風紀委員という警察組織を生徒会から完全に切り離し、なおかつ風紀委員からも警察権を奪い、今まで前代未聞の逮捕権をほとんど詐欺のような形で認めさせたみほたちは、早速動き始めた。
まず最初は、演説からである。演説によって人心を引きつける。これこそ一番重要であると考えられていた。いくら入念に計画を練っても、人が付いて来なければ元も子もないのだ。みほはまず戦車隊のメンバーを味方にすることを試みた。そのための布石として梓は、うさぎさんチームの皆に、この学校が廃校になるという事実と、その裏に生徒会がいるという嘘を絡めながら、巧みな話術で話した。すると、バカさんチームと揶揄されるだけのことはあり、すぐに騙された。
「え…廃校…うそ…」
「ううん…嘘じゃないんだ…しかも、その裏に生徒会が絡んでいるのがまた厄介なの…」
梓が肩を落としながら、語るのを見てうさぎさんチームの皆はなんとかできないものかと思ったようだ。
「私たちでなんとかできないの?そんなの許せないじゃん!」
あゆみが言った。梓は嬉しそうに微笑みながら語った。
「なら今度、西住隊長の演説があるんだけどその時に西住隊長が語ることになんでも賛同してくれない?」
「え、そんなことでいいの?それなら私たちでもできるね!」
皆、口々にそう言う。
「なら、よろしくね。」
「うん!」
梓は、うさぎさんチームをサクラとして採用することに成功した。賛同者がいれば、演説は進めやすくなる。戦車隊もみほのものになると確信していた。
梓は、みほにある提案をした。
「隊長、パンツァージャケットのまま演説するおつもりですか?それだとなんだか見た目が……せっかくですからこんな格好で演説しませんか?」
梓が差し出したのはドイツ国防軍の軍服が載った本だった。その本のあるページを梓は開く、そのページにはドイツ国防軍の司令官の軍服が載っていた。
「うーん。私には似合わないんじゃないかな?」
「見た目で負けてたら困ります。絶対に着てもらいます。」
梓に提案されて、みほは仕方なくその制服を着ることにした。
数日後みほは、生徒会に極秘で演説を始めた。本来、今日も練習日なのだが、生徒会のメンバーには3時間遅い時刻から練習を始めると伝えておいた。そのため、生徒会が来る心配もない。
みほは、Ⅳ号戦車の上に立って演説を行った。演説を行うみほは今までのみほとは口調も全く違い、まるで別人のようだった。みほの姿は力強く美しかった。軍服を着込んだみほの姿は一層格好よく見えた。
みほは、最初に優しく語りかけるように皆に問う。
「諸君は、学校は好きか?」
すると、皆口々に大好きだと答える。するとみほは満足そうに頷き、続けた。
「では、その学校がもしなくなるとしたらどうする?」
すると今度はそんなことは絶対に嫌だという声が聞こえてきた。
「そうか…しかし諸君!!我々のよく知っている者たちが、この素晴らしい学校を自身の欲望のために売り、廃校にすることを画策している!何故か?それは金のためだ。その者たちは、奴らは、文部科学省の官僚どもと結託して、学校を廃校に追い込もうとしているのだ!文部科学省は業者と癒着していて、学園艦の廃止統合を推し進めようとしている。その者たちは、その統廃合の手助けをすることで協力金として多額の金を手にしようとしている…そいつらはそれを隠して今でも平気な顔をして学校に通っているのだ!そんなことが許されるのか!?許されていいはずがない!我々は、その薄汚い奴らから学校を取り戻さなければならない!では、その者たちとは誰なのか、それは諸君らもよく知っている人物だ!!その者たちは……こいつらだ!」
そういうとみほは懐から紙の束を取り出した。そして、まるで指名手配書のようなデザインの紙をばら撒いた。その紙には生徒会のメンバーの顔写真と、証拠とされた写真が載っていた。
「この蛆虫どもが、我々を路頭に迷わせようとしているのだ!金に汚れた薄汚い奴らだと思わないか?こんな奴らが学校のトップに君臨している!!こんな悪が許されてはならない!!我々の手で蛆虫どもの野望から学校を守ろうではないか!そして、我々の手にもう一度学校を取り戻そうではないか!諸君らは、この戦車隊がなぜ創設されたか知っているか?それは、生徒会が効率よく学校を廃校に追い込むための手段だ!廃校を免れるために、戦車道を復活した。優勝すれば撤回されると嘯き、そして強豪校に叩き潰され、敗北した姿を見せることで学校が廃校になったのは負けたのだから仕方ないと思わせる。汚いやり方だ!我々は、その汚い計画の駒にされたのだ!!悔しくないのか!?わたしは悔しい。戦車道をこんなことに使われるなど怒りにこの身が震えている!!私は、学校を蛆虫どもから取り戻すため最後まで戦う覚悟だ!!」
最後にみほはこう付け足した。
「今現在、我々は風紀委員のメンバー全員を味方にした。だが、まだ足りない。我々と共に悪と戦うと言うのなら我々は喜んで諸君らを歓迎する!」
みほの演説は天才的に上手かった。みほは叫ぶように演説をした。戦車隊の皆は感動していた。そして、怒りに震えた。みほについていこう。この人になら全てを捧げても構わない。戦車隊の全員がそう思っていた。戦車隊の中において生徒会の信用は地に落ちた。
もはや、戦車隊の中に生徒会に聞く耳を持とうという者や味方をしようとする者はいなかった。
「もちろん。この計画は危険が伴う。もし、計画に参加したくないと言うものがあれば遠慮なく出て行ってくれても構わない。では、諸君らに問う。我らと共に戦う気がある者は一歩前へ!!」
すると、全員前に出た。みほは、満足げに微笑みながら語った。
「諸君らの覚悟は見事だ!我々は諸君を歓迎する!しかし、この計画が蛆虫どもに漏れる可能性もなきにしもあらずだ。だから、本日の訓練もくれぐれもいつも通りで。そして、計画実行まではくれぐれも内密に頼む。では、解散とする!」
みほは、Ⅳ号を降りる。すると、いつものみほに戻った。
「みぽりん!どうしたの?すごい演説だったよ?全然違う人みたいだった!それにとってもカッコよかった!」
「ええ。感服しました。みほさんは演説の天才なのかもしれませんね。」
沙織と華が目を丸くして駆け寄ってきた。
「えへへ。そうかな?」
みほは恥ずかしそうにはにかんでいた。
「ところで、生徒会。許せないよ。そんな計画をしてたなんて…」
「裏切られました…」
「うん…私もこの事実が明らかになったときびっくりしちゃった…それに許せない…でもね、みんなが協力してくれるって言ってくれて安心したよ。みんなありがとう。」
みほは希望に満ち溢れた顔をしていた。そんな様子を遠巻きから見ていた梓は、これがみほの怖さだと改めて感じていた。みほは、あっという間に嘘をさも本当のように語り、群衆を熱狂させ、共通の敵をつくり上げることにより、群衆を束ねた。戦車隊は完全にみほのものになった。
みほは、強力な武力を手に入れたのであった。
警察権を手に入れ、武力を手に入れたみほに逆らえる者はこの瞬間からいなくなったのである。
つづく