恋情なのか友情なのかよくわかんない二人の関係。
私的には友情だと思いますけど実際は隠れた恋情です。意味わかんねえ。
①
神威side
驚いた。まさか志乃が春雨の母艦にやってくるとは思わなくて、俺はただ感情のままにあいつの背中を眺めていた。
志乃は春雨の資料室で何やら探しているらしく、ずーっとパソコンと向き合ってる。時折前屈みになったかと思えば、次には「あーっ!!」と喚き散らす。
元々ああやって、情報収集をするのはガラではないのだろう。慣れてないカンジが見てわかる。
それなのに自分でやるとか、ホントにあいつは面白い。俺だったら、ぜーんぶ阿伏兎に丸投げするのに。
それからしばらくその奮闘を見ていると、不意に志乃が立ち上がった。
気分転換でもするのか、パソコンを落とし、こちらへ歩み寄ってくる。
「!志乃、」
「……………………」
俺の呼びかけに志乃はチラリと俺を一瞥し、そのまま通り過ぎる。興味がない、とはまさにこのこと。
……俺なんか、眼中にないってこと?
ムカついて、俺の胸辺りまでしかないそいつの背中を抱きしめた。志乃は一瞬体をびくりと揺らしたけど、不機嫌そうな目で俺を見上げた。
「何」
「こっちのセリフ。俺に呼ばれたら、『わんっ』だろ」
「誰が言うか!!私はてめーの犬じゃねーんだよ!!死ねこのすっとこどっこい!!」
一度の絡みで5倍くらい返してくれる。やっぱりこいつは面白い。
ケラケラ笑いながら「冗談だよ」と告げると、生意気な舌打ちが返ってきた。……可愛くないなぁ。
「お前さ、もうちょっと可愛げ持てないの?」
「お前なんかに見せる可愛げなんて1㎜もないわ。死ねっつってんだろアホ毛」
「うん、そういうとこが可愛い」
「気持ち悪い!!やめろ放せ近寄るな!!ハゲろ!!」
「ハゲないよ」
何?お前は口を開けば、他人の心を抉るコースクリューブローしか打ち込めないの?ってくらい罵倒を連発する志乃。
思えば俺への返事は全て猛毒が含まれてる。ていうか毒しかない。向こうは隠すつもりもないし。
こんなにストレートに毒を盛ってくるなんて、逆に清々しくて俺は好きだ。
志乃が元々ツンデレなのは知ってる。デレるのは阿伏兎か、鬼兵隊のグラサンのお侍さんか、シンスケのみ。
それが何だか、すごくムカつく。
志乃は無自覚かもしれないけど、口では嫌いだと言いながらシンスケのことが大好きだ。
俺と話してても(一方的に俺が絡みに行くだけだが)、シンスケの姿を一目見たらすぐにそっちに行ってしまう。
それがすごく気に食わない。
何でかなんて、わからないけど。
その答えを知りたくて志乃に近づいてるのに、俺のことを見てほしいのに、こいつは全く相手にしてくれない。そのことがさらに俺をムカつかせて。
だから、さっきより強く志乃の小さな体を抱きすくめる。
「志乃」
「何。苦しいからさっさと放せ」
「お腹、空いてない?」
こういう時は、やけ食いに限る。
********
偶然志乃もちょうどお昼を食べようとしたらしく、俺は志乃と肩を並べて食堂に向かった。
「何がいい?俺的にオススメなのはやっぱり地球の料理かなぁ」
「何、ここ地球の料理とかもできるの?え、でも開国したの確か二十年前だよね?もう取り入れてんの!?最先端だな、春雨!」
「えっ、じゃあダンゴもできる!?」と何故かテンションが異様に高い彼女。すぐさまシェフの所に行って、そのダンゴとやらを注文していた。
俺は取り敢えず、メニューの端から端まで全てを注文する。これはいつものことなので周囲も特に気にしていない様子だったが、隣の志乃はものすごく引いていた。
……傷ついてなんかない。俺全く傷ついてないから、うん。
程なくして、俺の料理が全て到着。それを一心不乱に食べていると、志乃の頼んだダンゴがようやく来た。
とても柔らかそうな丸いものを、串に刺したシンプルな料理。それの表面が少し焼けていて、甘辛いタレが食欲をそそる。
「それがダンゴ?」
「うん。私の大好物なんだ」
志乃の、大好物。それを聞いた瞬間、何故か心がとくん、と跳ねた。
それからすぐに、ダンゴ、ダンゴと名前を復唱する。まるで覚えるかのように。
何で覚える必要があるのか。
それはもちろん、この後食べるため……ーー。
「……あれ」
違う。それだけじゃない。
いや、食べるためとかそんなのよりも、もっと重要な理由がある。
志乃の好物を覚えておくためだ。
……何のために?そいつで志乃を釣って、俺の子を産んでもらうため?
……あれ?そもそも、何で俺、志乃に俺の子を産んでもらうなんて……?
それは……夜兎と銀狼の血の混ざった子供と後々戦うため……。
(違う、それだけじゃない)
ただ単に、誰にも触れてほしくないんだ。こいつに。
気づいてしまうとサーッと頭の中のモヤモヤが消え去って、逆に鼓動が激しくなる。
「〜♪」
チラリと隣を一瞥すると、幸せそうにダンゴを食べる志乃。もう周りに花が飛んでてもおかしくない。それくらいのほんわかオーラを放ってる。
……いや。いやいやいやいや。
思ってない。断じて、可愛いなんてこれっぽっちも思ってない!
ぶっちゃけ初めて見た。志乃のデレ。これ絶対にデレだ。デレだよね?うん、絶対そうだ。
普段は鋭いナイフみたいな眦が、ムスッとした口元が、蕩けるように緩んでる。年相応に子供っぽくて、あどけなさを全面に押し出した表情。
いやもう、ホント……可愛い。……あっ。認めてる。
「何?何か付いてる?」
志乃の赤い双眸が向けられて、それに気づいた俺はハッとした。
「……付いてる」
「何が?」
「虫」
「虫?どこ?」
そう言って、ペタペタと自分の頬を触る志乃。
あれっ、あんまり効果がない。女ってのは虫が嫌いな生き物なんじゃなかったっけ。アイツもゴキブリ嫌いだったし、志乃も絶対そうかと思ってたんだけど。
すぐに「嘘だよ」と呟くと、「死ね」と返ってきた。ホント、可愛げもへったくれもない。
「……意味わかんない」
「何が?ああ、お前のアホな頭の存在理由が?」
「喧嘩売ってんの?殺すよ?」
「やれるもんならやってみろよバーカ」
ホント、意味わかんない。
こいつのどこに、俺は惚れたんだろう。
ちょっぴり自覚はしているけど、その相手から貶されまくって自分でもわからなくなってる神威くん。
このスパイラルが今日も延々と続いてます。そしてそこから抜け出せない。