血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のお話です。


第62話 デスゲームのはじまり

みほの最悪最低の趣味による史上最悪なゲームが始まろうとしていた。

 

「さて、それじゃあゲームの説明をしていこうと思います。梓ちゃん。説明お願い。」

 

みほがそういうとどこからか梓が現れた。梓はこの収容所の所長であり、管理を任されている。梓はオレンジペコたちを処刑するきっかけをつくったという罪悪感を別の罪を重ねることにより紛らわしていた。そのため、梓はここにいる収容者たちへの虐待行為や虐殺行為を繰り返し、収容者たちに悪魔と恐れられていた。皆、梓の登場に震え上がった。

 

「今回皆さんにやってもらうゲームはルーレット賭博です。赤か黒か奇数か偶数かこれで当てたら賭け金に対して配当は2倍、ある特定の数が出ることに賭けて見事正解した場合は36倍です。ちなみに、今回の賭けは後ほど皆さんにお配りする端末で行います。どこに賭けたかは他の参加者にはわかりません。どこに賭けたかは後で結果が出た後に宣言してもらうことになりますが、その時に嘘の宣言をしても構いません。例えば、赤に賭けたにも関わらず、私は黒に賭けたと言い張れば勝ちを認めます。つまり、賭けたところと違っていても嘘をつきとおすことができたら、配当分をもらうことができるということです。しかし、それだとゲームになりません。そこで、対抗策としてそれを追及することができます。追及された参加者は正直に答えなければいけません。それで、その参加者が嘘をついていた場合は追及された参加者はお互いの賭け金の合計分を払わなければいけません。そして、嘘を見抜いた報酬としてこちらからも追及により得た金額と同額の報酬を支払います。もし追及に失敗した場合は支払い義務が逆転します。」

 

梓がそこまでいうとみほはニッコリと楽しそうに微笑みながら続きを話し始めた。

 

「梓ちゃん。ありがとう。続きは私が話すね。そしてこのゲームの3つ目のルールそれは、このゲームでは10回まで行われて10回までの間に1人を生贄として私に差し出さないといけないというルールです。つまり、皆さんは10回までの間に誰か1人の資金を0にしなくてはいけない。資金が0になった者を待ち受けるのは残酷な死です。ファラリスの雄牛で処刑します。もしも、10回までに誰1人資金を0にすることができなかったらもれなくそのグループは全員に死が与えられます。皆殺しです。えへへ。私は皆殺しもやぶさかではないですが、生き残りたければ誰かから資金を奪い、殺すしかありません。ちなみに、資金は本物のお金を使うわけにもいきませんので、仮想通貨を使用します。通貨単位はアンコウです。最初に1000万アンコウを渡します。これは、皆さんの命と同じです。大切にしてください。」

 

 

なぜこの部分だけ、すなわち第三のルールだけみほは自分で話したがったのか、それはみほが嗜虐的性格を持っていたからだった。みほは、参加者たちを絶望の淵へと叩き落とし、その事実を話した時の参加者たちの反応や絶望する様子を眺めたいと考えたからである。参加者たちはみほの話を聞き、みほの予想通り絶望していた。生き残るためには自らの手で家族や友達から奪い、殺害しなくてはならないことに。みほはゾクゾクと背筋に愉悦を感じていた。そして、頰を赤らめて身をよじり、息を荒げながら笑い転げていた。

 

「それじゃあ、皆さん。間も無くゲームが開始されます。席についてください。早くしないと皆殺しにしちゃいますよ。ふふふふ…」

 

みほは相変わらず息を荒げながら拳銃を手にした。参加者たちは、悲鳴をあげて用意された椅子につく。みほは慌てふためくデスゲーム参加者の様子を嘲笑いながら眺めていた。みほは自分が今、参加者たちを支配していることに愉悦を感じていた。そして参加者全員が席についたことを確認すると優しい口調で話し始めた。

 

「さて、皆さん。席につきましたね?それでは、はじめはゲームの流れを実際にプレイしながら説明していきます。全員、手元にある端末をみてください。赤と黒、奇数と偶数、そして1から36の数字が並んでいると思います。そこからどこに賭けるかを選択します。そして次はいよいよ賭け金の設定です。では、今から全員に一律で1000万アンコウをお渡しします。賭け金は下限は1アンコウから上限はありません。最初は1000万アンコウの範囲内で自由に賭けていただいて構いません。ただしもう一度お話ししますがそれは仮想通貨とはいえ皆さんの命そのものです。それをゆめゆめ忘れないようにしてください。0となった時点で死が待っています。大切にしてください。あと、一度に全員はさすがに私も見ることができないので先ほど分けたグループごとにゲームを行います。今からの時間はこちらの5名のグループがゲームを行います。えへへ。準備は整いました!それじゃあ、そろそろ始めていきましょう!殺しあい憎しみあい奪い合いのデスゲーム第一回戦第1ステージのスタートです!」

 

みほは拳銃を空に向かって撃った。先ほど指名されたグループは全員が川谷家、つまり家族だった。父・母そして娘が3人のグループだ。彼らはもちろん全員賭博などやったこともない。しかも、ただの賭博ではなく命をかけた賭博だ。どこにいくらかければいいかさえもわからなかった。みほは彼らの様子を見て回り意地悪く呟いた。

 

「えへへ。戸惑ってる戸惑ってる。これじゃあみんな死んじゃうよ。どんなゲームになるのかな。楽しみだなあ。」

 

しばらくすると彼らは端末を操作し賭けるところと賭け金を決めたようだ。今回は、性格によって賭け金が分かれた。みほはそれを見て思わず大笑いした。

 

「あははは。人の性格って本当に面白いね。見事に性格によって金額が分かれてる。賢治さんは250万アンコウ、雅子さんは少し慎重で100万アンコウ。わあ!これはすごいよ!長女の真央さんは全額の1000万アンコウ!そして次女の空さんと三女の美幸さんは少し怖がりなのかな?空さんが50万アンコウで美幸さんが10万アンコウ!」

 

「あははは。お父さん?怖気付いたの?いつもパチンコとかだとたくさん賭けるのに。」

 

長女の川谷真央は父親の川谷賢治を挑発する。

 

「そ…そんなことはないぞ!ただ、僕は慎重になった方がいいと思って…」

 

「あははは。そんなまどろっこしいことやってたら生き残れないよ。私はどんな手を使ってでも生き残ってみせる。例え家族であっても自分が生きるためなら容赦なく殺す。」

 

賢治は机を叩いて立ち上がった。

 

「おまえ!なんてこと言うんだ!容易く殺すなんて言うな!」

 

「お父さん。バカなの?今、私たちは敵同士。この中で誰か1人は絶対に殺さなきゃいけない。生き残るためにはね。わかった。私は今ここで宣言する。私は、お父さんを生贄としてみほさんに捧げる。お父さん覚悟しておいて。」

 

「真央!もうやめなさい!」

 

母親の雅子が制止に入るが真央の鋭い眼光に思わずたじろいでしまった。

 

「それじゃあ、お母さんが生贄になる?無理だよねえ?お母さん、弱虫だもんね。止めるならあんたが生贄になってよ。そうすればお父さんも私たちも全員救われるんだから。」

 

「お姉ちゃん。もうやめてよ…」

 

「そうだよ…そんな悲しいこと言わないでよ…」

 

今にも泣き出しそうな妹を目にしても姉の態度が変わることはなかった。姉の真央は冷たく突き放した。

 

「なら死ねば?私としては1人でもライバルが少ない方がいいし。」

 

みほはそんな川谷家の有様を見て愉悦感に浸っていた。これこそ、みほが見たくて見たくてたまらない光景だった。今、川谷家は家族同士が憎み合いつつある。みほの身体にゾクゾクとした感覚が駆け巡った。みほは笑いを堪えるのに必死だったがやがてみほは吹き出した。

 

「あははは!あははは!」

 

「何が…おもしろいんだ?」

 

賢治が声を太くして凄む。みほは相変わらず笑い転げている。

 

「あははは。だって、私が見たくてたまらずに待ち望んだ光景がそのままが目の前に広がってるんです。これを笑わずにいられますか?いいですね。もっと家族同士で憎み合ってください。私の大好物なんです。縁がある者同士の憎しみあいと殺しあいは。あははは。ああ、おもしろい。このゾクゾクとした感覚がたまらないです!」

 

「くっ…そもそもこんなゲームを貴女が思いつかなければ僕たちは憎しみあわずに済んだ!貴女のせいで僕たちは…!」

 

みほは、微笑みながら賢治に顔を近づける。

 

「さあ?それはどうでしょうね。まあまあ、賢治さん。落ち着いてください。それじゃあルーレットを回そうか。ルーレットは皆さんに回してもらいます。では最初は賢治さんから。さあどうぞ。」

 

みほに指名された賢治は身体をビクンと一度震わせてみほを睨み付けると震えながらルーレットを回した。

 

「記念すべき第一回のゲームは赤の14です。さあ、皆さんはどこに賭けましたか?宣言してください。」

 

「僕は…赤だ。」

 

「赤よ…」

 

「私も赤!」

 

「…私も。」

 

「私も赤。」

 

「なるほど。全員が赤ですか。さあ、誰か追及する人はいますか?」

 

誰も追及などしようとはしなかった。長女の真央以外、全員が下を向き、目を伏せる。みほはつまらなさそうに口を尖らせる。

 

「…誰もいない…ですか。まあ、第1ステージですから慎重になるのも仕方ないですね。それでは、全員勝利!賢治さんは250万アンコウを賭けて500万アンコウ獲得!合計1500万アンコウ!雅子さん100万アンコウを賭けて200万アンコウ獲得!合計1200万アンコウ!長女の真央さんは1000万アンコウ賭けて2000万アンコウ獲得!合計3000万アンコウ!次女の空さん50万アンコウを賭けて100万アンコウ獲得!合計1100万アンコウ!三女の美幸さん10万アンコウ賭けて20万アンコウ獲得!合計1020万アンコウ!今回は皆さん勝利を収めましたが次回からもっと熱い戦いを期待していますね。」

 

みほは優しく微笑んだ。そしてみほはちらりと真央の方を見た。みほは川谷真央という人物に興味を持っていた。家族に対してここまで非情になれる真央という人物に自分を重ねていた。みほは心の中で呟く。

 

(私も家族なんてどうでもいいし、自分のためなら利用するだけして殺すことも厭わない。真央さん、貴女はどんな考えを持ってるの?興味あるな。私は貴女がどんな人物なのか知りたい。もしかして私と同じかもしれないね。うふふ…さて、おもしろくなってきた。ふふ…もっと憎しみあって殺しあって私を楽しませてよ。家族同士で楽しく殺しあって…えへへ。このゾクゾク感がたまらない。ああ、楽しいな。)

 

みほは怪しく笑みを浮かべる。

 

「さて、ゲームは始まったばかりです。さあ、次はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。第2ステージスタートです。」

 

みほはファラリスの雄牛に腰掛け雄牛の顔を撫でながら声を上げる。この家族は先ほどの真央と他の家族の間との出来事で、もはや家族の絆は破綻したも同然だろう。みほによって家族の絆はズタズタに引き割かれたも同然だった。ゲームは第2ステージに進む。みほは、凄惨な憎しみあいと殺しあいを第2ステージに期待していた。

 

つづく


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