血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のお話です。


第52話 逮捕

報告会の終了後、みほは執務室の戻りオレンジペコの処分について検討していた。

 

「どうしようかな。やっぱり死んでもらったほうがいいよね。見せしめのためにも。」

 

みほは、オレンジペコを逮捕し、拷問をしたうえで誰が連座しているのかを吐かせたうえで、一網打尽に逮捕し全員処刑してしまおうと考えていたのだ。さらに悪辣なことに、刑の執行はダージリンに行わせることにした。もちろんまだ、軍法会議を行っていないので正式に決定したものではないが、軍事法廷もみほの支配下で開かれるわけだから、もはやオレンジペコは処刑を免れることはできないのだ。

 

「どんな方法で処刑しようかな。」

 

みほは楽しげに考えていた。そのときである。部屋をノックする音が聞こえてきた。

 

「はい。どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

「あ、梓ちゃん。ちょうどよかった。さっきのオレンジペコさんの話だけど、今、処分の方法を考えてるんだけど、どんな方法がいいかな?処刑することには間違いないけど、その処刑の方法が思い浮かばなくて…今回は、連帯責任としてダージリンさんに刑を執行してもらうことになるけど、なるべく印象に残る方法がいいんだよね。」

 

梓は少し考えた後、にっこりと微笑みながら提案した。

 

「それなら、知波単から銃剣を借りてきてそれでダージリンさんにオレンジペコさんを刺殺させればよいのではないですか?オレンジペコさんとしては、自らが信頼して、尊敬していた先輩に刺されて処刑される。そして、ダージリンさんもオレンジペコさんを刺した感触がずっと手に残る。しかも、人を殺すという度胸をつけることができる。最高じゃないですか?」

 

みほはにやりと黒い笑顔を見せながら梓の提案を聞いていた。

 

「なるほど。梓ちゃんもなかなか悪いことを考える。酷いね。」

 

「もう!隊長にだけは言われたくないですよ!」

 

「あはは。そうだね。それじゃあ、その方法で処刑することにするよ。」

 

「わかりました。処刑をするということは、オレンジペコさんを逮捕してもいいということですか?」

 

「もうちょっと待ってて。明日から何日かかるかわからないけど聖グロの駐屯地に張り込んで、オレンジペコさんを監視して。そして、オレンジペコさんが密使に密書を渡すところで2人とも逮捕して。」

 

「わかりました。」

 

「じゃあ、明日からの捜査もよろしくね。」

 

「了解です。」

 

梓は、敬礼して退室していった。

 

「さてと、私は銃剣を貸してもらえるように川島さんに頼んでおかないとね。」

 

みほは、川島を呼んだ。

 

「みほちゃん。頼みたいことってなんだい?」

 

「川島さん。わざわざ呼び出してすみません。三八式歩兵銃に三十年式銃剣を装着したものを私たちにいくつか貸してくれませんか。」

 

「良いけど何に使うんだい?」

 

「反逆者が出たのでその処刑に。」

 

「なるほど。わかった。すぐに持ってくるから待っててくれ。」

 

みほが銃剣をいくつか貸してもらえるよう頼むと川島はすぐに了承した。そして、川島はすぐに戻り5挺の銃剣を持ってきた。

 

「みほちゃん。持ってきたよ。」

 

「川島さん。ありがとうございます。」

 

「銃剣で処刑なんてみほちゃんもなかなか悪いこと考えるんだね。」

 

「いえ、これは実は梓ちゃんが考えたことです。」

 

「あの娘が…意外だな。」

 

「ふふ…私が悪魔にしてあげたんですよ。」

 

「あはは。やっぱり、みほちゃんの仕業か。恐ろしいことをする娘だ。あはは。」

 

「そうですか?あはは。」

 

「それじゃあ、5挺貸し出したからね。処刑するのは良いが血の付いたまま返すなんていうのはやめてくれよ。しっかり洗って返してくれ。」

 

「あはは。わかってますよ。それじゃあ、ありがとうございます。お借りします。」

 

川島は持ち場へ戻っていった。

 

「これはいい品だ。切れ味良さそう。」

 

みほは銃剣を見ながら呟いた。

次の日、みほは梓にオレンジペコの徹底した監視を指示した。そして、証拠を押さえて現行犯で逮捕させる算段だった。

 

「それじゃあ、梓ちゃん今日から張り込みしてもらうことになるけどよろしくね。私たちは、しばらく攻撃とかする予定はないからゆっくり捜査して。」

 

「了解です。」

 

梓は、その日風紀委員のメンバーとともに一日ずっとオレンジペコを尾行と張り込みを続けた。オレンジペコはなかなか尻尾を出さない。オレンジペコはダージリンのそばをずっと離れなかった。

 

「オレンジペコさん。なかなか、尻尾を出しませんね。」

 

「そうね。でも、張り込みしていれば絶対に尻尾をつかめるはず。頑張って張り込みを続けるわよ。」

みどり子が励ます。梓が頷くとみどり子は満足そうに微笑み頷いた。

 

オレンジペコはしばらく、ダージリンのそばにいた。しかし、ある瞬間一人になるタイミングがあった。そのときである。オレンジペコは同じ聖グロリアーナの生徒と思われる者に、何かを渡した。梓は、それを確認すると飛び出した。

 

「こんにちは。オレンジペコさん。ちょっとその手紙、確認させていただいてもよろしいですか?」

 

オレンジペコは突然現れた梓を見て目を剥いた。そこには、ゲシュタポの姿をした梓と風紀委員が立っていたのであった。梓は固まって動けないオレンジペコに近寄ると、持っていた手紙を取り上げた。

 

「そ…それは…」

 

梓は、消え入りそうなオレンジペコの声に耳を貸さずに手紙を読む。

 

「オレンジペコさん。これは何ですか?」

 

オレンジペコは答えられない。

 

「もう一度聞きます。聖グロリアーナ女学院1年オレンジペコさん。これは一体何ですか?」

 

「これは…」

 

「これは…何ですか?」

 

梓は低い声を出して凄んで見せた。オレンジペコは俯いていたが急に真正面を見据えた。

 

「言えません。」

 

オレンジペコは毅然として答える。

 

「言えない?言えないものなんですか?」

 

「はい。言えません。」

 

梓は少したじろいだ。まさか、こんなに毅然とした態度をとられるとは思わなかったのである。

 

「わ…わかりました。詳しくは拠点でお話を伺います。では、オレンジペコさんとあなたは…お名前がわかりませんが、お二人を反逆の容疑で逮捕します。」

 

「私は、ディンブラと申します。」

 

「失礼しました。では、オレンジペコさん。ディンブラさんのお二人を反逆の現行犯で逮捕します。」

 

梓は、オレンジペコと手紙を受取ろうとしていたディンブラの手に手錠をかけた。オレンジペコとディンブラは抵抗もなく素直に従った。梓は連行途中でなぜこんなことをしたのか二人に尋ねた。

 

「なぜ、こんなことをしたんですか。」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。みほさんのやり方、そして残虐さにこれ以上耐えれないからです。それに、こんな格言ご存知ですか?自由のないところに正義はない。正義のないところに自由はない。自分の正義に従ったまでのことです。」

 

オレンジペコが代表で答える。

 

「なるほど。ただで済むとは思わないでくださいね。おそらくは…」

 

「覚悟はできています。しかし、私を捕らえたところですぐに私と同じように抵抗する者は出てくることでしょう。」

 

オレンジペコは静かに微笑んだ。少し歩くとすぐに拠点についた。みほは拠点の外で待っていた。

 

「梓ちゃん。お疲れ様。」

 

「隊長!オレンジペコさんと密書を受け取ろうとしていたディンブラさんを逮捕しました。」

 

「ありがとう。それじゃあ、例の建物に連れて行って。」

 

「わかりました。」

 

みほは、オレンジペコとディンブラに近づき、彼女たちの肩に手を置きながら耳元で囁く。

 

「オレンジペコさん。ディンブラさん。こうなった以上は徹底的に取り調べさせてもらいますから、覚悟していてくださいね。全部吐くまで許しませんよ。」

 

みほはくすくすと笑う。オレンジペコとディンブラは一点を見つめ無表情のまま動じなかった。梓に促され、オレンジペコとディンブラは建物の中に消えていった。みほはニコニコと微笑みながらオレンジペコとディンブラの後ろ姿を見送りながら呟いた。

 

「オレンジペコさんにディンブラさん。2人とも、精神強そうだな。なかなか心は折れなさそう。そういう強そうな子たちの心をどう折るのかそれを考えるのも楽しいんだよね。」

 

みほは執務室に戻ると、ダージリンに出頭命令を書いた。

 

「梓ちゃん。何度も悪いけど、ダージリンさんにこれを。」

 

みほは出頭命令を梓に手渡した。

 

「それじゃあ、頼むよ。」

 

「はい。お任せください。」

 

梓は、出頭命令を手にダージリンのもとへ急ぐ。しばらく歩くと、聖グロリアーナの部隊が駐屯している地区についた。

 

「ダージリンさん!ダージリンさんはいらっしゃいませんか?」

 

聖グロリアーナの駐屯地は何やら騒がしくなっていた。

 

「あ!梓さん!ペコを知りませんか?あと、ディンブラも…というか、その恰好…」

 

アッサムが梓を見つけ声をかけてきた。アッサムは梓の格好を見て目を丸くした。

 

「職務上でこういう格好をしているのです。アッサムさん。オレンジペコさんとディンブラさんのことで、ダージリンさんにお話が。ダージリンさんと面会させてください。」

 

「え!?ペコとディンブラの消息を知っていらっしゃるのですか!わかりました。こちらへどうぞ。」

 

アッサムは梓をダージリンの許へ連れて行った。

 

「アッサム!ペコは見つかったの…?ディンブラは…?」

 

「いえ…まだ…ただ、梓さんがペコたちの消息をしているようで。」

 

ダージリンは脇目も振らず梓にしがみつき、泣きそうな声で尋ねる。

 

「梓さん!ペコたちの行方を知ってるの?お願い!どんな些細なことでもいいから教えていただけないかしら…」

 

梓は淡々と事務的な声で非常な宣告を行う。

 

「オレンジペコさんとディンブラさんは我々、秘密警察思想課が反逆の罪で逮捕しました。」

 

「え…逮捕…逮捕ってどういうことかしら…?」

 

ダージリンの顔から表情が抜け落ちる。そして次の瞬間、顔面蒼白になった。

 

「そのままの意味です。反逆行為をしたから逮捕した。それだけのことです。あ、そうだ。これを隊長からです。」

 

梓は、みほから預かった出頭命令書をダージリンに手渡す。梓が手渡した出頭命令書には次のように記されていた。

 

[聖グロリアーナ女学院3年 ダージリン殿

この出頭命令受理3日以内に拠点に出頭せよ。

 

反乱軍隊長 西住みほ]

 

ダージリンは震えていた。

 

「一体、なぜペコは逮捕されたの?」

 

「詳しくは、出頭されてからお話しします。ひとまず、一度拠点にお越しください。」

 

「わかりましたわ…しばらく時間をいただけるかしら。少し、頭を冷やしたいの。」

 

「かまいません。私は、これで失礼します。」

 

ダージリンは明らかにうろたえていた。出頭命令を手に跪き、項垂れながら震えている。無理もない。自分の副官が逮捕された上にみほから話を聞きたいからと出頭を求められているのだ。みほの蛮行を見た者なら恐怖しないものはいないだろう。

 

「ペコ…なんで…」

 

ダージリンはうわごとを繰り返していた。アッサムは梓を見送るためにしばらく着いてきた。

 

「梓さん。ディンブラとペコはどうなるのかしら?」

 

「言いにくいのですが…おそらくは…わかるでしょう?」

 

「まさか…!」

 

「おそらくアッサムさんが想像されているとおりです。」

 

「そんな!何とか命だけは!」

 

梓は静かに首を振りながら呻く。

 

「助けてあげたいのですが、隊長はそれを許さないでしょう。もしかしたら、温情判決があるかもしれませんが、可能性は著しく低いかと…」

 

「お願い!助けてあげて…もしもペコとディンブラが処刑されたらダージリンは壊れてしまう…」

 

梓はしばらく黙って歩いていたが、アッサムの方を向き直る。

 

「とにかく、一刻も早く拠点に出頭してください。そして、隊長に助命を嘆願されるのが一番の近道だと思います。」

 

「わかりました。出頭には私も付き添っていいのかしら?多分ダージリンだけでは…」

 

「かまいませんよ。あ、ここまでで大丈夫です。では、お待ちしております。」

 

「ええ。なるべく早く向かうようにします。」

 

「お願いします。」

 

梓は拠点に戻るとみほは外で待っていた。

 

「隊長!どうされたんですか?こんなところにたたずんで。」

 

「梓ちゃん。おかえり。ちょっと風に当たりたくなってね。梓ちゃん。ダージリンさんの様子はどうだった?」

 

「はい。それはもう大変な狼狽のしようで。かなり動揺してましたよ。」

 

「ふふ…そっかあ。それは上々。ダージリンさんにはもっと苦しんでもらうことになるけど、仕方ないよね。裏切者を出しちゃったんだもんね。」

 

「隊長、オレンジペコさんとディンブラさんを助命しようなんて考えませんよね…?」

 

「助命なんかするわけないよ。どうしたの急に。」

 

「いえ、アッサムさんが2人の命だけはどうか助けてほしいと言われてしまって。」

 

「あはは。アッサムさんはそんなことできると思ってるのかな?反逆は重大な犯罪だよ?」

 

「そうですよね。わかりました。」

 

「よし、それじゃあ梓ちゃん。オレンジペコさんとディンブラさんの尋問を始めようか。準備しておいて。」

 

みほは梓に尋問の準備するように指示をした。みほは、オレンジペコとディンブラに過酷な拷問をして反逆に連座しようとした者を吐かせようと考えていた。梓はみほの指示に従ってあらゆる拷問道具を準備する。それを見ながらみほは悪魔のような笑みを浮かべる。みほの手で地獄よりも過酷で苦痛な尋問が始まろうとしていた。


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