血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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更新、お待たせしました。
みほはついに…
今回、視点の変更が目まぐるしく、話が分かりにくいかもしれません…


第82話 闇市場

優花里はみほから50回の鞭打ちを受けて、ようやく吊るされた状態から解放された。優花里の手首は痛々しい縄の跡が、身体中には鞭で打たれた無数の傷跡が残った。みほは手で梓に優花里たちを収容するように命令した。それを見た梓は頷くと優花里と局員たちの鎖を引っ張って特別収容室に収容した。特別収容室は生物化学兵器の実験が行われる部屋だった。梓は雑居房の扉を開けて投げ捨てるかのように優花里たちを中に入れる。優花里たちは小さく悲鳴をあげた。梓は意地悪そうな笑みを浮かべると雑居房の鍵をかけて去っていった。しばらく誰も彼もが無言を貫いていたが、一人の局員が口を開く。

 

「優花里さん…私たちどうなるんですか…」

 

彼女の名前は安井恵、1年生だった。優花里は彼女の話を日頃からよく聞いていた。彼女は妹を守るためになんとしてもこの戦争を生き延びることを誓っていた。彼女はまたポツリポツリといつものように自分たち姉妹の生い立ちと自分たちが今回の戦争の体験を話し始めた。彼女は中学1年生の時、父親を中学2年生の時には母親を病気で失っている。しかし、彼女は決して一人ぼっちではなかった。彼女には仲良しの妹、美咲がいたのだ。美咲は今、小学校4年生である。恵がここ大洗女子学園に入学してしばらくは親戚に預かってもらって暮らしていた。しかし、親戚は美咲を邪魔者扱いし、冷たく当たった。しばらく美咲はじっと我慢していたが、ついに心が悲鳴をあげ始め、美咲は堪えきれなくなった。美咲は恵に手紙を書き、親戚の家で受けた辛い仕打ちを書き連ね、姉の恵に助けを求めた。恵は最初こそ我慢してほしいと返事を書いていたが1日に何通も届くようになって、流石に見過ごせなくなり、生徒会長の杏の許可を得て美咲を大洗女子学園学園艦の寮に迎え入れた。これから2人だけの幸せな生活が始まる。そう思った矢先のことだった。反乱軍の蜂起による戦争が始まったのだ。戦争は彼女たちの幸せな日常を奪い去った。恵は妹の美咲を嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた恩を返すために、杏が率いる生徒会軍の兵士として志願し、農業科と水産科の食料施設の守備を任されることになった。最初は自分たち姉妹を助けてくれた杏を苦しめるみほたち反乱軍をやっつけてやろうと軽い気持ちで参加していた。しかし、いざ戦闘が始まってみると恐ろしくて仕方なかった。恵が体験した戦闘は籠城戦であり、直接的な銃の撃ち合いなどはないとはいえ、やはり戦争は命と命のやり取り、殺し合いである。反乱軍の銃口は常に自分の命の火を消すために虎視眈々と狙っているのである。さらにみほがとった作戦が恵を恐怖のどん底に叩き落とした。みほは苛烈な心理戦を行なったのだ。犠牲者たちの遺体を食料施設の前にうず高く積み上げて、さらに戦車で昼も夜も空砲の射撃を続ける。この作戦は恵をはじめとする生徒会軍の兵士たちの精神を著しく冒した。気が狂ってしまった者が多く出た。そして、恵も耐えきれなくなった。外にうず高く積まれている遺体を見ると、みほが遺体の頭を踏みつけるなどして弄んでいる。自分はあんな姿になりたくないと思った。そして恵は決意した。生徒会軍を捨てて、反乱軍に寝返ることにしたのだ。恵はこっそりと部隊を抜け出して、みほと面会した。そして、恵はみほに合図とともに一緒に攻撃するように求められた。その日の夜は眠れなかった。そして、ついに反乱軍総攻撃の日、恵はみほたちとともに今まで味方だった生徒会軍を攻撃した。混乱した生徒会軍が総崩れになったのはいうまでもない。戦闘終了後、恵たちは優花里が身元引き受け人になり、優花里にスパイのスキルを徹底的に叩き込まれた。恵は生き抜くために必死にスパイスキルの習得を目指した。優花里は恵たちに優しく接した。恵は優花里のことをまるでお姉さんのように思って接していた。恵は優花里を信頼していたのだ。そして、恵は優花里たちと初任務のアンチョビ誘拐作戦を成功させた。これで、ようやく優花里の役に立つことができる。そう思っていた矢先のことだった。恵は突然、小梅率いる黒森峰部隊に逮捕された。小梅いわく、自分たちがみほに反逆したというのだ。自身にかけられている容疑に全く身に覚えがない。必死に否定したが聞き遂げられることはなかった。恵たちはみほの執務室に連行される。みほの前に引き出された恵は目を剥いた。目の前に、傷だらけになった裸の優花里が吊るされていたのだ。優花里は吊るされながらも恵たちは関係ないから釈放してあげてほしいとみほに頼む。しかし、みほは罪を認めないと自分たちを拷問して辱め、処刑すると優花里を脅迫した。恵は心配そうな顔をして優花里を見る。優花里も泣きそうな顔をしてこちらを見ている。その時だった。みほが恵の首にそっと触れた。そして、みほは恵の耳元で囁く。

 

「ふふふ…貴女可愛いね…高く売れそう…」

 

みほの冷たい手の感触が首に走る。恵は怖くて身体を硬直させた。恵はみほが何を言いたいか意図を図りかねていた。そして、ついに優花里は罪を認めて話し始めた。優花里はアンチョビを脱出させようとしていたのだ。恵は優花里らしいと感じていた。やはり優花里に悪事は似合わないのだ。だから優花里に対して怒りなどという感情は感じていなかった。むしろ優花里の勇気ある行動を褒め称えたいくらいだ。そして、今この事態に至る。優花里は全ての話を聞き終わると静かに呟く。

 

「安井殿…ありがとうございます…そうやっていってくれることがせめてもの救いです…」

 

優花里は恵に礼を言う。すると恵たちは心配そうな顔をして優花里を見る。

 

「優花里さん…本当に私たちはどうなるのでしょうか…?私たちは死ぬんですか…?私は死にたくない…妹のためにも…」

 

恵の心からの願いを聞きすすり泣く声が聞こえてきた。優花里は必死に彼女たちを励ました。

 

「大丈夫。大丈夫ですよ…きっとわかってくれます。私はまだしも西住殿も罪がない貴女たちまで殺すなんてことはないと思います。」

 

すると梓が定刻の見回りにやって来た。

 

「よし。皆さん。大丈夫ですね。」

 

梓は窓から覗き込みながら呟く。優花里は梓にせめて局員たちだけでも助けてもらえるように頼むことにした。

 

「澤殿…お願いがあります…せめて…あの子たちだけでも助けてあげてください…私はどうなってもいいから…お願いします…」

 

優花里は必死に頭を下げた。しかし、梓は知っていた。その願いは決して届くことがないと。なぜなら、もはや運命は決まっていたからだ。梓はその届くことのない願いを聞きながら、先ほどまでのいきさつを思い出していた。

 

*****

 

梓は、優花里たちを特別収容室に連行した後、みほの執務室に戻った。みほはその時ちょうどどこかに電話をしようとスマートフォンをいじっていた。梓はふと気になって、みほに電話の相手を尋ねた。

 

「隊長。誰かにお電話するんですか?」

 

するとみほはニコニコ微笑みながら躊躇うことなくさらりと答える。

 

「うふふふ。人身売買のブローカーさんだよ。あの優花里さんの部下の子たち、やっぱり処刑するくらいなら人身売買で売り払って一儲けしようかなって思ってね。」

 

やはりそうかと梓は思った。梓は一言なるほどと呟く。みほは何も言わずにニコニコ微笑むと電話をかける。電話はしばらく呼び鈴が鳴り続けた。しばらくすると留守電になった。みほはメッセージを残す。

 

『西住みほです。ちょっと買ってほしい人がいるんだけど、見に来てくれませんか?』

 

すると10分もしないうちに電話がかかって来た。この手の業者はまず留守電で誰かを確認してから掛け直してくるらしい。

 

 

『もしもし。西住みほです。』

 

『西住さん。お世話になっております。本日は買ってほしい人がいるということですが、どんな人ですか?』

 

『健康な日本人の少女です。こちらとしては契約は売春はもちろんですが奴隷として使い物にならなくなったら臓器から骨まで全てを売るという契約にしたいのですが、どうでしょうか?』

 

『あははは!西住さんも悪い女だ!わかりました。そのように手配します。臓器全てに骨や血液、皮膚まで売っていただけるということになると大体ですが1人30億円ほどになると思います。詳しくは査定してからになりますが…1つ確認しておきますけど、その子たちって処女ですか?』

 

みほは再びニヤリと悪い笑みを浮かべると頷く。

 

『うふふふ。私は目的のためなら手段は選びませんよ。私は、女の子がいたぶられて涙を流す姿を見るのが大好きなんです。はい。もちろん処女です。それも、査定する時にご確認ください。それでは、知波単の輸送機を成田空港に派遣しますから、明日の9:00に搭乗してください。よろしくお願いします。』

 

『本当に悪い女だ。貴女みたいな悪魔はそうそうたくさんはいませんよ。私たちとしてはいいお客様なので、むしろ嬉しいですが…わざわざありがとうございます。それではまた明日。』

 

『うふふふ。はい。また明日。』

 

みほは電話を切った。そして梓の方を向くと、何事もなかったように微笑む。

 

「梓ちゃん。囚人の様子を見て来てくれないかな?」

 

*****

 

そして、梓は今特別収容室の目の前にいるのだ。梓は少しためらいながら一言だけ呟く。

 

「わかりました。隊長に伝えておきます。」

 

しかし、現実は非情である。次の日の朝、突然梓がやってきたと思うと部屋から出るように命じた。外に出ると再びみほの執務室に連行された。みほは椅子に座って待っていた。

 

「うふふ。みんなおはよう。今日はみんなにお客さんを連れてきたから後で紹介するね。優花里さんはこっちに来て。」

 

みほは優花里に手招きをする。優花里は下を向いてトボトボと歩きながらみほの机の前に向かう。するとみほは満足そうに笑いながら優花里にあるものを手渡した。それは首輪だった。

 

「これは…?」

 

「うふふふ…優花里さん。これをあの子たちに、着けてあげて。」

 

優花里は黙って首輪を受け取ると再びトボトボと歩きながら恵たちの前に立つ。優花里は躊躇っていた。こんなことは屈辱だろう。優花里のそんな様子を察したのだろうか。恵は優花里に声をかける。

 

「優花里さん。いいですよ。着けてください。」

 

「でも…」

 

「気にしないでください。さあ着けてください。私は全く気にしませんから。」

 

優花里は何度も謝りながら10人に首輪をつける。みほはそれを嘲笑いながら見ていた。全ての首輪を着け終わるとみほは高笑いした。

 

「あっはははは!みんなよく似合ってるよ!首輪してる姿も可愛いね!ペットみたい!あっはははは!さあ、お客様がお待ちかねだよ!みんなこっちにおいで!」

 

優花里と局員10人はみほに腰縄を引っ張られながら大部屋に連れていかれた。大部屋に行くとそこには見慣れない男がいた。男はニヤリと笑うとみほに尋ねる。

 

「この子たちが商品かい?」

 

「志村さん。お待たせしました。ええ、あの天然パーマの子以外は全員です。うふふふ。なかなか上玉でしょ?」

 

みほはニヤリと怪しげな笑みを浮かべると少しだけ間をおいて答える。志村といわれたこの40代くらいの男は、人身売買などの闇市場を渡り歩くブローカーだった。未成年の日本人女性はなかなか高い値段で売れる。臓器まで全て売り払えば30億円ほどは確実に手に入るのだ。この金でみほは戦争継続のために武器を購入しようとしていた。

 

「うん。それじゃあちょっと見せてくれ。何も問題がなければそのまま買っていこうと思うけど、いいかな?」

 

「はい。もちろんです。よろしくお願いします。」

 

志村は局員たちの身体の品定めを始めた。恵は10人の中で一番最後に査定された。志村は恵の服を掴むと両手で引き裂く。

 

「いやああああああ!」

 

恵は手を胸の前に組み、必死に抵抗した。しかし、志村は男だ。当然力で勝てるわけもない。ベッドに寝かされて両手両足を縛られてしまった。志村はいやらしい手つきで、引き裂かれた恵の制服をはだけさせる。

 

「ふーん。真っ白な綺麗な肌してるじゃん。可愛いなあ。ふふ…怖がらなくていいよ…おまえは大事な商品だからなるべく傷つけたくないんだ…抵抗するなよ。」

 

「いやだ…お願い…やめて…」

 

志村は懇願するような恵の声を聞くと嬉しそうにニヤリと笑い恵の身体に触れる。恵は恐怖と身体中を駆け巡る気持ち悪い志村の手の感触に身体を震わせた。

 

「肌もスベスベのモチモチで…それに…処女…ふふ…西住さん。これは高く売れますよ。特に日本人は闇市場で人気なんです。臓器も健康的だし、身体も綺麗だから。さらに年端もいかない少女で処女となればそれはもう…それじゃあ、早速ですが手続きを。1人31億450万円で買います。」

 

するとみほは両手を可愛らしく振りながらその手振りと比例するような可愛い笑顔で笑う。

 

「いえいえ、初めての取引ですから、お近づきの印として少し値下げしますよ。30億円でいいですから。これからもこの取引続けていきたいと思っていますからよろしくお願いします。」

 

「これはまた恐ろしい悪魔とは思えないほど良心的な…ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 

みほと志村は互いに声をあげて高笑いした。志村は乗って来た飛行機に積んである何千億の大金の中からみほに10人分の料金300億円が引き渡された。みほは両手を縛られ、首輪を着けられた恵たちを満足そうに眺めると頰を撫でながら耳元で囁く。

 

「ふふふ…ありがとう。貴女たちのおかげで大儲けできたよ。こんなに大金が手に入った。これで武器がたくさん買える。」

 

みほは、恵たちの感情を逆撫でした。恵たちは一瞬だけ全てを諦めたような表情をすると憎悪の顔をみほに向ける。みほは気にすることなく頭を撫でて嘲笑った。今度は優花里のもとへ向かった。

 

「優花里さんのおかげだよ。優花里さんが私に逆らってくれたからあの子たちを罰する口実ができた。罪のない子たちが自分のせいで罰せられて二度と戻らぬ旅へ向かわされる気分はどう?うふふふ。悔しいだろうね。特に自分が手塩にかけて育てた子たちだもんね。実は、最初は優花里さんの処刑も考えていたけど、一番優花里さんが苦しむ方法を取ろうと思ったんだ。優花里さんにはこれからもたっぷりと生き地獄を味わってもらうね。生きながらの地獄は死ぬより辛いよ。優花里さんには耐えられるかな?優花里さんの可愛い苦痛の叫び声と泣き声、喘ぎ声胸を高鳴らせながら楽しみに待ってるからね。あっはははは!」

 

「そんな…」

 

優花里は下を向いて呻く。それしか言葉にできなかった。志村は恵たちをまるで奴隷のように扱った。裸にして首輪を着けたまま、手枷と足枷と腰縄をつけて飛行機に乗せる。志村もまた、少女をいたぶるのが大好きといった様子だった。志村はいやらしい手つきで恵たちを弄ぶ。優花里はみほに惨めな恵たちの姿を見届けるように命令され、強制的にその姿を見せつけられた。優花里は思わず手を伸ばす。しかしその手は届かない。自分が手塩にかけて育てた大切な後輩なのに、助けることもできないし何もしてあげることはできない。優花里は自己嫌悪に陥る。恵は飛行機の窓越しから優花里に何かを訴えようとしていた。恵の口が動く。優花里はそれを一生懸命読み取ろうとした。そして、優花里は気がついた。彼女はこう言っていた。

 

「妹を美咲を…よろしくお願いします。優花里さん。私のぶんまで生きて…さようなら…美咲…さようなら…」

 

優花里の目からじわじわと涙が溢れてくる。みほは飛行機の中でいたぶられる恵たちを眺めながら高笑いする。

 

「あっはははは!これはいい商売だよ!こんな簡単に大金が手に入った!これで私たちは強大な軍事力を手に入れられる。準備は整いつつある。愚かな生徒会の連中を一気に叩き潰してやる!」

 

優花里はめそめそと泣きじゃくっていた。優花里はみほに尋ねる。

 

「西住殿…なんでそんなに残虐なことができるんですか…あの子たちはいったいどうなるんですか…」

 

するとみほは冷たい口調で優花里の問いに答える。

 

「いつも言ってるけど、そんなことは知ったことではないよ。私は、あの子たちを金のために商品として売った。それ以上でも以下でもないよ。あの子たちのその後?そんなこと私には関係ない。私は何も思わない。でもおそらくは散々強姦された挙句、臓器も骨も脳も血液も皮膚も全てを売られてバラバラにされて死んでいくんだと思うよ。そして、闇の世界に消えていく。それだけのことだよ。そういう契約だからね。私が残虐?この世は弱肉強食。彼女たちが悪いんだよ。私より弱かったから。私より弱い人間は私に駆逐されるだけ。それだけだよ。私にとって他の人間はただの道具だ。道具をどう使うかは私次第だよね?うふふふ。」

 

優花里は悪辣で自分勝手なみほの考えに唖然として何も言えなかった。ただみほの冷たい目を見つめることしかできなかった。優花里が反論しようと何かを言おうとした時、輸送機はとうとう離陸体制に入った。幹線道路を滑走していく。優花里はその時、恵の目に涙を見た気がした。優花里は思わず叫んだ。

 

「皆さん!行かないで!私を1人にしないでください!お願い…安井殿たちを連れて行かないで!止まって!お願いです!お願い…です…」

 

知波単の輸送機は優花里を嘲笑うかのようにスピードを上げて大洗女子を離陸して、成田空港に向かって飛び立っていった。みほは泣き叫ぶ優花里を蔑みながら冷たい悪魔の目で見つめていた。


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