血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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冷泉麻子さん
1日遅れですがお誕生日おめでとうございます!
今回もよろしくお願いします!
今日の話は優花里目線とエルヴィンの目線で展開しています。


第110話 強制連行

私たちは改めて処刑対象者や隠れている市民を探し出すため、アンツィオ最初の処刑場となった爆発痕のクレーターを後にして移動しようと隊員たちの点呼をとっていた。すると、どこかからがさりと物音が聞こえてきた。先ほどの校舎でもそうだったが、やはり潜伏している市民はたくさんいるようだ。その物音を西住殿が見逃すはずもない。西住殿は敏感に反応して腰に下げた拳銃を抜き、音のした方に銃口を向ける。私たちも手に持ったライフルをそちらへ向けた。

 

「そこにいるのはわかっています。出てきなさい。」

 

西住殿が声をかけると今度はまだ幼稚園か保育園に通う4・5歳くらいの小さな男の子の手を繋いだアンツィオ高校の制服を着た少女が片手を挙げて投降の意思を示しながら震えながら出てきた。二人はきょうだいと思われた。おそらく、家族が学園艦で仕事をしているのだろう。学園艦には様々な立場の人間がいる。まだ、義務教育期間ではないし、学園艦内に託児施設もある。それならば幼稚園くらいの男の子がいてもなんら不思議ではないのである。

 

「お願い……助けて……誰にも言わないから……」

 

少女は啜り泣きながら消えそうな声で言った。西住殿は銃を構えながら怪しげな笑みを浮かべ、その少女たちに近づく。そして銃口を常に少女に向けつつ手を繋がれている男の子の目線に合わせてしゃがみこみ頭を撫でながら言った。

 

「こっちにおいで。楽しい所に連れて行ってあげる。」

 

西住殿はまるで変質者の声かけのように男の子を誘った。

 

「楽しいとこってどこー?」

 

男の子は目をキラキラと輝かせながら無邪気な笑顔で西住殿に笑いかける。

 

「来てみればわかるよ。一緒に行こ?」

 

西住殿は立ち上がり、その男の子の小さな手を取ると歩き出そうとした。すると、私の予想だにしないことが起きた。

 

「ちょっと待って。弟をどこに連れて行くつもりですか?!」

 

西住殿と男の子の会話に少女が割り込んで来たのだ。私は驚きを隠せなかった。少女が物陰からこの段階で出てきたということは今、私たちが行った行為を見ていたはずである。普通なら怖くて声もあげられないはずだ。それなのに、彼女は声をあげた。男の子を守ろうと必死だったのだろう。西住殿は少女の顔を眺めるとクスクスと笑う。

 

「ふふふふ。大丈夫ですよ。目的地はすぐそこの穴のところですから。」

 

西住殿はまた何か悪いことを考えているような顔をしていた。西住殿は悪い笑みを浮かべながら男の子を生徒会関係者の死体が積み重なる穴の淵に跪かせた。

 

「ま、まさか!?いやああああああ!やめてええええええ!弟だけは助けて!お願い!」

 

「あっはははは!その顔……!その叫び声……!ああ……いいですねえ……ぞくぞくしますよ……もっと……もっと聞きたい……この体が疼いてる……あはっ!あははは!」

 

西住殿は少女の叫び声を聞くと蕩けた笑みを浮かべた。

 

「お願い……お願い!助けて!その子を助けて!私の大切な弟なの!」

 

少女は西住殿に懇願する。西住殿は少女を一瞥すると腕を組んで少し考えるようなそぶりを見せて先ほどの蕩けた笑みとは別の優しげな笑顔を見せた。

 

「うーん……そうですね。この子を殺しても大して意味はありません。わかりました。この子を助けましょう。」

 

西住殿は拳銃を下ろすそぶりを見せた。

 

「ありがとうござい……」

 

少女はホッとしたような表情をして感謝の言葉を言いかけたときだった。西住殿は悪魔のような笑みを浮かべながら言った。

 

「なんて言うとでも……?ふふふふふ……私は希望を見せておいてそれを摘み取り踏みにじるのがなによりも大好きなんです……あはっ!さあ、至高の叫び声を聞かせてもらいましょうかぁ!あはははは!」

 

西住殿の行動は欺瞞だったのだ。西住殿は銃を下ろす瞬間にスライドを引き、再び銃口を素早く男の子の後頭部に突きつけると全く躊躇することなく引き金を引いて男の子の頭に鉛玉を撃ち込んだ。男の子は前のめりになって穴の中に倒れて屍の山を構成する死体の一部となった。

 

「え……?けんたああああああああ!!なんで?!なんで?!なんで?!なんで?!うわあああああああああああ!!!」

 

少女は自らの弟の名前を狂乱しながら叫び、喚いた。西住殿はその叫び声を聞いて先ほどよりもさらに蕩けた恍惚とした笑みを浮かべた。

 

「あはははは……今の叫び声は最高でしたよ。ああっ…はははは……あなたの叫び声は本当に私を最高にぞっくぞくさせる……絶頂しちゃいそうです……本当に助けてあげるとでも思っていたんですか?そんな簡単な嘘に引っかかるなんて……ふふふふふ。さあ、次はあなたの番です。こっちに来て跪いてください。」

 

少女は生気のない青い顔でその場に佇んで動かない。しびれを切らした西住殿は私たちに少女をここまで連れてくるように命じた。私たちは少女を抱き上げるようにして穴の淵に連れて行くとそこに跪かせた。

 

「嫌だ……嫌だ……死にたくない……死にたくない……死にたくない……」

 

少女は歯をカチカチ鳴らしながら何度も同じことを言っている。必死に脆く崩れそうな生にしがみつこうとしている。そんな顔を西住殿の嗜虐心をくすぐった。西住殿は悪い顔をしながら銃のスライドを引いて少女の頭に突きつけて引き金を引いた。一発の銃声とともに少女は穴の中に落ちてまた一つ屍の山が高くなった。西住殿は舌舐めずりをしながら恍惚とした笑顔を浮かべる。

 

「ふふふふふ……あぁぁ……はははは……大量虐殺(ジェノサイド)……久しぶりにぞくぞくしてきた……もっと叫び声が聞きたい……!もっと血が見たい……!もっと死体が見たい……!もっと沢山殺したい……!!あぁぁ……体が少女の血と死と悲鳴を欲してる……ふふふふふ……優花里さん?この辺り一帯、まだまだ沢山の獲物の気配がプンプンしてくる……見つけ出して連れてきてくれないかなぁ……?さて、今日は何人……殺そうかなあ……ふふふふふふ……」

 

西住殿の命令で私たちは早速捜索を開始した。その結果、辺りからは25名の市民と生徒が見つかった。彼女たちは全員西住殿によって射殺され屍の山を更に高くした。西住殿は下唇を舌で舐ると楽しそうにまるで遊びやゲームのように犠牲者たちを射殺していった。その度に上がる叫び声は西住殿の嗜虐心を満たし、快楽に溺れるような表情をしながら凶弾を撃ち込んでいった。目撃者の捜索と処刑が一通り終わり、処刑のために掘られた穴を土で埋め戻すとひとまず直下殿に合流することにして、直下殿がいると思われるガスタンクコンビナート跡地に向かった。そこは西住殿が空襲によって徹底して破壊した象徴的な場所である。そこは瓦礫だらけで未だにガスの臭いが充満していた。直下殿と聖グロの兵隊たちは集結した市民たちの選別を行なっていて忙しそうだ。直下殿は西住殿の姿を認めると駆け寄って来た。

 

「西住隊長!」

 

「直下さん。お疲れ様。どう?選別は順調?」

 

「はい。ただ……」

 

「ただ?」

 

「数が多すぎて、捌ききれません……申し訳ありません……私の力不足で……」

 

直下殿は肩を落とした。数万に及ぶ市民たち全員の選抜を直下殿たちだけで行うのは到底無理な話である。西住殿は確かに鬼ではあるが、流石にこの膨大な数を直下殿たちだけで捌けなどという無茶は言わない。西住殿は直下殿の肩にポンと手を載せると優しげな微笑みを浮かべて自分たちも手伝うので安心するようにと言って私たち特別行動部隊(アインザッツグルッペン )も直下殿たちの業務を手伝うように指示をした。私たち本来の仕事である処刑はひと段落したことだし、この山のような人の中から対象者を見つけ、リストにする仕事を直下殿たちだけに押し付けるのも忍びない。別に断る理由もないので私たちは直下殿の手伝いをすることになった。とても、今日1日で作業は終わりそうもない。追い立てた住民をそのまま何もせずに帰すのも効率が悪いので総督の直下殿と話し合ってとりあえずこの場に急造のゲットーを作ることになった。私たち特別行動部隊(アインザッツグルッペン )は直下殿の指示でガスタンクコンビナート跡地をぐるりと囲むように有刺鉄線を張り巡らせる作業に当たった。西住殿は、全員の登録が終わるまで最低でも1週間はかかる予定なので全員の登録が終わるまでガスタンクコンビナート跡地に止まらせる方針を決定した。私は流石に屋根のないところで放置するのは可哀想であるし、ここにゲットーを作るのは安全上よろしくないのではないので、一度家に帰すべきではないかと進言したが、帰すと逃亡の恐れもあり効率も悪い。それにアンツィオ市民に屋根のある家は必要ないと一蹴されてしまった。西住殿の意識の中にはアンツィオへの徹底的な差別意識と憎悪感情があった。とはいえ、全員に西住殿は敵意を向けていたわけではないし、全員を殺そうと思っていたわけでもない。以下に示す西住殿が作成した文書を見てほしい。これは「アンツィオ市民選別に係る指針」という文書でその名の通りアンツィオ市民をどのように選別するかが書かれている。

 

特殊市民甲種:理系及び数学系、工学系の教員のうち工学・数学・理学・薬学等自然科学・応用科学の博士号取得者(一般市民も含む)医者・看護師などの医療従事者

 

特殊市民乙種:理系及び数学系工学系の教員のうち工学・数学・理学・薬学等自然科学・応用科学の修士号取得者(一般市民も含む)

 

特殊市民丙種:理系及び数学系工学系の教員のうち工学・数学・理学・薬学等自然科学・応用科学の学士取得者(一般市民も含む)外国語科の教員又は外国語の学士以上の資格を有する者、戦車道など軍事組織になり得る組織に所属する者、その他、特業を持つ者など反乱軍に認定された者

 

二等市民:特殊市民に該当しない者のうち65歳以下の健康な者。死すべき者に該当しない者

 

死すべき者:65歳以上の者、社会科、国語科の教員、学園中枢部にいた者(生徒会・学園幹部)

 

この中のうち、死すべき者はもちろんのこと二等市民に分類された者たちは徹底的な迫害を受けたが、特殊市民とされた者は差別はされたが比較的厚遇された。西住殿はアンツィオの優秀な人材を集めることに重点を置いていた。これには反乱軍の台所事情が関連していた。今、西住殿が目指す全学園艦の統治と黒森峰の殲滅のための兵器の供給は闇ルートからの購入と知波単兵器工廠からの購入している。しかし、やはり武器というものは値段が高い。これからおそらく大事な決戦ともいうべき戦いが立て続けにあると考えるとその分兵器の消耗も激しくなる。だから、少しでも購入費を安く抑えるためにアンツィオの技術者たちを従業員として知波単へ送り込み、労働させる分知波単に兵器の値段を値下げするよう要求しようという計画していた。そのために何としても工学系に詳しい技術者や相当な知識を持つ者が必要だった。また、人手不足は生物化学兵器の研究にも言えることである。現在、生物化学兵器の研究に当たっているのは実質的には冷泉殿だけである。さらに、野戦病院のような簡易的な医療などの業務も担当しており、生物化学兵器の研究に集中ができずになかなか進まないというのが現状だ。生物化学兵器はこれから先サンダース、黒森峰を筆頭とした、反乱軍と共に歩もうとせず、逆にこちらを鎮圧しようとしている罪深い諸学園艦を燼滅するために必要不可欠な兵器だ。冷泉殿にもし不測な自体が起こったらかなりまずいことになる。その前に冷泉殿がいなくても研究できる要員を確保しておくべきであろう。そのためにも西住殿はアンツィオの理系教員や医師、相当な学位保持者を使って一気に研究を推し進めようとしていた。そういう事情も鑑みてまずは特殊市民に選別された者たちを大洗女子学園に一人でも多く連行することを目標に進めることになった。ただ、これは危ない橋に思われた。なぜなら元々敵だった者たちにこちらの手の内を明かすようなものだからである。脱走でもされたらたまったものではない。その懸念を西住殿に伝えたら微笑みながら大丈夫だと言った。何か考えがあるのだろう。まあ、西住殿のことである。考えもなしに動くはずはない。私たちはひとまず安心して大勢いる市民たちの中を該当者の条件を読みあげて該当者は申し出るようにと声を張り上げた。すると、合わせて253名の市民が自分が該当者であると素直に申し出て、全員が確かに特殊市民に該当する者であることが確認できた。この学園はなぜか大人も生徒も全員が素直であり、全く嘘をつかない。だから、二等市民に分類されるのに有利で厚遇される特殊市民であると虚偽の申告をする者は一人もいなかった。私たちは比較的スムーズに一部移送へとこぎつけることができた。私たちは戦車道関係者を含む名乗り出た特殊市民に分類された者たちを大洗女子学園に連行した。

 

*******

 

アンツィオ降伏の知らせは戦略上の理由で大々的には知らせはなかったが少なくとも反乱軍のメンバーは隊長たち反乱軍幹部の動きでみんなある程度の情勢は把握できていた。その日もなぜか知波単の飛行機が大通りに駐機していたのを私は見ている。飛行機が駐機しているということはそれだけ遠くへ行くということだ。現在、何かことを構えているところで飛行機で行かねばならぬほど遠い場所といえばアンツィオ高校関係しか思い浮かばない。しかも、今回駐機していた飛行機は輸送機でさらに乗客として冷泉さんが乗るらしいという話を近くで警備していた兵士に聞いた。そう考えると外交面でアンツィオと何かあると推測することは不思議ではないだろう。その話をカエサルたちにしてみたらなにやら慌ててカエサルがカバさんチーム4人の家を飛び出していった。その時、私たちは呆気に取られていたがよくよく考えてみるともしかして、カエサルの不調の種はアンツィオにあるかもしれない。その後、その日の深夜にはカエサルは帰ってきたのだがその時にはカエサルはすっかり元気になっていた。まるでこの間の抜け殻のようなカエサルはどこにもいなかった。私たちはそんなカエサルの今の状況につけ込んで色々根掘り葉掘り聞いたところカエサルは素直に教えてくれた。カエサルによるとその日、冷泉さんたちと一緒に輸送機に乗って飛び立ったカエサルは北陸金沢へ行き、アンツィオの外交関係者と面会したらしい。その時に行方不明、安否不明の友達について尋ねたらその子は市民のリーダー的存在になっていてたくましく生きているとのことだったと嬉しそうに報告した。そして、ついでにアンツィオがどうやら反乱軍への降伏を考えているらしく、このまま戦争が終われば友達はきっともう安心だと笑っていた。私たちは安心して抱き合いながらカエサルにそんなに辛い思いをさせていたことに気がつかなかったことへの謝罪と精神の病に打ち勝ち見事に回復したことに対しての祝いの言葉を述べた。カエサルは本当にホッとしたような表情を浮かべていた。戦争の中の小さな幸せだった。だが、戦争と西住隊長はそんな小さな幸せさえも奪っていったのだ。

しばらくたったある日、「特殊演習」という機密の名称が付けられた何かが始まった。その日、メイン道路にはぎっしりと輸送機が敷き詰められ、アンツィオ方面に飛び去っていった。そして、夜になりアンツィオから戻ってきたと思われる輸送機が着陸した。何か胸騒ぎがした私たちはこっそりとその輸送機の中に積まれている荷物は何かを確かめるためにメイン道路がよく見える高い建物の屋上から見下ろした。輸送機の扉が開くと中からは人が出てきた。全員拘束され、手枷足枷を着用している。その中に一人裸にされた金髪の少女が降りてきた。それを見た瞬間、カエサルの顔つきが変わった。カエサルは大きく目を剥いて何かをぶつぶつ呻くような声を出している。耳をすませてみると何やら人の名前を呼んでいることがわかった。

 

「ひなちゃん……ひなちゃん……どうして……?」

 

「カエサル……?どうしたんだ?」

 

私が声をかけるとカエサルは鬼の形相をして「許せない……」と一言発すると表に飛び出していってしまった。私たちはカエサルの後を慌てて追いかけた。カエサルは全速力で走って飛行機が着陸したメインの道路に向かうと近くで警備していた兵隊の首根っこをいきなり捕まえると押し倒してギリギリとものすごい力で絞め付けた。

 

「ひなちゃんをどこやった……?!」

 

カエサルは今まで聞いたこともないようなドスの効いた低い声で言った。

 

「くっ……う……うぅぅ……うぁ……な……なにを……」

 

「惚けるな……!ひなちゃんをどうするつもりだ……?!」

 

このままではこの兵隊は死んでしまう。私たちはカエサルを引き剥がそうとした。しかし、カエサルは怒りで我を忘れているのか私たちを突き飛ばしてますます手に力を入れようとしていた。

 

「落ち着け!カエサル!その人はきっとお前の言う、ひなちゃんが誰かわからないだけだ!」

 

すると、カエサルはハッとしたような表情をして手を緩めた。彼女は咳き込みながら苦しそうに息をする。

 

「ひなちゃんは……おまえたちがどこかに連れて行った裸にされた金髪の少女だ。どこへ連れて行った?」

 

「それは……言えない……機密事項だ……」

 

「言えない……だと……?なら、仕方ない……!!」

 

カエサルは再び兵隊の首に手を持っていき力を込めようとした。すると、よほど苦しかったのか兵隊は青い顔をしながら片方の手で地面をバシバシ叩く。

 

「ひっ!わ、わかった!言う!言うから!冷泉さんのところだ!冷泉さんが管理している特殊監獄に連れていかれた!」

 

「そうか。わかった。ありがとう。冷泉麻子……許さない……絶対に許さない……」

 

カエサルは赤いマフラーをたなびかせてその場を立ち去り、また全速力で走って冷泉さんの研究室へと向かった。私たちも後を追いかける。カエサルがまた何か危ない雰囲気を醸し出している。私たちはカエサルが暴走しないことを祈りながら後をついていった。やがて、冷泉さんの研究室の前に到着するとまた、カエサルはものすごい鬼のような形相で冷泉研究室の扉を叩く。

 

「はい……なんだ……?誰だ……?」

 

中からは眠たそうな冷泉さんの応答する声が聞こえてきた。カエサルは冷泉さんにいつもの雰囲気とは違うことを悟られないためか努めていつもの雰囲気をつくりながら言った。

 

「冷泉さん、私だ。カエサルだ。少し話がしたい。今、いいか?」

 

「ああ、カエサルさんか。わかった。少し待っててくれ。」

 

ガチャリと鍵が開き、扉が開いた。カエサルは研究室から出てきた冷泉さんのを押し倒した。

 

「うわぁ!な、なんだ!?」

 

冷泉さんはいきなり押し倒されて困惑したような表情をしている。カエサルは鬼のような形相で冷泉さんの首を絞めあげた。

 

「冷泉麻子!!おまえ、相談に乗ってやるといいながら私を騙していたのか?!」

 

冷泉さんは苦しそうな表情をしながら訳がわからないと言ったような困惑したような目をしている。

 

「くっ……うぅぅ……い……いきなり……なんの……話だ……」

 

「惚けるな!私の友人をあんな屈辱を味あわせておいて!殺してやる!」

 

「うっ……ぐぁぁぁぁ……ちょ……ちょっ……と待て……誤解だ……私は……」

 

「御託は結構だ!この裏切り者!おまえだけは絶対に許さない!冷泉麻子!」

 

「うぐぅぅぅぅ……ぐぁぁ……」

 

カエサルはますます首を強く絞める。だんだん冷泉さんは白目を剥き始めた。いよいよ冷泉さんの命の危機である。私たちは何度も全力でカエサルを引き剥がそうとしたがカエサルはものすごい力で私たちを寄せ付けない。すると、後ろからものすごい叫び声が聞こえてきた。

 

「ちょっと!麻子に何やってるのよ!やめて!カエサルさん!」

 

武部さんだった。武部さんはカエサルさんに摑みかかる。

 

「離せ!武部さん!こいつだけは絶対殺さないと気が済まない!こいつは私の友達を裸にして晒し者にして連行したんだ!次は何するか、何を企んでいるのかわかったもんじゃない!」

 

「ちょっと待って!落ち着いて!麻子の話を聞いてよ!麻子がそんなことするはずない!とりあえず、麻子から離れて!」

 

武部さんはものすごい力でカエサルを冷泉さんから引き剥がして、冷泉さんに駆け寄る。

 

「麻子!?麻子!?大丈夫!?」

 

冷泉さんは激しく咳き込みながら息を荒げている。冷泉さんは何とか手をあげて武部さんに応える。

 

「し……死ぬかと思った……カエサルさん、カエサルさんは誤解している……裸にしたのは私ではない……私もあの少女が連れてこられたとき驚いた……あんな姿で街を歩かせたなんて……それに私が彼女を収監するように指示したわけでもないんだ……ほら、見てみろ。これが勾留状だ。向こうの総督府の人間から送付された……確認してくれ……」

 

カエサルは冷泉さんから手渡された勾留状に目を落とす。私もカエサルの後ろから覗き込むとそこには"落合陽菜美"という名前があった。これがカエサルのいう"ひなちゃん"であることは間違いない。カエサルはその名前を見て涙を流した。

 

「ひなちゃん……どうして………………冷泉さん……勘違いして申し訳なかった……てっきり冷泉さんがひなちゃんをこんな目に合わせているのかと思ってしまった……本当に申し訳ない!許してくれ!」

 

カエサルは床に頭をつける。冷泉さんはカエサルの姿に驚いて慌てて頭を上げさせた。

 

「やめてくれ。そんなことは必要ない。いいんだ。いいんだよ。私も逆の立場なら……沙織がそんな目に遭ってたら同じように思うだろう。カエサルさんの気持ちはよくわかる……そうだ。落合さんに会っていくか?積もる話もあるだろう。久しぶりにゆっくりと二人だけで話してこい。」

 

「ぜひ!ぜひ会わせてくれ!」

 

「うん。わかった。」

 

冷泉さんはニコリと優しげな微笑みを浮かべて牢獄の鍵を手にすると外に出るようにカエサルに促して、カエサルと二人で牢獄へと向かった。その後戻ってきた二人からある提案がされるわけだがそこで運命の歯車が大きく動き出すことになるとは私たちはまだ知らなかった。

 

つづく




次回はおそらく、30年後の話を入れることができると思います。

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