血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほの陣営のエピソードです。


第53話 反逆の代償

みほと梓は、オレンジペコとディンブラの2人が収監されている建物に向かった。

 

「さて、それじゃあ始めようか。鍵を開けて。」

 

「はい。それじゃあ、開けますね。」

 

梓が牢獄のカギを開けると二人は物怖じすることなく堂々と座っていた。

 

「まずは、オレンジペコさんからです。出てください。」

 

オレンジペコは黙って牢獄から出た。手には手錠、そして足には鎖で足かせがされている。オレンジペコはジャラジャラと重たい足を引きずりながら尋問部屋まで歩いた。しかし、その顔はちっとも恐怖を感じず一点を見つめている。梓は、ある意味オレンジペコを尊敬していた。

 

「さて、それじゃあ。始めます。まず、オレンジペコさん。逮捕された容疑は認めますか?まあ、現行犯ですから認めるしかないとは思いますが。うふふ…」

 

みほは優しげな口調で尋問を始める。

 

「はい。認めます。」

 

「そうですか。では、なぜこんなことをしたのですか?」

 

「それはもちろん。みほさんのやり方に賛成できなかったからです。みほさんの残虐行為に耐え切れなかったからです。みほさん。貴女、本当に人間なのですか?なぜ、こんな残虐で非人道的な行為ができるのですか…」

 

みほは立ち上がり座っているオレンジペコを見下し、嘲笑う。

 

「さあ?どうでしょう。私が、人間なのかそれとも悪魔か。それとも血塗られた神モレクなのかそれとも死の天使なのか、それは、私にもわかりませんよ。まだ、私は道半ばですから。評価についてはのちの人間がすればいいことです。ただ、一つ言えること。それは、計画を邪魔する人間。いえ、蛆虫とでも言いましょうか。その蛆虫たちを殺し、そのあとの亡骸を私が利用してあげてる。私がしているのはそれだけです。私は、罪悪感など微塵も感じてはいませんよ。むしろ私は、無能な蛆虫たちを役立ててあげているのですから、感謝してほしいくらいですね。さて、私は貴女を有能で思慮深い人だと思っていました。しかし結局は、貴女も無能な蛆虫に過ぎなかったというわけですか。残念です。無能で無意味な蛆虫には死んでもらわなくてはいけません。しかし、貴女に死んでもらう前に貴女の仲間を残らず吐いてもらわなくては…さて、貴女たち二人だけではこの計画は計画できないはずです。貴女たちとともに私を裏切ろうとした無能な蛆虫は誰ですか?」

 

オレンジペコはみほの瞳を見つめ、にっこりと微笑む。そしてしばらく沈黙した後、話し始めた。

 

「少なくとも私はみほさんのことを人間だとは思っていませんよ。私はみほさんのことを悪魔だと思っています。みほさん。私が、仲間を売るとでも?言えるわけないじゃないですか。」

 

「そうですか。悪魔ですか。悪魔、なんだかいい響きです。オレンジペコさん。答えてください。もし、答えないというのであれば、少し厳しい責めを受けてもらうことになります。」

 

「嫌です。絶対に言いません。仲間を売るなんて私の良心に反しますから。」

 

きっぱりと拒否するオレンジペコはみほが今まで出会ったことのない強者だった。みほはこの牙城をどう崩そうか尋問を行いながら考えていた。オレンジペコはさすが、みほから離反しようと考えただけはある。大物だった。これは、並大抵のことでは吐かないだろう。

 

「わかりました。残念です。梓ちゃん!鞭打ちの準備を!」

 

「はい。了解です。」

 

梓は、鞭をみほに手渡した。

 

「それじゃあ、オレンジペコさんの服を脱がせて。」

 

梓は、オレンジペコの服を脱がせ始めた。オレンジペコはここにきて初めて抵抗したが、抵抗むなしくみほと梓の2人がかりであっという間に脱がされてしまった。オレンジペコは俯きながら唇を噛む。

 

「うふふ…反逆者が良い様ですね。可哀そうに…私に従ってさえいればこんな目にあうこともなかったのに。」

 

みほは鞭を持った手を振り上げた。そして鞭をオレンジペコの素肌に打ち付ける。

 

「うぅ…!」

 

オレンジペコの苦痛にゆがむ顔を見てみほは嬉しそうに笑う。

 

「オレンジペコさん。早く全部吐いてしまって楽になりましょうよ。」

 

「こんなことで私が屈するとでも?」

 

「そうですか。では、望み通りもっと苦痛を与えてあげましょう。」

 

みほは何度もオレンジペコに鞭を打ち付けた。

 

「うぁ…うっ…あああ…うう…」

 

みほはオレンジペコに何度も鞭を打ち付けた。乾いた革の音とオレンジペコの呻き声が響く。みほの鞭はオレンジペコの身体に無数の傷をつくった。

 

「どうですか?これでもまだ吐く気にはなりませんか?」

 

「誰が…貴女などに…うぅ…私は…絶対に…屈しません…自由がないところに正義はない。正義がないところに自由はない。みほさんに正義などない。みほさんの目的はわかりませんがみほさんの野望はいつか潰えるはずです。」

 

みほは鞭を打ちつける。

 

「うあ!」

 

「正義ですか。素晴らしいことです。しかし、どうでしょうか?正義といわれるものがいつも貴女の言うような自由と共にあるとは思えません。実際に正義を説いた貴女は捕らえられ、殺される運命。正義とはいつも変更されるのです。今は、私が正義で生徒会が敵です。いかに愚かな群衆を騙すかこれがどちらに正義があるかを左右する重要な要素です。そして、目的ですか。そうですね。オレンジペコさんはどうせ死ぬのですから最後に教えてあげましょう。私の目的は私の帝国を作り上げ、黒森峰と戦争をして黒森峰に復讐を果たすことです。私を追放した黒森峰に…さて、オレンジペコさんは鞭打ち程度では足りないということですか…では、もっと過酷な責めをしてあげなくてはいけませんね。梓ちゃん!石抱きの準備を!」

 

梓は三角形の木を持ってきた。

 

「あれ?石はどうしたの?」

 

「重すぎて一人では持ってこれません…」

 

「あ、そうか。ちょっと待ってて。オレンジペコさんを縛ったらすぐに向かうから。」

 

みほはオレンジペコを三角形の木を並べた台の上に正座させ縛り付ける。そして、梓と遺書に石の板をオレンジペコの正座した脚の上に2枚載せる。1枚が50キロほどある。2枚で100キロの重量がオレンジペコの脚にかかっている。さらにその下の鋭角の木が脚に食い込む。

 

「うわあああああ!痛い!痛い!」

 

オレンジペコは叫ぶ。みほはにやりと笑みを浮かべると追い打ちをかけるように石を左右に揺らす。

 

「痛い!痛いよ!うわああ!」

 

「オレンジペコさん。吐きさえすればすぐに楽になりますよ?どうしますか?」

 

オレンジペコは答えない。この苦しみを必死に耐えている様子だった。みほはニッコリと微笑みさらにその石を自らの足で踏みつけ、体重をかける。

 

「うあああああ!」

 

オレンジペコは叫びまくった。みほは、さらに追い打ちをかけるように石を追加するように指示する。オレンジペコの脚にはさらに2枚の石が載せられた。200キロの重量がオレンジペコの脚にかかる。

 

「ぐああああああああ!」

 

オレンジペコは断末魔の叫びをあげると何も言わなくなった。そして、みほに表情を知られまいとしているのか顔を伏せる。脚が蒼白としてきたので石抱きをやめることにした。石を取り去るとオレンジペコの脚は赤紫色に染まっていた。木の鋭角の部分が足に食い込んだ痕も痛々しい。出血も見られた。

 

「オレンジペコさんもしぶといですね。次は海老責ですね。」

 

みほは、オレンジペコにあぐらをかかせて後手に縛り上げ、両足首を結んだ縄を股にくぐらせて背から首の両側胸の前に掛け引いて絞り上げて縄を再び両足に連結させて縛り上げた。顎と足首が密着する姿勢となって床に前のめりに転がった形にさせた。みほは、4~5時間その恰好のまま放置させた。30分経った頃オレンジペコの表情が変わってきた。苦痛に顔をゆがませた。全身の血行が滞り、言い難い苦痛に襲われるのである。そのころを見計らい、みほは再び鞭打ちを始めた。

 

「うあ!ううう!うわあ!」

 

オレンジペコの身体はもうボロボロだった。無数の傷と血の滞りにより赤く染まった皮膚が痛々しい。皮膚は紫色に変わり、最後は蒼白となった。これ以上続けると生命の危機であるからやめた。結局、オレンジペコは吐かなかった。次に、ディンブラが拷問を受けた。しかし、ディンブラも拷問に屈することはなかった。本当に強靭な精神の持ち主だった。みほは、2人に吐かせることをあきらめた。みほは少し悔しそうだった。心理戦においてこの2人にはみほが初めて負けた相手だった。みほは悔しそうに拳を握る。

 

「とうとう聞き出すことはできなかった。悔しいな。」

 

2人の尋問が終わったころ、アッサムに付き添われダージリンが出頭してきた。

 

「みほさん…みほさん…!」

 

梓はみほを探すダージリンを見つけ声をかけた。

 

「あ、ダージリンさん。わざわざ、ご足労いただきありがとうございます。」

 

「そんなことはどうでもいいわ…とりあえず、ペコたちに会わせていただけないかしら。」

 

「少々お待ちください。隊長を呼んできますから。」

 

梓はみほが待つ執務室に急ぐ。

 

「失礼します。隊長、ダージリンさんが出頭してきました。オレンジペコさんに会いたいそうでどうしましょうか。」

 

「良いと思うよ。見せてあげようよ。あの惨めな反逆者たちの姿を。私もすぐに行くから、梓ちゃん先に行ってて。」

 

みほはにやりと笑った。その顔は恐ろしい悪魔のようだった。

 

「わかりました。」

 

梓は、ダージリンの許へ戻りしばらくすればみほが来るのでそれまで待つように伝えた。

 

「ダージリンさん。オレンジペコさんたちと面会する前に少し覚悟しておいてくださいね。結構酷いので…」

 

「どういうこと…?」

 

「察してください。」

 

しばらくするとみほがやってきた。

 

「みほさん!ペコは!ディンブラはどこなの?ペコとディンブラに会わせて!」

 

「こちらです。」

 

みほに案内されて、ダージリンは牢獄のある建物に向かった。梓は2人が収監されている部屋の鍵を開け、中に入るよう促す。

 

「これは…なんて事を…」

 

ダージリンとアッサムは言葉を失った。そこには裸にされて傷だらけで肌が紫色に変色したオレンジペコとディンブラが変わり果てた姿があった。2人は息も絶え絶えで倒れていた。顔は茫然として生気がない。

 

「ほらほら!寝ている場合じゃないですよ!ダージリンさんたちが面会に来てくれましたよ!」

 

みほは2人の頭を踏みつけた。

 

「みほさん!何を!やめてあげて!」

 

アッサムが叫ぶ。みほはニコニコと笑い、望み通りやめてあげた。

 

「ペコ!ディンブラ!」

 

ダージリンは駆け寄り思わず2人を抱きしめた。

 

「返事して頂戴!ペコ!ディンブラ!」

 

みほは、そんなダージリンの様子をみて満足そうに微笑む。そして、優しくダージリンの耳元で囁いた。

 

「大丈夫ですよ。今は疲労で寝ているだけで死んではいません。今から、オレンジペコさんの処分についてのお話をしますから行きましょう。」

 

「わかったわ。」

 

ダージリンとアッサムはみほの執務室に案内された。

 

「さて、オレンジペコさんの処分についてなのですが…」

 

みほが処分について言いかけた時、アッサムは被せるように話し始めた。

 

「みほさん。なんて事を…2人をこんな目に合わせるなんて…」

 

「反逆者なのですから当然の扱いです。それとも、アッサムさんは反逆者を擁護するのですか?アッサムさんも反乱分子として処分してしまいましょうか?」

 

「それは…」

 

アッサムは答えに窮する。みほはニヤリと笑った。

 

「ここにいる以上、私の意思次第で貴女たちの命など簡単に消すことができる。このことは忘れないほうがいいと思いますよ。」

 

その時である。ずっと黙っていたダージリンが懇願を始めた。ダージリンは自身のプライドを捨てて土下座までした。とにかくオレンジペコたちの命を助けようと必死だった。

 

「みほさん!お願い!ペコとディンブラを助けて!命だけは…お願い!」

 

「わかりました。考慮はします。」

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

「彼女たちの裁判を明日行います。判決は即日だします。また明日、ここに来てください。」

 

「わかったわ。ならまた明日ここに来るわ。」

 

「はい。お願いします。」

 

ダージリンたちは帰って行った。梓はみほの発言を意外に思った。今まで、反逆者だと言って残酷な拷問をしていたのにここに来て突然考慮すると言い出したのである。真意をみほに聞いてみることにした。

 

「隊長。やはり、許すのですか?考えるって…」

 

みほは笑いながら首を横に振った。

 

「あはは。違うよ。期待させるような事を言って希望を持たせた上で死刑宣告をして絶望させる。これが一番楽しんだよね。」

 

みほは、本当に楽しそうに笑う。そうだ。みほは考慮する気など全くなかった。最初から処刑は決まっていたのである。ダージリンはみほにいとも簡単に騙された。

 

「隊長は本当に悪いことばかり考えますね。」

 

「えへへ。そうだね。でもね楽しいんだ。人を搾取したり痛めつけたり、屈辱を与えたりするのが。」

 

「楽しい…ですか…恐ろしい人です…」

 

梓はポツリと呟く。みほは明日が楽しみといった様子だ。オレンジペコたちの処刑は恐らく明日の夜になるだろう。刻一刻と処刑の時間が迫る。梓は一度オレンジペコたちと話しておきたいと思い、みほから許可をもらい、オレンジペコたちの元へと向かった。オレンジペコたちは自らの死の前に何を語るのか梓は雑居房の扉の前に立ち考えていた。

 

つづく


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