博麗の(やる気の無い)神主   作:執筆使い

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※決して尊敬出来ない最低な主人公。それが神主です。


面倒くさかったけど、一件落着か...

 

 

 

 

「お、戻って来た」

 

 

 雑談を続けて数十分後、漸く巫女と吸血鬼が降りて来た。両者同じぐらいボロボロだという事から、互角の激闘を繰り広げていた事が伺える。

 

 

「...ふぁ〜あ。やっと終わったか、それでどっちが勝ったんだ」

 

 

 余りにも退屈だったので眠っていた神主は、目を擦りながら勝敗を聞く。敵の陣地のど真ん中だというのに羽を伸ばす豪胆っぷりは、周囲を関心に近い呆れを抱かせる程だった。

 

 

「当然、私よ」

 

 

 どうやら、無事博麗の巫女が勝ったらしい。気怠い表情に少しばかり嬉しさの感情を表に出している霊夢とは対照的に、紅魔館の主であるレミリアは悔しそうにしている。

 

 

「お姉様に勝っちゃうなんて...外の人間って凄いんだね!!」

 

 

 2人の勝敗を聞き、興奮を露わにするのはフラン。彼女にとっては強さと憧れの象徴である姉が、館の外の人間に負けたということに悔しさよりも興味が湧いたのである。

 

 

「クソッ! あそこで避けていれば...って、フラン?! あなたがどうして此処にいるの!?」

 

 

 喜ぶ少女の姿を見て、驚きを隠せない紅魔館の主。その大声を聞いて漸く完全に目を覚ました神主は、少女に目配せしながらレミリアに提案をするのであった。

 

 

「あー、それに関しては俺が話すわ。えーと...エミリア・スカーレットさんよ」

 

 

「レミリア・スカーレットよ「あーハイハイ名前は気にしなくていいっすよ。長ったらしくて覚えんの面倒くさいし」いや私が気にするわ。それで...博麗の神主、貴方に聞くけどこれは一体どういう事かしら?」

 

 

 そう言って、殺気を向けるレミリア。だがそれすらどこ吹く風で神主は話を続ける。

 

 

「理由は至って単純、こいつが外で遊びたいらしいから、外出の許可をして欲しいんだと」

 

 

「それは無理な話よ...もしフランが暴走して全てを壊したら...」

 

 

 それは館の主として、姉としての反論であった。

 

 嘗て、一度だけ暴走してしまった時...周りの全てを壊しかけてしまう程の力を振り回した少女。その時は辛うじて止める事が出来た...だが次はどうなる? もしそれがもう一度起きてしまったら、自分や、眷属、周囲の者...そして、彼女自身もただでは済まない。そう考え、495年もの間自分は悲しみを押し殺して閉じ込めていたのだ。

 

 その言い分を聞いた神主は少し思慮して...

 

 

「ふわーあ」

 

 

 欠伸を一つ漏らした。涙を流してはいるがそれは眠気によるものであり、彼は一切吸血鬼の話に感情を抱いてないと表面上で見て取れる。そう感じたレミリアは殺気をさらに濃く、鋭くした。それは周囲の者ですら怯む代物だが、神主は一切動じない。

 

 

「全ては姉が妹の為にやった事。いやー、感動した。感動しすぎて思わず涙出ちまった...だがな、妹の幸せまで奪っちまってる時点でそれはただの自己満足に変わってるんだと気付け。手遅れにならない内にな」

 

 

 そして彼は言った。自分の意見を相手に伝えた。まるで警告をしている様に言うそれは、普段の神主に似合わない程真剣であった。

 

 

「俺は...テメェみたいな、そういう分からず屋が大っ嫌いなんだ」

 

 

 吐き捨てたそのセリフは、その場の全員の耳によく聞こえたそれは、まるで神主が自分自身を苦しめているかのような、戒めの言葉であった。

 

 

「...」

 

 

 その言葉を聞いて思ったところがあったのか、黙ってしまうレミリア。その様子を見て、張り詰めた雰囲気を元に戻し元の気怠そうなだらしない表情に戻った神主は、少女にゴーサインを出した。

 

 

 ...何故か黒い笑みで親指を下に伸ばすサインを

 

 

「んじゃ、俺はさっさと帰るわ。どうせ俺が居てもお邪魔虫だし、後は任せたぜ~。館の修理とか面倒いしな」

 

 

「「あ!? 待て?!」」

 

 

 そして半ば強引に逃げた。激闘による疲れ、しかもシリアスパートの直後という誰しもが油断しているだろう瞬間による行動が為に、時止めや結界などといった捕獲手段が出来なかった。

 

 

「後! 最後にテメェらに言って置いてやる。俺の一番嫌いな言葉は「努力」で二番目は「ガンバる」だ!! んで自己満足は...大体108位ぐらいで、何故かってーと俺がそういうタイプの人間だから!! つーわけであばよ!!」

 

 

「「「「(散々言いたい放題いってのけて途中で帰るって...最早クソだわ)」」」」

 

 

 博麗の巫女、普通の魔法使い、銀髪のメイド、紫の魔女...彼女ら4人が心中で全く同じ事を考えたのは奇跡でもなんでもない。寧ろ駄神主相手にそう思うのはごく自然な事である。其れ程に彼はクソだったのだ。

 

 

 

 

 

 それを見届けた2人の吸血鬼。妹の方が先に口を開く。

 

 

「...お姉様」

 

 

「フラン...」

 

 

 それは、400年以上もの永い間交わされていなかった姉妹同士の会話であった。

 

 

 ..................................

 

 ....................

 

 ...........

 

 

 ーー駄目だ...死なないでくれ!! お前が居なくなったら俺は...

 

 

 ーー私の為に...今までありがとう...お兄ちゃん...せめて...最期にもう一度だけ...昔みたいに...

 

 

「ーーーーっ、」

 

 

 ーーいっしょに、外で...あ...そ...び...た...かっ...

 

 

 

 

 

「異変解決お疲れ様、博麗の神主...嫌、菊池零治」

 

 

 紅魔館から博麗神社へ向かう途中の上空にてある事を思い出していた神主の前に、突如裂け目が現れその中から1人の女性が顔を出した。

 

 彼女は八雲紫。幻想郷の事実上の支配者であり、目の前の博麗の神主を幻想入りさせた張本人である。

 

 

「黙れ、BBA...俺は気分が悪いんだ。今回ので散々しんどい目に遭った上に、テメェの面を見たからよ」

 

 

 神主は目の前の女性に殺意に近いものを発していた。それは先程のいつもとは違う雰囲気と同じ悲痛なもの。まるで気怠さの裏に押し殺していたものを全て向けた様な殺気を放っていた。

 

 

「あの子を見て、思い出したの? ここに来る前の事を...貴方がまだ駄目人間でなかった頃の「黙れ」

 

 

「...もし、あの時テメェが余計なことをしなければ...俺は楽になれた。今とは違ってな...だからこそ、俺はテメェを憎んでる。殺してしまいたい程にな」

 

 

「...だからこそ、私は余計なことをしたのよ」

 

 

 彼女は悲しい表情を浮かべた。そうする以外にできることがなかったから。もし下手な事を言えば、神主は自分以外に何をしてしまうのかがわからなかった故である。

 

 

「...もういい。ここで殺気を放った所で、テメェを殺すどころか自殺すら出来やしない。だからもういい...もう、な」

 

 

 やがて、埒が明かないと察した神主は殺意を消して元の表情に戻る。そして、彼は今の住まいである博麗神社へと飛んで行ったのであった。

 

 

「...幻想郷は全てを受け入れてしまう。それはそれは残酷な話...」

 

 

 そう、彼女はポツリと呟いたのだった。

 

 

 To next chapter...

 

 

 




オマケ

「駄目よフラン!? やっぱり考えてみたけれど外に出るのは貴方の為にならないわ!! 見たでしょ? あの神主...嫌、駄神主を!!」


「なんでよお姉様!! 零治は私の事を考えて...」


「少しばかり期待してたけど、想像以上に想像以下だったわ!! 何あの失礼を通り越して寧ろ清々しい態度!! もしあんなのと付き合っていたら駄目な所が移ってしまうわ!! だから外に出るのは禁止!!」


「そんな...お姉様の...お姉様の...馬鹿! 阿呆! おたんこなす!」


「ふん! なんとでも「マダオ!!」!? フラン...今あなた、なんて?」


「まるで 駄目な お姉様 略してマダオ!! お姉様なんかマダオよ!!」


マダオ。たった3文字のその言葉は言霊の様なものであり、口論にて相手を意気消沈させて勝ちを奪い取る魔法の言葉である(駄神主談)
聞くのが初めての言葉の筈なのに心に深く突き刺さった紅魔館の主は...


「ま...だお...私が...マダオ? 私が...よりによってフランから...」


直射日光に晒されているかの如く真っ白な灰になりかかっていた。


「「「(マダオ...絶対あいつだな。教えたの)」」」


その光景を見て犯人が誰なのかを察した3人は、件の人物を想像して呆れを見せながら灰になりかかってるレミリアに合掌した。


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