血塗られた戦車道   作:多治見国繁

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久しぶりの2週連続投稿です。
どうぞお楽しみください。


第104話 新生秋山優花里

かつて多重人格と言われたそれは現在は解離性同一性障害と言われている。解離は誰でも起こりうるもので目眩がして気を失うこともそれの一つであるし、記憶喪失もまた解離の一種である。その中でも重く、自己のコントロールを失い、別の形での苦痛や社会生活にも支障をきたすことを「解離性障害」という。では、俗に言う多重人格とはどういうものかというとその中で最も重いもので切り離した自分の感情や記憶が裏で成長し、それがあたかも一つの人格のように現れるという症状である。だが、これは一つの肉体に複数の人格が実際に宿っていると言うわけではなく、それはその人の人格の一部である。これを交代人格と呼ぶ。つまりは、それぞれの交代人格はその人が生き延びるために必要であるから生まれてきており、何らかの役割を引き受けている。つまり、今優花里の肉体に表面化しているこの人格も言ってしまえば秋山優花里という人間の一部なのだ。だから、これから先に語る話の中でもこれ以降、優花里の別の人格も、改めて説明の必要がない限りは「優花里」と呼ぶこととする。

 

さて、優花里は両親の処刑が終わると綺麗な回れ右をしてみほの下に戻った。

 

「処刑、万事無事に終わりました。」

 

母の血にまみれた優花里はにこやかな笑顔でみほに報告する。みほも同じようなにこやかな笑顔で優花里を迎えると抱きしめてその残虐行為を讃え、新たな優花里の誕生を祝った。

 

「お帰り。優花里さん。よくやってくれました。そして、新しい優花里さんお誕生日おめでとう。」

 

優花里は少し首を傾げて不思議そうな顔をした。そして、脳内の回路が繋がったのか納得した表情を作った。

 

「ああ、そうか。そういえばこの娘は優花里と呼ばれているのですね。いいでしょう。これからも私のことは優花里で構いません。はじめまして。西住みほさん……いえ、今まで通り西住みほ殿の方がいいですね。これからよろしくおねがいします。」

 

優花里は握手を交わそうと手を差し出した。みほは優花里の手を取ってぎゅっと握りながら興味深そうに優花里の顔を覗き込む。

 

「うん。よろしくね。優花里さんの記憶は引き継がれてるんだね。ふふっなんか面白い。」

 

「はい。元の人格の記憶は私に引き継がれていますからご安心を。」

 

人間の心理の未知の世界。みほもまた心理学や精神医学の専門家ではないわけだから何が起きているかはわからないが人間の心というその神秘さに惹かれているようだった。この不思議な存在に成り果てた優花里の話をもっと聞きたい。そう思ったのかみほは優花里をとある場所に誘った。

 

「優花里さん。ちょっとこの後、付き合ってもらっていいかな?」

 

「ええ、もちろん。」

 

「ふふっ良かった。じゃあ、ちょっと待っててね。必要なものを持ってくるから。」

 

そう言い残すとみほは建物の中にかけていった。しばらくするとみほが戻ってきた。右手にはなぜか洗面器が抱えられ左手首には何かの袋が下げられていた。

 

「お待たせ。はい。これ。」

 

みほは左手に下げられた袋から上着を取り出した。

 

「流石にそんな血まみれで街を出歩くのは抵抗あるでしょ?これを着れば少しは目立たなくなるからよかったらどうぞ。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

優花里はみほに感謝の言葉を述べるとその上着を着こむ。大きさもちょうどよく、ぴったりだ。その様子を見てみほは満足そうに頷く。

 

「あ、ぴったりみたいだね。私の服だからサイズが合うかわからなかったけどよかったあ!それじゃあそろそろ行こうか。ついてきて。」

 

みほは優花里の手を引いて歩き始めた。みほの目的地は支配地域である西地区の真ん中あたりにきたところにあった。みほに手を引かれてついて行くと一軒の古びた建物にたどり着いた。入り口に大きく「湯」と書かれている。そう。ここは今時珍しい銭湯だ。こんなところがあったのか。こんな銭湯が今でも営業しているとは思わなかった。優花里の家はそこまで古くはないから当然最初から風呂はある。確かに、昔は寮に風呂がないというところも多かっただろうからそうした生徒のために学園艦に銭湯があっても不思議ではないが、この現代という時代はほぼ99.9%風呂を持っていると予想される。そうした中で利用者はいるのだろうか。いや、いないだろう。需要と供給のバランスを考えればこの銭湯も閉めることを検討するべきだと思う。しかし、街には儲からなくても営業している店というものがあるという話も聞く。ここもそれの一種なのだろうか。なんとも興味深い。この学園艦の未知なる世界に飛び込む。これも一興だ。

 

「ふふふ。お風呂屋さんですか。こんなところにお風呂屋さんがあったなんて知りませんでした。」

 

「うん。ここの番頭さんにね開戦前に手厚く保護するからって交渉してここに残ってもらったの。やっぱり士気を維持するためにはみんなも平等に安定した美味しい食事と衛生は守らないといけないからね。さすがにあれだけの兵士が一気に私に反乱したら私もなす術がなくなるからその前に不満が出ないようにする必要がある。これも不満潰しの一環だよ。この銭湯は誰でもいつでも自由に使えて過酷な戦闘を忘れられる。そんな空間にしたかったの。」

 

なるほど。興味深い。あの凄惨な処刑で狂人と化した優花里を見て恍惚とした笑みを浮かべていた西住みほという悪魔が今度は優しい慈悲深い笑顔を浮かべている。面白い。優花里は興味深そうにみほの横顔を見つめる。みほはこちらの視線に気がついてなぜこちらの顔を見ているのか不思議そうな顔をしている。可愛い。悪魔の顔を隠したみほはこんなに可愛いくて美しいのかと思わず見とれてしまった。その儚げで優しい笑顔の虜になる人間も多いだろう。なるほど、こうした笑顔と残虐な顔を駆使することで支配していくのか。まさに飴と鞭の使い手だ。では、この西住みほという悪魔のもとでどう生きるかそう考えた時に選択肢は二つである。みほに服従するか、逆に操り人形にするかだ。優花里の中の別の人格は少しみほを試してみることにした。ここでの反応次第でこの人格の今後の立ち位置が決まる。優花里は次に紡がれるだあろうみほの言葉を待った。

 

「それじゃあ、入ろう?」

 

みほは朗らかな笑顔で暖簾を潜ろうとする。だが、優花里は動かない。みほは不思議そうな顔をして首をかしげる。優花里はニヤリと怪しく笑って口を開いた。

 

「ふふふ……いいんですか?私とお風呂になんか入って。私の今の人格はもしかしたら男かもしれません。もしかして西住殿を襲うかもしれませんよ?」

 

さあ、どう出るか。ここで少しでも怯えた表情をすれば逆に操り人形にしてやろう。そう思っていた。だが、みほは不敵な笑みを浮かべて優花里の目の奥を見つめる。まるで優花里が何を企んでいるのか見通しているようだった。

 

「あははは。良いよ。」

 

予想外だ。純潔を奪われるかもしれないと言っているのにどこ吹く風だ。もしかして言われている意味がよくわかっていないのだろうか。よし、今度はもっといやらしさを足して表現してみよう。

 

「なぜですか?この手に西住殿の綺麗な裸を汚されるかもしれないんですよ?その意外と大きな胸をこの手がまさぐるかもしれないんですよ?えへへへ。」

 

優花里が手をわきわきと動かしながら粘りつくような言葉で尋ねるとみほは胸の前で手をクロスさせて少し恥ずかしそうな表情見せながらくすりといたずらっぽく笑う。

 

「もう!優花里さんエッチなんだから!……でも、それもまた一興です。だって、優花里さんの身体の中で生まれた別の人格が実は男の人で私を襲うなんて数奇な運命すぎて面白そうじゃないですか。」

 

酔狂な人だ。自分の純潔よりも面白さを取るとは。これは降参だ。優花里の立ち位置はこの瞬間決定された。従属だ。従属してその中で生き残ることを考えよう。優花里はみほの答えを聞いて苦笑いを作ると両手を挙げた。

 

「降参です。あわよくば西住殿を操り人形にしてやろうって思っていましたがそれは無理のようですね。」

 

優花里の言葉を聞いてみほは困ったように笑いながらこちらに視線を向ける。

 

「ふーん。そんなこと思ってたんだ。でも、私を操り人形にしようなんて優花里さんには100年早いかな。」

 

「あははは。そうですね。無謀でした。」

 

「私を操り人形にしようなんて企んだ人に出会ったのは初めてだったけどそういう人は嫌いじゃないよ。ふふふ。さあ、そろそろ中に入ろう?ね?それからお話ししよう。」

 

みほはそういうと「湯」と大きく書かれた暖簾をくぐった。優花里も後に続く。中に入った瞬間、元気のいい中年男性の声が聞こえて来た。

 

「いらっしゃい!お!みほちゃん!こんにちは!みほちゃんがここに来るなんて珍しいなあ!みほちゃんのおかげでこの風呂屋も持ち直せそうだよ!」

 

「あははは。たまにはここのお風呂もいいかなって思ってきちゃいました。いえいえ、私のおかげだなんてそんな。私は何もしてませんよ。」

 

「そんなことないよ!みほちゃんは俺たちを助けてくれたじゃないか!だから俺たちはみほちゃんの側についたんだ!本当にありがとう!これからも頑張ってくれ!」

 

なるほど。この男がみほの要請に応じた人物か。悪魔の要請に応じた割には人の良さそうなおじさんで普通の良識ある市民のような印象だ。この人物から悪意は感じられない。みほはこの人物とは友好的関係を築けているようだ。一体みほはこの男に何を吹き込んだのだろうか。この男もまたみほのあの美しい笑顔の虜になっているのだろうか。いや、違う。それ以上にこの男は西住みほという少女を心から信頼していた。優花里は不思議でたまらなかった。この男はこの少女の本当の姿を知っているのだろうか。まあ、私が言えたことではないが。優花里はそんなことを思いながらみほの後ろ姿を見つめる。

 

「はい!頑張ります!あ、そうだ番頭さん。今日は新しいお客さんを連れてきたので紹介しますね。」

 

みほは優花里の方向を向いて微笑む。優花里もまたみほに微笑みを返した。

 

「お!嬉しいねえ!その子かい?」

 

番頭の男はこちらに目線を向けてきた。優花里は頭を少しだけ下げる。

 

「秋山優花里です。」

 

「優花里ちゃんか。よろしく!ゆっくりしていってくれ。これからもどんどんこの銭湯を利用してくれ!」

 

番頭は手を差し出した。優花里はその手を取り、早速利用させてもらう旨を伝えて無意識にポケットに手を突っ込んで入浴料を払おうとしたらみほに止められた。みほは財布を取り出して二人分の入浴料を番頭に差し出す。

 

「私から誘ったんだし今日は奢ってあげる。」

 

優花里はその言葉に甘えることにした。せっかくだ。奢ってもらえるのは悪い話ではない。更に手を突っ込んだ時に気がついたが財布を持っていなかったので助かった。番頭はみほから入浴料を受け取ると会釈をして右手を女湯の方に傾ける。

 

「はい。ちょうどだね。ごゆっくりどうぞ。」

 

みほと優花里も番頭に会釈を返すと女湯の暖簾をくぐった。暖簾の先には昔懐かしい風景が広がっていた。まさしく昭和の町の銭湯だった。背の低いロッカーに体重計に風呂上がりにくつろげる大きな椅子、さらに風呂上がりの一杯が美味い牛乳販売のボックスまである。確かにこの空間なら疲れは一気に取れそうだ。だが、流石にまだ風呂に入るには早すぎたようで風呂の中にはまだ誰もいなかった。つまりはこの空間に二人だけ……ならば、色々積もる話もゆっくりと話せそうだ。恐らくみほの口からは優花里の今後の方針などの話題も出るだろう。この少女の記憶から鑑みるにどんな命令が下るのか一抹の不安があるがそれをみほが望むなら受け入れなくてはならない。

 

「優花里さんどうしたの?」

 

風呂場なのにいつまでも服を脱がずに茫然と立っている優花里を不思議に思ったらしくみほが声をかけてきた。その声に応答するためにみほを見て優花里は思わず目を見張った。

 

「美しい……綺麗ですよ。西住殿。」

 

優花里は思わず声に出す。みほは既に全ての服を脱ぎ終わって裸で立っていた。優花里はまじまじとみほの裸体を見つめる。すると、みほは顔を恥ずかしそうに赤く染めて頰を少し膨らませながら言った。

 

「もう。そんなにまじまじ見ないで。恥ずかしいよ。優花里さんも早く脱いで。」

 

みほの言っていることはもっともな話だ。優花里はみほから目をそらすと手早く母親の血で汚れた服を脱ぎ始めた。その間中何度もチラチラと裸で立っているみほを見た。何故だろう。何故こんな感情になるのだろうか。全く自分がわからない。この娘は一体何を考えているのだ。自分があんなに酷い目にあわされていたのにまだこんな感情を西住みほに持っていたなんて。変わった娘だ。優花里は深呼吸をしてみほに顔を向けて頰を緩ませる。

 

「お待たせしました。」

 

浴場もまさしく昔ながらの銭湯だ。壁には大きく富士山の絵が描かれている。優花里は適当にシャワーを選び、みほの鞭などによる暴行できた古傷が痛々しく残る身体を洗う。ピリッとした痛みが走った。古傷に染みる。その痛みを我慢して優花里はみほと湯船に向かった。湯船は2つあって一つが普通のお湯の風呂、もう一つが薬湯だった。この薬湯は効能として傷に効くと説明書きに書かれている。それならば、選択肢は一つだ。優花里は薬湯を選択した。みほもそれでいいというので一緒に薬湯に入る。薬の独特な匂いがぷんと漂う。いつかぶりに浸かる湯船だろう。何だか身体がスッと軽くなった気がした。優花里がリラックスして身体を癒しているとみほが話しかけていた。

 

「ねえ、優花里さん。今の貴方は何者なの?」

 

「私の名前はユウカです。私は、優花里が貴方の命令で手を汚さずに済むように私が役割を担っています。私が代わりに貴方の命令を漏らさず遂行する役割を負っています。」

 

優花里は全く別の名前を名乗った。みほは興味深げな顔をしてさらに質問を続けた。

 

「優花里さんは今どこにいるの?」

 

すると彼女は自らを人差し指と中指で指しながら言った。

 

「ここにいます。優花里は今私が檻の中に閉じ込めて眠らせています。」

 

「そっか。眠ってるんだ。貴方の歳は?」

 

「28歳です。」

 

「そう。私より年上なんだね。他にも別の人格はいるの?」

 

「います。」

 

「会わせてくれない?」

 

「いいですけど、危険ですよ?特にここだと。」

 

「どういうこと?」

 

「彼は少女が大好きな強姦魔なんです。」

 

「あ、やっぱりいたんだ。男性の人格、しかも強姦魔か。あははは。いいよ、呼んで。」

 

みほはなぜかくすくすと笑っている。流石は麻子に、目的のためならば処女をも捨てる覚悟があると言っただけのことはある。どこまで酔狂な人なのだろう。一応警告はした。それでも会いたいというのならこちらから止めることもないだりう。ユウカと名乗った人格は頷くと虚ろな目に変わった。そして、何事かボソボソと呟くと目つきが変わった。

何が起きたんだ?彼は辺りを見回してここがどこで何が起きているのか確認した。彼とは言っても顔は当然優花里の顔だ。中の人格だけがごっそり違う人物に変わっていた。そうだ。強姦魔の男の人格が姿を現したのである。それでは、この男の人格が自分でその正体を明かすまでこの男のことは彼と呼称することにしよう。さて、彼はどうやらここは浴場でしかも女湯であることを理解した。しかも、好都合なことに大好物の少女と二人きりだった。しかもかなり可愛い顔をしているじゃないか。胸もでっかいし白くて綺麗な肌をしている。次の獲物はこいつに決めた。彼はみほを獲物を狙う狼のようなギラギラとした目で舐めるように眺める。そして息を荒げて舌で自らの唇を濡らした。

 

「まさか、こんなところで俺を呼んでくれるとは思わなかったな。」

 

優花里の記憶を受け継いでいたため、みほが何者であるか彼は知っていた。そしていつかみほの身体に触れることを夢見ながらその機会をずっと伺っていたのである。そして、ついに今日、それを実行する時が来た。優花里の身体を操る彼は、みほの手首を掴むと軽々と持ち上げてみほを湯船の外に出し、浴場の床に押し倒した。

 

「きゃっ!?いやっ!?なにっ!?」

 

こんな声を出してはみたもののみほは恐怖というものを微塵も感じてはいなかった。しかし、それでは、この人格が満足しないであろうこともわかっていたので、あえて嫌がるそぶりを見せてあげようと考えた。彼は予想通りその反応に喜び、早速みほの身体を舌舐めずりをしながらギラついた目で鑑賞した。胸部、胴体、下腹部、そのどれもが透き通るように真っ白で至高の美術品のようだった。さて、まずはどこからいただこうか。みほの身体を眺めていると綺麗な茶色の髪が目に入った。彼はふわふわとした柔らかい髪を手に絡ませて手ぐしをするように髪の付け根から先までを撫でた。さらさらしていてとても触り心地が良い。髪から手が離れた時だった。ふわりと甘い匂いが鼻先をくすぐった。みほの髪の匂いだ。なんていい香りなのだろう。決めた。まずはこの少女の匂いから楽しむことにしよう。彼は鼻先に持っていき思い切り息を吸い込む。甘い匂いが鼻いっぱいに広がった。更にそのまま鼻先を肌に持っていき全身をまるで犬のように嗅ぎまわる。水が滴る美しいみほの肌。先ほどまで入っていた薬湯の匂いとみほの匂いが混ざった妖艶で香しい匂いだ。そして、彼が操る優花里の顔は〝そこ〟に到達して大きく息を吸い込む。先ほどよりも濃いみほの匂いが優花里の鼻をくすぐった。甘美な匂いだ。彼はニヤリと笑みを浮かべ、人差し指を立てて指を這わせる。そして恍惚とした表情を浮かべ、そのままねっとりと舐める。

 

「ひゃっ!優花里さん、そこは!」

 

みほは今まで嫌がるような声を上げてはいたが身体は反応させていなかった。だが、流石にそんなところを舐められてはたまらない。ピクンと身体を刎ねあげる。彼は歓喜した。嫌がりつつも彼を求めるようなその声に。そしてその手は〝そこ〟から離れゆっくりとへそを通り胸で止まり、強く揉んだ。

 

「うおお!柔らけえ!うへへへ。最高だなあ……」

 

彼はそんなことを言って何十分も身体をまさぐり指でみほの各所を愛撫して首筋、胸、へそ、太腿を舐めまわした。

 

「ひあっ!うぅ……」

 

みほはその度に嫌そうな反応をして、ピクピク身体を跳ねてみせた。すると彼は悪い笑みを浮かべると今度はみほをうつ伏せにさせた。彼は背中に手を置くとすうっと下ろしてみほの尻を円を描くように撫でる。まさに極上の桃のように瑞々しい尻の柔肉を鷲掴みにすると何度も揉み蹂躙した。やがて彼はみほから離れた。ようやく満足したのかと思っているとどうやらその考えは間違っていたようだ。彼はみほの背後に回って手を回しみほの胸を優しく揉む。そして、頰を愛おしそうに撫でながら首筋を舐める。

 

「へへへ。おれはおまえに会いたくて仕方なかったんだ。一度おまえの身体をまさぐって真っ白な肌を舐めてやりたかった。それをまさか銭湯で呼び出してくれるとはな。おかげでたっぷり愉しむことができる。」

 

みほは胸を揉まれながら、彼の名前を尋ねる。

 

「んあ……あ、貴方の名前は?」

 

「俺か?俺は、マサヒコだ。35歳だ。うーん、おまえの胸、本当にでけえな。何度触っても飽きねえや。」

 

みほは自らの胸をまさぐり続けるマサヒコをちらりと見ると少し冷たい声で言った。

 

「マサヒコさん。もう胸を触るのはおしまいです。離れてください。ユウカさんを呼んでください。」

 

すると、マサヒコは怪しく笑いながらますます激しく手を動かす。

 

「へへへ。それはできねえな。なあ、いいだろう?もっと触らせてくれよ。」

 

優花里の身体を借りたマサヒコはまた、みほを押し倒そうとした。すると、先ほど人格が交代した時のように突然目が虚ろになりブツブツと何かを言い始めた。しばらくするとまた他の人格が現れた。ユウカだった。ユウカは大きくため息をつく。

 

「間に合ってよかったです。あと少しで……危なかったですね。大丈夫でしたか?」

 

「うん。大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう。でも、どうして突然出てこれたの?」

 

「私は全ての他人格を統括する立場にいますから、私の権限でスポットの中から引きずり下ろしたんです。」

 

「そうだったんだ。それで、マサヒコさんはどうなるの?」

 

「もう二度と表には出させません。彼は危険です。放っておけばどんどん被害者が……といっても西住殿も似たような性癖があるようですけどね。」

 

「そっか。わかった。ふふふ。確かにそうだね。私も少女をいじめるのは大好きだよ。あ、そうだ。マサヒコさんとユウカさん以外にも人格はいるの?」

 

みほの質問に彼女は首肯した。

 

「はい。います。でも、今日はどうやら出てきたがらないようです。」

 

「そっか。他の人にもまた会いたいな。」

 

その後も優花里の身体を借りたユウカとみほは色々な世間話をした。しばらく話をしていたがやがてのぼせて来たので風呂から上がることにした。ちなみにこの時は、彼女が予想していた優花里の今後についての話は一切出なかった。風呂から上がった。そして、そこで気がついた。身体を拭くタオルも着替えも何も持っていなかったのだ。優花里が困った表情をしているとパチンと指を鳴らした。

 

「これを使って。あと、服はこれを。」

 

みほは清潔な白いバスタオルと着替えを手渡した。更にバスタオルと服の間にはご丁寧に下着までつけてくれていた。他人の下着という点に少し戸惑ったが、せっかく用意してくれたわけだし、洗濯済みだとは思うので使うことにした。

 

「ありがとうございます。」

 

優花里は白くて柔らかいバスタオルで身体と髪を拭く。そして下着を身につけ、手渡された服を手に取った。その服はドイツ第三帝国親衛隊の将校服だった。みほが優花里にその服を着させようとする意図を図りかねていた。だが、それを着る他選択肢はない。将校服を着ると、みほはまじまじと優花里の姿を眺めて満足そうに頷く。

 

「うん。よく似合ってるね。格好いいよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「優花里さん。この後ちょっと執務室に来て欲しいんだけどいいかな?今後のお話をしようと思うんだけど。」

 

「はい。いいですよ。」

 

「ありがとう。それじゃあそろそろ行こうか。あ、そうだ。今日のことは誰にも言っちゃダメだよ。特に梓ちゃんと小梅さんにバレたら……くれぐれもお願いね。」

 

みほは口に人差し指を当てて苦笑いを作った。優花里が同意するとみほは満足そうに笑った。

さて、優花里とみほは銭湯から出て、番頭の男に別れを告げるとみほの執務室に向かった。執務室に到着するとみほは応接の椅子に優花里を案内する。そしてみほは反対側の椅子に座って今後の優花里の運用についての話を始めた。

 

「優花里さんの今後の配属についてなんだけど……優花里さんには新しく新設するアインザッツグルッペン、特別行動部隊の司令官を任せようと思っています。」

 

アインザッツグルッペン、嫌な響きだ。この部隊の存在を知っている者で、この部隊の名を聞いて一般的、常識的な感覚がある者であれば嫌悪、または憎悪の表情を浮かべるのは極めて自然なことであろう。この部隊は悪魔の部隊だ。直訳では「出動集団」という意味だが、遂行した任務が狂気だった。彼らの任務は「処刑」だ。ドイツの保安警察と保安部がドイツ国防軍の前線の後方で「敵性分子」を銃殺のために組織された部隊なのだ。彼らはユダヤ人はもちろんのこと、ポーランドでは「ポーランドの知識人、指導者層は絶滅されるべきである」として該当する人物を大量に逮捕および虐殺の限りを尽くした。さらに独ソ戦ではユダヤ人、ロマに加えて反共主義のドイツ国防軍の支持も得て共産党幹部をことごとく銃殺した。また、パルチザンたちを掃討する任務にも当たっていたがパルチザンとは何の関係もない民間人をパルチザン、共産主義者と勝手に決めつけて虐殺したという悪名高い部隊だ。その悪魔の部隊をここ大洗に蘇らせようとはいかにもみほらしい。なるほど、だから西住殿はこの服を私に着せたのか。優花里は銭湯で渡された将校服の袖を見つめる。だが、なぜ一つの部隊を私などに任せるのだろうか。アインザッツグルッペンは司令官の多くが知識人だったと知られている。知識人ということで任命されたのであれば身に余る名誉だがそういうわけではなかろう。優花里は任命の理由を疑問に思っていた。ここまでの罪を犯したのだ。だから優花里はてっきり一兵卒一番下っ端としてまた再スタートを切るのかと思っていたからだ。だが、すぐにその意図を汲み取ることができた。優花里は思い出したのだ。かつてアインザッツグルッペンは全く不人気の部隊で強制的に配属されたことが多かったことを。つまりは、武装親衛隊の中でアインザッツグルッペンは懲罰部隊のような存在だったのだ。そして、まさしく優花里も罪を犯した後の配属である。優花里はかつて存在したそれとの共通点を見出してクスリと笑った。なるほど。つまりは、これも懲罰部隊というわけか。さて、西住殿は一体私に何をさせるつもりなのだろうか。一体どんな任務を命じるつもりなのか、優花里は少しだけ胸を高鳴らせてみほの次の言葉を待っていた。すると、みほは悪辣な笑みを浮かべながらその任務の内容を説明した。

 

「ふふふ。それじゃあ任務について説明するね。優花里さんに任せる部隊は、これから先大洗だけではなく、色々なところに出かけてもらうことになります。基本的にはかつて存在したドイツのアインザッツグルッペンとほぼ同じ。優花里さんたちアインザッツグルッペンは占領した各学園艦の知識人層と指導者層の抹殺任務にあたってもらいたいの。特に優先的に抹殺すべきなのは市民の成人男性と理系以外の教員たちそして、学園長とか学園中枢の大人もかな。理系の教員たちは生物化学兵器の研究者として利用価値があるけど、それ以外の教員たちや市民の男性は占領後、パルチザンになる可能性があって脅威以外の何者でもない。だから、パルチザンになるその前に一刻も早く潰しておきたいの。学園長たちも生かしておいたら抵抗力を高めることになる要因になるから、何としても抹殺しなくちゃいけないね。生徒なら生徒会の関係者と戦車道の隊員たちが危ないかな。とにかく、細かい指示はまた後で逮捕リストを渡すからそれに従ってくれればいいけど、とにかくそんな感じの任務をやってほしいかな。」

 

まさにアインザッツグルッペンそのものの任務である。容赦はない。この任務で優花里は恐らく多くの阿鼻叫喚の残酷な光景を見ることになるだろう。確か、あの部隊でも精神を病んだ隊員たちが多かったと聞く。それだけ辛い任務なのだ。だが、今の優花里ならそのような残虐な光景を見ても何とも思わないだろう。今の優花里ならば、容赦なく抜かりなくみほの命令を遂行するだろう。この人格はみほの命令を全て受け入れ、任務を遂行するための役割を与えられた人格なのだから。優花里はみほの目をまっすぐ見つめる。

 

「わかりました。」

 

みほは優花里の返事を聞いて嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう!それじゃあまた後で正式な配属命令を出すからそれまで待ってて。それじゃあよろしくね。何か質問はある?」

 

「そうですね。他の隊員たちはどんな人が任命されるんですか?」

 

「ふふっ。いい質問だね。主に、聖グロの歩兵たちを配属しようと考えています。他にも同意すればですが、収容所の囚人たちも配属します。」

 

「わかりました。隊員たちの選別に私も参加してもよろしいですか?」

 

「うん。もちろんいいよ。優花里さんの部隊だもんね。」

 

「ありがとうございます。」

 

優花里は嬉しそうに微笑む。話が終わり退室の許可が出た。それ以外に特に用事もないので優花里はみほの執務室を後にする。優花里はみほの執務室から出るとその足で表の広場に向かった。そこには未だに両親の遺体が磔台にかけられた状態で晒されていた。優花里はその前に行きその姿を眺める。そして、何かを振り切るように近くに落ちていた優花里が投げ捨てた銃剣を手に取り二人の遺体にそれぞれ一度刺突した。もうすでに二人の遺体は死後硬直で硬くなっていた。優花里は再びその銃剣を投げ捨てるとその場でしゃがみこみ、冥福を祈るため手を合わせた。

 

「お父さん、お母さん。二人にもらった命、絶対に助かってみせます。例えどんな手を使ってでも。」

 

優花里は両親に誓いを立てた。彼らの死には報いなければならない。優花里は天を仰いで目を瞑り大きくため息をつく。そして、頰を両手で気合いを入れ直すように叩いた。アインザッツグルッペンという懲罰部隊からの再スタートだ。本来の主人格にはしばらく眠ってもらって私が主人格のためにみほの政権で地位を獲得してやろう。せっかくだ。ここからトップを目指そうじゃないか。私のために死んでくれた両親の死に報いるためにも絶対に。優花里は野心を燃やしていた。

 

つづく




今回、友人に意見を求め編集してもらったところがあります。ここに改めてお礼申し上げます。

また、今回のお話は優花里の人格が変わってわかりにくいかもしれないので一応補足しておきます。

他人格1ユウカ28歳
みほの過酷な命令を受け入れ遂行するために生み出された人格。性格は敵に対しては非常に残虐だがみほには従順。公務員のようにみほの過酷な命令を遂行していく。
他人格2マサヒコ35歳
みほに性的虐待を受けた時に生まれた人格。男性の人格で強姦魔。少女嗜好でみほが大好き。喧嘩っ早い一面もある。

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