血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほ陣営のエピソードです。


第42話 弾雨の後

サンダースの機銃掃射が止み、みほと優花里は外に出た。すると泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

「紗希!紗希!!しっかりして!ねえ!紗希!!」

 

「どうしたの?何があったの?」

 

「あ…隊長!紗希が…紗希が…」

 

「あぁ…!西住殿あれを…!」

 

優花里が青い顔をして指差す。そこには下半身を真っ赤な血に染めた、丸山紗希が倒れていた。おそらく逃げ遅れて先ほどの機銃掃射を浴びてしまったのだろう。

 

「紗希ちゃん!紗希ちゃん!大丈夫?わかる?」

 

みほは、紗希の肩を叩く。しかし、紗希はグッタリとして全く反応を示さない。みほは、紗希の脈と呼吸を確認する。脈と呼吸は何とかあるようだ。しかし、このままでは危険な状況だ。紗希は両方の太ももと腹を撃ち抜かれていた。血がどんどん溢れ出る。急いで止血しなければ出血多量で死亡する可能性があった。

 

「誰か!担架を持ってきて!急いで!」

 

紗希はすぐに担架で運ばれていった。

 

「隊長!紗希は…?」

 

「出血がひどい…生存率は著しく低いかも…もしかしたら今日中には…でも…奇跡が起こるかも…」

 

みほは静かに首を振りながら悲しそうな表情をする。

 

「そんな…」

 

梓は泣き崩れる。みほはそれを無表情で見つめていた。

 

「他に被害は?」

 

「今のところは1名のみです。」

 

「わかりました。皆さん。今はとりあえず落ち着いてください。詳しい被害状況がわかったらまた報告よろしくお願いします。今日は戦車隊の皆さんは、安全のため戦車の中で過ごしてください。またいつサンダースが襲ってくるかわかりませんから。ただし、うさぎさんチームの皆さんは、紗希ちゃんと一緒にいてあげてください。優花里さんは私と一緒に拠点に来てください。」

 

「わかりました…」

 

みほはこんなことがあっても冷静に的確な指示を出し続けた。そして、みほと優花里は拠点に向かって歩く。その道中だった。

 

「ふふ…あはは!あははは!!」

 

皆が見えなくなったところでみほは突然笑い始めたのである。優花里は唖然とした。この状況でなぜ笑っていられるのか全く理解できなかったのだ。

 

「に…西住殿…?何がそんなにおもしろいのですか…?」

 

「うん。あはは。だって、あのうさぎさんチームの憎悪の顔見た?あれは使えるよ。このまま紗希ちゃんが死んでくれればもっとね。」

 

「どういう…ことですか?」

 

「そのままの意味だよ。あの機銃掃射で撃たれたことで、憎悪は増す。さらに紗希ちゃんが死んでくれれば、もっと憎悪が増す。うさぎさんチームのみんなはサンダースの兵士と生徒会の兵士をこれからはきっとためらいなく殺してくれる。殺人マシンのようにね。」

 

みほは楽しそうにクスクス笑う。

 

「そんな…それじゃ、丸山殿は生贄ってことですか!?」

 

「そうだよ。サンダースには航空隊があるから、そもそもこうなることは想定済み。実はつい2時間前に航空隊が出撃したことはレーダーでわかってたし、無線傍受もしてた。攻撃目標が戦車であるってことも全て分かってた。きっとケイさんは、航空隊を使用しろなんていってないだろうけど、余計なことをする副官がいるからね。多分その人が指示したんだろうけどね。全ては想定内で計画通り。全ては私の掌の中にある。」

 

「それじゃあ、西住殿はわざと…」

 

「うん。そうだよ。わざと集結させた。そして、誰か逃げ遅れる人が出るように戦車の外に出させた。そして、実際に逃げ遅れて瀕死の重傷を負う子が出た。全てが完璧だよね。」

 

みほは、ニッコリと笑う。罪悪感など微塵も感じていないという様子だった。

 

「そんな…あんまりです…西住殿…!!」

 

みほはクスクスと笑いながら言い放った。

 

「私は使えるものは全て使うよ。何だってね。例え人の心でも…」

 

優花里は立ち竦んで動けなくなってしまった。

 

「優花里さん。怖がらなくても大丈夫だよ…優花里さんだけは守ってあげるから。絶対に死なせない…」

 

みほは頰を撫でながらキスをしてきた。

 

「ににに…西住殿?なな…何を…?」

 

優花里の顔が今まで見たこともないくらいに真っ赤に染まる。

 

「えへへ。ちょっと優花里さんにいたずらしたくなっちゃって。」

 

優花里はへなへなと座り込んでしまった。優花里は嬉しいような恐ろしいようなよくわからない顔をしていた。みほは、ころころと変わる優花里の表情の変化をおもしろそうに眺めていた。

 

「優花里さん。可愛い。」

 

みほは座り込む優花里を抱きしめながらまたキスをした。優花里はみほを受け入れた。裸をすでに見られ、触られ、更には顔から足の先まで身体中を舐められている。今更、キスぐらいどうってことない。そう思ったからだ。みほは濃厚なキスを繰り返してきた。優花里はそれを全て受け入れていた。

 

「はぁ…優花里さん。ありがとう。すごくおいしかった。さあ、拠点に急ごう?」

 

みほは、へたりこんでいる優花里を促した。優花里はだらしない顔をして動かない。みほに散々催促されてようやく立ち上がった。優花里は、ぼうっとして心ここに在らずという様子だった。フラフラとおぼつかない足取りで歩く。

 

 

「ふふ。優花里さんってばフラフラしちゃって。しっかりしてよ。早く歩かないと日が暮れちゃうよお。」

 

みほは笑いながら、早く歩くように促す。優花里は心臓がドキドキして先ほどまでのみほとの行為で顔が真っ赤になっている。とてもじゃないが上手く歩けない。

 

「もう。仕方ないな。優花里さん。私がおんぶして連れてってあげるよ。」

 

「え…?そこまでしてもらわなくても…うわあ!」

 

みほは優花里が全て言い終わる前にヒョイっとおぶってしまった。

 

「に…西住殿!大丈夫です!自分で歩けますから!」

 

「ダメ。優花里さん。フラフラしてるから心配だよ。」

 

「うぅ…わかりました…なるべく早く行きましょう…恥ずかしいです…」

 

みほは、優花里が恥ずかしがる顔を見るとニヤリと意地悪そうに笑った。そして、みほは優花里をおぶったまま、わざわざゆっくりとしかも遠回りで他の部隊の様子も見たいからなどと言って他の戦線にも寄り道をして拠点に向かった。

 

「うぅ…酷いです…西住殿…わざわざこんな遠回りして拠点に向かうなんて…」

 

「えへへ。ごめんね。優花里さんが可愛すぎるのがいけないんだよ。つい、いじめたくなっちゃうの。」

 

「うぅ…」

 

そして、みほは優花里をおぶってようやく拠点についたのはあちこち回ったおかげで2時間後だった。優花里はようやく恥ずかしさから解放された。

 

「さあ、優花里さん着いたよ。それじゃあ、早速これからの戦争についての会議をやるから。」

 

「は…はい…」

 

みほは、援軍に来た黒森峰旧副隊長派の代表として小梅と知波単の代表、川島そして大洗は優花里の4人で会議を始めた。

 

「これから、戦いは本格化します。卑怯な生徒会は卑怯なサンダースと結託して航空戦力まで引っ張り込んで来ました。今回、その航空隊の機銃掃射で1名負傷者が出ました。あまりに残虐です。サンダースを許すことはできません。」

 

白々しい。優花里はそう思った。みほは、全て知っていたじゃないか。全て知ってた上で生贄として丸山紗希を捧げた。優花里は心底、みほが恐ろしくなった。

 

「さすがは鬼畜アメリカの流れを汲んでいるだけある。戦車に航空戦力で攻撃など…」

 

川島が憤る。さすがは知波単だ。未だにアメリカに対してはアレルギー反応のようなものを示すらしい。

 

「航空戦力まで出てくると厳しいですね…戦争が長期化する可能性もあります。長期化して、足止めしていた黒森峰まで参戦するとなるとまずいです。まあ、黒森峰は私たちが命をかけてでも食い止めますが…」

 

「航空戦力はもう出てくる可能性は低いと思います。フェアプレイを重んじるケイさんですから、むしろ今回は誰かがケイさんの指示を仰がず独断でしたことだと思われます。」

 

「そうか。しかし、またいつか攻撃してくるかもしれない。僕たち知波単自慢の紫電改と疾風を擁する航空隊にいつでも出撃ができるように連絡しておくよ。」

 

「ありがとうございます!助かります!」

 

「みほさん。敵の戦力は計り知れません。今のうちに大攻勢に打って出ましょう。」

 

「うん。そうだね。生徒会に揺さぶりをかけよう。全軍ここから少しだけ進軍しよう。明日の13時全軍進軍し、さらに支配地域を拡大します!」

 

「了解です!」

 

その夜、丸山紗希が息を引き取ったという知らせが入った。みほは、その知らせを執務室で受けた。使いの者が外に出るとみほはニヤリと笑う。

 

「紗希ちゃんが死んでくれた。これで、うさぎさんチームも悪魔と化す。ふふ…生徒会とサンダースは地獄を見るよ…」

 

そう呟いた時だった。鬼の形相をした梓とうさぎさんチームのメンバーが直訴しに来た。

 

「次の先鋒は私たちにやらせてください!憎い生徒会とサンダースを私たちの手で紗希の仇を討ちたいです!」

 

梓が代表で口を開く。そうするとうさぎさんチームは口々にやらせてほしいと懇願した。

 

「わかった。任せるよ。今回は…ごめんね…私のせいで…紗希ちゃんが…」

 

みほは涙を流しながら謝罪した。もちろん演技であった。しかし、うさぎさんチームはその涙に騙された。

 

「隊長のせいではありません。憎い生徒会とサンダースのせいで紗希は命を散らしたんです…この憎しみは必ず…」

 

「うん…そうだね…亡くなった紗希ちゃんのためにも、この戦いに必ず勝利しよう…明日の戦いは戦死した丸山紗希の弔い合戦となる!皆、覚悟はあるか!」

 

「はい!」

 

みほがいつも訓示の時のような口ぶりで話すとうさぎさんチームは胸を張り敬礼をしながら大きな声で叫んだ。

みほは、満足そうな顔をして頷く。

 

「それじゃあ、明日も早いから早く休んでね。明日は紗希ちゃんを荼毘にふしてから、進軍を開始します。最期の夜だからね、みんな一緒に過ごすといいよ。」

 

「わかりました。そうします。」

 

梓とうさぎさんチームのメンバーが部屋を出て10分ほど経った。

 

「あはは!やった!やったよ!うさぎさんチームはすっかり悪魔になった!美しい悪魔に!あの憎悪に満ちた顔!たまらないな!あははは!さあ、うさぎさんチームはどんな地獄を見せてくれるんだろう?あぁ!楽しみ!」

 

みほは腹がよじれそうなくらいに笑う。

 

「ねえ?優花里さん?」

 

みほは突然扉の向こうに声をかけた。

 

「ひっ!」

 

「そこにいるんでしょ?入っておいで。ちょっとお話ししよっか。」

 

「し…失礼します…あ…あの…誰にも言いませんから…見逃してください…」

 

「うん。いいよ。ただし、誰かに一言でもこのことを言ったら、優花里さんもこの子たちの仲間入りだからね。」

 

みほは机の引き出しから髑髏を5つ取り出した。

 

「ひっ!わかりました…」

 

「あ、そうだ。優花里さん。そろそろ河嶋さんの死体を片付けておいて。ハエがたかって腐敗し始めて臭いがすごいらしいから。あ、河嶋さんの死体で骨格標本作る予定だから死体は煮沸してね。この骨格標本はとても大切な役割をしてもらうから大事に扱ってね。」

 

「うぅ…了解です…」

 

優花里は俯いて執務室を出て行った。

 

「紗希ちゃん。死んでくれてありがとう。貴女のおかげで、うさぎさんチームを悪魔にできた。貴女の死は決して無意味じゃないんだよ。安らかに眠ってね。」

 

みほは手を合わせながらニヤリと笑いながら呟いていた。

 

つづく




今回の戦死者

丸山紗希

サンダースのF6Fヘルキャットの機銃掃射により死亡。

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