弱冠一名、カオスになりそうな予感しかしない。
〜斎藤終の場合〜
「終っ」
志乃がやってきたのは、彼氏である三番隊隊長・斎藤終の部屋。斎藤は超がつくほどのシャイで、彼女の志乃でさえもなかなか彼と喋ることがままならない。もちろん声すら聞いたことがない。
部屋を覗いてみても、斎藤の姿は見えない。またトイレにでも行っているのか、と思った時。
背後に気配がする。ハッと振り返ると、柱の影に斎藤が隠れているのが見えた。彼の特徴的なオレンジアフロのおかげで、すぐにわかった。
しかし斎藤は志乃と目が合うと、サッと視線を逸らしてどこかへ行ってしまう。
「あっ、待ってよ終!」
逃げる斎藤を追いかけるが、いかんせん彼の足が速い。
埒が開かないと判断した志乃は、屋根の上に飛び乗り、移動してから反対側に逃げ込んだ斎藤の目の前に躍り出た。
「待ってってば!」
「!!」
あたふた、あたふた。慌てまくった斎藤は、最終的に立ったまま眠ってしまった。
またか。志乃は嘆息する。斎藤は焦りが極地に達すると、どんな状況でも寝てしまうのだ。
「Z〜」
「はぁ……」
志乃は溜息を吐いて、ぐーすか眠る斎藤を見上げた。
……ちょっとくらい悪戯を仕掛けてみてもいいだろうか。志乃の心がそわそわする。
そっと斎藤に近づいて、抱きついてみる。ポスッと胸に顔を埋めると、大好きな匂いがする。
普段の彼なら絶対にこんなことさせてくれない。キスすらさせてくれないのだ。まぁ、シャイで有名な彼が、キスに至るまでに色々問題を解決しなきゃいけないのだが。
「終、大好き」
小さな声で呟く。その時、斎藤の体がピクッと反応した。
「……えっ」
まさか、起きていた?ゆっくり顔を上げると、真っ赤になった斎藤が志乃を見下ろしていた。
急に恥ずかしさが込み上げてきて、志乃は咄嗟に斎藤から離れ、頭を抱えて「ぅぅ、」と唸る。
「ぁ……あ、の」
「?」
「ぃ、いいい今の、聞いて……?」
斎藤が、りんごどころか熟れたトマトのように頬を赤らめながら、頷く。それを見た志乃は、しどろもどろになりつつ、ボソッと呟いた。
「…………じょ……冗談じゃ、ないんだからね……」
斎藤も、常時持っているスケッチブックにペンを走らせ、彼女に見せた。
『ありがとう、とても嬉しいZ』
(なんか時雪と似た感じですね。ていうか超絶怒涛のシャイ隊士斎藤さんに恋人ができるのか疑問)
(確かに)
(………………Z〜……)
(寝た!寝やがったぞこいつ!)
〜山崎退の場合〜
山崎が監察の仕事として張り込みをして今日で3ヶ月。
頑張って働いている彼氏を労おうと、志乃は弁当片手に山崎の仮住まいのアパートに向かった。
********
「やっほ、退。大丈夫……じゃ、なさそう……だね」
「…………」
「……退?おーい」
「ん?あっ、えっ、し、志乃ちゃん!?あっ、まだ喋れた」
「気づいてなかったの?ていうかまだ喋れたって何」
「いやー、ここ最近全く喋ってなかったから」
あははと笑いながら、山崎はポリポリと頭を掻く。視線が志乃から、彼女の手に提げられた弁当に目が行った。
「それ……?」
「あ、これ。食べる?」
「えっ、あ、いや……」
山崎は戸惑った。
志乃が自分のために、一生懸命弁当を作ってくれたのは嬉しい。
しかし、今自分は張込みの仕事中。いくら彼女からの差し入れとはいえ、あんぱん以外の物を口に入れれば、張込みの神に見放されるのではないか。
さらにここで受け取らねば、志乃にまで見放されるのではないか。
そして最終的には全てから見放されて誰にも看取られず孤独死するのではないか。
「いやそこまでは考えてねーよ!」
「何言ってんの退」
「えっ、あっ、えと……じ、地の文!」
山崎は志乃に嫌われないために、テキトーな嘘を吐いた。
「嘘じゃないでしょ!紛れもなく
天井に向かって叫ぶ山崎。彼を見て、志乃はクスクスと笑った。それに気づいた山崎は、ハッと志乃を振り返る。
「ふふ、やっぱり面白い」
「し、志乃ちゃん……」
「流石は私の彼氏だね」
「ちょっ……!!」
彼氏、と久々に呼ばれて、山崎の体温は一気に上昇する。と同時に、志乃に確認した。
「志乃ちゃん、俺と付き合ってること、誰にも言ってないよね……?」
「大丈夫!」
「な、なら良かった……」
山崎がここまでホッとするには、理由がある。
思い出してみてほしい。山崎は真選組隊士であり、三十路を既に通り越した身。そんな彼がたった12歳の少女と交際しているというのだ。世間からすれば山崎は白い目で見られまくり、主に銀時や土方、沖田などに抹殺されかねない。想像するだけでも恐ろしい。
「まぁ、いつか口滑らしちゃうかもね」
「やめて!!俺殺されちゃうから!!」
「大丈夫、退を殺そうとする奴らは全員返り討ちにしてやるから」
「……それはそれで……ちょっと」
「何?私に護られるのが嫌だっての?」
「……………………そりゃ、まぁ。俺だって男だからね」
(ねぇ、オチテキトーすぎない?俺だからってテキトーにしすぎてない!?)
(気のせいだよ気のせい)
〜桂小太郎の場合〜
ある日、志乃が真選組屯所の廊下を歩いていると。
「…………!」
ピク、と何者かの気配に反応した。少し腰を落として、刀の柄を握る。
明らかに誰かに見られているような気がする。というか寧ろ、何かを向けられているような。
気配が動いた。刹那、志乃は刀を抜き、気配の感じる場所へぶん投げた。
ガッシャア!と何かが割れる音がする。刀は何やら機械らしきものに突き刺さっており、破片が床に散乱していた。
「誰だ!」
「お、落ち着け志乃!俺だ!」
壁の影から姿を現したのは。
「こ、小太郎!?」
そう。そこにいたのは、女中の服装に身を包んだ桂本人。キョトンとして、志乃は彼に近づいた。
「何してんのあんた、ここどこだと思って……!」
「すまない、お前に会いたくてな。……つい、忍び込んでしまった」
「つい、じゃないよ……はぁ……」
ただそれだけの理由で敵地に忍び込むとは、バカだろうこいつ。溜息を吐く志乃に、桂は胸を張る。
「仕方ないだろう。愛しい彼女と会えぬ気持ちを想像したことはあるのか、お前は」
「その愛しい彼氏が、敵地に忍び込んでるのをバレないように庇う気持ちを想像したことはあるんですか、あんたは」
今度はさらに、深い溜息を吐く。
以前桂が真選組に潜入した時も、桂の正体がバレないように、志乃が色々と気を回していたのだ。その苦労が蘇り、キリキリと胃が痛む。
「ていうかさっきあんた、私に何向けてたの?」
「カメラだ。お前の可愛い隊服姿を収めようと思ってな」
得意げに語る彼氏を本気で殴りたくなった。
桂はよく彼女の志乃にコスプレをさせて、そのままイチャイチャするケースも多い。その度に志乃にぶん殴られるのだが。
まぁ、カメラ本体が壊れたため、良しとしよう。
「おーい嬢ちゃん、何やってんでィ」
「!?」
背後から、沖田が声をかけてくる。ヤバい。今自分は桂と一緒にいるのだ。妙に鼻の効く沖田なら、バレるのも時間の問題かもしれない。
「まぁいーや。ホラ、見廻り行くぜィ」
「あ……う、うん」
よかった、女中の格好をしている桂はそこまで気にかけられなかったようだ。ホッとして沖田について行こうとすると。
「待て」
ガシッと、腕を掴まれて、引き寄せられる。そのまま志乃の体は桂の腕の中に閉じ込められた。
「この娘は俺の彼女だ。悪いが仕事先の男だろうが、志乃に触れることは許さん」
「は?何寝惚けたこと言ってんだテメー」
「ちょっ……」
まずい。まずいまずいまずい。このままでは、桂の正体がバレるのも時間の問題だ。志乃は桂を押しやろうとするが、ガッチリ掴まれて動けない。
「……テメーまさか……桂か?」
カチャ、と音を立てて、沖田が刀に手をかける。志乃が急いで桂を庇おうと口を開いたが、すぐに手で塞がれた。
「ふっ……流石は真選組一番隊隊長。よくぞ見破ったな!!」
「5秒以内に嬢ちゃんを放しやがれィ。じゃねェとバズーカぶっ放す」
「それは無理な話だ。何故なら志乃は、将来俺の妻となる女だからな」
「は?」
堂々と言い放った桂を前に、志乃は頬を赤らめ、沖田はポカンと拍子抜ける。さらに桂は続けた。
「貴様らのようなむさ苦しい男共の魔窟にいれば、いずれどうなるかなど火を見るより明らか!だから俺はこの監獄から志乃を救いにやってきたのだ!」
「監獄って何その言い方」
「ではさらばだ!」
「ぬ、わぁっ!?」
志乃がボソッとツッコんだ瞬間、フワッと体が宙に浮く。足が地面から離れ、横抱きにされていたとわかるのは早かった。
「ちょ、ちょっと……!」
真っ赤になる志乃を無視して、状況はどんどん変化していく。桂が懐から時限爆弾を放り、その隙に志乃を連れて屯所を抜け出す。
「かーつらァァァァ!!」
沖田の怒号と共に、バズーカ砲がこちらへ飛んでくる。
「ぎゃああああ!!来た!!来たよォォォォ!!」
「しっかり掴まっていろ!!」
「いやァァァァ!!」
悲鳴を上げながらも桂の首に手をまわし、しっかり抱きつく。桂が窓の外へ飛び出したのと同時に、屯所が爆発した。
ドォォン!!
「……うっわぁ…………」
「これで俺達の仲を邪魔する者はいなくなったな」
「主に総兄ィとアンタのせいだよねコレ」
無残な形になってしまった屯所に、思わず引いてしまう。いやぁ、後先考えずに爆弾投げるバカに、バズーカ撃ち込むバカが起こす被害って恐ろしいな……。そう思うと、さらに引いた。
「さぁ志乃、これから夢のはねむーんへの出発だァ!!」
「お前は黙ってろォォ!!何だよはねむーんって!気持ち悪いわ!」
こうして二人は、愛のはねむーんへと旅立っていったのだった。
(思ったこと云々の前にヅラ兄ィマジで死ね。この災厄野郎くたばれ!!)
(どんだけ桂嫌いなの志乃)
(世界が滅びるくらい)
(意味わからんわ!!)
(それでも俺は志乃を愛しているぞ!)
(そういうとこが嫌いなんだよ死ね!)
〜服部全蔵の場合〜
「全蔵、やっほ」
「よォ、ワリィなこんな時間に呼び出しちまってよ」
「いいよ全然」
夜。月明かりが街を照らす中、志乃は彼氏の全蔵と出会っていた。
ちなみにこの関係は、もちろん義兄の銀時には内緒である。告白した瞬間、喧嘩が勃発するのは目に見えているからだ。
「……そういえばさ、」
「ん?」
「何で私と付き合ったの?」
「それ聞くか?」
「だってアンタ前にブス専って言ってたじゃん、しかも自分で」
「まぁ確かに別嬪にゃ興味ねーがよ」
「私が別嬪じゃねーってか、テメェマジで殺すぞ」
「待て待て待て待て」
懐から取り出したクナイを構えると、全蔵が冷や汗を流して止める。志乃の手からクナイを素早く奪い取り、ぶにっと頬を引っ張った。
「ひゃひひゅんにょ(何すんの)」
「お前がこんな物騒なモン出すからだろ」
溜息を吐いて、クナイを自身の懐にしまう。頬から離した手を今度は志乃の頭を撫でた。
「惚れた女と好みのタイプは必ずしも一緒じゃねーんだよ。そんなもんなんだよ」
「そうなの?」
「そ。確かにお前は俺のタイプじゃねーが、俺が惚れ込んだのは紛れもなくお前だ。わかったか?」
「……子供扱いすんな。仮にもアンタの女だぞ」
頬を膨らませてジロリと全蔵を睨む志乃。確かに自分はまだ子供だし、彼氏の全蔵とはかなりの年の差がある。他の大人の女に取られないかが一番心配なのだ。
「………………」
「どーした?」
「……だって全蔵はさ、私より年上だしまぁそれなりにカッコいいとは思うし……ねぇ、他の女なんて作らないでよ?作ったら殺すからあんたを」
「だから怖えよお前!!」
「もしもあんなことやこんなことをしてたらその男の象徴切り落として殺す」
「オイぃぃぃ!!純粋女子で売ってきたんじゃねーのかお前はァ!!」
全蔵のツッコミも聞き止めず、志乃はムスッと頬を膨らませたまま、ツカツカ歩き出した。
純粋女子とか知るか。自分はただ、全蔵に浮気してほしくないだけだ。軽くイライラしていると、不意に背後から首元に腕がまわされた。
「……なら、他の女ができちまう前にあんなことやそんなこと、したいか?俺と」
「…………は?」
キョトンとした志乃の頭にキスを落として、全蔵は彼女を抱きしめた。
「ほら、具体的に言ってみろよ。お前の口で。1から100まで」
「……………………」
ほんのりと頬を染めて、視線を逸らす志乃。それが可愛らしくて、顎を持ち上げた。
「…………じゃ、あ」
「何だ?」
「ぎ………………ぎゅっと、してくださいっ!!」
志乃は全蔵から離れると、両手を広げて全蔵を待ち構えた。しかし、全蔵は志乃から離れ、ガクリと勢いよく膝をつく。
予想はしていた。していたけれども。あの過保護なシスコンバカ侍に育てられた志乃ならば、そういう内容は全く教えられていないだろう。志乃が珍しく下ネタに走ると思ったら、要望は無垢そのもの。全蔵は落胆するばかりであった。
「ねぇ、何その反応。やっぱ浮気する満々かコラ。ぶち転がすぞ」
「ごめんなさいしますしますしますから怒らないで」
(オイ作者お前早いとこ投稿したいからって俺の分だけ短くしてねェか)
(え?気のせい気のせい)
(ま、俺はあんなクソガキ相手じゃゲロ吐きそうだったけどな)
(テメェ殺すぞ)
このシリーズ、メンバーをはじめに決めて順番に書いてるんですが、今回はかなり悩みました。この連中マジでややこしいしめんどくさい。誰だこのメンバーにした奴。私ですね。
斎藤さんは完全にアニメのイメージで書きました。原作漫画は集めてるんですが、まだ斎藤さん出てきてないです。
ガチで何巻初登場ですかあの人。調べたらわかるんでしょうけど、元々情報収集能力が皆無なんで多分正解に行き着かないと思うんですよね。ていうかこんなくだらないこと聞いても〜みんな知ってるから〜みたいな感じの周知の事実みたいな〜(ウゼェ)。
次回は誰だろうな。地雷踏む気しかしないな。
これからものろのろやってきます。