どこかに沙織さんを入れたかったのですが、入れる場所がありませんでした…
今回は澤ちゃんが暗躍します。
梓は、風紀委員の部屋の扉を叩く。するとすぐに応答があった。
「はい。どうぞ。」
「失礼します。本日面会の約束をした澤梓です。園さんはいらっしゃいますか?」
「あ、澤さんですね。ちょっとお待ちください。」
風紀委員がみどり子を呼びに行った。するとすぐにみどり子は出てきた。
「あ、澤さん。よく来たわね。さあ、こちらにかけてちょうだい。」
みどり子は椅子を勧めた。遠慮するのも野暮なので、梓は椅子にかけた。そして、ちょっとした雑談をした後に、本題に入る。
「それで、話って何かしら?」
「はい。その前に、この話は極秘の話で内密にしたいのでひとまず人払いをしていただけませんか?」
「わかったわ。」
そういうとみどり子は他の風紀委員に外に出るように指示した。みどり子以外が完全に外に出て廊下にも誰もいないことを確認してから、梓は話しはじめる。梓にとって、風紀委員を取り込むことはみほの計画を遂行する上で非常に重要なものとなる。駆け引きの時間が始まった。
「本日は改めてお話の機会を作っていただきありがとうございます。まず、このお話をする前に園さんに伺います。園さんをはじめ、風紀委員の方々の仕事とはなんですか?」
「それは、もちろん。学校の風紀を守って学校を守ることよ。」
みどり子は胸を張って答える。みどり子はとても誇らしげだった。それを聞いた梓は満足そうに頷き、
「それは、立派な心がけです。とても、素晴らしい。では、もしそれを壊そうとする者、大切な学校を私欲のために売ろうとする者がいたらどうしますか?」
「そんなこと!私たちが許さない!」
語気を強めて正義に燃えるような口調で語るみどり子を見て、梓はこの作戦は成功すると強く感じていた。そして、少し間をおいて話しはじめる。
「そうですか。実は…この大洗女子学園に学校を売ろうとしている者がいるのです。あ、そうだ。この学校が今年度中に廃校になるという事実は知っていますか?」
「え!?大洗女子が…廃校…?」
みどり子は愕然とした様子である。梓はやはりという表情をして言い聞かせるように話す。
「やっぱり、知りませんでしたか……それもそのはずですよね。落ち着いて聞いてくださいね。なぜ、未だに明らかにされないのか。それは、この廃校計画には生徒会三役が関わっているからです。」
「え…どういうこと?」
梓は1枚の写真を差し出した。その写真には生徒会三役のメンバーが文部科学省に入って行く様子が写っていた。みどり子はその写真を見て目を剥く。梓はさらに続けた。
「これは、生徒会三役のメンバーが文部科学省に入って行く様子を隠し撮りで写したものです。生徒会は、文科省の官僚と結託して廃校を推し進めようとしているのです。文科省は業者の癒着で学園艦の廃止と統合を推し進めようとしている。そして、生徒会三役はその廃校の手助けをすることによって多額の協力金が入る。こういう仕組みです。」
「生徒会が……とても信じられない……で、でも…証拠がないじゃない。」
「そうです。確かに現段階では証拠はありません。しかし、この情報は文科省の官僚からもたらされたものです。しかも、写真もある。この話は信じるに値するものではありませんか?」
もちろんこの話は全くのデタラメで嘘である。しかし、みどり子は何も言えない。梓の話は説得力があるのである。梓は、最後のトドメとばかりに口を開く。
「園さん。最近、戦車道が復活しましたよね?その秘密をご存知ですか?実は、あれも廃校にするための策略なんです。聖グロ戦の無様な戦いを見たでしょ?あれが大洗の実力なんです。生徒会の狙いは、戦車道の全国大会で優勝したら廃校を撤回するという約束を取り付けたという名目で私たちを戦わせます。しかし、現有戦力と昨年優勝校のプラウダ高校の戦力差は10倍あります。これで勝てると思いますか?」
「難しいわね…」
もちろん、この戦力差の数字も適当に作ったものである。もし、優花里ならすぐに矛盾を見抜くだろうが、みどり子に戦車の知識は一切ないのだから見抜くことはできない。さらに梓は畳み掛ける。
「そうです。難しいのです。難しいどころかほぼ無理でしょう。こうして、私たちを負けさせることでなるべく反発なく、廃校にもっていく。これが生徒会三役の狙いです。私たちには、これだけの間接証拠ではありますし、揃っています。」
「それで、私たち風紀委員はどうすればいいの?」
梓はパッと嬉しそうに笑いながら将来の夢を語るような明るい口調で楽しそうに語った。
「私たちは、この一連の不正に対しての追及を強めていこうと思っています。そして、いずれ生徒会三役の野望からこの学校を解放しようと思っています。そのために、クーデターも辞さない考えです。」
「クーデターね…」
みどり子は呟く。梓の言っていることはみどり子には頼もしく見えた。協力したい。しかし、クーデターという言葉にためらっていた。クーデターによって、なおのこと風紀が乱れる可能性を懸念していたのだ。そうした様子を見て、梓は心に訴えかけるように語る。
「しかし、私たちはまだ4人しか仲間がいないのです。ですから、風紀委員の皆さんにも、私たちに協力してほしいのです。お願いです。どうか、私たちと共に学校を守ってください。そして、正しい道へ導いてください。お願いします。」
梓は嘘で固められた言葉を並び立てる。みどり子は感動していた。学校のためにここまで身を捧げる覚悟なのかと。みどり子は騙されてしまったのだ。そして、言ってはいけないことを言ってしまった。
「わかったわ。私たち風紀委員はあなたたちに全面協力します。そしてこの件、あなたたちに全権を委任する。あなたたちが見つけた不正だもの。あなたたちの手柄にしなさい。」
その言葉を聞いて、梓はとても嬉しそうに何度もお礼を言った。
「ありがとうございます。では、この委任状にサインをお願いします。あと、園さん。このことは私からお話しするので、他の風紀委員の皆さんにはまだ何も言わないでください。よろしくお願いします。」
「わかったわ。」
風紀委員は「全権委任」の意味を全く理解していない。「全権委任」それ即ち、「不正に関する捜査」という名目であればどんなことでも警察権を行使できて、なおかつこの委任状には身柄の拘束も可能であるという条項も小さく書かれていた。つまり、誰かの許可を得なくても独断で拘束もできるということを意味している。みどり子は絶対に全権委任をしてはいけない者に全権委任をしてしまった。
梓は委任状を手にして部屋を出る。梓は部屋を出た瞬間ほくそ笑んだ。
(所詮は高校生、騙すのはたやすいこと。風紀委員も口ほどではないな。)
と心の中で思っていた。みどり子が梓の本当の目的など知る由も無い。梓は合法的な手段で警察権を掌握し、更に逮捕権も認めさせたのだ。
そして、梓はこの件をみほに報告するために急いで拠点に向かった。この喜びを早くみほと共有したかった。
梓は、拠点にて成果を報告した。するとみほはとても喜んだ。
「梓ちゃん!よくやってくれたね!ありがとう!次は私が頑張らなきゃね!」
「はい。ありがとうございます。」
淡々という梓にみほは
「それにしても、風紀委員もバカだよね。私たちに全権委任しちゃってその上更に、逮捕権も認めちゃうなんて。なんでもできちゃうよね。それじゃ、遠慮なく使わせてもらおうかな…えへへ。」
「はい。そうですね。遠慮なく使いましょう。」
梓はまるでみほの影武者のようだった。
みほの計画は有能な梓の働きにより本格的に動き始めたのであった。
つづく