ようやく書き終わりましたので更新します。
オレンジペコとディンブラの処刑は終わった。
「反逆者の末路を見せしめとして展望台に晒してください。私に逆らうとどうなるか思い知らせてあげてください。」
みほは血だらけで丸太に縛られているオレンジペコとディンブラの遺体を見せしめとして展望台に罪状を書いて晒すように梓と優花里に命令した。優花里と梓は2人の遺体を丸太ごとリヤカーに詰め込み展望台に運ぶ。梓と優花里は罪悪感で心が潰されてしまいそうになった。特に梓はあまりに悲惨な2人の遺体を見て泣き出してしまった。自分が逮捕しなければこんなことにはならなかったと激しく後悔していた。
「なぜ…なぜこんなことに…ごめんなさい…ごめんなさい…私が逮捕しなければ…こんなことにはならなかったのに…」
「澤殿…今は何も考えないようにしましょう…」
「そんなこと…できるわけがないじゃないですか…私は…彼女たちを…」
「私もその経験があります…私もサンダースの子たちの誘拐を西住殿から命令されて仲良くなった頃に毒ガス実験で…その時私は考えるのをやめました。」
長い間沈黙が続く。展望台に着くと、梓と優花里は丸太に縛られた遺体を磔柱のようにたてて時代劇の刑場に出てくるような竹垣を作り周りを囲った。そして、罪状を書いた立て札を立てる。梓は泣き叫びながら作業に当たった。優花里は目を赤く泣きはらすほどの梓に何を言えばいいのかわからなくなった。ただ、抱きしめて落ち着かせることしかできなかった。優花里は梓の頭を撫でる。
「澤殿の気持ちはよくわかります…悲しいですよね…こんな理不尽なことないですよね…」
「秋山先輩…ありがとうございます…」
「良いんですよ。たくさん泣いてください…」
やがて梓は落ち着いた。そして、梓は優花里にみほのやり方への疑問を訴えた。
「私は、隊長がわからなくなってきました。こんなことやってて意味があるのでしょうか。逆らう者は片っ端から皆殺しにしてしまう。恐怖で支配して未来などあるのでしょうか…」
「しっ!澤殿!誰かに聞かれたらどうするんですか?言いたいことはわかりますが、どこで誰が聞いてるかわからないんですよ!死にたいんですか!十分に気をつけてください!」
優花里は慌てて梓の口に手を被せ、梓を黙らせる。誰かに聞かれ、みほの耳に入ったら大変なことになる。特に梓は戦車道の試合で戦車を放棄して逃亡したことで目をつけられている可能性が高い。優花里は警戒気味に辺りを見回す。誰にも聞かれていなかったようだ2人はホッとため息をついた。
「すみません…」
「澤殿の言いたいことはよくわかります…しかし、今は耐えるしかないのです。命令に従うしか…いつかこの恐怖も終わる時が来ます。それまで何としても生き残りましょう。どんな手を使ってでも…」
「どんな手を使ってでも…」
梓は優花里の言葉を反芻した。優花里は神妙な面持ちで頷く。
「それじゃあ、オレンジペコ殿たちに手を合わせて戻りましょうか。」
優花里は梓に向かってそう言うと手を合わせ、お経を諳んじる。梓も優花里に倣って手を合わせた。オレンジペコとディンブラの冥福を祈り、梓と優花里は拠点に戻る。すると、みほはダージリンに何か書類を書かせていた。
「西住殿、ただいま戻りました。ところでダージリン殿たちは何を書いているのですか?」
「優花里さん、梓ちゃんおかえり!作業お疲れ様。えへへ。」
みほは笑って回答を避けた。どうやら今は教える気はないらしい。優花里はそれ以上詮索するのをやめた。余計な詮索は命に関わるからだ。ダージリンたちは書類を書き終わると失意のどん底に叩き落とされて拠点から聖グロリアーナの駐屯地に帰っていった。ダージリンたちの顔には生気も覇気も何もなかった。
「さてと、ダージリンさんたちの処理は終わったし、次はプラウダに出撃要請をしなくちゃね。」
みほはそう呟くと執務室に向かった。みほはそろそろこの戦いを終わらせようと考えていた。まだ、この大洗女子学園の支配を目的とした戦争は計画の第一段階、いわば足場固めに過ぎない。みほにとって1番の強敵になるであろう黒森峰が到着しないうちにプラウダに出撃要請をして、生徒会を一気に叩き潰してしまおうと考えていた。なるべく戦争を早く終わらせ、次の戦いに備え学園艦の施設や兵士を整える必要があった。しかし、そのためには学園艦の中枢部、主にこの学園艦のコントロールを行う船舶科を支配下に収めなければならない。
「次の目標は船舶科のコントロール室かな。でも、どうやって手に入れようかな…」
みほは次なる目標をコントロール室に定めた。船舶科の多くは生徒会を支持しており迂闊に攻撃すれば激しい抵抗が予想される。今回の船舶科を支配下に収める際は船舶科の人間をなるべく傷つけないで速やかに制圧する必要がある。船舶科は船舶に関する専門知識を有しており、その専門知識がなければこの学園艦という大きな船は操縦できない。つまり、たやすく殺すなど無下にはできない、みほにとっては扱いづらい存在だった。みほは、なんとか船舶科を反乱軍側に協力させる方法を考え始めた。そして、みほは一つの方法を思いついた。人質を取ることにしたのだ。奇襲して人質を捕らえ、そして脅して従わせる。安直だがこれが一番確実だと考えた。仲間意識の強い船舶科の連中ならこれで交渉に乗ってくると考えながらみほは受話器を手に取る。
『もしもし、大洗女子学園の西住です。カチューシャさんはいらっしゃいますか。』
『はい。少々お待ちくださいね。』
ノンナは少し待つように言うと保留音が聞こえてきた奇しくも保留音は民謡のカチューシャであった。みほは思わず吹き出した。しばらくすると、カチューシャが電話に出る。
『もしもし。カチューシャが出てあげたわよ!』
『あ、カチューシャさん。この間はお昼寝中に電話してしまってすみません。』
『いいわよ。別に。それで?今日は何のようなの?』
『はい。実はそろそろプラウダの皆さんに援軍に来ていただきたいと思いまして。そろそろ戦争に決着をつけたいなと。』
『わかったわ。どのくらい連れていけばいい?』
『集めれるだけ集めていただけませんか?多ければ多いほどいいです。えへへ。生徒会を恐怖で震え上がらせたいのです。あの会長の恐怖で震える可愛い顔を見てみたい…』
『ふふ…おもしろそうじゃない。』
『そうでしょ?ですから、なるべくたくさん連れて来てください。それこそ、ソ連対日参戦のような大軍くらい連れて来てください。』
『うちにはそんなに大勢のいないわよ!それで?出発は?』
『3日後くらいに出発してください。』
『わかったわ。ちゃんと捕虜はくれるのよね?』
『ええ、もちろん差し上げますよ。捕虜がたくさんいて、もうこちらでは処理しきれませんからそちらでこき使ってあげてください。しっかりしつけておきますから。』
『そう。それならいいわ。よろしくね。』
『はい。こちらこそよろしくお願いします。では、お待ちしていますので。』
『ええ。またね。ピロシキ〜』
みほは電話を置くと微笑んだ。これで戦争にかたをつけることができる。そして、この大洗女子学園を支配することができる。しかし、みほはこの戦争そして大洗女子学園の支配だけでは満足していなかった。みほは机の引き出しから分厚い計画書を取り出した。題名には
[全学園艦傀儡化計画及び全学園艦軍事制圧計画]
と書かれていた。本来、みほの計画は黒森峰への復讐を目的にしていた。だから、復讐さえ果たせばそこで止まるはずだった。しかし、みほはすでに新しい野望を抱き、計画書まで完成させていた。それはこの日本の海に浮かぶ全ての学園艦の支配だった。そして、自らの一大帝国を作り上げようと考えていたのだ。それを後押ししたのがダージリンの存在だった。みほはこのままダージリンが壊れてしまうことを望んでいた。ダージリンを壊しそれに乗じて聖グロリアーナを手に入れようと考えていた。だからみほはダージリンにある書類を書かせていた。みほは、ダージリンに書かせたその書類を手にニヤリと笑う。ダージリンに書かせたもの、それは委任状だった。ダージリンを脅し、委任状を書かせていたのだ。委任状にはダージリンが精神不調等で指揮を取れない状態になったとみほが判断したらみほが聖グロリアーナの戦車隊長の権限を掌理すると書かれていた。みほはいつでも聖グロリアーナの強大な軍事力を奪い取ることができる状態にした。
「せっかくの機会だし、この機を逃すわけにはいかないよね。行けるとこまで行ってみようか。ダージリンさん…チャンスをくれてありがとう…いずれは…自治権を文科省に認めさせて…さらにその先も…ふふふ…」
みほは、すでに獲物を見つけ毒牙にかけはじめていた。
つづく