「さぁさぁ始まりました! 世紀の大勝負!! 山の四天王の一角にして我等が上司! 伊吹萃香様と幻想郷最強の男とも名高い外道のクソ野郎、博麗の駄神主の飲み比べ対決でございます!!」
博麗神社の境内の中心にて、2人の人物が胡座をかいて堂々と座っていた。
「すいませーん! 俺18歳で未成年なんで酒飲めないんすけど!!」
「じゃあ先程飲んだのは水だってのかい?」
「すいませーん! こいつはシラフですけど俺は既にある程度酔ってるからどう見ても不公平に見えるんすけど!! 鬼ってのは正々堂々を重んじるんじゃないんすか?」
「そう言うと思ってほれ、これを飲めばあっという間に酔いが覚める。鬼の秘薬だ」
...訂正、駄神主が此の期に及んで勝負をしたくないと足掻いていた。やれハンデをつけろだの、俺を相手する前にこいつらと勝負しろなど、明らかに主人公のそれでないセリフを吐く駄目人間。
その様子を見て、多くの者は相手方の鬼に賭けていた。博麗の駄神主に勝つと賭けたのは、霊夢、魔理沙、紫、幽香、フランぐらいである。
「ルールは至って単純! 萃香様の瓢箪から出る酒を予め用意した盃に入れて、どちらが多くの杯数飲めるかを競い合って貰います!」
「無理ゲーじゃねぇか?! 鬼の飲む酒が俺に飲める訳ねぇだろ!!」
駄神主は、珍しく至極真っ当な事を言う。確かに鬼が飲むような酒を飲める保証なんて何処にも存在しない。
「それではスタート!」
「聞けや人の話ぃぃぃぃぃぃ!?」
だが無駄だった。此処は幻想郷、そんな常識なぞあって無いが如しである。そんなこんなで両者の酒飲み比べ対決が始まってしまったのである。
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「中々やるねぇ、あんた。さっきのアレが噓みたいに良く飲むじゃないか」
「はっ! こんなもん水みてぇなもんだし!! あと数十杯来ても余裕でいけるわ!!」
現時点で通算15杯目。萃香の方は頰の赤らみ具合がほんの少しであるが、博麗の神主は既に首の辺りまで真っ赤になって汗まで掻いている。誰がどう見たって前者が勝っていることなど明白であった。しかし先程神主に賭けた者達は一向に変えようとしない。
「さーて...16杯目だごらぁ!!」
信頼とか、憧れとか、惚気とかもあるだろうがそれ以外の最大の要因として、彼なら絶対に何かしらやると思っていたからである。
「言っておくが、袖に仕込んでいる脱脂綿は既に気付いているから無駄だよ。今から使ったところでね!」
「」
だがしかし、酒飲みという土俵内では向こうの方が一枚も二枚も上手であった。袖から脱脂綿を潔く捨てつつ16杯目を飲み干す神主。戦いはまだ始まったばかりである。
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「ぐっ...」
「ほらほらどうした?」
50杯目にて異変は起こった。限界を迎え始めたのは萃香の方である。さしもの彼女も鬼が飲む酒でもトップクラスのアルコール度数を誇るやつを50杯も飲めばそうなるだろうが、博麗の神主は顔自体は物凄く赤くなってこそすれどリタイヤする気配が毛頭ない。
「残念だったな...俺に酒飲みで勝てるやつなんざそもそも存在しねぇんだよ!! バーカ!!」
先程とは打って変わって、物凄く憎たらしい笑みを浮かべながら挑発する駄神主。それを見てカチンと来た彼女は盃を飲み干し次の酒へと瓢箪へ手を伸ばす。
「まだまだ! 勝負は此処からだ!!」
さて、多分読者の皆様もお気付きだとは思うが博麗の神主はイカサマをしている。先程の脱脂綿の下りはフェイクで、本命はこちら。しかも絶対にバレる事など無いに等しいイカサマである。
その内容を説明する前に、少しだけ中学生の頃の授業を思い出して貰いたい。実験とかで、水とアルコールの混ざった液体を沸騰させる事をやっていた人もいるであろう。その際に沸点(沸騰する温度)が低いアルコールが先に水蒸気となっていく光景を見ている筈だ。この現象は蒸留と呼ばれ、主に水と混ざった液体だけを取り出す際に使われる。
さて、此処でもう一つ思い出して貰いたいのが博麗の神主の能力だ。彼の能力は熱を操る能力。つまりは瞬時にアルコールだけ蒸発するまで盃の温度を上げてから飲むという芸当は訳ない。つまりは熱湯に近い温度の水を飲んでるも同然であったのだ。顔が異様に赤いのもその為である。
「ぐっ...もう駄目...」
100杯目、赤を通り越して青ざめた顔色の彼女は倒れて敗北を宣言した。
「ななななんと!? 世紀の大決戦の勝敗は...誰が予想した事でしょう、外道駄目人間クソ野郎主人公失格の博麗の神主に軍配が上がってしまったぁぁぁぁぁぁ!?」
余りの光景に実況の烏天狗を除いて誰1人声を上げる事の出来なかった。暫くして博麗の神主はスクッと立ち上がり倒れている鬼の元へ歩み寄る。
「その程度じゃ俺には一生勝てねーよ!!」
流石外道。トドメを刺す事になんのためらいもなかった。薄れゆく意識の中、伊吹萃香は生まれて初めての戦い以外での殺意を目の前の男に覚えていたのだった。
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戦いを終えて、神主は勝者の宴と称してのカラオケみたいなものを披露する羽目となった。バックダンサーはアリスの人形が勤め、プリズムリバー三姉妹が演奏してくれるという何気に凄い布陣。だが博麗の神主は一向に舞台へ上がろうとしない。
「歌だと?なんで俺が歌わにゃならんのだ魔理沙」
「いいじゃないか。皆お前の歌を聴きたくて今か今かと待っているんだぜ」
「そんなわけ...まじかよ」
舞台裏から客席を見ると、確かに宴に参加してる全員が既にスタンバっている。さりげなく霊夢が最前列のど真ん中にいるのはおそらく偶然であろう。流石に此処までされて、無下に出来る訳がない。つーかこの布陣で逃げ切れる自信が全くない。という内心を抱きながら壇上へと上がる博麗の神主。
「さて...お前らに聞かせてやんよ俺の歌」
<キャーレイジサーン
<コッチヲミロォ...
<ガンバッテー、オウエンシテルワー
<URYYYYYYYッッッ!
「合いの手どうも、なんかどっかで聞いた事のあるセリフが多かったけど...まぁいい。そんじゃあ始めるぜ! 準備は良いなテメェら!!」
神主に言われて頷く人形たちと三姉妹。その様子を見た彼は息を大きく吸い込みマイク(お値段以上の河童製)を手に取り声を高らかに出す。
「一曲目は...Bad apple!!(駄神主ver) じゃああああああああああ!!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
博麗神社に響き渡る歓声、そして歌い出す博麗の神主。
余談ではあるが、彼の歌はそれはそれは上手かったと多くの人が絶賛していたのであった。
To be continued...