジョンだったので…」

 

「…しょうがないなぁ、終わったら休むんだよ」

 

 

ヘスティアの前に座り、背中を晒す。

その背に刻まれた恩恵(ファルナ)神の血(イコル)を垂らすと、神聖文字(ヒエログリフ)が浮かび上がる。神の手により更新が始まった。

 

 

「…ヘスティア様は何があったか、聞かないんですね」

 

「んー?聞いて答えてくれるのかい?」

 

 

言いたくないんだろ?と全てを見透かされた気分だが、無理に聞き出さない事に感謝した。…しかし、更新とは中々時間が掛かるものだ。

 

 

「はい、これがフラン君のステイタスだよ」

 

 

ヘスティアに差し出された紙を受け取る。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

フランシスカ・アルベルタ・スターフェイズ

 

Level.1

 

力 :I 0→H 101

耐久:I 0→I 74

器用:I 0→I 50

敏捷:I 0→I 80

魔力:I 0→I 0

血凍道 I

 

魔法

 

スキル

エスメラルダの血(ブラッディ・オブ・エスメラルダ)

・エスメラルダ式血凍道。

・血を凍結させる。

・精神状態により術式が変化する。

 

紳士の技(ジェントル・オブ・ラインヘルツ)

・ブレングリード流血闘術(擬似)。

・血を凝固させる。

 

ーーーーーー

 

(魔力以外は結構満遍なく上がったな…。その中で力が高いか…。体術がメインだからか?)

 

「これは…。結構上がっているんでしょうか?」

 

 

アビリティ上昇値、トータル305。

 

 

「そ、そうだね。最初は上がりやすいものなんだよ!それにフラン君は無茶したからね‼︎」

 

 

そうなんですねと紙を眺めるフランシスカに対して、ヘスティアは焦っていた。

 

 

(いくら初めての更新とはいえ、上がりすぎじゃないかい⁉︎ベル君みたいに()()()の補正があるわけじゃないし…。いや、でも6階層まで一気に降りるなんて普通は無理だ…。いやいや、それでも…。一体ダンジョンでどんな戦い方をしたんだい!)

 

 

「あの、ヘスティア様」

 

「なっ、なんだい⁉︎」

 

 

内心動揺していたせいか、フランシスカの問い掛けにビックっと反応してしまった。

 

 

「すみませんヘスティア様。ベルの前で血凍道を使いました」

 

 

申し訳なさそうに謝ってくる眷属に、笑いかける。

 

 

「かまうもんか!ベル君を助けてくれたんだろ?」

 

「いえ、私がベルに助けられたんです」

 

「ふふっ、そうかい!」

 

 

2人で和やかに笑い合い一通り話をまとめた後、ヘスティアを真ん中に3人で川の字で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

眠りについてから数時間後、ベルの絶叫で目を覚ました。最初に目に飛び込んできたのは、顔を真っ赤にしてベッドから転がり落ちたベルの姿だった。

 

廃教会の外で陽の光を浴びながら、んーと伸びをしスーツの内ポケットから、シガレットケースを取り出し、煙草に火を付ける。

 

今はベルがステイタスの更新をしている為、席を外しているのだ。

 

 

(ふー、結構疲れが取れたけど、まだ怠いな…。少し強行し過ぎたかな?)

 

 

ぼけーと紫煙を吐きながら、たまに輪っかを作り時間を潰した。

 

 

 

 

 

コンコン、と隠し部屋の戸を叩くと中から返事が返ってきた。

 

中に入ると既にステイタスの更新を終えていた。ベルは部屋に入って来たフランシスカにチラチラと視線を向ける。

 

どうした?と視線を合わせる。

 

 

「…あのさ、フランクって魔法を使えるの?」

 

「魔法?いや、使えないけど…」

 

「えっ⁉︎じゃあ、あの氷は⁉︎」

 

 

本来、ステイタスは同じファミリア同士でも聞くのはマナー違反になる。どうしたものかとヘスティアに視線を向けると、意図を察したのか頷いてくれた。

 

 

「あれは魔法じゃなくてスキルだよ」

 

 

恩恵を刻んだときにヘスティアに話した事を、少し端折りながら血凍道について説明をした。ついでに昨夜ベルの居場所を突き止めた方法も。

 

 

「ッ!…凄い!古の英雄の技術なんて‼︎それって僕も訓練すれば出来るの⁉︎」

 

 

英雄に憧れるベルは、古の英雄と聞いて興奮しながら目を輝かせ問い詰めて来た。

 

 

「いや、エスメラルダの血かブレングリードの血を引いてないと無理かな?一族でも発現しない人がほとんどだし…」

 

「そっかぁ…。あれ?でも、発現出来る人がいない時はどうやって受け継いできたの?」

 

「ああ、継承者がいない時は初代が残した書物を、その代の当主が守ってきたんだ。…紙媒体は傷んだりもするから、一字一句間違いなく書き写すんだよ」

 

 

初代が書いたものは、今でもスターフェイズ家で厳重に保管されてるけどボロボロでとても読めるものではない。

 

1000年もの間改変される事なく受け継がれて来た書物。中身を改変したり、消失させる事は許されない。そもそもそんな事をしでかす様な輩は、まず当主にはなれない。

 

 

「後は自分で技を編み出した継承者もいるけど、それは分けて書き記されるんだ。人によって技の相性もあるみたいだし…」

 

 

そっかぁ〜、と残念そうに肩を落とすベルの頭に手を置き…。

 

 

「まあ、生まれは変えられないから、これから色んな経験をしていけば良い。そのうち魔法が発現するかもよ?」

 

 

ワシワシと少し乱暴に撫でていると、わざとらしい咳払いが聞こえた。

 

 

「うおっほん!…ところでベル君、フラン君の血の事は秘密にしてくれないかい?」

 

「どうしてですか?神様」

 

「暇神供のオモチャにされないためだよ」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔でヘスティアが告げると、苦笑いしながらベルは了承してくれた。

 

あとは今日1日は安静をとって、明日からダンジョン探索する事に決めた。

 

廃教会の外で軽く短槍を振るったり、蹴りと殴打の動作確認。柔軟をし筋肉をほぐし、柔らかくする。

 

その様子を見ていたベルに簡単なストレッチのやり方を教え、凝り固まった筋肉をほぐしてやると…。

 

 

「ぎゃああああ!い、痛いよ!フランクやめて‼︎」

 

「何言ってるんだ。こんなんじゃ怪我をするぞ?…まだまだいくよ」

 

「えっ⁉︎ちょっ、まって、ぎゃああああああああああ」

 

 

絶叫が辺りに響き渡った。

 

これで明日からのダンジョン探索もバッチリだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何か忘れているような…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






彼女はとんでもないものを忘れました。それはあの人との約束です。

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