血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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今回も生徒会の話です。


第30話 開戦直前

戦争の準備を始めた杏たちは愕然とした。相手の戦力が全校生徒の3分の2、12000人を超えていたからである。こちらの戦力は目一杯集めたとしても6000人、2倍の戦力と戦車部隊を有するみほにはとても勝てない。ほぼ虐殺状態になるだろう。そこで、杏たちは援軍を要請することにした。SOSのモールス信号で各校に送信した。

 

"ニシズミミホ ホウキ キュウエン コウ"

 

いち早く反応が来たのは黒森峰だった。打電して10分後にはすぐに電話がかかって来た。

 

『はい。大洗女子学園生徒会の小山です。』

 

『黒森峰女学園の西住まほだ。みほが蜂起したという知らせを受けたのだが、本当…なのか…?』

 

『はい。本当です。今、会長にかわりますからお待ちください。』

 

まほは、明らかに狼狽していた。そして、その声は震えていた。みほに恐怖を抱いていると言う印象の声をしていた。

 

『もしもし。電話かわったよ。会長の角谷だ。』

 

『角谷か。いいか。絶対にみほを勝たせてはいけない。何としてもみほに勝利してくれ。もしみほが学校を支配すると考えるだけでも…恐ろしい…』

 

まほは、必死だった。みほが大洗に転校をしてきた時も黒森峰から西住流が流出するという不自然さに怪しいとは思っていたがやはり、黒森峰でも何かしたようだ。杏は黒森峰で何があったのかまほに聞きだそうとしていた。しかし、まほは決して口を割ろうとはしなかった。

 

『ねえ、黒森峰で一体何があったか教えてくれないかな?なんで西住ちゃんはあんな恐ろしく悪魔みたいになったのか、全ての秘密を知りたいんだけど。』

 

『そ…それは…言えない…とにかく、絶対に勝つんだ。我々は今、熊本付近を航行中で援軍を出してやりたいがすぐには大洗にむかうことはできない。なんとか持ちこたえてくれ。』

 

そう言うと、黒森峰からの電話は切れた。杏は受話器を見つめながら呆然とした。すぐにはむかうことができないから持ちこたえろなどとまほも無茶なことを言う。何しろ相手の戦力は2倍プラス戦車部隊という圧倒的だ。どう持ちこたえろと言うのか。待っているうちに占領されてしまう。どうすればいいのかわからず頭を抱えていると、また電話がかかってきた。次に、連絡があったのは、サンダースだった。

 

『HEY!アンジー!大変なことになったわね!武装蜂起なんてみほもアンフェアなことするのね!任せて!私たちは生徒会を支援するわ!』

 

フェアプレイを重んじるケイのことだ。非合法的手段を取ったみほのことが許さないのだろう。援軍を申し出てくれた。杏は、少し安心したのか自然と涙が溢れてきた。そして、何度も何度もお礼を言った。

 

『ありがとう。本当にありがとう。助かるよ。』

 

『ちょっとアンジー!泣くのはみほに勝ってからよ!』

 

ケイは笑いながら杏を諌めた。

 

『ところで、相手の戦力は?』

 

『全校生徒の三分の二の12000人は西住ちゃんについている。今、全校生徒のうち残っている6000人をなんとか説得して味方にしようとしている最中だ。』

 

『Oh…なかなか厳しいわね…わかったわ…集められるだけ集めてみる。』

 

そう言うと電話は切れた。とにかく援軍を出してもらえるだけありがたい。杏は受話器を持ったまま安心して泣き崩れた。しかし、泣いてばかりもいられない。杏は何とか味方を増やそうと大洗に残っている数少ないみほに恭順していない者を説得して回った。生徒会室に戻ると、桃と柚子ががっくりと肩を落としていた。

 

 

「2人ともどうした?」

 

「これを見てください…」

 

柚子が差し出したのは聖グロリアーナ、マジノ女学院、知波単学園からの返事の打電だった。そこには、衝撃的なことが記述されていた。

みほを支援すると書かれていたのだ。杏は愕然とした。先ほどまでのもしかして勝てるかもしれないという一途の希望の光は見事に消え去った。

 

「な…なぜ…」

 

杏はうろたえる。なぜみほを支援するのか全く理由がわからなかった。さらに追い討ちをかけるように知らせが入った。

継続とBC自由学園は中立を申し出てきたのだ。結局、杏たちの援軍を申し出たのはサンダースと黒森峰の2校。そのうち、黒森峰は遠くにいるということですぐには到着できないとのことで、すぐに頼ることはできない。そして敵は、12000人と戦車部隊、そして聖グロリアーナ、知波単学園、マジノ女学院の3校。そして、中立は継続とBC自由学園の2校だ。各校の態度が明らかになった。情勢は圧倒的に杏たちに不利な状況だ。

杏は呆然としていた。その時だった。

 

「もうおしまいだ!!これでは勝てるわけがない!」

 

桃の悲痛な声で杏は我に帰った。柚子も不安そうにこちらを見ている。自分がしっかりしなくては。そう感じていた。

 

「大丈夫。何とかなるよ。」

 

杏は2人を安心させようと必死だった。そうは言ったものの、杏も策を失っていた。どうすればいいのかわからなかった。あとは一人でも多く、援軍と味方を増やすのに徹するしかない。開戦の期日まで6時間を切っていた。杏は再び外に出た。そして、一人でも多くの生徒を集める努力をした。

開戦2時間を切り、杏は自分に味方をしてくれる者を集めた。杏は少しでも多くきて欲しいと祈るような思いだったが、結局集まった者は生徒1000人教員300人だった。圧倒的な戦力不足。そして、サンダースからは援軍の到着は明日の午後になるという連絡が入った。それまで、1300人で持ちこたえなければならない。

杏は訓示を行なった。

 

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。今、この学校は危機に陥っている。全校生徒の三分の二が反乱に加わっている。敵のリーダー西住ちゃんは、悪魔だ。もはや許すことはできない。圧倒的に不利な状況だけど、しばらくすれば援軍は必ずくる。それまで厳しい戦いになるが、何とか学校を守ろう。」

 

共に戦ってくれる仲間は杏の人柄をよく知っている者ばかりだった。杏のためなら何でもする、何処までもついていくと口々に言っていた。皆、不利な状況でも士気は高かった。教員も自身の教員としての誇りにかけて戦うことを誓った。杏はいざという時のために手に入れていた学校護衛用の100挺の銃を精鋭に手渡す。

開戦まであと1時間。外は嵐の前の静けさのように静かだった。

 

つづく




みほに味方した各校の事情

聖グロリアーナ

OGの影響で補強がうまくいかないため、それを取り除くことができる可能性があるクーデターという手段に興味を持つ。みほの手段を学ぼうとみほに味方した。

マジノ女学院

絶対的権力を持つ生徒会に挑むみほにフランス革命を成し遂げた市民を重ね、興味を持ったこと、そして黒森峰が反みほであったことからみほに味方をする。

知波単

密約を結んでいたため、みほに味方をする。

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