血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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あけましておめでとうございます。
新年初投稿です。
今年もよろしくお願いします。
今年の抱負として、今年は2020東京オリンピックもあり、チャレンジの年なので、私も色々チャレンジしようと思います。
まずはずっと言っている新作としてストライクウィッチーズの二次小説を執筆したいと思っています。



第138話 協力

「私たちは悪魔ではないさ。一度も人を殺したことはない。」

 

私の言葉にゲリラのリーダーは不敵な笑みを崩さない。なかなかの強敵に見える。舞台は整った。ゲリラに捕まった時はこんなにもスムーズに事が運ぶとは思っていなかった。何と幸運。そう捉えることにした。親分と呼ばれたゲリラのリーダーと直接交渉できるなんて。

この機会を逃すわけにはいかない。私は相手をなるべく刺激をしないように、まず目の前の褐色肌のゲリラのリーダーの口から何か言葉が紡がれるのを待っていた。

 

「人を殺したことがないだって?信じられるとでも思ってるの?あんたたち。命知らずにも程があるね。わざわざ捕らえられるような真似をするとは。馬鹿なんじゃないか?でも、まさか何も考えなしで、のこのこやってきたわけじゃないだろう?船だって針路を決めなきゃ動けないってもんさ。まずは、なぜこちらに渡ってきたのか、その目的と理由を聞かせてもらおうか。」

 

私は迷った。正直に打ち明けるべきか。しかし、完全に敵だと思われている今、あれこれ言い訳がましいことや事実を歪曲して伝えることは決して得策ではないのではないか。捕縛された私たちの周りにはいまだに私たちに銃やら斧やら竹槍やらを向けて殺気立っている連中が囲んでいる。私は全てを正直に打ち明け相手に理解を求めることにした。

 

「ふふっ。信じられないか。まあ、当たり前だろうな。私たちは敵同士だからな。だが、ここからはもっと信じられない話だぞ。それでも話を聞いてくれると言うならいくらでも話す。」

 

私の言葉に対してゲリラのリーダーは不敵な笑みを浮かべ、パイプをくわえて次を促す。

 

「話してみなよ。」

 

「私たちは君たちに会いにきたんだ。」

 

突然、思いもしなかったまるで恋人のような越境の理由に驚いてリーダーは思わずパイプを落としそうになる。

 

「はあ?私たちに会いにきた?何じゃそりゃ?嘘つくならもっとマシな嘘をつくんだな。」

 

だが、私は至って真剣だ。嘘ではなく本当の話だからこれ以上に言いようがないのだ。今思えば若干言葉が足らなかったとは思うが、あの時はとにかく落合さんを救いたい一心だったから簡単なストレートな言葉になってしまったのだ。たしかに、言葉のまま受け取ればゲリラに会いたいなどというおかしな敵であり、冷静に考えれば嘘だと思われても仕方がない。だが、その時は気がつく暇はなく、嘘だと思われては都合が悪いと私は即座に否定した。

 

「嘘じゃない。本当だ。君たちに会いにきたんだ。」

 

同じことを繰り返す私に対してリーダーは少し苛ついた様子で尋問する。

 

「だから、何で私たちに会いに来る必要があるんだよ?その目的はなんだ?」

 

「私たちの目的は、ある人をこの大洗の学園艦から脱出させることだ。その人はアンツィオ生で隊長の奴隷にするためにアンツィオの学園艦から大洗の学園艦に連れてこられた。彼女は隊長から酷い性的虐待にあっている。この間は体を触られ、舐められ、純潔までも奪われたらしい。これ以上、隊長に好き放題にさせたら何をするかわからない。だから、これ以上エスカレートする前に何としても逃がしたいんだ。これ以上、罪のないアンツィオを苦しませたくはない。本来はこの学園艦の生徒会に保護してもらうものだが、君たちもわかっているとは思うがもはや生徒会にその力はない。そこで、お願いがあるんだ。その人を、君たちの力で逃がしてあげてくれないか。勝手なお願いであることはわかっているしもちろん、ただでとは言わない。だからどうか頼む。」

 

私はどうか頼むとゲリラのリーダーに頭を下げる。すると、周りのゲリラからは罵声が飛ぶ。

 

「そんなこと信用できるか!」

 

「嘘だ!嘘に決まってる!この悪魔どもめ!」

 

「殺せ!今すぐ殺せ!」

 

周りのゲリラはじりじりと迫ってくる。しかし、リーダーは強く厳しい言葉でそれを制する。

 

「待て!手を出すな!手を出したら許さない!武器を下ろせ!」

 

リーダーの言葉にゲリラたちは渋々武器を下ろした。リーダーは少しの間何事か考えてから口を開く。

 

「あんたたちの言い分はわかった。それなら数人でうろうろして敵でありながら私たちに会いたいという理由も納得できる。だけど、その人を助けたところで私たちには何もメリットがない。それに、本当に嘘をついていないかもわからない。もしかして、私たちを誘き出すための罠かもしれない。それはどう説明する気だい?」

 

確かにリーダーの言う通りだ。もしかして罠かもしれないと思うのは普通だ。いきなりやってきた敵の言葉を信じろと言われても不可能であるのは当然だ。しかし、証拠を出せと言われても私たちは何も持ち合わせていない。私はどうにか納得させるために少し考えた。しかし、方法はどう考えても一つしかなかった。

 

「まず、メリットについてだが、メリットはこちらの情報を君たちに私たちの知る情報を全て提供するというのでどうだろう。そして、証拠についてだがすまない。これは今、証拠を持ち合わせていないから出すことができず、証明することはできない。だから、自分たちの目で直接見て真実かどうか見定めてほしい。だから、私たちと一緒に来てくれないか。もちろん人質を置いていく。約束を反故にしたら即座に殺してもらって構わない。それで何とか許してくれないか。」

 

リーダーはもう一度考える。しかし、今度は先ほどよりも早く結論を出した。

 

「ほう。確かに情報は欲しい。それに、人質を自ら差し出すとはあんたなかなかやるねえ。でも、流石に即答はできない。あんたたちをどうするか、少しこっちで話し合わせてもらうよ。おい誰か!こいつらを仕置部屋に連れていって監禁しておけ!手出しするんじゃないよ!」

 

「良い返事を待っているよ。」

 

私の言葉に反応することなく、ゲリラのリーダーは奥の部屋へ数人の幹部らしき人間とともに消えて、私たちは先ほど私たちを連れてきたゲリラのメンバーに仕置部屋という監禁場へ連れていかれて監禁された。

監視は厳重だったが、虐待されることはなかった。あのリーダーはどうやら強い権力を持っているようだ。ゲリラたちはリーダーには従順で、リーダーに言われた通り、私たちに手出しをしようとするものは一人もおらず、リーダーの言うことを忠実に守っていた。

今回の交渉は早くトントン拍子に済んでしまって正直全く手応えがなかった。上手くいったかどうかはよくわからない。もしかして、殺されるかもしれない。私たちがゲリラに協力してほしいという理由と思いは伝えた。あとは、相手がそれに答えてくれることを願うだけだ。相手はあまり交渉とか理屈とかそういうものを好むタイプではない。感情でそうだと思った方に動くタイプだ。いわゆる情に厚い人物。その情にいかに訴えかけられかけれたかが勝負だった。そう思いながら、

数時間が経った頃、私たちは「親分がお呼びだ。」というゲリラからの言葉で再びリーダーの前に引き出された。

 

「みんなと話し合った。人質を出すというのなら良いだろうということになった。一度反乱軍支配地に渡って、確かめてから最終的に協力するかは判断する。そして、人質はあんただ。ただし、期限は明日の23時59分までだ。それまでに戻ってこい。もし、1分でも遅れたら人質を殺す。」

 

私たちはリーダーの出した条件に承諾した。しかし、あともう一つリーダーを納得させなくてはならない。それは、越境するための大義名分として西住隊長に承認された事項の履行だった。私たちは、冷泉さんの人体実験用のモルモットを狩るために越境を許可された手前、一応は捕らえてきたことにしなくては都合が悪い。そのことを納得してもらわねばならない。

 

「一つこちらかもお願いがある。これは、スムーズに越境するために必要な措置だ。どうか守ってもらいたい。申し訳ないが、反乱軍支配地域に渡るときは私たちに捕らえられたことにしてほしい。縄と手錠をつけて持ってきたカバンの中に入ってもらいたいんだ。屈辱的かもしれないが君たちの身の安全のためと思ってどうか聞いてほしい。私たちは向こう側では人体実験用とモルモットを捕まえてくるという名目で越境したことになっている。そのまま何もせずに越境となると怪しまれて面倒だ。どうか頼む。協力してくれ。あと、越境する人数だが、3人ほど用意してほしい。一人ずつこの鞄の中に入ってくれ。」

 

「わかった。そのくらいは問題ない。」

 

リーダーも私が提示した条件に納得してくれた。こうして話がまとまり、私たちは翌朝ゲリラを連れてもう一つの極秘任務を遂行することになった。ゲリラ連中はなかなか個性的、平たく言えば不良のような人たちがほとんどだった。だが、不良のような格好をした人たちを私たちが捕らえたというのは不自然である。間違いなく軍事境界線の事務所で怪しまれることになるので、なるべく大人しめの格好をした者を選んでもらえるようにリーダーに頼んだ。

朝になった。ついに動き出す。私たちは左衛門佐を残し、3人のゲリラは私たちの要望通り大人しめの普通の格好や髪色をした者たちだった。ゲリラたちに手錠と腰縄をつけ、持ってきたカバンの中に入ってもらって軍事境界線へと向かう。暴露たらいずれも命はない。息を呑み心臓が動悸ではちきれそうになりながら軍事境界線に向けて歩き出す。やがて軍事境界線に近づき監視塔が見えた頃、境界線の向こうから警備兵が現れた。私は懐に入れていた通行許可証をヒラヒラと振る。普通は軍事境界線に近づいたら問答無用で撃ってくるところだが、軍事境界線の事務所で行きの越境の時にしっかりと手続きをしているので近づいても特に怪しまれることなく銃弾での手荒い歓迎を受けることもなく帰りの越境の手続きは取られた。左衛門佐が一人いないことを指摘されたが、潜入調査員として残留してもらっているともっともらしい理由をつけたら難なく通してもらえた。

軍事境界線から反乱軍支配地域に渡った私たちは早速、唯一、私たちに味方してくれている幹部の冷泉さんのもとへと向かった。冷泉さんの研究室の扉を叩くと、冷泉さんはすぐに扉を開けてくれた。

 

「おかえり。無事で良かった。目的は達成できたか?」

 

冷泉さんの問いに私が代表して答える。

 

「ああ。一応接触はできた。手荒い歓迎を受けたが、何とか納得してもらえた。ただ、協力するのは実際に自分の目で確かめてからということになった。しかも、左衛門佐を人質として置いてきた。期限は明日の23時59分までだ。1分でも遅れたら殺されることになる。それまでに絶対にゲリラを連れて戻らなくてはならない。早速だが、冷泉さんの権限でゲリラと落合さんの部屋を同室にして欲しい。早く実状をゲリラに知ってもらってなるべく時間的に余裕を持ったまま戻りたい。」

 

「わかった。なら、早速手配する。それで、その人はどこにいる?」

 

「ああ、ここだ。」

 

私たちは鞄を下ろしてチャックを開けると中から勢いよくゲリラが飛び出してきた。冷泉さんはネズミのように飛び上がって私の後ろに隠れてしまった。

 

「暑い!熱中症で殺す気かよ!」

 

ゲリラが私たちに怒鳴りつける。ゲリラは周りをグルリと見回すとギョロッとした目で私たちを睨みながら言った。そして、白衣姿で私の後ろに隠れて怯えている冷泉さんを見つけて首根っこを掴んで激しく揺さぶりながら再び怒鳴る。

 

「てめえか!?チビ野郎!人体実験用のモルモットとかを欲しがった奴は!どんな悪どいことしてきたんだ!?てめえ!」

 

すると、冷泉さんはされるがまま、狼狽えながら唇を噛んで下を向きながら消えそうな声で告白する。

 

「私は……そうだな……悪いことをたくさんしてきた……人も殺したし……解剖もしたよ。生きている人を……」

 

「え!?なんだって!?聞こえねえよ!まあいいや。それで、証拠とやらを見せてくれるんだろ!?さっさと見せろ!」

 

ゲリラはかなり興奮していたこのままの状態では会わせるわけにはいかない。私はなんとか落ち着くように諭した。

 

「わ、分かったから少し落ち着け。その人に会わせるから。だが、その人の前では決してそのような態度はやめてくれ。少なくとも、相手は完全な被害者なんだからな。」

 

「分かってるよ!私たちはこれでも優しいんだからな!」

 

とても優しいとは思えないが、こちらもあまり時間をかけてもいられないので、早速面会させることにした。冷泉さんがゲリラを3人連れていく。カエサルも一緒に落合さんのもとへ行った。事情の説明のためだ。

ゲリラ3人とカエサル、そして冷泉さんが落合さんのところへ行ってからしばらくした後のことだった。5人は戻ってきた。だが、ゲリラ3人の顔は先ほどまでのガンを飛ばした恐ろしい顔とは180度違って泣き腫らした顔をしていた。

 

「酷い……酷いよ……こんな……こんなこと……これが人間のすることなのか……?なあ、教えてくれよ……なんでこんなことになっちまったんだよ……」

 

私は少し声をかけることをためらったが、言質をとるチャンスだった。「協力する」という4文字を。

 

「おかえり。どうだった?話を聞いて。協力、してくれるかな?」

 

ゲリラは泣きじゃくりながら頷く。

 

「知らなかった……アンツィオでこんなことが起きていたなんて……する……するよ……もちろん……協力する……あんなこと聞いて放っておけるわけがない……今日聞いたこと。私たちが証拠になる。親分には、絶対にやるべきだ伝えるよ。」

 

「ありがとう。嬉しいよ。」

 

 

私たちとゲリラとの間に協力関係が築かれた瞬間だった。完全に信頼関係があるわけではないが共通の目的から絆ができた。しかし、私たちの試練はまだ続く。むしろここからが本番で重要だった。期限までにゲリラの本拠へ向かって左衛門佐を解放してもらい、再びゲリラを伴って、反乱軍支配地域へ行って落合さんを連れて脱出しなくてはならない。しかも、早くしないとまたいつ戦端が開かれるかわからない情勢だ。戦端が開かれたら身動きが取れない。銃を持った兵士がうようよいる中ではとてもじゃないが行動不能だ。見つかって裏切り者として撃たれるのがオチである。早くしなくてはならない。焦りは募るが、焦るとボロが出るのが人間だ。何とか気持ちを落ち着かせて冷静を保つ。このまま上手くいってほしい。それは誰しもの願いだった。しかし、現実というものはそんなにうまくいくようにはできていない。この後、私たちは何度も試練と苦しみを味わうが、この時の私たちはまさかあのような過酷で辛いことが起ころうとは思ってもいなかった。しかし、運命の時、即ち脱出実行の日は確実に近づいているのであった。

 

つづく

 

 




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