ダンジョンで技名を叫んでから殴るのは間違っているだろうか 作:冬威
「あー、やっと着いたよ」
パンパンに膨らんだバックパックを背負い、手には使い古された頑丈なトランクを持った、旅装束に身を包んだ少女が此の地にたどり着いた。
迷宮都市オラリオ。
巨大な
かつて大穴から溢れ出すモンスターに対し、人類はヒューマン、エルフ、ドワーフ、
そんなある日、天は人類に味方をした。戦士達がしのぎを削る戦いの最中、神々が地上に降り立った。
「「「暇だから遊びに来た‼︎」」」
暇を持て余した神々は、モンスターが溢れ出す大穴に蓋をしモンスターの進行を食い止め、人類に『
時が過ぎ、各々の眷属が集い幾つものファミリアが誕生。モンスターに挑む戦士は、地下迷宮に挑む『冒険者』に。
人類の為では無く、己の武勲の為強さを求め、己の名声の為命を懸け、富を得るために奥深くへ。
古の英雄の時代は終わりを告げ、新たなる冒険者の時代が訪れた。
ここは世界の中心となった。
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ーーー
ー
「いやー、参ったね。何処も取り合ってくれないな」
大通りから外れ、人の少ないちょっとした広場にあるベンチに腰掛け、都市の中心にそびえ立つ『バベルの塔』を眺めながら紫煙を吐き出した。
彼女の名はフランシスカ・アルベルタ・スターフェイズ。
このオラリオから遠く離れた国から1人で旅をし、冒険者になるべくファミリアを訪ね歩いていた。
だがオラリオに着いてから、幾つものファミリアから門前払いをされ未だに入団出来ずにいた。
「お前みたいな弱そうなヤツはいらねぇよ」「田舎者は畑でも耕してな」「持参金もって出直しな」「お嬢ちゃん、色気を磨きば入れてやらんでも無いぜ」
と散々な結果だった。
(この格好がいけないのか?)
今の自分の姿を見やる。長旅であちこち汚れ、痛み始めている旅装束。はっきり言って使えそうなヤツには見えない。
足元に置いたトランクに目を移すも、直ぐに考え直す。
(いや、これは大事なものだ…)
はあー、とため息をつき入団出来そうな方法を考える。
神に直接気に入られて入団する人もいるらしいが…。神に出会う事さえない。
「さて、どうしたものか」
短くなった煙草の火を消し、携帯灰皿にしまい込む。短めに整えられた艶のある黒髪をかき、糸目を更に細める。
(…しかし、冒険者というのは思っていた以上に過酷そうだな)
オラリオに着いて、先ず目をひくバベルの塔を見に行った。バベルの塔にはダンジョンの入り口がある為、街中より武器と防具で武装した冒険者が多く見受けられた。
これから自分も仲間入りするのかと思い馳せていると、ダンジョンの入り口から、真っ赤な何かが飛び出してくるのが見えた。
すぐそばを通り過ぎた時に確認すると、真っ赤な何かは人で全身に血を浴びていた。冒険者だ。
だが、その冒険者は血濡れになっているにも関わらず、顔はとても楽しそうで、瞳を輝かせていた。
あれは何があったのだろう?と考えていると、ぐぅ〜と腹の虫が鳴いたので、広場から大通りへと歩き出す。
(さて、何を食べようか?)
色々と目移りしながら歩いていると…。
「へい!らっしゃーい‼︎そこの君、揚げたてのジャガ丸くんを食べていかないかい⁉︎」
明るく元気な少女の声が大通りに響く。そちらに目を向けると長い黒髪をツインテールに結わえ。背が低いのに胸が大きい美少女が屋台で売り子をしていた。
(ジャガ丸くんって何だろう?食べた事ないな…)
興味を惹かれたフランシスカは屋台に足を向ける。
「すいません。このジャガ丸くんという、のは…」
売り子の美少女をみて息が止まる。人とは違う何かを感じる。
「いらっしゃーい!君はジャガ丸くんを知らないのかい?なら一つ食べてみなよ、凄く美味しいぜ‼︎」
少し動揺してしまったが、気持ちを落ち着かせる。ジャガ丸くんに目を移すとコロッケのようだ。
「…じゃあオススメを一つ」
「まいど!オススメのジャンボジャガ丸くん肉じゃが味だよ‼︎60ヴァリスになりまーす」
代金を払い、笑顔で差し出されたジャガ丸くんを一口かじる。
「…美味いな」
「だろ?もう一つ食べるかい?」
「じゃあ、同じものを」
「まいどー‼︎」
ジャガ丸くんを食べながら、売り子の美少女と雑談をした。やはりこの売り子は神であった。
神ヘスティア、竃の神だ。
下界に降りた全知全能の神々は、神の力を封じ容姿端麗ではあるが一般人と変わらない体で下界を満喫している。神の力を使った場合、強制的に天界へ帰されるらしい。それが神々のルール。
バイトを終えたヘスティアと屋台横の裏路地に入り話を続けた。
「君は冒険者になる為にオラリオに来たのかい?だったら僕のファミリアに入ってよ‼︎」
「……え?」
今まで沢山のファミリアを回って来たが、神に直々に勧誘されるとは思いもしなかった。
「僕のファミリアは出来たばかりで、眷属も少ない。お金も無い。でも僕は君を気に入ったんだ!…やっぱり小さなファミリアは嫌かい?」
屈託の無い笑顔で勧誘してきたかと思えば、難しそうな表情を浮かべ苦笑いをしていた。
コロコロと変わる表情に、ボクっ娘美少女。17年ぐらい前に出会った神と何処かにている。
(ああ、出会うべくして出会ったのだろう…)
何故か自然とそう思ってしまう。
片膝をつき、手を差し出す。
「…私の名はフランシスカ・A・スターフェイズ。神ヘスティア、貴方のファミリアに入れて頂けませんか?」
薄っすらと開かれた瞼から、
「うん!大歓迎だよ‼︎」
フランシスカが差し出した手をとり、ヘスティアは嬉しそうに笑顔をうかべた。
えー、自分はロキ・ファミリアが大好きですが…。
サード・オラトリアを見ていて、ふと本編を見直している時に思いついたものです。
暇つぶし程度にお付き合いくださればと思います。
…う、浮気ちゃうわ‼︎