血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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知波単第8課の影の戦争
今日その方針が決まります。
ちなみに、今回の物語はルーマニアから送られてきた回想録に書かれている文章という設定です。伏せ字になっているところはわざとで、ルーマニアより送られてきた文章が伏せ字になっているという設定です。
よろしくお願いします。


第129話 諜報作戦会議

私たちは知波単学園に帰ってきた。輸送機は徐々に高度を落として航空隊の飛行場の中でも整備はされているが今ではほとんど使われなくなった古い飛行場へと滑り込み着陸した。これも我々が秘匿組織が故の配慮だった。しかし、これを読んでいるあなたはもしかしたら「第8課は秘匿組織なのに輸送機を使ったということは航空隊には第8課の存在が明らかになっているではないか。」と疑問に思われるかもしれない。これについて説明すると平時でさえ陸軍派と海軍派の抗争の為に情報が統制されている知波単学園は当時の大洗女子学園生徒会やアンツィオ高校と交戦していたことも手伝って更に徹底的な情報統制がされていたため、機密扱いの私たちの存在や正体を誰も知る術はなかったのだ。知りたいなら聞けばいいと思われるかもしれないが、当時は聞けるような雰囲気ではないし、戦前から存在する古い学園艦特有の戦時学園艦特別法がそのまま残っており、機密を探ろうとする者は敵のスパイであるとして死刑とすることができる法律も存在するわけである。学園艦上では日本国内で制定された法律よりも優先されるという条項が学園艦特例法にあるため、スパイ行為は死刑という条項は当然有効になる。いくら70年以上前に制定されたカビ臭い法律でも有効ならば、皆言うことを聞くしかないのであった。そんなこともあって私たちは誰にも咎められることなく、自由に活動ができたのであった。さて、学園艦に到着した私たちは、第8課の事務所になっている旧校舎へと向かった。旧校舎は今の校舎とは真逆の方向にある木造校舎だ。真逆の方向なので、今やかつての賑わいはなく、誰も近づかない建物になっており、誰にも見咎められることはない。だからこそ秘匿組織の事務所にするには都合が良いのだ。この旧校舎では私や川島さんのような学生の教育から諜報活動に対する研究まで多岐にわたる業務が行われており、事務所だけあって私たち課員が詰める課員室や小松課長の執務室などもあった。旧校舎の課員室に戻ると、そこにはいつも任務に出ていて滅多に顔を合わせない課員も含めて、どうしても都合や交通手段がなくてその日は帰ってくることができない者を除くほとんどが集合していた。どうやら、小松課長が招集をかけたらしい。恐らく、大洗に呼び出された時に小松課長は何かを察して西住隊長から命令が出ることを予想していたのだろう。小松課長は、自らの執務室に戻り、1時間ほどして課員室の中に入ってきた。皆はそれぞれのデスクに腰掛けながら小松課長に注目する。小松課長は皆が自らに注目していることを確認すると、口を開いた。

 

「みんな集まってるわね?」

 

「はい。全員揃いました。」

 

皆を代表して課員室の一番手前入口側のデスクに座る秋草俊子教官が口を開いた。彼女は対プラウダ諜報の専門家だ。学生時代からずっと対プラウダ諜報を行なってきたらしい。教官に任じられてからも大半はプラウダに出かけて諜報活動を行い、今では情報戦学科の学科長を務めるまでになった。ちなみに秋草教官は私の指導教官でもある。小松課長は秋草教官の返答を聞くと頷き口を開く。

 

「本日、大洗女子学園反乱軍司令本部の西住みほ隊長より、第8課に作戦命令が下りました。」

 

場の雰囲気が一変した。今まで緊張感はありながらも比較的和気藹々として和んでいた空気が一気にピリピリとしたものになった。すると、秋草教官の隣の席に座っている長い黒髪が美しい可愛らしい女性が口を開いた。

 

「どのような作戦ですか?」

 

田中吉乃教官だった。田中教官もまたプラウダを始め、聖グロ、サンダース、マジノ女学院などを飛び回った経験を持つ諜報のスペシャリストである。当時の彼女は3年前に教官になったばかりの若い教官だったが、川島さんの指導教官として彼女に諜報のイロハを叩き込み、見事に育て上げて第8課の教官たちからはかなり期待されていた。そして、若いだけあってその仕草がいちいち可愛らしい。田中教官は今も首をちょこんと可愛らしく右に傾けている。小松課長は、童顔でまだ幼さが残る25歳という若い田中教官の仕草に思わず微笑みがこぼしていた。

 

「継続高校生徒会の親プラウダ政権転覆工作よ。」

 

小松課長は微笑みをたたえながら物騒なことを言う。さすが小松課長だ、任務となると人が変わる。恐怖を覚えながらもある意味感心した。すると、次に口を開いたのは肩くらいの髪の長さの女性だった。

 

「プラウダ、とうとう動き出したんですね。私たちも情報を掴んでいましたが……プラウダと継続が手を結べば大変なことになりますね。」

 

猪俣弥生さんだった。猪俣さんは川島さんよりも5歳年上の女性だ。彼女は研究生としてさらなる高みを目指す為に卒業後も学園に残っていた。彼女は在学中からしばらくの間、対黒森峰対ボンプル対聖グロ諜報を行ない、卒業の試験では対プラウダ諜報を、その後卒業後の研究として要人暗殺についての研究を行っていた。彼女は教官ではないので私たちに指導する必要はない。だから、より積極的に活動を行える為、最新の各校の状況も掴んでいた。

 

「猪俣さん。今の各学園艦の状況ってどんな感じなのかしら?一番詳しいのは猪俣さんだけなの。わかる範囲でいいから教えてくれないかしら?」

 

小松課長は猪俣さんに現在の各校の状況について意見を求めた。猪俣さんはもちろんと頷いて大きな日本地図と駒を用意して口を開いた。

 

「今現在、交戦中のアンツィオが落ちるのは時間の問題である為、アンツィオの代理母港がある東海地方と本来の根拠地である栃木あたりに同じく根拠地を持つ中小規模学園は大部分が反乱軍支持を表明するつもりでいるらしく、関東と東海地方の勢力圏はほぼ確保したと言っていいでしょう。しかしながら、九州はもちろん黒森峰とサンダースの勢力圏ですし、北海道と東北はプラウダの勢力圏であることは火を見るよりも明らかです。プラウダは今のところ反乱軍とは友好的な関係を築いていますが、本心はどうかよくわからないところがあります。ただ、あれだけ関係が悪化していた継続との関係改善に乗り気になるということは恐らく、反乱軍を相当警戒しているということでしょう。更にいえば、北陸情勢はかなりまずい状態です。今回、プラウダが継続に接近したことで、福井のボンプルが反乱軍に対する包囲網を築こうとプラウダに対してしきりに工作を行っています。というのも、ボンプルはもともと大洗に対して良い感情を持っていなかったことに加え、ポーランドと縁がある学校として、抵抗する者たちを次々に強制収容所に送り、大量虐殺を繰り返すというまるでナチ・ドイツのような振る舞いを見せる西住みほ隊長に対して不信感とともに人道的観点からも許せないという考えがあるようです。いくら勢いがある反乱軍でも西と東、二正面作戦を展開することになれば確実に敗れます。ですから、現状は勢いがいいようで実はかなり危険な状態と言えます。もちろん、これは反乱軍だけの問題ではなく、我々知波単にとっても死活問題です。私たちは反乱軍に賭けた。敗戦すれば当然今次の戦争責任は私たちも問われます。ともすれば、西隊長以下戦車隊の隊員たちや小松課長をはじめ、ずっと反乱軍とやりとりしていた川島さん、そして諜報員として影の戦争に参加した私たちも戦犯として訴追されるかもしれません。それは絶対に避けねばならないことです。」

 

「ありがとう。猪俣さん。」

 

小松課長が報告への感謝を述べると静寂が訪れた。猪俣さんが言う未来は絶望しかない未来だ。私の瞼の裏に絞首台が浮かんできた。私は思わず身震いして首を何度も左右に振ってその最悪な未来の光景を振り切った。誰もが深刻そうな顔をしていた。皆、プラウダと継続が接近すれば厳しい戦いになるだろうことは十二分に承知していたが、事はもっと深刻であることは把握しきれていなかった。というのも、私たちは全国に散らばる学園艦に対して圧倒的にその数は少ない。私たちだけで対応できるわけがないのだ。しかも、そもそも地理的な位置と伝統からどちらかといえば対プラウダ諜報に力を入れてきたこともあり、北陸はあまり力を入れて活動してこなかったことも今回の事態を招いた。私たち諜報員も完璧ではないから限界があるにしても、改めて目を瞑り難い課題が見つかった。さて、慣れない任地でしかも少し間違えば最悪絞首台という窮地に追い込まれ、私たちは焦っていた。今回は絶対に失敗できない。継続とプラウダの関係を悪化させるためにはどうすればいいか、その為にどのようにして継続に工作をすればいいのか私は考えていた。すると、田中教官が口を開いた。

 

「あまり、このような策は推したくないのだけれど……」

 

田中教官は少し言い澱む。皆が一斉に田中教官に注目した。田中教官は言うべきか言わざるべきか悩んでいるようだった。

 

「どんなことでもいいわ。田中先生、言ってみて。」

 

小松課長が促すと田中教官は意を決したようで意見を発する。

 

「あの、いつか小松課長が話してくれたことがありますよね?甲第1号薬のこと。あれを使うと言うのはどうでしょうか?」

 

甲第1号薬とは覚せい剤のことを表す知波単内部の秘匿名称で私たち第8課の人間や上層部の人間の間ではそう呼ばれている。この覚せい剤は千葉県立大学の研究所を兼ねた工廠の分所で作られている。分所ではこのような諜報活動用の道具や薬物などが開発、生産されていた。もちろん、一般の学生や先生方は工廠については航空隊の航空機の整備などで知られていても分所の存在はもちろん、何が開発、製造されているかなど誰一人として知らない。更にこれらの薬物が決して学内で蔓延しないよう厳重の警備の元に保管されている。

 

「例えば?」

 

小松課長は具体的な作戦を話すように促した。

 

「簡単ですよ。これを継続の特に生徒会の外交を担当している子たちに蔓延させるんです。」

 

田中教官はさも当たり前かのような口調で言った。言うのは簡単だが、そんなに簡単に行くのだろうかと言う疑問が浮かぶがこの意見に援護射撃をしたのが秋草教官だった。秋草教官はスッと真っ直ぐ手を挙げた。小松課長が発言を促すと立ち上がって口を開いた。

 

「私は田中先生の意見に賛成します。というのも、プラウダは現在、継続に対してかなりシビアな要求をしているらしいです。これはプラウダの内部協力者の情報ですがどうやらプラウダはかつて継続に鹵獲された戦車のことを相当根に持ってるようで、KV-1を返還するよう求められているらしく、これの対応に外交担当は相当に苦慮しているらしいのです。継続戦車隊は当然引き渡す気はさらさらありませんが、プラウダは返還するよう相当な圧力をかけており、板挟みの状態でそのストレスは相当なものでしょう。そのような状態なので甲第1号薬にも勧めれば手を出しやすい状態にあると考えます。この事実を隠しカメラで撮影し、学園中にばら撒けば、ほぼ間違いなく薬物に汚染された政権は信用ならんとほぼ間違いなく反政権運動が起こるはずです。もちろん、引き金は必要ですが。」

 

確かにそういう状況なら成功の確率は上がる。でも、絶対に成功するという保証はない。すると、猪俣さんが手を挙げた。

 

「甲第1号薬を使うという作戦ももちろん良いと思いますが、必ずしも成功するとは限りません。最悪、風紀委員に通報されて逮捕される可能性があります。今回は絶対に失敗できません。プラウダは信用ならないということを継続の生徒たちに印象付けることが重要です。やはり一番効果的なのはプラウダの関係者が事件を起こすことでしょう。事件を起こせば、そしてそれが残酷的であればある日どこかで必ず反プラウダ感情が高まると思います。そこでなんですが私が交際しているプラウダの諜報協力者を継続に向かわせます。金さえ払えば犯罪でもなんでもする男ですから何かと使えるかとは思いますよ。」

 

小松課長は満足そうに微笑んで首を縦に振った。

 

「はい、ではその二つの作戦で行きましょう。あとは、誰を派遣するかだけど、私は○○さんと猪俣さんがいいと思うんだけどどうかしら?」

 

私は驚きを隠せなかった。思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「ええ!?私ですか!?無理無理!絶対無理ですって!私なんかより他の人が行けばいいじゃないですか!」

 

まさか、私が指名されるなんて思わなかったのだ。私はまだ学生の身分だし、実地でやれるなんて到底思えない。しかも、今回は失敗が許されないのだ。とても無理だと思い断ろうとするが、小松課長はニコニコ笑顔を浮かべて首を振る。

 

「それが、あなたしかいないのよ。この作戦では潜入者として教員役と生徒役が必要なんだけど、川島さんは大洗とのやりとりで忙しいし、他の教官や研究生では高校生っていうにはちょっと厳しいし……だからね、あなたに行ってもらうしかないのよ。大丈夫よ。あなたは優秀だからなんとかなるわ。」

 

小松課長は何としても私を派遣したいらしい。評価してくれることは嬉しいが、私自身がそんなに能力が高いとは思えない。全く自信がない。何とか逃れる策はないかと懸命に考える。今度は私はまだ2年生で諜報に関する授業はまだマスターしていないという点から攻めることにした。

 

「で、でも……私、まだ2年生で全部の授業受けてません!実地で通用する技術なんてないと思います!」

 

しかし、小松課長はまたしてもニコニコと満面の笑みで、恐ろしいことを言った。

 

「大丈夫よ。今日からあなたには特別な教育課程を受けてもらうから。1年半分の授業を2ヶ月で受けてもらうわ。朝の7時から夜の10時までみっちりね。この任務をやってくれたら、卒業試験は免除するわ。だからお願いよ。この通り。もちろん、猪俣さんにも支援はしてもらうようにするから。ね?お願い。」

 

もはや断れない。退路を次々と塞がれた私は首を縦に振るしかなかった。その日から私の地獄なような日は始まった。「それじゃあ早速授業に行ってきてね。」と言われて、その日は午後からだったとはいえ10時までみっちりと授業を受けた。厳しい訓練と今までの何倍にも及ぶ授業にヘトヘトになりながらもなんとか本来1年半で学ぶ内容を2ヶ月でマスターした。試験も良い成績を収めることができた。試験の結果が返却されて成績表を小松課長から受け取る日、2ヶ月で一つの授業も落とすことなくマスターした私を小松課長は讃えてくれた。

 

「2ヶ月間、よく頑張ったわね。あなたは私たちの誇りよ。」

 

秋草教官もニコニコと笑顔で頑張りを認めてくれた。

 

「本当によく頑張りました。ここで学んだことを活かして、作戦成功に励んでください。」

 

2ヶ月間なんとか乗り切れたことで自信をつけることができた。絶対に作戦を成功させようという気概とやる気が湧いてきた。私は背筋を伸ばして成績表を受け取るとはっきりとした口調で自信を持って応えた。

 

「絶対に作戦を成功させます!」

 

私の力強い言葉に、小松課長と秋草教官は満足そうに頷いた。

そして次の日、私たちが任地の金沢へと旅立つ日になった。私が集中的に授業を受けている2ヶ月間のうちに準備は着々と進んでいた。生徒という身分で諜報活動に従事する私の偽装転校届けが架空の学園から継続へと送られ、私の転校の正式な手続きがとられた。ちなみに、学園艦ではなく陸の上で山の中にある私立学校という設定である。教員の身分で潜入する猪俣さんは継続の教員の中で例えば家族が病気など大きな金が必要な事情を抱えている教員を見つけ出し接触を行ない、その金を肩代わりするし知波単で雇う約束をして継続高校を退職させ、その後任として猪俣さんが赴任するという計画を立てた。そして、猪俣さんも教員として採用された。更に、西住みほ隊長に作戦の内容を説明し、それに対する許可も出て指令書も交付された。準備は万端に整い、いよいよ任地金沢に赴任する日になった。その日の朝、小松課長以下、教官、研究生、そして現役学生の川島さんが課員室に集まった。猪俣さんと私はスーツ姿で小松課長の机の前に立ち申告を行う。

 

「猪俣弥生以下2名継続高等学校へ向け出発します。」

 

精一杯背筋を伸ばして胸を張り、引き締まった顔で申告する私たちに小松課長は頼もしげに頷き口を開く。

 

「二人の存分の働きと健闘に期待します。良い報告を待っています。ただし、本当に危険だと思ったら逃げることも大切です。的確に判断しながら行動してください。」

 

「了解しました。出発します。」

 

最後に小松課長は私たちに握手を求めてきた。私たちは小松課長の手を取ると、他の教官や研究生、そして現役学生の川島さんも握手を求めてきた。特に断る理由もないのにそれに応じる。それだけ期待されているということだろう。全員と握手が終わるといよいよ出発だ。猪俣さんに促されて課員室から出て後について行き、それぞれ旅行鞄一つと肩掛け鞄一つを持って飛行場へと向かった。荷物はあらかじめ向こうの学園艦に送ってあるので意外に少ない。しかし、この旅行鞄に詰められている荷物こそこの作戦の要となるものだ。私の旅行鞄のうちの一つには袋詰めされた甲第1号薬がぎっしりと入っていたし、猪俣さんの旅行鞄には大洗から作戦遂行費として支給された1億円もの大金が入っていた。荷物が荷物である。誰にも見つかってはいけない。私はごくりと唾を飲み込み、とてつもない緊張とともに輸送機に乗り込んだ。飛行場にはこの前と同じ機体番号の輸送機が駐機していた。輸送機に乗り込むと輸送機はすぐに離陸した。しばらくは空の旅だ。この瞬間をもって私は名前を変えて生活をすることになる。しばらく本当の名前とはお別れだ。ちなみに偽名は私が自由に考えて使うことができる。私は前田愛美と名乗ることに決めていた。色々考えたが、一番はじめに自然に頭に浮かんできた名前が良いだろうという考えに至った。あと他に着く前にやっておかなければならないことは猪俣さんの偽名などの偽の経歴の確認だ。この偽経歴情報について、私たちはイ号情報と呼んでいた。私は隣に座る猪俣さんに声をかけた。

 

「イ号情報について今のうちに確認しておきましょう。」

 

「そうですね。蜂谷真由美です。世界史の教員として赴任しました。平成元年7月25日生まれの23歳です。千葉県立大学文学部歴史学専攻科卒業後千葉県内の中学校に非常勤講師として勤務し地歴科教員1名欠員の継続高校の採用試験を受験、合格し来週より勤務です。」

 

「了解しました。前田愛美です。平成7年5月28日生まれの17歳高校2年生です。プラウダでの迫害を逃れ私立奥羽陸奥高校から転校、その後奥羽陸奥高校にプラウダの手が迫り更に継続に転校し、明日の月曜日から登校です。」

 

私たちは互いに何から何まで嘘で固められた偽の経歴を確認しあった。私の転校前の学校である奥羽陸奥高校などという学校は当然どこにも存在しない。猪俣さん、今は蜂谷先生の教員免許だけは本物だが当然のことながら教員としての勤務実績はない。自分のことをつくづく悪い人間だと思うが任務のためなら仕方がない。私は互いの偽の経歴を確認し終わると任務の成功を祈って握手を求めながら言った。

 

「了解しました。よろしくお願いします。蜂谷先生。」

 

蜂谷先生こと猪俣さんも私の手をとる。

 

「こちらこそよろしくね。前田さん。」

 

その後、いくつかこれからの動きについての諸連絡や確認すべきことの確認を行なった。そして、約2時間ほどだったと記憶しているが、石川県の小松空港に輸送機は着陸した。小松空港から到着ロビーに向かうとき、誰かに見咎められるのではないかと心臓がはちきれそうだった。ここで、これを持っていることが発覚したら逮捕は免れない。そうしたら作戦はおろか私の人生が終わる。冷や汗をかきながらも何とか空港を出ることができた。小松空港から高速バスに乗って金沢駅に向かった。そして、金沢市内のホテルへと向かい、その日は行動を終了した。

翌日の早朝、いよいよ継続の学園艦に乗り込む日になった。私はいつものように身支度を整えると、しばしの別れとなる蜂谷先生こと猪俣さんに申告を行った。

 

「○○○○、継続高校へ向けて出発します。」

 

「はい。いってらっしゃい。何か有る無しに関わらず1日1回は必ず連絡をしてください。」

 

「了解しました。では、行ってまいります。」

 

私はホテルを出るとタクシーで金沢港へと向かった。ちょうど昨日が寄港日になっており、今日の朝、出港する。来週の日曜日にもう一度寄港することになるらしい。そして、来週の月曜日にまた出港予定だ。蜂谷先生は来週の月曜日に着任予定だ。金沢港に到着して、待合のお手洗いで継続高校の制服に着替えて待合室で待っていた。すると、だんだん外がガヤガヤしてきた。どうやら、金沢市内出身の生徒が日曜日に帰っていた実家から学園艦に戻ってきたようだ。そろそろ学園艦に入ろうと私も待合の椅子から立ち上がって学園艦の方向へ向かった。継続の学園艦は随分小ぶりな学園艦だった。ここが、これから影の戦争の舞台になるとは思えないほど長閑だし、生徒も皆、穏やかで優しい雰囲気だった。私は何か間違ったのではないかと思うほど戦争とは程遠い印象を抱き、こんなにも長閑で静かで穏やかな人々が学ぶ平和な学園艦を陥れるということに少しばかり心の痛みを感じた。しかし、任務だからやるしかないとすぐに思い直し、私は学園館の入口へと歩みを進めた。そして、入り口に立っていた生徒に声をかけた。

 

「本日より転校してきた前田愛美です。よろしくお願いします。」

 

もはや後戻りはできない。私の影の戦争がこの瞬間から始まったのである。

 

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第8課関係文書所収

 

作戦指令書

発 大洗女子学園反乱軍総司令

西住みほ

宛 知波単学園第2部第8課課長

小松喜巳子

 

指示

 

第1号指令に基づき左記のごとく指示する

 

1.左記により継続高等学校生徒会に対する作戦を決行せよ

 

(1)作戦

継続高等学校生徒会親プラウダ政権に対する転覆工作

(2)方法

① 生徒会関係者及び風紀委員会に甲第1号薬を蔓延させ信頼失墜と反政権運動の誘引を企図する

② プラウダ内部諜報協力者による重大なる事案発生を工作し対プラウダ感情悪化と戦車隊の反乱の誘引を企図する

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猪俣弥生の偽名については工作員つながりで金賢姫氏の偽名にしてみました。「私」の偽名についてはかつて加賀百万石の栄光を築き上げた前田氏と現代っぽい名前を組み合わせて考えました。金賢姫氏の偽名を使うことに対してはご意見等色々あるかとは思いますが、オリキャラの名前を考えるのは結構大変ですのでお許しくだされば幸いです。
次回の更新については7/28の21:00に行います。
よろしくお願いします。

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