血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のお話です。
冷泉麻子さん誕生日おめでとう。
最後にちょっとだけ麻子が登場します。
サブタイトル変更しました。話は変わりませんのでご安心を。


第74話 理不尽な宣告

少女はスキップをしていた。ここだけ切り取ったら無邪気な可愛い女の子だろう。しかし、スキップしている場所を見れば異様な光景だし、理由を聞けば誰もが震え上がる。その少女は、虚ろな目をし、瘦せ細った収容者たちに恨めしそうに見つめられながら残虐な処刑ができることに喜んでいるのだから。みほは梓と合流した。梓は泣じゃくりながらみほに抗議した。

 

「隊長…なんで…なんで言っちゃうんですか…!彩ちゃんに私がここの所長だって…」

 

「隠しててもどうせバレちゃうし、ちょっと梓ちゃんに意地悪したくなっちゃったの。うふふ。ごめんね。」

 

みほはいたずらっ子のような悪い笑顔を見せながら梓の頭を撫でた。

 

「うう…酷いです…あまりにも酷すぎます…あの…隊長…彩ちゃんを釈放してあげることはできませんか…」

 

「うーん、えへへ。」

 

梓はダメ元でみほに彩の釈放を願い出る。しかし、みほはニコニコと微笑むだけで特に何も言わない。釈放する気などさらさらないようだ。

 

「その気はなさそうですね…あの、彩ちゃんお父さんとお母さんと離れ離れになったみたいなんですけど、どこに行ったんですか。」

 

梓は友人が言っていた両親とバラバラになってしまったという話を思い出していた。みほならおそらく友人の両親の行方を知っているだろうと思った。みほはその言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔で梓に問う。

 

「うふふ。梓ちゃん。この間、男の人と女の人の身体を引き裂いて処刑したよね?」

 

「え…?はい…確か、一週間くらい前の話ですよね?二度と体験したくはありませんが…今思い出すだけでも吐き気が…」

 

「うん。そうだよ。梓ちゃんまだわからないかな?うふふふ。」

 

梓は首を傾げてみほが言わんとしていることを考えた。そして、梓は全てを理解した。ダラダラ汗を流してうなだれる。そして、自分の手を見てボロボロと泣き始める。みほは満面の笑みで梓の肩を抱きながら顔を近づけた。

 

「隊長…嘘…嘘ですよね…嘘ですよね…私が…そんな…」

 

梓の目から光が消えた。梓の声は震えている。梓はみほの方を見てカチカチと歯を鳴らす。しかし、運命はあまりにも残酷だった。

 

「あはっ!あははは!梓ちゃんようやく気がついたみたいだね!そうだよ。梓ちゃんが殺したんだよ。友達の両親は梓ちゃん自身が引き裂いちゃった。あははは!彩ちゃんだっけ?あの子にこのことを聞かせたらどんな顔するんだろうね!あっはははは!」

 

みほは梓の心が壊れれば壊れるほど喜んだ。壊れれば壊れるほど支配して操るのは簡単になる。みほは絶望する梓の様子を見て腹を抱えて笑い転げた。梓は友人の大切な人の命をこの手で奪ってしまったという罪悪感にかられどうすればいいかわからないと言った様子だ。梓はうわごとを言いながら下を向いている。それでもみほは止まらない。さらにみほは壊れそうな梓の心をさらに再起不能まで追い込もうとさらなる要求を突きつける。

 

「梓ちゃん。処刑してくれないかな。」

 

「え…?誰を…」

 

「うふふふ。彩ちゃんだよ。」

 

「なんで!なんでですか?彩ちゃんが何をしたというのですか!?隊長は彩ちゃんから両親を奪い、そして私にさらなる罪を重ねろっていうんですか!」

 

梓は鬼の形相でみほを睨む。みほは動じることもなくまあまあと梓をなだめるそぶりを見せて微笑む。

 

「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。彩ちゃん。私に殺害予告をしたんだ。これは立派な罪だから処刑しなくちゃいけない。証拠もしっかりあるよ。梓ちゃん。貴女は私に忠誠を誓ったはずだよね?私の汗で蒸れた素足をあんなに幸せそうな顔をして舐めて、血も飲んだくせに裏切るのかな?貴女は誰のものだっけ?梓ちゃん。うふふふ。」

 

梓は唇を噛み悔しそうな表情をする。そして消え入りそうな声にならない声で呟く。

 

「私は…貴女の…ものです…貴女の…操り人形です…貴女の好きにしてください…」

 

「うん?何?聞こえないなあ!」

 

みほは意地悪な口調で言った。梓は拳をぎゅっと強く握るとわめくようなうるさい声で叫ぶ。

 

「私は貴女のものです!貴女だけの操り人形です!貴女の好きにしてください!」

 

みほは梓を愛おしそうに見つめて梓の頰を優しく撫でてキスをした。

 

「うふふふ。良い子。梓ちゃん可愛いね。それじゃあ、彩ちゃんの処刑よろしくね。後で正式な命令書を渡すから。いいよね?」

 

梓は呆然としてもはや思考は停止していた。何も言わずにいるとみほは微笑みながら

 

「何も言わないってことは同意したってことでいいよね?」

 

と言った。梓は頷いた。どうせ拒否してもみほの支配下にある以上意味がない。無理矢理にでもやらされるのだ。拒否することは死を意味する。まずは生きなくてはならない。生き延びなければ何の意味もない。死んだら負けなのだ。梓は心の中で確かめるように呟いた。

 

(死んだら負け。私はなんとしても生き抜く。)

 

その時だった。みほは口を開く。そして、見ていたかのように心の中で梓が思い浮かべた言葉を復唱した。

 

「死んだら負け。私はなんとしても生き抜く。さあ、それができるかな?うふふふ。」

 

みほは梓の心を見透かしていた。梓は恐ろしくなって震えた声でみほに問う。

 

「なんで…」

 

みほは静かに笑いながらそんなことは簡単だという口調でその問いに答える。

 

「目は口ほどに物を言う。目を見ていればわかるよ。その人が何を考えているかくらい。簡単なこと。」

 

「そんな…」

 

「どうしたの?私に心を読み取られたらそんなにマズイことであるの?私ね梓ちゃんは手にかけたくない…梓ちゃんは私の大切な後輩…私には貴女が必要なの…貴女は一心同体の私の一部…お願い…梓ちゃん…私と一緒にいて…」

 

みほは両手を顔に当てて泣きそうな表情をする。しかし、それは偽りの仮面にすぎない。梓を支配するための偽の涙だ。しかし、梓はみほがつけている偽りの仮面にすっかり騙されてしまった。冷静になればみほがそんなこと考えるわけがないとすぐにわかる。しかし、正気を失っている梓には無理な話であった。みほにあんなに酷いことを言われて友達を処刑しろとまで言われても、みほに必要とされることを望んだ。そして、全てを支配されることを梓は許した。

 

「わかりました…どこまでもついていきます。どこまでも。」

 

みほはパッと満開の笑顔になった。そして嬉しそうに手を叩き無邪気に飛び上がりながら喜ぶ。

 

「ありがとう!それじゃあ、行こうか。」

 

みほは微笑みながら梓の手を引いてスキップしながら楽しそうに歩く。梓は手を引かれてふらつきながらついていく。しばらく歩くと、ようやく会場に着いた。そこには2日ぶりに見る痛々しい姿の空の姿があった。やはりまだ傷が痛むようだ。空は右手を抑えながら苦しみ悶えている。みほは寝かされている空のそばにしゃがむと空の頰を撫でながら耳元でそっと囁いた。

 

「空ちゃん。目を覚ましたみたいだね。どう?よく眠れた?えへへ。」

 

「ひっ!みほさん…来ないで!」

 

空は痛みに耐えながら飛び起きて後ずさりをする。みほはくすくすと笑いながら立ち上がった。

 

「ふふ…ずいぶん怖がられてますね。そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。気分はどうですか?」

 

「気分はどうって…最悪ですよ…手の指を失って…!私の人生これからどうなるんですか…」

 

空は泣きながらみほの身体に拳を打ち付ける。包帯から血が滲み、みほの服を血で濡らした。みほはその様子を蔑みながら眺めて冷たい口調で言い放った。

 

「そんなこと、私の知ったことではありませんよ。私はこのゲームを強制した覚えはありません。貴女がやりたいと言ったんでしょ?全て自己責任であり、貴女が選択したことです。貴女の後の人生までは預かり知りませんよ。まあ、最もこのゲームから生還できればの話ですけどね。うふふふ。」

 

「そんな…ひどい…」

 

みほはそれでもなお、食い下がってくる空を鬱陶しそうに見ると振りほどく。

 

「邪魔です。離れてください。さあ、空さんも目が覚めたことですしゲームの続きをやりますよ。席についてください。もたもたすると今ここで死んでもらうことになります。まあ、皆さんにとってはそっちの方が助かるでしょうけどね。ふふ…」

 

みほは懐から拳銃を取り出して空の頭に突きつけた。空は小さく声を上げる。

 

「ひっ!やめてください…」

 

空は素直に従った。息を切らしながら痛みに耐えてなんとか席に着く。長女の真央以外の川谷家の人たちは一斉に空のそばに駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!大丈夫なの…」

 

「空!大丈夫なの?」

 

「空!こんなになって…かわいそうに…すごい悲鳴が聞こえてきたが何があったんだ?」

 

「お父さん…お母さん…美幸…心配かけてごめんね…目が覚めたら手がとてつもなく今まで以上に痛くて…」

 

みほは空の話を聞いて、ますます嬉しそうな顔をして皆を眺めていた。そして、みほは自分がしたことを告白した。

 

「うふふふ。痛かったのは当然ですよ。空さんの傷口に塩と唐辛子を塗ってあげたんですから。どうでしたか?」

 

「貴女と言う人は!またそんなことを!なんてことをするんですか!貴女はそれでも私たちと同じ人間なんですか?」

 

美幸は怒りに震えた。指を切断する苦痛を与えた上にさらにその傷口に塩と唐辛子を塗って苦痛を倍増させるなんて許せなかった。みほはくすくすと悪い笑顔を見せる。

 

「うふふふ。あっはははは!そうだ。もっと塩と唐辛子を塗ってあげましょう。」

 

「やめて…近づかないで…」

 

空は席から立ち上がると後ずさりをして逃げ出した。みほは懐から拳銃を取り出して威嚇射撃をしながら空を追いかける。

 

「空さん。どこに行くんですか?私に逃げられるとでも…?ふふ…」

 

「来ないで!来ないで!私に近づかないで!開けて!誰か開けて!」

 

 

 

空は小屋の扉を開けてここから逃げようと必死に叩く。しかし、どこの扉も鍵がかかって開かない。みほは歩きながら追いかけた。みほは突然立ち止まり空の足に向かって銃を撃ち抜いた。

 

「いぎゃあああ!」

 

空は悲鳴をあげて倒れこんだ。それでも這って逃げようとする。みほはジリジリ近づいて、空の切断された右手を踏みつけて肩をガッシリと掴む。

 

「いぎゃあああ!いぎぃいい!」

 

「うふふふ。捕まえた!あはっ!あははは!空さん。ダメじゃないですか。逃げ出そうとしたら。さて、どうしてあげましょうか。逃げ出すというのは重罪です。さて、どんな罰を与えましょうか。」

 

みほは空の口に拳銃を無理矢理押し込む。空は目を見張り、ブルブル震えている。

 

「う…うぅ…」

 

「みほさん…お願いです…許してあげてください…私の大好きなお姉ちゃんを奪わないで…」

 

美幸は床に顔をつけて必死に懇願した。しかし、みほは家族の様子を眺めて心を痛めるどころかもっとこの川谷一家の心を切り裂きたいと考えて黒い笑顔を見せて美幸たちの頭を思いっきり踏みつける。

 

「ふふふ…皆さん。いい格好ですね…さぞ屈辱的なことでしょう。ほらほら!頭が高いですよ!もっと地面につけてください。うふふ。あははは!決めました。空ちゃんを処刑します!梓ちゃん!ファラリスの雄牛をここに!あと、麻子さんも呼んできて!」

 

「了解です。」

 

「みほさん…もうやめて…お願い…」

 

美幸はみほに頭を踏まれながらも必死に頼み込む。しかし、みほは非情にも微笑みながらその申し出を拒否した。

 

「うふふふ。それは無理だよ。美幸さん。私はやめないよ…私はみんなを絶望の淵にたたき落とすことが大好きなの。別にいいじゃない。空さんが死ねばみんなは助かるんだから。結局遅かれ早かれ誰かは殺さなければならない。よかったね。みんなの手で葬ることにならなくて。さあ、それじゃあ楽しい処刑の時間だよ!」

 

みほはファラリスの雄牛に腰掛け、雄牛の顔を愛おしそうに撫でながら微笑んだ。しばらくすると梓は白衣を着た麻子を連れてやってきた。

 

「西住さん…なんだここは…?ここに来るまでに丸刈りで痩せこけた人間に散々睨まれたぞ…」

 

「えへへ。麻子さん。ようこそ。ここは、捕虜反逆者収容所です。梓ちゃんが管理してるよ。麻子さん。人間を焼いた時どんな姿になるか見て見たくないですか?」

 

「収容所…また何か企んでいるのか…?」

 

麻子は訝しげにみほを見る。みほはファラリスの雄牛をあやすように撫でながら反対の手で手招きをすると麻子の耳元で囁く。

 

「処刑だよ。このファラリスの雄牛で処刑するの。人間を高温で熱するとどうなるか。いい実験になると思わない?」

 

「うん。確かに興味ある。見せてくれ。」

 

「うふふふ。わかった。」

 

みほは満足そうに笑って頷いた。麻子はもはや狂気の科学者。マッドサイエンティストだった。自分の興味のある実験と研究はどんなに非道な人道や倫理に反することでも実行することができた。暴走するみほと狂気の科学者となった麻子。この2人は何をしでかすかわからない。もう何が起こっても不思議ではなかった。新しい恐怖が始まる不穏なく空気が大洗女子の学園艦に漂っていた。

 

つづく


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