血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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お待たせしました。
みほ陣営のお話です。


第58話 戦線拡大

みほが計画書を読み返していると執務室に優花里が慌てて飛び込んで来た。

 

「西住殿!大変です!」

 

「どうしたの?」

 

「また、サンダースの飛行機が飛んで来ました!」

 

「わかった。ちょっと見て来るね。優花里さんは待ってて」

 

「いえ!お供させていただきます!」

 

みほは頷くと優花里とみほは外に出た。みほが上空を見上げると確かに飛行機が2機ほど飛来していた。その飛行機は何度も旋回を繰り返している。みほは双眼鏡でその飛行機を観察を始めた。優花里は息を呑みながらその様子を見ていた。みほは双眼鏡を外すと優花里に微笑みかける。

 

「あれは偵察機だね。おそらくあの飛行機が何か攻撃して来るってことはないとは思うけど、また何か企んでるのは確かみたい。報告ありがとう。」

 

「わかりました。では、警戒しつつも安心するように伝えておきます。」

 

「うん。よろしくね。」

 

みほはしばらく偵察機を観察していた。偵察機は10分ほど旋回を繰り返して去っていった。みほは再び執務室に戻り計画書を見ながら次の作戦を考えていた。皆もそれぞれお喋りなどを楽しんでいた。その日も穏やかに1日が過ぎる。誰もがそう思っていた。しかし、それは突然終わりを告げた。突如謎の爆発が起こったのだ。

 

「何がおきたの?!」

 

みほは驚いて、執務室の窓から外の様子を伺った。すると、爆発による黒煙が上がっているのがわかった。そこは聖グロリアーナの駐屯地付近だった。みほは、一体何が起きたのかしばらく理解ができなかった。10分ほど経った後また爆発が起きた。今度はみほが焼き払った森で爆発が起きた。

 

「おそらくこの爆発はカールの仕業だね…ついにカールの運用が始まっちゃったんだ…」

 

みほは拳を握りしめ悔しそうに拳を机に打ち付けた。みほの圧倒的優位は崩れた。これ以降はどちらが勝利してもおかしな話ではない。さらに追い討ちをかける知らせが入った。

 

「隊長!大変です!」

 

「どうしたの?」

 

「食料施設が奇襲を受けました!中にいた兵士は食料施設を放棄し脱出。こちらに敗走してきます!」

 

梓からの報告によると、どうやら爆発に驚き食料施設に駐屯中の多くの兵士が森へ様子を見に向かっていた隙に食料施設を奇襲され成すすべなく裏口から脱出したとのことだった。みほは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「くっ!わかった。すぐに取り返しに行きましょう。梓ちゃんたちに先鋒を任せます。紗希ちゃんの仇を取る千載一遇のチャンス。任せたよ。」

 

「はい!」

 

梓が退室するとみほは悔しそうに何度も机に拳を打ち付けた。

 

「あの偵察機はこういうことだったのか!あの時私が気がついていればこんなことにはならなかったのに…迂闊だったな…それにあのカールからの砲撃は恐らく私たちを引きつけるための罠…なるほどね…そうきたのか…さて、あちらがやる気ならこちらもそれに答えてあげなくちゃね。私を怒らせたこと後悔させてあげる。」

 

みほは黒い笑顔を浮かべる。そして、みほは急いで兵士を知波単1000人黒森峰1000人大洗10000人総勢12000人集めた。そして下知を下した。

 

「諸君!食料施設を生徒会に奪われた!当然奪還する!今回の先方は梓ちゃんたちが務める!諸君も梓ちゃんたちに続き強襲しろ!容赦はするな!抵抗するものは皆殺しにしてしまえ!今や我々の圧倒的優位は崩れた。決して保証されない!敵にはカール自走臼砲を備え、今まで通りにはことは運ばないだろう!時間がない!敵の反攻が本格化する前に片付けるぞ!あと3日すればプラウダが大洗に向かって出発する!プラウダは我々の味方だ!しかし、プラウダはこの大洗より遠い場所にいるため、この船をプラウダに少しでも近づけなくてはならない!そこで、我々は食料施設奪還後、戦線を拡大しつつ速やかにこの船の操縦を司るコントロール室を攻撃する!ただし、船舶科の人間はなるべく傷つけないようにしろ!船舶科の人間でなければこの船は動かすことができない!それを留意しつつ任務に当たれ!ただし、それ以外で抵抗する者は全て殺せ!略奪も許す。ただし、略奪をしたら後始末はきちんとしておくように。」

 

「はい!」

 

「それでは出発する!前進!」

 

みほはそういうと自ら先頭に立って進軍を始めた。そして、慎重に森を突破すると食料施設にたどり着く。しかし、その施設は何か様子がおかしかった。人の気配がまるでしないのだ。みほは訝しげに様子を伺っていたが思い切って突入を指示した。すると施設の中はもう、もぬけの殻で食料だけが持ち去られていた。

 

「あはは。逃げられたみたい。生徒会も面白いことしてくれるね。あははは!」

 

みほは生徒会軍が残した手紙を手に大笑いを始めた。

 

「隊長…?何をそんなに笑っておられるのですか…?」

 

梓は隊長が壊れてしまったのかと心配になり、思わず声をかける。

 

「ごめん!だって、この手紙おもしろいんだもん!"私を捕らえたいなら捕らえてみせろ"だって。私たちへの挑戦状だ。わかった。なら望み通り捕らえてやる。えへへ。」

 

梓はみほの顔を見て冷や汗が噴き出してきた。みほの顔は笑っているが目は全く笑っていなかったのだ。こんな挑発をされて怒っているのだろうか。みほは手紙を握りつぶし投げ捨てるとすぐに次の指示を出した。

 

「これから、戦線を拡大しつつこの船のコントロールを司るコントロール室に向かう!コントロール室を陥落させ、プラウダの上陸を支援するぞ!船舶科の者は一歩前へ!」

 

数人が前に出る。みほは頷くと言葉を続けた。

 

「それでは、諸君が先頭に立ち我々を案内してほしい。地図でどこにあるかくらいはわかるが、詳しいことはやはりそこで働いていた者の方が詳しいと思う。よろしく頼む。さて諸君。先ほども留意点として伝えた通り、今回は1人の殺害も許されない!傷つけることもだ。くれぐれも注意するように。それと、今回は敵の支配地を突破して目標に向かわなければならない。つまりはどこに敵が隠れているかわからないということだ。十分用心するように。」

 

「はい!」

 

「それでは前進!」

 

みほたちは前進を始めた。道中は順調だった。あまりの大軍に恐れをなしたのかなぜか無抵抗だった。まるでピクニックのような行軍になった。そして、しばらく歩くとコントロール室がある棟にたどり着いた。そこにも守備隊は1人もおらず、異様に静かであった。

 

「なんでこんなに静かなんだろう。何か怪しい。それなら…知波単部隊と黒森峰部隊総勢2000と船舶科の者は私についてこい!それ以外は梓ちゃんと付近に生徒会軍が隠れていないか捜索を!」

 

「はい!」

 

「それでは、健闘を祈る!知波単、黒森峰両部隊!再度確認するが今回は絶対に殺してはならない。くれぐれも用心しろ。それでは行くぞ!突撃!」

 

そういうと知波単の兵士たちは目の色を変えて船舶科の生徒を先頭に三八式歩兵銃を構え突撃を開始した。さすが突撃狂なだけある。そして、知波単部隊は行動が早い。突撃に慣れているのか動きがとても早いのだ。黒森峰部隊は早すぎてついていけない。必死に後を追う。コントロール室はその棟のてっぺんにある。2000名の兵士が駆け上がるのは圧巻だった。そして、誰かがてっぺんにたどり着いたようだ。叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「動くな!抵抗したら撃つぞ!その場にうつ伏せになれ!」

 

船舶科の面々は驚き目を剥きながらも大人しく従った。みほがやってくると唇を噛み悔しそうな表情になる。みほはニッコリと笑い優しく語りかけた。

 

「こんにちは皆さん。なぜ抵抗が一切なかったのかはわかりませんが助かりました。ここは私たちが占拠し、直轄統治します。そして皆さんは今から我々の人質です。私の言うことさえ素直に聞いていただければ貴女方の命も地位も保証します。しかし、聞いていただけなければ1年生から1人ずつ殺していきます。責任者はどなたですか?」

 

「私です。」

 

「お名前は?」

 

「原です。原清歌船舶科の3年生です。」

 

「原さんですか。改めまして西住みほです。それでは皆さん、今から日本の領海ギリギリを航行しつつ北海道、東北方面にこの船を向かわせてください。あ、そうそう。ここから逃げられると思わないでくださいね。少しでも不満を言ったり怪しい動きを見せたら撃ち殺します。えへへ。」

 

みほは懐から拳銃を取り出し清歌の頭に突きつけてみせた。

 

「わかりました…私たちはみほさんに従います…だから、命だけは助けてください…」

 

みほは満足そうに頷きながら微笑む。みほは完全にコントロール室を制圧した。これ以降この船はみほの思うままに航行することになる。

 

「ありがとうございます。それでは皆さんよろしくお願いします。」

 

そう言うと、みほはコントロール室を知波単に見張らせ、みほは外に出た。みほは、梓に任せた大洗の部隊の様子を見に行こうとしていた。梓たちは既にコントロール室の棟の前に集合していた。

 

「隊長!生徒会軍は見つかりませんでした。」

 

「わかった。ここに2000人は守りとして駐屯して。残りは先ほど通過した市街地に向かう!」

 

「隊長何をするんですか…?」

 

「えへへ。人間狩り大会だよ。」

 

みほは不気味に笑う。

 

「人間狩り大会…?」

 

「うん。スポーツだよ。人間を捕まえたり殺したりするね。市街地に残るのは今から全て敵。たまたま通りかかった人も隠れてる人もみんな捕まえるか銃で殺しちゃう。森で動物を狩るみたいにね。一回やってみたかったんだ。捕まえた人間はどう扱っても構わない。奴隷にしてもいいし、リンチにしてもそれこそ凌辱してもいい。そういうゲームだよ」

 

梓は竦み上がり動けなくなってしまった。みほは、楽しげに話している。これから市街地に阿鼻叫喚の光景が広がるかと思うとそんな非道な人殺しはしたくなどなかった。ためらっている梓を見てみほは梓の耳元に悪魔のように囁く。

 

「紗希ちゃんの仇、まだ取れてないでしょ?これも全部紗希ちゃんのためだよ。紗希ちゃんのために人間狩りで憎い生徒会とサンダースの協力者を根絶やしにしようよ。」

 

「紗希…」

 

梓の心は揺らぎはじめた。みほは梓の心を支配しようとしていた。みほは梓の肩を抱き言葉を続ける。

 

「紗希ちゃんもきっとあの世で願っているよ。梓ちゃんが仇をとってくれるのを。それとも梓ちゃんは友達よりも友達を殺した敵の肩を持つのかな?梓ちゃんは裏切り者になるつもりなのかな?」

 

「でも…」

 

梓は葛藤して苦悶の表情を浮かべる。あと少しで梓も堕ちる。そう感じたみほはとどめの一言を発した。

 

「そっか。そういえば梓ちゃん。敵に通じたオレンジペコさんを処刑しないように言ってたもんね。梓ちゃんも反逆者だもんね。これから梓ちゃんのことは友達を裏切る反逆者って呼んであげるね?」

 

「違う!私は反逆者じゃない!わかりました…誰よりも多く人間狩りで捕まえてみせます!憎い生徒会とサンダースの協力者を根絶やしにしてみせます!」

 

梓はついに堕ちた。オレンジペコによって解放されかけた梓の心を再び手に入れたみほはニヤリと笑う。梓は再びみほに心を支配された。みほが注ぎ込んだ闇によって再び梓は悪魔になった。阿鼻叫喚の地獄の幕が開こうとしていた。

 

つづく




次回は恐らく明後日の21:00になると思います。
よろしくお願いします。

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