血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第24話 来訪

数日後、噂が流れてきた。サンダースの戦車隊のメンバー5人が突如として行方不明になったという。しかも、鍵がかかったままで誰かが侵入した様子はなく、おそらく自ら出て行ったように見えるという。優花里は内心ヒヤヒヤしていた。何しろこの行方不明事件を引き起こした実行犯だからだ。自分が犯した犯行がばれないか気がかりだった。しかし、みほは平気な顔をしていた。身の安全を心配するどころか、みほは積極的にサンダースの情報を仕入れていた。みほは、サンダースの反応を見て楽しんでいたのだ。噂によるとサンダース隊長のケイはいつものように明るく振舞ってはいるが、どう考えても狼狽している様子を見せているようだ。そんな噂を聞くたびにみほは嬉しそうな顔をしていた。

そんな中、なんとケイ自らがこの大洗に来るという。きっと自分自身でも練習の合間を縫って行方不明の5人を探しているのだろう。無理もない。行方不明者のうちの3人はケイが搭乗している車両のメンバーである。自らが探すのは当たり前のことと思っているのだろう。そして、ケイはみほにも会いたいという。生徒会に提案された時、みほはもちろん快諾した。生徒会がいなくなるとみほは嬉々としていた。

 

「優花里さん。聞いた?あのサンダースの隊長が来るんだって!あの隊長の狼狽した顔を直接見れるなんて楽しみだなあ。」

 

「え…ええ。」

 

優花里はそれしか言えなかった。優花里は、どんな顔をしてケイの前に立てばいいのかと苦悩した。サンダースの隊長ケイの来訪の連絡から3日後、ケイはやってきた。

 

「HEY!みほ!オッドボール軍曹!」

 

「ああ、ケイさん。こんにちは。ようこそ大洗へ私が西住みほです。」

 

「秋山優花里です。」

 

「そんな堅苦しい挨拶はいいの!ところで、早速聞きたいんだけどこの子たちを最近この辺で見たことない?」

 

そういうとケイは写真を差し出してきた。それは、優花里が誘拐しそして毒ガスで殺された5人の写真だった。

 

「見たことないなあ。優花里さん知ってる?」

 

「い…いえ。知らないです。」

 

「そう…」

 

一瞬だけだが、優花里はケイが疲れた様子を見せたの気がついた。それは、みほも同じようだ。みほも一瞬だけニヤリと笑う。

 

「まったく、どこへ行っちゃったのかしらね。本当に人騒がせな子たちなんだから…あ!みほ!オッドボール軍曹!ありがとうね!じゃ!」

 

そういうと、ケイは帰ろうとした。みほはそれを引き止める。

 

「え?もう帰るんですか?もう少しゆっくりして行ってもいいのに。」

 

 

「まだ、行くところがたくさんあるの。またゆっくり改めて訪問させてもらうわ!」

 

ケイは笑いながらそういうと足早に帰って行った。きっと他の学園艦にも聞いて回るのだろう。隊員思いのいい隊長だ。優花里はそんな風に感じていた。しかし、そんな隊長にもう二度と5人は会うことはできないのだ。本当に申し訳ないことをした。優花里はそんな風に思っていた。

 

「優花里さん。これ見てごらん。」

 

みほがそう促すので見てみると、みほの鞄の中に髑髏が入っていた。その髑髏は隊長車の操縦手のものらしい。識別できるように紙が貼ってある。それを見た優花里は目を剥いた。みほは、可笑しそうに笑う。

 

「実はケイさんが探していた子たちは骨になって私の鞄の中にいました!なんてね。えへへ。ケイさん。必死だったね。そんなのとっくの昔に殺してるから見つかるわけないのに。せいぜい頑張ってね。あぁ、楽しい。人の苦悩する顔や苦痛に歪む顔を見ることほど楽しいことはないよ。」

 

そして、みほは髑髏を手に持つ。

 

「ねえ。あなたはケイさんたちのところに戻りたい?まあ、絶対に戻れないんだけどね。あはは。」

 

そういうとみほは、髑髏を弄び始めた。みほはどんなことをしても全くもって心が痛まないらしかった。むしろ、快感であるかの如くだった。そんなみほを優花里はただ、呆然として見ていることしかできなかった。

 

数日後、サンダースから登録選手変更の知らせが入った。とうとう選手変更の締切日までに5人の発見が間に合わなかったのだ。これは、サンダースにとって大きな痛手となる。戦車は狭い空間でお互いの信頼関係を基にはじめてその威力を発揮する。その絆は共に訓練などを乗り越えることではじめて構築されるのだ。だから、すぐに築けるものではない。あのファイアフライもあのメンバーだからこそ脅威になるのだ。サンダース側の大きな戦力の低下につながることは明らかであった。みほの戦力低下作戦は見事に成功したのである。その知らせを優花里から拠点で聞いたみほは、ほくそ笑んだ。今回のサンダース戦の勝利を確信したようだった。

 

「優花里さんのおかげでこの試合勝てるよ!ありがとう。」

 

「はい…」

 

優花里の心は罪の意識に苛まれ、限界に近づいていた。優花里が背負っていた十字架はあまりにも重たかった。

 

つづく




21:00〜22:00の間にもう1本投稿する予定です。

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