ダンジョンで技名を叫んでから殴るのは間違っているだろうか 作:冬威
ーああ、眠い。
今日でどのくらいたっただろうか?そんな事を考えながら自室のベッドに倒れこむ。
ーでも、明日は休み。
重たい瞼が自然と落ちてくる。深い眠りについた。
「…は?ココドコ?」
目がさめると白を基調とした、宮殿?のような所に立っていた。辺りを見渡すと、そんな所に似つかわしくないTVが置かれ、身を乗り出しながら夢中になっている人物がいる。
「あ、あの〜。お取り込み中すいません。ここはどこですか?」
「……」
「あ、あの〜」
「ッ⁉︎ゴメンね。集中し過ぎて気付かなかった!」
テレビに夢中になっていた人物は、白い法衣を纏った金髪碧眼の美少女だった。
「ああ、いえ。それでここはいったい?」
「ぅおっほん!初めましてだ。藤村 春さん。僕は君の担当になった神だよ!」
ボクっ娘はニッカリと笑い、親指をグッと突き出してきた。夢だとしても状況が全く理解出来ない。
「…えーと」
「おや?勘のいい人は今の流れで分かるんだけど…。早い話が君は死んでしまったから、その後の手続きをするんだ」
「えっ?…私は死んだんですか⁉︎いつ⁉︎なんで⁉︎」
「ついさっき。過労死だよ」
何のためらいもなく突き付けられた言葉に、足の力が抜けその場にヘタリ込む。
(過労死て…。確かにいつからか思い出せない頃から、夜中まで残業して、休日出勤もしてたけど…。明日はやっと手に入れた休みなのに…)
「それでね。君を輪廻の輪に放り込むから、あの魔法陣の中に入ってくれる?」
自分の死をいまいち受け入れられないでいる、春にお構い無しに話が進んでいく。春自身も呆然としながら、指示に従う。頭や気持ちが付いて行かずとも体が動くのだ、社畜は伊達じゃない。
魔法陣に入ると、何やら光の文字が空中に浮かび上がり自称神は手を動かし、文字を書き込んでいく。
途中、テレビをチラチラと見ている。何を見ているのか気になり、春はテレビに視線を向ける。
「あっ、血界戦線だ」
何年か前に見たアニメが映し出されていた。小さく呟いたつもりだが、ボクっ娘神には聞こえていたようだ。バッと顔を上げ、目を輝かせながら身を乗り出してきた。
「春さん!血界戦線知ってるの⁉︎」
「は、はい。兄貴の影響で見はじめて、漫画も持ってます」
「ホント⁉︎僕もだよ‼︎アニメの二期が決定したから、一期を見直してるんだ‼︎面白いよね‼︎」
「バトルシーンとギャグが凄い好きです」
「僕は"技名を叫んでから殴る‼︎"って所が好きだよ」
それからは、血界戦線について話しながら、アニメを見ながら作業が続いていった。
ー2時間後ー
「よし!これで完了、後は送るだけだ!」
「はい。分かりました」
なんか変な最期だなーと感傷に浸っていると、ボクっ娘神が話しかけてきた。
「…春さん。せっかく出会えて色々話せたのに、お別れしなきゃいけないのが僕は寂しいよ。けど、次の人生の幸せを願うよ」
「神様、ありがとうございます。二期を見れなかったのが心残りですが、次の人生も頑張って生きてみます。」
「うん!だけど働き過ぎには気をつけなよ!そもそも日本人は過労死しすぎだよ‼︎」
2人で笑いあった後、春の体を淡い優しい光が包み込む。こうして、藤村 春の人生は終わりを告げた。
宮殿に1人残された神は、先ほど春を包んだ魔法陣を羊皮紙に染み込ませた。
「さて、上司に報告書を出さ、ない、と…」
バッと羊皮紙に目を落とし、何度も何度も読み直す。全身から汗が吹き出し、顔から血の気が引いていく。
「ど、どうしよう…。輪廻転生に失敗した、魔法陣間違えた。…別の世界にごちゃ混ぜで転生させちゃったよ〜‼︎‼︎はーるーさーん、カムバックーー‼︎‼︎」
ーーーーー
ーーーー
ーー
ー
(…痛い、痛い痛いイタイ‼︎‼︎)
全身を押し潰されるような痛みが襲う。
(何これ?輪廻の輪ってこんななの⁉︎痛い‼︎あの神様一言も言ってないじゃん⁉︎聞いてもいないけど‼︎苦しい、息が‼︎)
堪え難い痛みにもがき苦しんでいると、光が瞼に突き刺さる。
(眩しい⁉︎今度は…⁉︎)
光に進むと、全身を襲う痛みは無くなり、呼吸も出来る。
(なんだったんだ?今のは‼︎)
声が響く。
「どうして⁉︎どうして泣いてくれないの⁉︎」
「ああ、我が子よ!死なないでくれ‼︎元気に泣いてくれ‼︎」
「……」
知らない女性の泣き叫ぶ声に、知らない男性の嘆く声が聞こえる。
「…おぎゃ?」(…は?)
こうして新たな人生が始まった。