「えっと、それで私はあの演説を聞いて、改めて隊長の恐ろしさを実感したわけです。」
「なるほど。」
澤梓は、壮絶な体験をしていた。そして、西住みほの1番の忠臣となり、非人道的で恐ろしいことも命令と割り切ればなんでもやった。これは、全ての人類に言えることなのかもしれない。恐ろしいことである。こうした事態はどこでも起こりうる。その可能性はあるのではないか。私はそう考えていた。身体中から嫌な汗がダラダラと流れているのに気がつく。話を聞くだけでそんな風になるのだから実際体験したものの苦痛は計り知れない。そんなことを考えていると、秋山優花里が思い出したように語り始めた。
「そういえば、澤殿このくらいの時期ですよね?戦車道の全国大会が開かれたのは。」
「そういえば、そうですね。確か、秋山先輩はあの時期頻繁にどこかに出かけてた気がするんですけど、どこに行ってたんですか?」
「えっと…それはですね…ちょっと病院に行ってたんです…」
秋山優花里は何か都合の悪いことでもあるのだろうか。口をつぐみ、ごまかし始めた。しかし、澤梓の追及は止まらない。顔を近づけて、やや低い声で話し始めた。
「秋山先輩。それ、嘘ですよね?そんなバレバレの嘘つかないでください。私も、嫌で思い出したくもない記憶を思い出して山田さんに全てを語ろうとしているんです。秋山先輩だけ逃げられると思っているんですか?」
「うぅ…私の話は大した話ではないですよ。さあ、澤殿の話をもっと聞かせてください。」
秋山優花里は後ずさりしながら必死に逃げようとする。しかし、澤梓はニコニコしながら秋山優花里に迫った。
「秋山先輩。話してください。取材なんですから、正直に話さないとダメですよ?ね?山田さん。」
澤梓は突然こちらに振ってきた。私は若干弱りながら答える。
「え…ええ。まあ、無理にとは言いませんが、職業柄正直に全部話していただけると助かります。」
「ほら、秋山先輩。記者さんもそう言ってるんですから。」
「う……わかりました…お話ししましょう…」
しばらく沈黙が続いた。やはりためらっているのだろうか。なかなか話そうとはしなかった。
「あの…秋山さん無理に話そうとしなくてもいいですよ…?」
私がそういうと秋山優花里は決心したように話し始めた。
「いえ、私にはこのことを伝える義務と使命がありますから!あれは、戦車道の全国大会に参加することが決まり試合組み合わせを決めた後のことです…」
つづく