血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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第13話 隊長任命

あの日、澤梓は聖グロリアーナ戦の作戦会議のために招集をかけられ、会議に臨んでいた。戦車道については何も知らない梓は、とにかく先輩たちについていくのに精一杯だった。だから、生徒会広報の河嶋に提示された、安直な作戦も何の疑問も生じなかったのである。しかし、さすがは西住みほであった。この作戦の問題点を瞬時に見抜いていたのである。

 

「聖グロリアーナは当然こちらが囮を使ってくる可能性は想定すると思います。裏をかかれて逆包囲される可能性もあるので…」

 

すると、少し気の短い河嶋はみほを大声で怒鳴りつける。

 

「黙れ!私の作戦に口を挟むな!そんなこと言うのならおまえが隊長をやれ!」

 

「ふえ!すみません…」

 

みほは萎縮した。しかし、生徒会長の角谷杏が河嶋をなだめ、ある提案をした。

 

「まあまあ。でもまあ、隊長は西住ちゃんがいいかもね。西住ちゃんがうちのチームの指揮とって。」

 

「はぇ!!」

 

戦車道経験者であるみほの隊長就任は何らおかしいことではない。みんなこの決定を歓迎していた。

みほは口では、驚き困惑していたが、梓には一瞬だけ今まで見たこともないようなみほの姿が見えた。みほは笑っていた。その笑みは悪人のような悪く怪しい何かを企んでいるような笑みだった。

そして、隊長となったみほは初仕事として戦車道に臨むにあたっての厳格な命令を発令した。手始めに、敵前逃亡禁止令を発令したのである。

 

「みなさん。これから、一切の敵前逃亡を禁止とします。撤退の命令が出ないのに、勝手な撤退は作戦遂行に大きな支障となります。各国軍隊において敵前逃亡は死刑にも値する、重罪です。これから、勝手な敵前逃亡は重い処分の対象としますからそのつもりでいてください。よろしいですか?」

 

「はい!」

 

みほは満足そうに頷く。

 

「では、本日の練習を開始します。準備してください!」

 

みんな一斉に戦車に乗り込んだ。梓が所属するDチームも一斉に準備を始める。

梓は、少々みほの様子に違和感を感じていた。隊長就任後のみほは気弱なみほとは違い凛々しくなっていたのである。

Dチームのみんなも今までのみほとの違いを感じているらしい。

 

「なんか、西住先輩隊長になったら、今までと違って凛々しくなったよねぇ。」

 

優季が切り出すと皆も口々に同意する。やはり、皆も何かの違和感は感じていたようだ。

しかし、別に凛々しくなることは悪いことではない。むしろ、可愛らしい先輩もいいが、こんな先輩もかっこよくていいかもしれない。梓は特に気にはしていなかった。そして、いつも通り練習を終了してみんなと帰った。明日は、とうとう練習試合の日だ。実際の試合はあの無茶振りをしてくる教官以来だった。しかも、今回は戦車道の強豪であると言う。梓は上手くできるか心配だった。しかし、他のチームメイトはそんなことは気にしている様子はない。

 

(もう。この子たちは仕方ないんだから。)

 

そんなことを思いながら帰路に着いた。

そして、練習試合の当日がやってきた。聖グロリアーナを囮を使ってキルゾーンに誘い込みこれを叩く。結局、河嶋が考えた作戦を実行することになった。みほたちAチームがまず囮となる。その間、待っていることになる。あまりにも暇になったDチームは、トランプの大富豪をして待っていることになった。しばらくすると、みほからあと3分ほどでキルゾーンに到着するという連絡が入る。河嶋が叫んだ。

 

「おい!Aチームが戻ってくるぞ!全員戦車に乗り込め!」

 

本当はもっと大富豪を楽しみたかった。これから面白くなるのにそれを中断せざるを得ないのは仕方ないことだといえど心残りだ。口々に残念そうな声を上げてDチームの面々も戦車に乗り込む。そして、3分後Aチームが見えた。その瞬間なりふり構わず、次々とバラバラに射撃し始めたのである。

これでは勝てるはずはなかった。しかも、実戦で戦車戦に慣れた聖グロリアーナには、こんな安直な作戦は通用しなかった。みほが言ったようにすぐ逆包囲された。訓練ではできたことが実戦ではできない。Dチームの面々はすっかり怖くなってしまった。

そして、絶対にやってはならないことをしたのだ。

「戦車を捨てて逃げた」のである。みほが発令した「敵前逃亡禁止令」に反したのだ。その時は、恐怖でそんな命令が発令されていたことはすっかり忘れていたが、難を逃れ、近くの木に登って試合の様子を見ている時に思い出した。みんな、顔面蒼白な様子である。

 

「私たち、逃げちゃったね。」

 

梓は呟く。

 

「絶対、ヤバイじゃん。」

 

あやが下を向きながら言った。

 

「後で、隊長たちに謝りに行こっか。」

 

「うん。」

 

みんな、同意見のようだ。沈黙しながら試合を見ていた。初めての練習試合は結果的に負けてしまった。みほたちAチームの面々は負けたということで生徒会チームとともにあの恥ずかしいあんこう踊りを踊らされたようである。

 

(私たちが逃げたせいで……隊長たちは……)

 

梓は気が重かった。

その夜、DチームはみほたちAチームに戦車を捨てて逃げたことを謝罪に行った。

すると、Aチームの面々は笑って許してくれた。

Dチームはホッとした。そして、今日の試合の感想と次は逃げないことを約束をして、帰ることにした。

 

「先輩。許してくれてよかったね。」

 

皆、口々に話していた。しかし、あれだけ重い処分があると言っていたのに、こんなすんなり済むのか。梓は何か嫌な予感がした。

みんなと別れて、梓は1人になった。しばらく歩くと、秋山優花里が現れた。

 

「あれ?秋山先輩?どうしたんですか?」

 

優花里は黙っている。優花里は何か迷っている様子だった。

 

「秋山先輩…?」

 

優花里は、覚悟を決めたような顔をして、口を開く。

 

「澤梓殿!あなたを西住殿の命により、反逆罪及び敵前逃亡罪の容疑で拘束します!」

 

「え…?」

 

そう言うが早いか、優花里の手であっという間に梓の手足を縛られ、拘束されてしまった。

梓は、咄嗟のことで何が起こったのかわからなかった。ただ、何か恐ろしいことが始まろうとしている。ということだけはわかった。梓はただ恐怖で体を震わせていた。

 

つづく

 


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