もう一つの【銀狼 銀魂版】   作:支倉貢

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題名の通り。もしも志乃が戦場で孤立していたところを馬董に拾われ、彼を師事してついていっていたら、のお話。

前置きが長いですが、一応ここまで知ってから読むとわかりやすいかと思われます。


【if】志乃が春雨で育った話


志乃という名の少女を知らぬ者は、春雨の中にいない。

齢五つにも関わらず、春雨第二師団に属する天才剣士。

二歳の時に師団団長・馬董と出会い、彼を師事して春雨にやってきた。

その実力は馬董に勝るとも劣らないほどで、一振りの刀だけを武器に、大軍をたった一人で殲滅できる力を持つのだ。たった5歳の少女とは思えない、桁違いの実力。

志乃という名の少女を知らぬ者は、春雨の中にいない。

 

「シノ?誰それ?」

 

はずだった。

 

********

 

「誰それ?」

 

春雨に入団して間もない神威は、シノという聞きなれぬ名に、目の前に座る阿伏兎に尋ねた。

 

「なんだ、知らねーのか?……今日の昼、団長の所にその志乃がやってくるから、まァ見とけや。お前さんよりもずっとガキだからよ」

 

「ふーん」

 

自分から尋ねておいて、興味無さそうにぶらぶらと足を動かす。

そのシノという女は強いのか。強いのならば、即行殴りかかってやろう。

神威はニヤリとほくそ笑む。それを見ていた阿伏兎は、厄介な事になりそうだ、と溜息を吐いた。

 

********

 

第七師団団長・鳳仙。夜兎の王と呼ばれた男の目の前に、幼い少女が立っていた。

 

「初めまして、鳳仙様。第二師団馬董団長の弟子、霧島志乃です」

 

名乗りながら敬礼する少女を、鳳仙は値踏みするように見つめていた。

見ただけでもわかる、綺麗な長い銀髪。眩しい色の髪とは正反対に、赤い目は燻みを帯び、血の色を写していた。

まさに、人形のような顔立ち。触れれば壊れてしまいそうな、繊細な肌。目鼻口どれも均衡が取れていて、しかしその表情は柔らかく、あどけなさを感じさせた。

 

「挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありません」

 

「構わぬ」

 

あの夜王と謳われた鳳仙を前に、堂々と挨拶をする少女。その小さな姿に、第七師団の面々は感嘆の声を上げる者もいた。

 

「ちょうど第七師団にもお前と年の近い者が入ってな。お前よりは年上だが」

 

「そうですか。是非お会いした……」

 

ドカァッ!!

 

大きな音と共に、鈍い打撃が神威の足に伝わる。確かに、目の前の幼い少女を蹴った。その感覚を感じた。

しかし。

 

ギギッ……

 

「……もしかして、貴方が鳳仙様の仰っていた方ですか?」

 

「な……っ!?」

 

神威の足は、志乃の刀の柄によって止められていた。潰そうと襲いかかる蹴りに負けないくらいの力で、神威は押し返された。

神威が体勢を立て直そうとした瞬間、志乃は抜刀する。神威が両足を地面に着けたその時には、彼の目前にキラリと光る銀色の刃が。

 

「いきなり危ないじゃないですか」

 

「くっ……」

 

「これが私じゃなかったら、貴方の勝ちだったかもしれないですけど」

 

刀を下ろした志乃は、チン、と小さな音と共に鞘にそれを納める。

あの神威の一撃を止めるとは。鳳仙の目が、強者を見る色に変わった。

ニコリと微笑む志乃と、悔しげに顔を歪める神威。この二人が春雨の戦力トップの座を争うのは、まだ先の話。

 

********

 

二人が出会って、7年後。志乃は12歳、神威は18歳になっていた。

志乃は春雨第二師団副団長として、その地位を確かなものにしていく。神威も鳳仙の隠居後、第七師団団長を引き継ぎ、それぞれ仕事という名の悪行を重ねていった。

 

この二人の出会いのエピソードは、春雨内で最早伝説のように語られていた。

神威の蹴りを受け止めた志乃の刀の柄が実は壊れていたとか、全力の殴り合いになって鳳仙も止めるのに一苦労だったとか、他にもたくさんある。

そんな噂を囁かれるくらい、二人の不仲は有名だった。

 

「よぉ神威。相変わらず腹立つ顔してんな死ね」

 

「やぁ志乃。相変わらずチビだねバカ」

 

「あんだとゴラァ!!お前もチビだろーが!!」

 

「お前よりかはデカいよ」

 

「上等だコラ!!表出ろ、今日こそ決着をつけてやる!!」

 

廊下でバッタリ会っただけでこれなのだ。有名になるのもわかる。副団長の阿伏兎は呆れて、もう口出しもしない。

これが、第七師団団長神威と、第二師団副団長志乃の日常。出会ってすぐに喧嘩を吹っかけ、船が大破するのではと思われるほど暴れまくる。

そしてその喧嘩を邪魔する者は、誰であろうと二人がかりで潰しにくる。

そう。志乃と神威は、仲が悪そうに見えて、案外仲良しなのだ。

そして今日も二人は、仲良く喧嘩する。


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