血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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みほの陣営のエピソードです。


第39話 思わぬ援軍

みほは、ニコニコと笑いながら執務室で執務に励む。あと少しで楽しい時間が始まる。可愛い捕虜の身体を弄ぶことができる。ワクワクと心躍らせて、大量の命令書などの書類にサインをしていると、交渉した覚えのない無期限貸与書があった。

 

「なんだろう?これ…」

 

みほが首を傾げていると梓が執務室に入ってきた。

 

「失礼します。」

 

「あ、梓ちゃん。この書類なんの書類がわかる?」

 

「あぁ、そういえば、それ、隊長が前線にいるときに電話があったみたいなんです。電話を受けた兵士によると、とある学校から隊長を討つために出発しようとした戦車の一部を"鹵獲"したので是非とも戦争に役立ててほしいとのことです。その人はアカホシと名乗っていたようですが、隊長ご存知ですか?何やら隊長のことをしきりに気にしておらたそうです。あとファックスも届いたんですよ。どうやらティーガーⅠとティーガーⅡを2両、無期限貸与をするとのことらしいです。」

 

みほは目を丸くして立ち上がる。そして、懐かしそうに遠くを見つめて笑った。今まで心躍らせて考えていた捕虜に対する邪な欲望はどこかに吹き飛んでいた。

 

「え!小梅さん!!懐かしい!小梅さん元気かな。そういえば、小梅さんを反逆者収容所の所長と秘密警察思想課長に任命してたんだよね。私が黒森峰から追放された後どうなったんだろう…」

 

みほの顔がパッと純粋な嬉しそうな笑顔になった。みほは携帯を手にして興奮のあまり何度も落としそうになりながら電話をかける。今まで悪魔だったみほは無邪気な可愛い女の子に戻っていた。

 

『もしもし!小梅さん?久しぶり〜!!』

 

『みほさん!お久しぶりです…あの…最初にみほさんに謝りたいことが…私たちの戦車があの時、転落していなければ…みほさんはきっと理想郷を築けたはずなのに…私たちのせいで…追放されて…本当にごめんなさい…』

 

そう。電話の相手の赤星小梅は、あのみほが追放されるきっかけとなった試合で、崖から滑落した戦車の搭乗員だったのだ。しかし、みほはそんなことは気にしないという様子で嬉しそうに友と話した。

 

『いいの。私は間違ったことをしたなんて思ってないし、やっぱり大切な友達があのまま水の中に沈んで行くのは耐えがたい。もう昔のことはいいんだよ。そんなことよりも、私が追放された後、小梅さんたちこそ大丈夫だった?』

 

『はい。私も裁かれることを覚悟していたのですが、何故かみほさんだけが悪いみたいな感じになって…結局私たちの裁判はうやむやになって、処分保留のような形で終わりました。』

 

『そっか、なら良かった。私ね、小梅さんたちがどうなったか心配してたんだ。ごめんね…私、あの後すぐに実家に謹慎させられて追放されたから、小梅さんたちの一部始終知らなくて…』

 

『いえ、そんなことは…みほさんの苦労に比べたら…』

 

電話の奥ですすり泣く声が聞こえてくる。みほはそれをなだめた。

 

『小梅さん。大丈夫だよ。私は大丈夫だから…泣かないで…』

 

『す…すみません…あの時のことを思い出してしまって…』

 

『ありがとうね。私のために泣いてくれて。あ、そうだ。そろそろ本題に入ろうか。電話の件聞いたよ。詳しく聞かせてくれない?というよりも、 誰から私が武装蜂起をしたって聞いたの?』

 

『はい。みほさんが武装蜂起をしたという噂はいつの間にか黒森峰の学園艦に広まっていました。おそらく隊長の周囲の誰かがうっかり口を滑らせたのでしょう。隊長は、武装蜂起など事実無根だと言ってましたが、最近隊長の周囲が慌ただしくなっていましたので、すぐに武装蜂起は事実であるとみんな確信しました。』

 

『あはは。なるほどね。うっかり口を滑らせたバカは誰だろう。間抜け面を見てみたいな。お姉ちゃんもバカだね。私だったら秘密にしておきたいことは部下にも友達にも家族にも誰にも話さないよ。まあ、私にはもう家族なんていないけど。えへへ。あ、ごめんね。続きお願い。』

 

みほはクスクスと笑う。

 

『はい。それで、私たちはかつてみほさんに付き従った者、収容所の元看守、そして元秘密警察官だった者たちを再び集結させて、戦いに赴く覚悟はあるかと問うたのです。すると、みんなみほさんのために何かしたいと涙を流しました。その頃、黒森峰では秘密裏に戦車5両がみほさんを討ち果たさんがために、出発しようとしていたたのです。私たちは、この戦車を鹵獲するために夜襲をしかけました。その結果、ティーガーⅠとティーガーⅡ、あわせて2両を鹵獲することができました。私たちは、この戦車とともに、大洗でみほさんとともに戦う覚悟です。お願いします。みほさんと一緒に戦わせてください!』

 

みほは驚いてしまった。まさか、かつての仲間が自分を思ってくれているなんて思ってもみなかったのだ。

 

『ありがとう。小梅さん。でも、小梅さんたちを危険な目に合わせるわけにはいかないよ。戦車を貸してくれるっていうならありがたく受け取るけど、小梅さんたちはこれからの生活もあるし、私たちと一緒に戦ったら、黒森峰で居場所がなくなっちゃう。小梅さんたちには普通に学校生活を送ってほしいな…』

 

みほは、小梅を諭した。

 

『嫌です…』

 

小梅はきっぱりと拒否した。しかし、みほもなかなかウンと言わない。

 

『お願い。小梅さんたちには私みたいにはなって欲しくはないの。』

 

すると小梅は語気を強めて訴えた。

 

『嫌です!今の黒森峰に居場所なんてあるわけないじゃないですか!みほさんがいない黒森峰に私たちの居場所なんてない!私たちは黒森峰で旧副隊長で鬼畜の西住みほの犬だと言われて徹底的に弾圧されているんです!誰も助けてなどくれない!私たちは差別されているんです!中にはリンチを受けた仲間までいます!だからこんな黒森峰なんかにいたくない!私たちはみほさんの役に立ちたいんです。みほさんのことが大好きだから。みほさんのためだけに戦いたいんです!みほさんのためなら死んでも構わない!みほさん、お願いします。私たちにも戦わせてください!』

 

みほは小梅の言葉を聞いて黙り込んだ。ずっと考え込んでいたが、みほは決意した。

 

『私のいない黒森峰でそんなことが起こっていたなんて…知らなかった…ごめんね…わかりました。なら、私と一緒に戦いましょう。理想郷を作りましょう。それじゃあ、いつ来れますか。』

 

『実はもう輸送機に戦車2両と1000名の旧副隊長陣営の人間を乗せ黒森峰を出発して、大洗の学園艦に近づきつつあります。約1時間後には到着します。しかも燃料は片道分しかありません。』

 

『あはは。それじゃあ、断ったところで無理矢理にでも来るつもりだったんだ。燃料も片道分しか入れないなんて小梅さんも意外と策士だね。そういえば、エリカさんは?元気?』

 

『エリカの話はしないでください…あの人はみほさんがいなくなった後、真っ先に私たちを裏切って隊長たちに私たちを売った!許せない…』

 

嬉しそうだったみほの顔からふっと表情が抜け落ちていく。そしてみほは悪魔に戻る。軽蔑したような表情をして呟いた。

 

『そっか。エリカさん…裏切ったんだ…あんなに目をかけて秘密警察の隊長兼特別課長まで就任させてあげたのに、私がいなくなったらあっさりと裏切ってあの蛆虫のお姉ちゃんについた…ふふ…エリカさんも愚鈍な駄犬…いや、結局蛆虫さんだったってことか…』

 

『あの、みほさん。話を変えるようで悪いのですが、今回、かなり無理な積み方をしているので、燃料も危なそうですし一刻も早く着陸したいのですが…』

 

『あ、そうだよね。戦車2両と1000名の人間を運んでるんだもんね。わかった、一刻も早く着陸の準備をして準備できしだい連絡するね。』

 

電話を切るとみほは急いで地図を取り出した。学園艦の見取り図だ。みほは、輸送機が着陸可能な道路を探す。

 

「えっと、ちょうどこの拠点がある西地区に大きな幹線道路があるな。幅もギリギリ良さそうだし、長さもギリギリだけど大丈夫。なら、ここに誘導して着陸してもらおう。」

 

みほは梓に急いで着陸誘導の準備をするよう指示を出す。

 

「梓ちゃん。ここに今いる知波単の兵士と捕虜以外の全員をすぐ集めて。輸送機着陸の準備をはじめます。」

 

「はい。わかりました。隊長、赤星さんっていう人ととても仲よさそうですね。」

 

梓は少し嫉妬していた。しかし、その人はどんな人なのだろうかと少し興味もあった。

 

「諸君!朗報だ!黒森峰のかつての私の仲間が、1000人の援軍を送ってくれた。しかもおまけに戦車2両が一緒だ。輸送機で向かっているが、今現在着陸場所がなくて困っているそうだ。そこで、着陸場所の確保のため、西地区の幹線道路を封鎖し、そこへ誘導するそのためにこの誘導灯の設置を皆に手伝ってほしい。」

 

皆、黒森峰からの思わぬ援軍に喜んでいた。嫌だというものは一人もいない、皆進んで誘導灯の設置を手伝った。

作業はあっという間に終わった。

みほは、早速小梅に誘導灯を設置し着陸の受け入れ態勢が整ったことの連絡をした。

 

『小梅さん。終わったよ。誘導灯を設置したから誘導灯目指して着陸して。』

 

『わかりました。約30分後に着陸態勢に入ります。』

 

30分後、轟音とともに輸送機が現れた。そして、ギリギリ着陸を成功させた。

みほは、輸送機に駆け寄る。

 

「小梅さん!久しぶり!」

 

「みほさん…!」

 

みほと小梅は抱き合う。小梅は今まで我慢してきた感情が溢れ出し涙をこぼしていた。感動的な再会だった。

 

「みんな…来てくれてありがとう!」

 

みほは、懐かしい黒森峰時代の仲間との再会を果たした。

 

「さあ、みほさん。この戦車をみほさんに捧げます。使ってください。」

 

見事なティーガーⅠとティーガーⅡ、2両の雄姿がそこにはあった。

 

「あ!これって…」

 

小梅たち黒森峰時代の仲間はニッコリとして胸を張る。

 

「はい!みほさんが搭乗していたティーガーⅠ、217号車です!みほさんの元へ行くならこれを持っていかなければということで持って来ました!」

 

「うわあ!嬉しい!みんな、本当にありがとう!それにごめんね…小梅さんから聞いたけど私、みんながあんな目にあってるなんて思ってもみなかった。苦労かけたね…今日からはここがみんなの居場所。みんな、一緒にこの戦争に勝利しよう!」

 

小梅たちは、ここが居場所と言われてホッとしたのか洪水のように感情が溢れ出て大きな声でワンワンと泣き出した。小梅たちは涙を拭くとすっくと立ち上がる。

 

「私たちは、みほさんの直属の部隊となります!何でも命令してください!」

 

小梅たちは、全力で戦い抜き必ずみほに勝利をもたらすことを誓った。みほは、ニッコリと笑っていた。風が強く吹いている。髪を風にたなびかせ、拳を強く握りすっくと立つ少女たちの勇姿がそこにはあった。みほは、1000名のかつての仲間たちの前に立ち生徒会室がある建物を獲物を狙うような目で見据えていた。

 

つづく

 


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