今回で第一章は完結となります。ありがとうございました(まだ続きます)。
まだ顔出しどころか異名しか出てきてないようなキャラが勝手にクロスされてます。
徹夜明けで仕上げたものなので、文がおかしかったり雑だったりするかもしれませんが、よろしくお願いします。
「ったく、あの娘も不憫なもんだな」
夜の彩海学園高等部。誰もいないはずの教室で、短い髪を逆立ててヘッドフォンを首から下げた少年――矢瀬基樹は、非難するように呟いた。
壁に寄り掛かる彼の隣に居る紙細工のような一羽の烏だけが、その聞き手だ。
「確かに古城の性格からして、あの娘――姫柊雪菜を邪険には出来ないだろうが……まさか彼女も、獅子王機関に第四真祖の愛人として送り込まれた、なんて思っちゃいないだろうな」
『だが、結果的に第四真祖の覚醒は早まり、姫柊雪菜は第四真祖――暁古城を制御するための手札として動き出している』
老人のようにしゃがれた声で放たれた烏の反駁に、矢瀬は顔を顰めた。
「だからそれもあんたらの差し金なんだろうに。ロタリンギアの殲教師の一件、知ってたんだろ? そのうえで正義感の強い見習い剣巫を送り込むとか見え見えすぎる。古城にあの娘の血を吸わせ、眷獣の覚醒を導く。そこまでがあんたらのシナリオだった」
『我らが手を出そうと出すまいと、ヤツは既にそこに存在する。……この国に、
くくく、とカラスが嗤うように喉を鳴らすが、冗談めかしたその口調には、拭い切れない重苦しさが含まれている。
彼らにとっても、この計画は危険なものなのだ。下手を打てば、手痛いしっぺ返しが来る。しかし何もせずにいればどうなるか分からない。
どうやら今のところは彼らの思惑通り計画は進み、姫柊雪菜は、確実に暁古城との距離を縮めている。
『まあ、あのボウヤの傍に漆原の娘が居たのは誤算だったがねえ』
「管理公社の幹部か……この国の財界どころか、政治にまで口出しできる重鎮だからな。下手したら、まとめて潰されかねないってわけか」
『幹部って意味では、お前のところもそうだがな。だろう? 矢瀬の坊ちゃん?』
「やめてくれよ。……それより、あの化け物のことはどうなってんだよ?」
からかうような烏の言葉に露骨に顔を顰める矢瀬だったが、その表情はすぐに引き締まった。
矢瀬の口にした化物とは、言わずもがなつい先程退治された、九頭大蛇のことだ。
異常な強さと巨体、生命力を誇る、まったく未知の生物。
静乃が呼んだ
今の質問は、あれの正体は分かったのか、という意味の問いだったが、答えは芳しくなかった。
『……残念ながらお手上げだね。これまでにも目撃証言はあったらしいが、正直に言って何も分かっていない。あの生物に関しては、大史局の管轄になったよ』
「大史局ねぇ……。獅子王機関としては複雑なんじゃねえの?」
『そりゃ、閑あたりは憤懣やるかたなし、といった感じだがね。あたしには関係ないさ。その島のことは、その島に住む吸血鬼と監視役に任せるしかなかろうよ』
無責任な、と矢瀬は皮肉げに唇を歪めた。
だがそれがいいと思っているのは、矢瀬も同じだ。
もし獅子王機関が古城に不用意に手を出して、彼の逆鱗に触れれば、それこそ世界が危うい。
『第四真祖としての権能に加えて、二つの前世を持った《
その台詞を式神を通して口にする彼女の脳裏には、九頭大蛇を屠ってみせた嵐の剣のことが鮮明に蘇っていることだろう。
今回は運良く
暁古城の親友である矢瀬は、普段の気だるげな雰囲気に反して、その実強固な意志と燃え滾る激情、そして、誰であれ己の敵に対して容赦しないことを知っている。
まさに竜の如く。触らぬ神に祟りなし、あるいは神よりも恐ろしき者でも、手出しさえしなければ心強いものだ。
矢瀬がそんな思索に耽っていると、どうやらの烏の話は元の姫柊雪菜についてのそれに戻ってきたようだった。
『それにあの娘が哀れなだけとは限らんさ。帝王の伴侶とは、すなわち王妃ということだ』
「まあ、そうかもしれんが……やれやれ、相変わらず修羅場なこったな」
そう言って矢瀬は、教室の中央の机を見やった。そこは彼の幼馴染が座る席だった。
しかも今や古城の周囲に居る女子は、彼女だけではない。
それこそ、あの能面のような無表情の美しい少女に潰されかねない。
あまりゾッとしない未来だ。
『さて、歴史の転換点に現れるという第四真祖。その出現が吉と出るか凶と出るか――暁古城。ときに暁の子といえば、堕天使ルシファーの異名だそうだが……ふ、面白い……』
神の遣いか、地上を滅ぼす悪魔か。
そう言い残して、カラスの姿はただの紙へと解けた。
風に乗って暗い夜空へと吸い込まれていくそれを見送り、矢瀬はうんざりしたような溜息を吐き、
「やれやれ……前途は多難だぜ、
§
「くくっ、くくくくっ、くくくくくくくくくっ」
どこかにある、この世のどこにもない空間。
古い洋館にも似た内装の巨大な建造物の一室、小ぢんまりとした
どこまでも不遜で。
どこまでも傲然と。
一階の観客席の中央の奥、豪奢な椅子――玉座にふんぞり返る少年の声だった。
年のころは高校生くらいで、特別美形というわけでもない。特別目立つ特徴は何もない。
なのに、その身から放たれる威厳と存在感は、まさに王者のそれ。
「やっとか、やっと来たか。貴様が一度死んだ程度で終わることはないと思っていたが、また随分と時間がかかったものだ」
独白し、また嗤い始める。
傲岸不遜な口調だが、それが似合っている。尋常ならざる貫禄、風格である。
あたかも、悠久の時を生き、世界を統べる帝王の如く。
止めどなく、嗤い続ける。
「くくく、随分と嬉しそうじゃのう、我が君よ」
「当り前であろう。何千年、何万年、何億年待たされたと思っている? あやつめ、いつまで経っても不遜な奴よ」
そんな彼の後ろから、古式ゆかしい大陸風の衣服を纏った、東洋系の美女がしなだれかかった。
美女の声は金の鈴を転がすような、陶然とせずにはいられない美声だったが、男は変わらぬ様子で平然と口を開いた。
男の黒い両の瞳は前を見ているようで見ておらず、焦点が合っていない。
彼が見ているのは、己が
極東の魔族特区に現れた《
大蛇の無数の蛇眼が捉えているのは、一人の少年。
高校の制服に白いパーカーを羽織った、狼の体毛のような髪をした目つきの鋭い少年。
瀟洒な造りをした柄を持つ美しい長剣を掲げ、その身に纏う白い
少年は左手を絶え間なく動かし、五行のスペルを完成させた。それを右手の剣で薙ぎ、刀身にこの世ならざる黒炎がまとわりつく。
まだ終わらず、少年の左手から噴き出した鮮血が、眩い雷光へと変わり――あたかも太極図のような黒白の利剣へと吸い込まれた。
振りかざされた、白、黒、青の三色の嵐の魔剣が九頭大蛇を蹂躙し――そこで、男の視界に映る光景は終わった。
今しがた目にしたそれを反芻し、男は再び肩を揺らして嗤った。
「運命とやらもやるではないか。褒めてつかわそう」
相も変わらず傲慢な言葉を吐き捨てる。男にしなだれかかる美女が、小気味よさそうにコロコロと喉を鳴らして笑った。
それを見た、この部屋にいたもう一人の人間が、鬱陶しげな声を洩らした。
「ちょっと。私のホールで耳障りな笑い声を上げないでくれる? 演奏の邪魔なんだけど」
正面奥に拵えられた、巨大なパイプオルガンの下、演奏用の椅子に座った少女のものだ。
髪の色は白。ドレスの色も白。人形のように生気の欠けた肌も白。絹製の手袋も白。
唯一、小さな瞳だけが青。
「許せ。俺は今機嫌がいいのだ。ほれ、俺が喜んでいるのだから、お前も景気づけに何か演奏してみせよ。その大仰なものは飾りではなかろう?」
「何で私があんたのために弾かなきゃいけないのよ。私の王様はあんたみたいな陰険な根暗野郎なんかじゃないわ」
「くくっ。不遜なやつめ」
「おい小娘。我が君に向かってなんだ、その言い草は」
「よい。言っただろう、俺は今機嫌がよいのだ。多少の不遜ならば構わんよ」
すげなく断った少女に、美女が鋭い視線を向けるが、男が泰然と笑い飛ばしたところで矛を収めた。
そのタイミングを見計らっていたかのように、中央バルコニーの重厚な黒檀製扉が開かれ、新たな闖入者が姿を現した。
「やァ、皆様方。お邪魔するヨ」
必要以上に陽気な口調で乗り込んできたのは、外見年齢二十代の半ばぐらいの、金髪碧眼の美しい男だ。
少女の向こうを張る真っ白のスリーピースに身を包み、洒脱な雰囲気を纏って下に降りてくる。
青年に目をやって、少女は嫌そうに顔を顰めた。
「まーた、無粋な奴が来たわね……。いっそ、追い返してやろうかしら」
「やめてくれ、ここでキミに言われると洒落にならない。さすがに居空間にポイはごめんだね」
少女の不満を青年は軽やかな笑みで弾き返し、玉座の男へと視線を向ける。
「さて、
「よくぞ来た、ヴァトラーよ。まずはこれを見ろ」
「ン? これかい?」
ヴァトラーと呼ばれた青年は、言われた通りに足元に転がってきた水晶を覗き込んだ。
最初は退屈そうだった彼の表情は、その水晶に映る光景を目にするにつれ、次第に笑みを広げていった。
獲物を目にした獅子の如く、獰猛で気高いものに。
「……ハ、ハハハッ! なるほど、だからボクを呼んだのか!」
「ああ。この俺がわざわざ貴様のために呼んでやったのだ。貴様とて、興味がないわけではなかろう?」
「もちろんだ! 今こそ心の底から感謝しますよ、我らが戦王よ」
おどけた仕草で一礼するヴァトラーだったが、彼の表情は歓喜に満ちていた。
数百年間待ち望んだ男の姿を見て、狂気していた。
玉座に座る男は愉快げに笑い、青年に命を下した。
覇王の如く、尊大に、傲慢に。
「ディミトリエ・ヴァトラー。いつでも構わん。絃神島へ行き、……『あの男』と会ってこい」
「仰せのままに、我が王よ」
青年の口元に刻まれた亀裂のような微笑がさらに深まると同時、ゆらりと、その痩身から陽炎のように炎が立ち昇る。
アメジストもかくやの、鮮烈な紫色の
どこまでも純粋で、深みのある、高貴なる煌めきだった。
「待っていてくれ、第四真祖・暁古城……そして
青年――〝戦王領域〟の
いつの間にかパイプオルガンの前に腰かけていた少女は舟を漕ぎ始め、男の後ろにいた美女は忽然と姿を消している。
そのような些事、男は気にも留めなかった。
再び嗤い始めると同時に、男の全身からも炎が立ち昇り始めた。
異様なまでに膨大な量の、黒い
狭いホールのそこだけ闇が蟠っているかのような、あるいはそこに冥府の入り口が開いているかのような、おぞましい光景。
この世で最も黑く、それでいて煌めきに満ちているこの世ならざる色相。
無限無辺の宇宙を連想させる、黑。
男は、嗤った。
黒いオーラを背に纏い、
「今度こそ、答えを聞かせてもらうぞ……
男の名は、第一真祖。
七十二体の眷獣を従えて、欧州を支配する
〝
§
画面の中で、三色の嵐が九頭大蛇の怪物を蹂躙する。
近代的且つシックな内装の部屋。その中心にある執務机の上のノートパソコンに映った光景に、足を組んでふんぞり返った青年は苛立たしげに舌打ちした。
精悍な顔つきの白人青年だった。歳は二十の後半ほど。
髪の色は黒。スーツの色も黒。ネクタイの色も黒。革手袋も黒。
神経質そうなその瞳だけが青だった。
組んだ足で貧乏揺すりをし、左手で頬杖を突き、右の人差し指で忙しなくテーブルを叩いていた。
上空から撮影された映像が終わり、青年はもう一度舌打ちをして吐き捨てる。
「遅い。オレを待たせるな」
誰に向けたかも分からない、催促の声。
だがそれは、紛れもない『王』の言葉だった。
シャルルがノートパソコンの電源を閉じようとした時、コンコンとノックの音がした。
この執務室どころか、シャルルの居るこの建物に足を踏み入れることのできる者はそう多くない。
なので、誰が来るかは大体予想がつく。
「入れ」
「失礼いたします、父上」
果たして入ってきたのは、シャルルの予想通りの少年だった。
十二、三歳ほどの年若い少年。シャルルに似た美しい黒髪に、褐色の肌。金色の瞳。幼さを残した顔つきに似合わず、不思議な威厳が感じられる。
気性の激しい若い獅子を見ているようだ。
シャルルと対照的な
「どうしました、父上? 不機嫌そうですね」
「阿呆。貴様のせいでもあるのだぞ」
「それは一体……」
シャルルはノートパソコンを少年に向かって投げつけた。
受け取ったそれの画面を覗き込んだ少年は、なるほど、と得心の行った、それでありながら獰猛な闘志を覗かせた笑みを浮かべてみせる。
「分かったか? イブリース。貴様らが少し前に、オレに無断で決行した宴とやらの結果だ」
「なるほど。それは申し訳ありませぬ。未だに根に持っていらしたとは……」
「たわけが! 誰が根に持ってなど!」
慇懃に頭を下げてみせる少年に、シャルルは即座に噛み付いた。
それから投げつけられる罵詈雑言の嵐を、イブリースと呼ばれた少年は笑顔で受け流す。
もう数え切れないほど繰り返されてきた、
ようやく終わりが見えたところで、イブリースから切り出した。
「しかし父上。喜ばしいことなのではありませんか? 第四の真祖の誕生というのは」
「阿呆。喜ばしいものか。不愉快極まりない」
貧乏揺すりの止まらない父親に、イブリースは再度苦笑する。
「父上も待ち侘びておられたでありませぬか。四人目を」
「チッ……」
今度は舌打ちしただけで、特に否定はしなかった。
無駄な嘘はつかない性格なのである。
「オレが不機嫌になっているのは、第四真祖という存在自体にではない。このような小僧がその名を継いだことだ!」
言われて見てみると、確かにシャルルがそう言いたくなる気持ちも分からないではない。
どう見積もっても、せいぜい十六、七歳。
「ですが、これを見た限りではこの小僧も中々ではありませぬか。第四真祖の眷獣を使役し、これだけの怪物を屠ってみせた。この少年は確かに父上と同等の――」
「たわけ! ソイツがこのオレと同等だと!? 乳臭い子娘どもと乳繰り合っている軟弱者と、このオレを同列に語るか、この親不孝者め‼」
「左様ですか」
泡を食って反論してくるシャルルに、イブリースは明らかに興味なさげな生返事を返す。これも日常茶飯事。
そのイブリースの態度に落ち着きを取り戻したのか、椅子にどっかと座り込み、未だ肩を怒らせたままのシャルルが訊いてくる。
「それで、イブリース。お前は何の用だ? オレは忙しい、手短に済ませろ」
「仰せのままに。以前お話しした、俺とリゼットの婚約の件についてですが……」
「構わん。好きにしろ」
「……よろしいので?」
イブリースとしてはそれなりの覚悟を持って聞いたのだが、ごくあっさりと許可されて、逆に戸惑ってしまった。
イブリースの本名はイブリスベール・アズィーズ。第二世代の吸血鬼――つまり、真祖直系だ。
〝旧き世代〟の
対してイブリースの口にしたリゼット・キャバイュは吸血鬼どころか魔族ですらない、ただの人間だ。
いや、リゼットもイブリースやシャルルと同じく前世を持った転生者であるということを考えれば、ただの、ではないかもしれないが。
だが、それだけでは真祖直系の王子の伴侶としては相応しくない、というのが一般的な見解だろう。
認められなければ全力で抗うつもりで、拍子抜けの気分を味わったイブリースだったが、続くシャルルの、冷たい威厳を纏った声で、自然と背筋が伸びた。
「二度も言わせるな。オレは以前にも言ったはずだ」
――澱ませてはならぬ
――新しい血を取り入れ、かき混ぜよ
血。それは、吸血鬼にとって、重く特別な意味を持つもの。
吸血鬼の真祖たるシャルルの口にするその言葉には、他の凡百の吸血鬼にはない重みがあった。
シャルルは机の上に置かれたノートパソコンを手に取り、上に放り投げた。
瞬間――シャルルの全身から濃密な
シャルルの左眼に、赤い鬼火が炯々と灯り、イブリースの背筋が粟立った。
いつの間にか革手袋を外していた右手をシャルルが手刀で横に一閃した――次の瞬間には、一行のスペルが綴られていた。
炎の第一階梯闇術《
放たれた闇術はノートパソコンを一瞬で焼き尽くし、一気に消え去る。
「仰せのままに」
イブリースは低頭し、退室する。
胸の奥に、父親への畏怖と尊敬の念を抱きながら。
自分以外に誰も居なくなった執務室で、シャルルは呟いた。
「くれぐれも、オレを失望させてくれるなよ……四人目」
シャルル=サン・ジェルマンの正体は、第二真祖。
三十六体の眷獣を従えて、中東を支配する
〝
「あっ、王子!」
「リゼット。待っていたのか?」
執務室から出てきたイブリースを出迎えた(?)のは、ポニーテールを揺らしたあどけなさの残る顔立ちの少女だった。
小柄ながらも出る所はしっかり出ていて、顔立ちも良く整っており、将来は美人に成長していくだろうことが分かる。
彼女の名はリゼット・キャバイュ。イブリースがかつて紛争地帯で出会った従者にして、伴侶に選んだ少女である。
自分でも気付かないうちに緊張していたのだろうか。リゼットの、愛する少女の笑顔を見て、頬が緩むのが自分でも分かった。
飛びついてきた華奢な体をしっかりと抱き留めてやる。
二人の身長は同程度なので、ギュッと抱きしめ合ったら頬がちょうど触れ合う。
「お疲れ様です、王子……」
「言われるほどのことはしていないがな。だが、お前の顔を見てそんなものはどこかに行ってしまったよ」
「王子ったら……」
しばしそのまま抱き合い、やがて身を離して広い廊下を歩き出した。
「どうでした? 王の様子は」
「随分と機嫌が悪そうだったな。入った途端にノートパソコンを投げつけられたよ」
「それは……やっぱり、例の噂についてですか?」
例の噂。もちろん、世界最強の吸血鬼、第四真祖についての噂だ。
「そうだ。どうやら父上は、その第四真祖となった少年が気に食わんらしい」
「少年……確か、高校生でしたっけ」
「ああ。どこにでもいるような顔をしていたが……どうやら、俺たちと同じのようだ」
「同じって、
「それも、両方。
「へ、へぇ~」
驚きのあまりにぽけっとした間抜けな顔に、イブリースは珍しく心からの笑みをこぼした。
気性の荒さで知られる彼がこんな表情を見せるのは、父親の前か、愛するリゼットの前かだけである。
それを知るリゼットは、彼のこんな表情を見ると嬉しくて仕方がないのだ。
「お、王子! これからどうしますか? も、もしよければ、私と一緒に街にでも!」
「それはいいな。是非ともだ。――あと、リゼット」
「はい?」
「その、王子という呼び方はやめろと言ったはずだぞ。お前はイブリースで構わん」
「え、えっと、でも、こういう人の耳目があるところでは、王子と呼べって……」
「今からは構わん。どこであろうと、いつであろうと、イブリースと呼べ」
「え……」
悪戯っぽい笑みを浮かべて言ったイブリースの言葉に、疑問符を浮かべていたリゼットだったが、次第に表情に理解の色を浮かべていった。
イブリースは最後にもう一言、優しい笑顔で付け加える。
「父上の許可は取ってある。好きにしろ」
「……ッ!」
それを聞いて、リゼットは喜色満面でイブリースに再び抱きついた。
結構な勢いがあったが、イブリースも難なく受け止めて、背中を擦ってやる。
「本当に、いいんですよね……?」
「ああ」
「いつでも、イブリース様、って呼んでいいんですよね……?」
「ああ」
「いつでも……どこでも、こうやっていいんですよね……?」
「それは少し気恥ずかしいが……ああ」
「ふっ、ふええぇぇぇ~ん……っ」
「おいおい……仕方のない奴だな」
本格的に泣き出してしまったリゼット。嬉し涙だと分かっているので、イブリースは好きにさせることにした。
ポンポンと頭を撫でてやりながら、イブリースは思索した。
ようやく覚醒した第四真祖。かつて不本意なことに途中で離脱せざるを得なかった宴。
あれをもう一度繰り返すつもりはないが、会ってみることぐらいはしてもいいのではないか。
「これから、いろいろと面倒なことがあるかもしれんが、それが片付いたら……新婚旅行がてら、絃神島に行ってみるとするか」
完全に無意識の呟きだったが、もちろんリゼットに聞き咎められて、絶対の約束を取り付けられることになるイブリースだった。
§
彼女は、とある高層ビルの屋上の縁に腰かけて、己の目が捉えた光景を反芻していた。
荒れ狂う力の嵐が、九頭大蛇の怪物を消滅させる様を。
遥か遠方を見通すことができる
ここから絃神島まで数百キロ以上はある。それだけの距離を見通してみせたのだから、彼女の技量と
「五番目……〝
くくっ、と彼女は喉を鳴らして笑った。
薄い布を羽織っただけの裸足の足をぷらぷらさせながら、彼女は小気味よさそうに笑った。
強いビル風に、彼女の宝石のような淡い緑色の髪がなびく。瞳は深い湖のような翡翠色。
年端もいかぬ少女のような姿だが、どこか野生の豹を思わせる、愛らしくも力強い美貌だ。
この屋上には、彼女以外には誰もいない。一人きりだが、彼女は構わず独白を続けた。
「《
彼女の口元に浮かぶのは、酷薄でありながら獰猛な、獣のような闘争心に溢れた微笑。
古城が見せた力は、彼女の闘争本能を刺激したのだ。
そして、
「くふふ……だが今はそれ以上に、
何故なら、
「再び会えると思っていたぞ。……
古城の前世の内の一つ、冥王シュウ・サウラ。
その名を、彼女は愛おしげに口にした。
数千数万数億年前の太古の記憶を反芻するように、瞑目する。
彼女の昂りに応じるように、彼女の全身から、振り落ちる稲妻のように苛烈で、妖しき
「くふふふ……ああ、シュウ・サウラよ。お前と互いの力と力をぶつけ合わせたあの一時……前世においても現世においても、あれほど充実した時間を堪能した覚えはない……」
かつて、前世において出会った、二つの生涯において最強の敵を、彼女は思い出していた。
《雷帝》ヴァシリーサの名で君臨し、冥王シュウ・サウラと戦った、あの時を。
第十三階梯闇術と第十三階梯闇術――互いの禁呪すら出し合い、それでも決着がつかず持ち越しになってしまったが――
「運命とやらもやるではないか。なあ、お前もそう思うだろう、シュウ・サウラ?」
だが、今のシュウ・サウラならぬ暁古城と戦う価値はない。
古城が最後の一撃に選んだのは、第五階梯闇術《
第五階梯でも一応は大魔術に分類されるが、彼女の域に来ると、それでも弱い部類になる。
例えライトセイヴァーとして光技を使えるとしても、眷獣を一体しか掌握できていない現状では、まず勝負にならないだろう。
だから――
「早く全てを思い出せ、暁古城……全盛期のシュウ・サウラほどまでとは言わぬ、だがせめて禁呪の一つぐらいは思い出せ」
今少しだけ、待ってやる。
《雷帝》と《冥王》、
「いつか、いつか必ずこの
その時までに、今よりも、もっと、もっともっと、もっともっともっともっともっともっと……。
強くなれ。
無限の闘志と、無限の愛情をこめて、彼女――ジャーダ・ククルカンは独白した。
「いずれ来たるその時……楽しみにしているぞ、我が愛しき死者の王よ……」
ジャーダ・ククルカンの正体は、第三真祖。
二十七体の眷獣を従え、中央アメリカを支配する
〝
§
「熱い……焼ける。焦げる。灰になる……つか、追々試って何だ、あのちびっ子担任!」
殲教師の事件やら九頭大蛇やら何やらがあった日から数日後の月曜日。学生食堂端っこの、日当たりの良いテラス席。
テーブルの上に広げられた参考書を眺めて、暁古城は叫んだ。
夏休み最後の追試の結果は、残念ながら、出席日数不足を埋め合わせるために必要な点数には遠く及んでいなかったようだ。おまけに夏休み明け初日の授業をサボったことが問題視され、結果的に下された処分が、追々試というわけである。
絃神島を沈没の危機から救って、アホみたいな化け物と戦った代償がこれでは、あんまりではないかと古城は思う。
「まーまー、落ち着きなさいって。まだ試験の日までは間があるでしょ?」
そう言って古城を慰めたのは、対面の席に座った華やかな女子高生、藍羽浅葱だ。
あの事件以来、浅葱が妙に親切になった。今日もわざわざ放課後を使って勉強を教えてくれるのだという。
浅葱は、オイスタッハたちを止めて絃神島を救ったのが古城たちだということを知っている。結果的に浅葱からしてみれば、古城が彼女のことを命懸けで助けた、という風に思えたのかもしれない。
そしてさらにもう二人、
「だーいじょうぶよ、兄様! このパーフェクトな妹に任せておけば、試験なんて楽勝よ! 大船に乗ったつもりでいればいいの!」
「あら? 泥船でなければいいのだけれどね」
「漆原ァ! いちいち茶々入れるんじゃないわよ、何か文句でもあるワケ!?」
「滅相もないわ、狸さん」
「ぬぁんですってえ……!」
古城を挟んで始まる口喧嘩。いつものこととはいえ、この状況でやられると頭に来るものがある。
古城は渋面になって、両隣を占拠して自分にぴったりと寄り添う二人の少女、嵐城サツキと漆原静乃に苦言を呈した。
「お前らな……勉強教えてくれるんじゃなかったのかよ? つうか、お前らの勉強は?」
「あたしは必要ないもの」
「嵐城さんに同じくよ」
「ぐくっ……そういえば、お前ら成績よかったな」
静乃は万事そつなくこなすことを知っているため不思議はないが、このバカっぽい妹さまは人一倍努力家なため、学年でもトップの成績なのだ。
いつもはこれ以上なく騒がしいくせに。バカっぽいくせに。
「それもそうね、なら真面目に勉強を教えるとしましょうか。分からないところはあるかしら?」
「ん、ああ、じゃあここなんだが……」
「って漆原! 隙あらば兄様に抱きつかないでよ!」
「近づかないと見えないわ?」
「なら引き寄せればいいでしょ、そっちに!」
「それじゃ古城が見れないわ? 本末転倒じゃない」
「う……それは……」
「諦めるなよ、サツキ!」
「…………あんたたち元気ねぇ」
そんな古城たちを見て、浅葱が僅かに頬を引き攣らせながら呟いた。それより助けて欲しいのだが。
縋るような目で浅葱を見つめた……ところで、静乃が古城の膝に寝転がってきた。
女子としては大分軽い方になるため古城にとってはそこまで苦ではないのだが、ここでもやはり妹様が突っ込んだ。
「うぅるぅしぃばぁらぁ……! あ、あんた、何ちゃっかり兄様の膝使っちゃってるワケ! 返してよ、そこはあたしのベストポジション!」
「僻みはよくないと思うわ? それに、膝ならもう片方が空いてるじゃない」
「あ、それもそうね。……それじゃ、失礼しまーす」
「おい! 暑苦しいんだよ!」
結局サツキも、古城の膝に寝転がってしまった。
お前ら実は仲いいだろ……と古城は嘆かずにはいられない。
力づくでどかしてもいいが、先日の一件でこの二人が傷つき、疲れ果てているのも知っている。
そして何より、
(こんな安らいだ表情されたらな……)
甘いとは分かっていても、どうしても無碍には出来ないのだった。
そんな古城の考えを読み取ったのかは定かではないが、浅葱も珍しく何も言わずにいてくれた。
しばしば三人に教えを請いながら、少しずつ参考書を解いていると、
「試験勉強ですか、暁先輩……? そこの公式、間違ってますよ」
突然、近くで聞き覚えのある声がした。
古城が驚いて顔を上げると、そこには夕陽を背にした雪菜が立っていた。
もちろん中等部の制服で、背中には黒いギターケースを背負っている。ケースの隅っこには、例のネコマたんがちょこんと結び付けられていた。
「ひ、姫柊? 何で……確か、監視役は解任されるかもしれないって言ってなかったか……?」
第四真祖の眷獣を暴走させて、倉庫街を焼き払った。
監視対象である第四真祖を、危うく目の前で殺されかけた。
戦いを拒む第四真祖を、けしかけて戦場へと連れ出した。
おまけに彼が眷獣を使えるようにと、自分自身の血を与えすらした。
どれ一つとっても、監視役としてはあるまじき振る舞いである、と、彼女が妙に沈んだ様子で話してくれたはずだったが――
「すいません、大丈夫だったみたいです」
雪菜はいつもの冷静なものとは違う、どこか悪戯っぽい口調と声音で言った。
嬉しさが隠し切れていないその態度に、先程から黙って見ていたサツキ、静乃、浅葱が警戒レベルを引き上げる。
古城はそれには気付かず、自分でも不思議な安心感を覚えながら、
「そうか……まあ、よかったよ。姫柊も元気そうだしさ」
「え? わたしですか? はい、わたしは別に何とも……」
「いやほら、俺が公園で姫柊に、あんなことをしちゃったわけだし」
「あんなこと……っ!」
怪訝そうにしていた雪菜だったが、それに思い至ったのか、突然爆発的に頬を染め上げた。
古城に自分の血を吸わせるために、彼女がやったことを思い出したのだろう。
「あ、いえ……あれは……できれば、忘れて欲しいんですけど……」
「そういうわけにもいかねーだろ。身体の方は大丈夫なのか? 姫柊も、あとサツキも」
一応真剣な表情で、古城は目の前に立つ雪菜と膝の上に寝転ぶサツキに訊いた。
吸血鬼に血を分け与えられたのなら問題だが、血を吸われるだけならば大した影響はない、と言われている。
だが、万が一ということもある。その覚悟もなく異性を〝血の従者〟としてしまったなら、それは大問題だ。
しかし二人は、心配ない、と首を振って、
「はい。一応簡易検査キットで調べましたけど、
「あたしの方もそれ借りて調べたけど、問題なしってー。……いっそのこと、ホントに従者にしてくれればよかったのに」
微笑む雪菜に、僅かに不満そうなサツキ。
妹のアホな意見は聞き流すとして、古城は安堵の息を吐いた。
「すみません、心配させてしまって……」
「いや……何ていうか、悪かったな」
「せ、先輩は悪くないです。あの時は、わたしの方からしてほしいと誘ったわけですし……」
「そ、そうか」
雪菜が恥じらうように顔を伏せて、古城もひどく照れ臭い気分になった。
だがすぐにもう一人のことを思い出して、膝の上にある頭を撫でながら謝罪する。
「サツキも。悪かったな、痛い思いさせちまったし」
「んーん、全然! ちょっと血が出ただけだったし……それにね、何か、
「前世の?」
「うん。……
おい、お前は実の妹相手に何をしてるんだ、前世の自分よ。
うっとりとした表情で首筋を擦るサツキに、古城は顔を顰めた。
「……ねえ、兄様……ううん、古城」
「何だ?」
「セキニン、取ってくれるんでしょ?」
本当に、心の底から嬉しそうな表情で見上げてくる妹に。
古城は、心の底から優しい笑みを浮かべて、頷いた。
「もちろんだ。あの時そう言ったしな」
「えへへぇ……古城~♪」
にへっ、とだらしなく表情を緩めて腰に抱きついてくるサツキ。
やはり凹凸は少なくとも確かに女子で、柔らかさやら匂いやらでドギマギしてしまうが、それでも妹として見られるように努力すると、約束したのだ。
ならばこれも兄妹間のスキンシップとして我慢するしかないだろう……できるかどうかは別として。
さらりとサツキのポニーテールをどけてみると、首筋に小さな絆創膏が貼られているだけだった。
古城は、ふう、と息を吐き、
「――ッ!?」
その全身が瞬時に凍りついた。
雪菜の背後の植え込みから、ゆらりとゾンビのように、
「ふーん……古城君が、雪菜ちゃんとサツキお姉ちゃんに何をしたって?」
低く怒りを押し殺したような声で、少女が訊いてくる。
「な、凪沙? お前、どうしてここに……」
「あたしは雪菜ちゃんの付き添いで来たんだけど。古城君が試験勉強してるっ浅葱ちゃんから聞いてたから、励ましてあげようと思って来たんだけど。そしたら三人で、聞き捨てならない話をしてるみたいだったし……その話、もっと詳しく聞かせてもらえないかなぁ……?」
暁凪沙が、思わず背筋が震え上がるような攻撃的な笑みを兄に向けた。
吊り上げた唇の端がぴくぴくと痙攣しているのは、怒りが頂点に達している時の彼女のクセである。
「ま、待て凪沙。お前は多分、何か誤解してると思う! なあ、姫柊、サツキ!」
古城は必死で弁解しようとする。隣で雪菜もコクコクと首を縦に振っている。
しかし凪沙はむしろ、その息の合った動きにますます怒りを深めて、
「ふーん、誤解? 古城君が雪菜ちゃん達の初めてを奪って痛い思いをさせて体調を気遣っちゃったりして、おまけに責任を取らなきゃいけないようなことの話の、どこにどう誤解する要因が……?」
「だから、そのお前の想像がもう何もかも全部誤解なんだが……」
古城は途方に暮れた表情を浮かべた。
しかし凪沙に本当のことを話すわけにはいかない。
彼女には、せめてもうしばらくの間は、古城が吸血鬼であることを知らないでいて欲しいのだ。
「ねえ、古城?」
古城が頭を抱えていると、不意にいつの間にか起き上がった静乃が、古城の膝に手を置いてきた。
その手は抓るでもなく叩くでもなく、ただゆっくりと撫でてきているだけのはずなのに、古城は全く身動きが取れずにいた。
「し、静乃サン?」
「今のお話、私もとっても興味があるわ? 私が大変な思いをしてあなたからの命令を必死に遂行している時に、あなたは嵐城さんたちと何をしていたのかしらね……?」
怖い。能面のような無表情が、今はただひたすらに怖い。
心なしか、静乃の背後から黒いナニカが湧き出ているように見えた。
「い、いや、だから違うんだって! 俺は別にそんな……」
「何よー、古城があたしのことをキズモノにしたのは事実でしょー?」
「っな!」
「ふぉーっふぉっふぉっふぉ! ついにこのサツキちゃんの時代が来たわ! 残念だったわね、漆原! 可哀想に出遅れちゃったあんたはついにかったーい絆で結ばれてしまったあたしたちがイチャイチャしてる所を、爪を噛んで悔しげに見ていなさい!」
「お前もうちょっと黙ってろ!」
こういう時に余計な一言で火に油を注ぐのが、嵐城サツキという少女である。
古城は全力で叫び、静乃の背後のナニカが勢いを増した。
恐怖に震えて背後に逃げ場を求めた古城だったが、その方向を見て、ひっ、と喉を詰まらせることになった。
とても世界最強の吸血鬼とは思えない醜態だが、無理もない。
制服を粋に着こなした華やかな顔立ちの少女――藍羽浅葱が、その美しい美貌に復讐の女神を思わせる冷たい怒りの炎を宿して古城を睨みつけていた。
「ま、待て、浅葱! これには込み入った深い事情が――ってか、何でお前が怒ってんだ!?」
咄嗟に全力で謝ろうとする古城だったが、
「あんた、最低」
浅葱は無表情に言い放ち、手に持っていた紙コップの中身を、容赦なく古城の顔面に叩きつけるようにしてぶちまけた。
酸っぱい匂いだ。クランベリーソーダと赤ぶどうジュース。
ほぼ水平に放たれたため、今も古城の膝の上にいたサツキにはかからなかったが、古城の顔面は大流血したかのように真っ赤に染まった。
「せ、先輩!?」
慌ててハンカチを取り出した雪菜にも、浅葱は敵意剥き出しに詰め寄って、
「あなたも。いい機会だからはっきりさせておきたいんだけど、古城とどういう関係なわけ?」
「わたしは暁先輩の監視役です」
「監視? ストーカーってこと?」
「違います。わたしはただ先輩が悪事を働かないようにと思って――」
雪菜も一歩も引かず、二人の少女は見えない火花を撒き散らしながら睨み合う。
一見穏やかな物腰に見えて、実は雪菜も武闘派である。
「そのあなたが、このバカを誘惑してどうするのよ!?」
「そ、それはそう……ですけど……」
「おいっ! 負けるな姫柊!」
心に疚しさがあるせいか、納得してしまいそうになる雪菜。どうやら浅葱の方が一枚上手のようだ。
沈黙した雪菜から視線を切り、浅葱は古城を蔑むように冷ややかに眺めて、
「誰か、ここに淫魔が! 妹さんのクラスメイトに手を出す淫魔が居ますよ――!」
「やめろ浅葱! 少しは話を聞けっ!」
「古城君のドスケベ! 変態っ! エロっ! いくらなんでも不潔だよ……!」
「や、止めてください、二人とも。確かに暁先輩はいやらしいところもありますけど……」
「凪沙もちょっと黙ってろ! 姫柊も全然フォローになってないからな!?」
「古城、後で詳しく話を聞かせてちょうだいね?」
「静乃は静乃で怖いんだよ! いい加減、その黒いの何とかしてくれ!」
「ふぉーっふぉっふぉっふぉっふぉ! 諦めなさい、この有象無象! これからあたしと古城のラブラブアツアツの甘っまーいラヴストーリーが幕を開けるんだから!」
「あーもう、俺にどうしろってんだよ!」
大騒ぎする古城と、五人もの美少女達。それに惹かれて、周囲の生徒たちの視線が自然と集まる。
男子生徒の嫉妬と羨望の、女子生徒の侮蔑と嫌悪の視線を受けながら、古城は深々と溜め息を吐いて空を仰いだ。
「……勘弁してくれ」
思わず呟く。
しかし彼は気付いていない。
世界最強の吸血鬼にして、
第四真祖にして《
いかがだったでしょうか。
途中入ってきた変なのはやりたかっただけです。すいません。個人的にイブリスベール王子が好きなんです。
リゼットちゃんについてですが、原作キャラです。出オチキャラです。
どっちの作品の何巻のどこで出てきた、まで分かった人は心の底からすごいと思います。
来週再来週は多忙を極めるので、第二章はお待たせすることになってしまうと思いますが、ご了承ください。