今回の章は登場人物が多いせいかなかなか進まない...進行が遅くてすいません。
そういえば、私がお嬢様と初めて会ったのはこういった感じの満月だった。
赤い空に赤い月だったという違いはあれど、私が物心ついたときに見ていた光景は今のように周囲が殺気立っていて、化け物があちらこちらで暴れまわっていた。
「...」
「ひっ!? やめ」
-ズシュ-
手元にあったナイフで私は周りを斬っていた。
疑問に思わなかったのは、殺らなければ殺られるということを幼いながらに理解していたからだろう。斬って、斬って、斬って...いつの間にか私は周囲から化け物と呼ばれてた。
「...どうして、私は此処にいるの?」
生きる事、死ぬ事が私には解らなかった。生きる意味、死ぬ意味を教えてくれるものなど独りである少女に誰が教えられよう? だから一人で考えざるを得なかった。
-ガキン-
「きゃっ!?」
「へへっ...漸くテメェを殺せるぜ。この傷の憂さ晴らしによぉ!!」
独りで考えた故の油断だった。能力を使えば抜け出せるだろうし、そもそもこんな状況にならなかっただろうが、その頃になると私は生きる事に何の執着もわかなくなった。
死ねば、此処から抜け出せると思っていた。けれど、私は死ぬ事が出来なかった。
「...貴方、一人かしら?」
彼女は手を差し伸べながら私にそう言い放った。血塗られて、化け物と呼ばれた
「名前は...そう。だったら...」
その日から、十六夜咲夜という名前が与えられ、私はレミリアお嬢様に仕えることとなった。
私に生きる意味が見つかり、死ぬ理由が消え去ったのだ。
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「おい駄メイド、お客様命令だ。菓子折りの一つでも持て成しやがれこの野郎」
そんな私があのくそ野郎...失礼、駄神主と出会ったのは十年ほど経った頃だ。初対面から、今に至るまで彼とは馬が合わない。様々な無礼を働いたり、神経を逆なでする事を行ったり...それでいて、彼はまるで昔の自分みたいな目をしているのだ。
「入るなり不意打ちたぁ...随分と危ねぇことすんな、駄メイド。予め演算しとかなかったら刺さるところだったじゃねぇかよ」
最初は前二つの理由だけの苛立ちかと思っていた...けれど何度も出会っているうちに二つ以外の何かがそこにあるのだと気付き、それが同族嫌悪に近いものだと理解したのである。
「不意打ちが服を着て歩いている様な男が何を言っているんですか? 駄神主」
自ら一人になろうとしている様で、全てをあきらめている様で...けれど、私は一切同情しない。寧ろ昔の自分を見ているかのようでいっそう苛立ちが募る。私は人間なんだな...そう痛感した。
どうやらお嬢様は彼がそうなっている理由をある程度知っているみたいだが、聞こうという気分にはならなかった。
『メイド秘技 殺人ドール』
「Nooooooo!?」
だから駄神主に何か聞くということもしない。精々日頃の憂さ晴らしをするためにナイフで串刺しにするだけだ...
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「咲夜、ぼーっとしてどうしたの?」
「...すいません。ちょっとした考え事をしていました」
こういう満月の日はいつも心ここに非ずとなってしまう。治そうと努力はするのだが癖みたいなものだ、今回もお嬢様に心配をかけてしまった。
「へぇ、因みにどんな考え事をしていたのかしら?」
その質問に正直に答えるべきか。一瞬迷ったがお嬢様相手に嘘をつくわけにはいけないし、つく必要もないから正直に私は口を開く。
「こうやって私はお嬢様の元で仕えていますが、満ちた月が欠けて消えるのと同じように何れ終わりを迎えるのだなと」
私のその言葉に、お嬢様は少しばかり考えて言葉を溜めていた。アレは言うべきか言わないべきか迷っている表情だ。十数年も仕えればなんとなくわかる。
「そう...なら、咲夜も不老不死になってみない? そうすればずっと一緒に居られるわよ」
きっと、お嬢様はいつか消えてしまう私に対してというよりも、それで悲しむ自分自身のために言ったのだろう。私には生きる理由がある...けれど、それは人として。
「大丈夫です、生きている間は一緒に居ますから」
だから笑顔でそう言った。生きている間、死ぬまでの間、たとえ何があろうとも私はこの方の従者として共にいる...それがあの日、手を差し伸べてくれた少女への微かな恩返しである。
「それに仮にそういうことをした場合、あの駄神主が
『ねぇねぇ人間やめてどんな気持ち? 石仮面被っちゃってどんな気持ち? 日向ぼっこもできず川遊びもできずガーリック入りの料理食えなくてどんな気持ち? 俺だったら絶対なりたくないわ~、マダオ二号(咲夜の新しいあだ名)』といった具合にイラつかせるというのが目に見えていますので」
冗談で言ったが、あの駄神主の場合それをやりかねない。それどころか吸血鬼になって増えた弱点を突いてくるだろう...そう考えると何が何でも人間をやめたくはないと思う。
「ふふっ、それもそうね...聞くだけ野暮だったわ」
そう言って、お嬢様は笑顔で目的地があるだろう場所へと方向転換して再び飛び進み始めた。
「きっと、わかっているんですね」
お嬢様はある程度の運命を見ることが出来る。確定的なようで曖昧なそれは時に、あらがえないものとして見せつけられるのだろう。
「...さて、どうやら後ろが追いつきそうだから急がなければ」
遠目でよく見えないが恐らく全員だろう。数と、彼特有の面倒くさいという叫びが聞こえることからも断定できる。というか搖動はどうした駄神主と突っ込みたい。多分ほぼ全部の妖怪を粛清したから来たのだろう...あまり考えたくはないが。
そこまで考えて、私はお嬢様が居る方へと方向を変えて飛び進むのだった。
To be continued...