血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第23話 第二回目の実験

優花里は、サンダースから誘拐された5人にはせめて死ぬまでの7日間、恐怖をなるべく和らげてあげたいと思い、積極的に話しかけた。優花里は梓に虐待行為まがいな事をしてしまったことを深く反省し、二度と同じ轍は踏まないことを決意していた。最初こそは5人とも当たり前だが震えているだけでなかなか心を開かなかった。しかし、粘り強く話しかけてるうちに少しだけ仲良くなった気がした。優花里と5人はたくさんの話をした。大好きな戦車の話、学校のこと、戦車道のこと、そして5人の恋の話。優花里にとっても楽しい時間であったし、5人も楽しそうな様子だった。

 

「やっぱりファイアフライはあの長砲身が魅力ですよね!」

 

「ええ。ファイアフライはサンダース自慢の戦車ですから!」

 

特にファイアフライの話をした時、学校の誇りなのだろう。自慢気に話してくれた。優花里は仲良くなれて嬉しい反面。もうすぐ非情な運命が待ち受ける5人にどう伝えればいいのか苦悩していた。

しかし、時は待ってくれない。非情な運命は刻一刻と近づく。その間、優花里は5人と話しながら、どうすればなるべく5人に恐怖を感じさせずに非情な運命を伝えることができるか、考えていた。しかし、そんな便利な方法は見つかるわけがない。時はあっという間に過ぎ、ついに実験当日になった。実験当日の朝みほは、実験執行の書類にサインした。それを麻子に渡して毒ガスを用意させる。そして、優花里に5人に最期を宣告するように指示した。

 

「優花里さん。モルモットたちに伝えてきて。」

 

「了解です…」

 

優花里はなるべくゆっくりと5人のもとへ向かう。そして、部屋の前へ着いた。

 

「皆さん。おはようございます。私です。」

 

優花里が話しかけると皆、嬉しそうに返してくれた。

 

「あれ?今日は早いですね。おはようございます。」

 

「今日は何を話しますか?」

 

「あ、昨日の話の続きをしましょうか?」

 

何も知らずに明るい5人を見て優花里は胸が締め付けられる。この5人が一体何をしたというのか、なぜこんな非情な運命を背負わせなければならないのか。

 

「あの…えっと…今日は…」

 

優花里は口をつぐみ何もいうことができない。しばらくの間沈黙が続いた。優花里にはその時間がとても長く感じられる。優花里は、ここはストレートに伝えて意味もわからず混乱したまま死んでいったほうがある意味、余計な恐怖を与えなくて楽かもしれないと考え、ストレートに伝えることにした。

 

「今日は…皆…さんと話すことはできません…皆さんの人生はここで幕を閉じます…大丈夫です…今日は…すぐに楽になるはずです…きっと…」

 

自然と涙がこぼれてくる。5人はキョトンとした表情だった。

 

「え?どういうことですか?」

 

「ご冥福をお祈りします。」

 

優花里はそれだけを言うと足早に部屋を後にした。5人は去っていく優花里に向かって必死に何かを叫んでいた。優花里は、観察室に向かう途中の階段に座り込み泣きじゃくった。優花里の泣き声が響き渡っていた。やがて、泣き止み観察室に向かった。観察室に入るとみほが口を開いた。

 

「優花里さん。ご苦労様。優花里さん、あのモルモットたちと仲がいいみたいだね。辛いだろうけどしっかり最期を見届けてあげてね。」

 

「はい…」

 

みほは、クスクスと笑っていた。優花里は、消え入りそうな声で返事することしかできなかった。

今日の実験は立会人として計画したみほ、毒ガスを作った麻子、そして誘拐した優花里が立ち会った。

 

「現時刻、午前9時。ただいまから、第2回の毒ガス実験を行います。本日はサリンを使用します。よろしくお願いします。」

 

「ああ、よろしく。」

 

みほが高らかに毒ガス実験開始を宣言した。いつの間にサリンなど開発していたのか。麻子は、研究成果を応用してどんどん新しい毒ガスを作り出していた。第1回目では糜爛性のガスが使用されたと聞く。優花里は肌がただれて死んでいく糜爛性ガスよりは今回のサリンの方がマシかもしれないと思っていた。みほは、ボタンを押して厳重に密閉された部屋に猛毒のサリンを注入し始めた。部屋の様子は、監視カメラがあるのでモニターで確認すればよく分かる。高濃度のサリンが散布されるのだ。部屋では、すぐに5人が苦しみもがき始める。あまりの苦しさに失禁を始めた。そして、徐々に意識が混濁し始め昏睡状態になり呼吸困難に陥って、死亡した。麻子はその様子を克明に記録するために食い入るようにモニターを見ていた。今回の毒ガス実験はあっという間に終わった。みほは、子どものように無邪気に喜んでいた。

 

「麻子さんは本当にすごいなぁ。あの研究ノートを応用してサリンまで作っちゃうなんて。」

 

「そんなことはない。ただ、効果が実証されて良かった。」

 

麻子もまた、新たな毒ガスの完成と効果の実証を誇らしげに喜んでいた。

みほは、優花里にすぐ遺体を洗浄するように指示した。優花里は厳重な装備で部屋に向かい遺体を洗浄した。先ほどまで、一緒に話していた5人はもう動かない。優花里は洗浄しながら再び泣きじゃくっていた。すると、麻子がやってきた。

 

「優花里さん。洗浄は終わったか?」

 

「もう…すぐ…終…わります…」

 

優花里は泣きながら答えると麻子はぶっきらぼうに

 

「そうか。」

 

とだけ答えた。洗浄が終わって、麻子に遺体を引き渡す。麻子は色々と調査を始めた。調査が終わると麻子はなんとおもむろに遺体の首の部分を切断し始めた。優花里は一瞬何が起こったのかわからなかった。しかし、理解した瞬間思わず怒気を孕みながら叫んだ。

 

「ちょっと!冷泉殿!なにやってるんですか!遺体まで傷つけるなんてあんまりです!」

 

すると、麻子は再びぶっきらぼうに答える。

 

「西住さんの指示だ。」

 

「首を切ることがですか…?」

 

「ああ、最初西住さんは遺体を丸ごと放置しておくって言っていた。しかし、遺体が腐敗して大変なことになるからとなんとか西住さんを説得したら、西住さんに遺体の一部でもいいから取っておいてほしい。なるべく首を残しておいてほしいと言われた。私もこんなことやりたくないが西住さんに言われたら仕方ないだろう。」

 

「え…なんの…ために…?」

 

「生徒会に恐怖のプレゼントをするため、だそうだ。死後硬直がもう始まっている。これ以上進むと切れなくなる。すまないが急ぐからな。見たくないなら見なくてもいいぞ。」

 

そう言うと、麻子は再び切断を始めた。優花里は切断されていく5人の遺体をただ呆然と見ているだけしかできなかった。止めたくても止められない。もし止めたら殺されるのはこちらであった。首のなくなった5人の身体はすぐにドラム缶に入れて夜陰に紛れて捨てるように指示された。麻子は、自らの研究室に5人の首を持ち込んで何やらやっている。

優花里は首をなくした遺体が入ったドラム缶が寂しく流れていくのを見て、涙を流しながら、必死にお経をあげて冥福を祈っていた。その日の夜は眠れなかった。

 

優花里は次の日、みほに呼び出された。

 

『もしもし、優花里さん?おもしろいものを見せてあげるから急いで拠点に来て。』

『わかりました…』

 

本当は行きたくないのだが、行かなければきっと命はない。仕方なく、重くて怠い身体を引きずりながらフラフラと歩いて拠点に向かった。拠点に着くとみほにいつもの部屋に案内された。いつものようにベッドがあったがその部屋にいつもはないものがあった。それは5つの三方に載った5つの頭蓋骨であった。

 

「優花里さん。この頭蓋骨なんだと思う?」

 

みほはおもしろそうに問う。

 

「ま…まさか…」

 

「うん。そうだよ。これは、あの5体のモルモットたちの頭蓋骨。昨日、麻子さんに頭蓋骨を標本にしてもらったの。」

 

そう言うとみほは、頭蓋骨が置かれている三方に左から紙を貼った。

 

「えっと、これがファイアフライの操縦手で、これが、隊長車の操縦手、装填手、砲手。それでこれが副隊長車の操縦手…っとできた!」

 

みほは、パチパチと嬉しそうに手を叩く。

5つの頭蓋骨が恨めしそうに優花里を見つめている。今にも優花里を呪い殺してしまいそうだった。優花里は思わず後ずさりをしてしまった。すると、みほは意地悪な笑みを浮かべて、ファイアフライの操縦手の頭蓋骨を手に持って優花里の顔に近づけてきた。

 

「優花里さん。この骸骨たちに何か言ってあげて。優花里さん、仲良かったんでしょ?ほらほら。」

 

優花里は何も言うことができない。下を向いて黙っていた。みほはぐいぐいとその頭蓋骨を押し付けてきたが、やがてそのファイアフライの操縦手の頭蓋骨をまるで手毬で遊ぶようにポンポンと投げながら、思い出したように話し始めた。

 

「そういえば、優花里さん。サンダースで捕まりかけたんだっけ?良かったね。捕まらなくて。もし捕まってたら、ここにもう一つ、優花里さんの頭蓋骨があったかもね。」

 

優花里はゾッと総毛だった。ダラダラと嫌な汗が止まらない。みほが何故捕まりそうになった事実を知っているのか、まるで心当たりがない。優花里は焦りに焦った。

みほは、それを見て意地悪そうに言い放った。

 

「捕まりかけた原因って色々と遠慮なく聞きすぎちゃったからだよね?スパイは隠密行動が基本なのに優花里さんは随分大胆なんだね。これは、再教育してあげなくちゃね。」

 

みほは、優花里をベッドの上に押し倒した。そのベッドは最初に優花里がみほに誘拐されて、屈辱を受けたベッドだった。優花里はあの屈辱を思い出す。

秋山優花里は再び屈辱を受けた。またも、みほに脱がされたのだ。みほは、優花里の手をベッドの柵に手錠で拘束した。

 

「えへへ。優花里さんがいけないんだよ?優花里さんが大胆すぎる行動をするから。」

 

優花里の身体を撫で回しながらみほは嬉しそうにしている。そして、裸の優花里に襲いかかった。みほは、思いっきり心ゆくまで楽しんだ。

その姿はまるで狼のようだった。

みほは、この間のような屈辱を優花里に与えた。みほは、優花里の耳元で囁く。

 

「次、もしヘマをしたら今度は優花里さんの純潔を奪っちゃうかも。それが嫌ならヘマしないようにね。」

 

みほはクスクスと笑った。

色々な感情が優花里の頭の中をぐるぐる駆け巡る。優花里は訳がわからないぐちゃぐちゃに混ざった感情に襲われ震えていた。

 

つづく


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