嘗て歌聖と呼ばれた男が居た。多くの者に慕われていた彼はある日己の死期を悟ってしまった。そして幼き娘を残して、自分が最も好いていた桜の元で息を引き取ることとなった。
それから暫くの時が過ぎたある日、彼を慕って居た多くの者が次々と何かに誘われる様にその桜の元で死んでいった。人が1人死ぬごとに満開だった花は一つずつ閉じていき、遂に完全にその蕾を全て枯れさせた。
最早妖となったそれを見た娘は、自らの命と記憶を引き換えにその桜を封印した。
死人に
食われる。
助けてくれ。
彼は
シアワセソーにこの世を去った
喜んで死んでいった。
人々の死こそがヤツのシアワセ。
殺されることによって始めて作動する
ノウリョク。
死ぬ前の彼でさえもみたこと
のなかったエネルギー。
死体だからもう...
時は現在、多くの人の命を奪った妖怪桜...西行妖はというと、1人の神主に人間でいうところの胴体にあたる部分をゴッソリ抉らされた。
「GYYYAAAAAAHHHHHッ!?」
...シリアスとホラーな雰囲気で始まろうとこの駄神主には関係ない。本気を出した彼は強大な熱エネルギーを込めた拳をぶちかまし、早くも勝利を得ようとしていた。
「良いか? よく聞けクソ桜」
神主は口を開いて西行妖に話しかける。
「俺は所謂外道というレッテルを貼られている...ケンカの相手を必要以上にブチのめし、いまだ竹林から出てこれねえヤツもいる...」
再生する西行妖。それを追撃せずに語りを続けて構え出す博麗の神主。
「余りに極悪非道な野郎なんで気合を入れてやった妖怪はもう2度とこの世へ来ねえ...」
それは、中に居るものごと消滅させないが為の...吹き飛ばすのが面倒くさいが故の彼なりの優しさであった。
「料金以下のマズイめしを食わせる食処には代金を払わねーなんてのはしょっちゅうよ...つまりだ」
男は拳を鳴らす。その顔立ちは、目の前の恐怖をものとしない闘志に満ちたものであった。
「テメェはそれ以下の悪だって事ぐらい、俺でもわかる! 来な...同じクソ野郎のよしみで付き合ってやるよ...人の道を外れたこの俺とテメェの1対1だ」
「WOOOOGYYAAAAHHHッ!」
再生して更に枝を増やした西行妖は目の前の男を殺さんと、熱エネルギーを両腕に纏った博麗の神主は襲いかかる枝を全て消し飛ばさんと、それぞれの感情を込めてぶつかり合った。
「封印は任せたぜ...テメェら!!」
「これが...博麗の神主の本気...」
「っていうか、性格変わってないか?」
余りの光景に、少しばかり現実逃避をし始めるメイドと魔法使い。だがそこはある程度の修羅場を潜り抜けてきたプロ、すぐさま自分のすべきことを模索した。
「霊夢...あれの封印、いけるか?」
「そうね...今の状態だと少し厳しいわ」
本当はかなり厳しいのだが、せめてもの強がりを見せる博麗の巫女。長年のライバルである普通の魔法使いはその事をわかっているのか、ニヤッと笑みを浮かべてある提案をする。
「ならば、私の魔力を使え。少なくとも霊夢よりはある」
「言ってくれるじゃない...わかったわ。今回だけ...本当だったら他人には頼らないけど...アイツのせいで変わってしまったのね。私も」
「ただし、私の借りはデカイぜ。そこんところわかってるな?」
笑顔を浮かべながら違いに皮肉を言い合い、魔力と霊力を合わせる。
なんだかんだで、長い付き合いだと理解させられた。何故なら...たったの一回でこんなにもぴったりと同じ質と量で合わせて居るのだから。
「では...私は万が一アレが来た時のカバーに回ります」
「右に同じく...あくまでカバーだけですが」
剣士とナイフ使い。用途は多少違えど相手を切り刻む武器を扱う2人が、封印の準備をしている前へと立ちはだかる。
来るものは全て斬りふせる。そんな気迫が2人の全身から滲み出ていたのだった。
「(枝のスピード、次に来る位置、インターバル、行動パターン...演算完了)」
神主は敵の攻撃を交わしつつ枝を斬り落とす。そこからすぐさま再生しようとするところを冷気で凍らせて暫く再起不能にする。その姿は幻想郷に来る前の...普段のやる気の無い駄神主とはかけ離れた姿である。
『反魂蝶 八分咲』
それを見て、西行妖も持てる全てを開放して神主に襲いかかってきた。
「ちぃっ! さっきので全力じゃないのかよ...お陰で演算のやり直しじゃねぇか面倒くせぇ!!」
襲いかかるそれら全てを吹き飛ばし、一旦の休息を得る神主。連戦と、先程の演算による脳の疲れを回復する為に懐から取り出した串団子を一瞬で頬張る。
『炎刻 魔術師の赤』
そして熱そのものを纏わせた串を投げつけ、自らも赤を通り越して白に近い温度の弾幕を連射する。何処のアヴドゥルだよとか、なんか後ろに鳥が見えただとかそんなツッコミをする暇も無いほどの切迫した表情。
余りの弾幕に再生するスピードが追い付かない。彼の現在...幻想郷最強の男の本気は其れ程のものであった...が
「ゴポッ!? ゲホッ...」
限界が来てしまった。攻撃を食らっていないにも関わらず口から血を吐く神主。それと共に弾幕が収まってしまい西行妖を止める術が無くなってしまう。
「零治!?」
巫女が叫ぶが、今の彼に無数の攻撃を避ける事など不可能だ。
血飛沫と共に、博麗の神主の五体を枝が全て貫通する。
「...ぁあー、痛ぇ...先が短いって事を計算に入れてなかったな...こうも早く時間切れになるとは...」
勝ちを確信したバケモノは残りの全てを後ろの4人に向けて放つ。2人が得物を構えるが恐らく全て対処仕切れない量であると判断しているヤツは、まるで感情があるかの様に喜びを現して彼女らの命を奪おうとする。
しかし、
「待ちな...まだ終わってねぇぞ」
博麗の神主が全身を貫かれたままにも関わらずそれらを全て止めた。何を持って止めたのかはわからない。気迫か、能力か、それとも別の何かか。だが...その言葉を聞いて、西行妖は確かに止まってしまう。
「テメェの思い通りに死んで...テメェの思い通りに道連れにして...それには最早何も言わねぇ。昔此処で何があったのか? 俺はあくまで部外者だからな。だが、こいつらは関係ないだろ」
桜の木が震えていた。風なのか、自ら動かしたのか。何方にせよ震えていた。
「テメェと関係ない奴まで...巻き込むんじゃねぇよ...このクソ桜!!」
「WOOOOGYYAAAAHHHッ!!」
それが何なのか、死人である彼にはわからない。思わず叫ばずにはいられなかったこの状況...バケモノは標的を神主に変えた。
「そうだ...それで良い...霊夢!!」
神主は合図を出す。
「でも...貴方が...」
「良いからさっさとやれ! 此処でグダグダしても面倒くせぇだけなんだからよ!!」
博麗の巫女は涙を流すも、神主はそれを許さなかった。何度も、何度も串刺しにされる神主。
「やれぇぇぇぇぇぇぇ!! 博麗の巫女ぉぉぉぉぉぉ!!」
「っ、」
『霊符 夢想封印』
彼女の想い人の叫びと共に、封印の為の弾幕が放たれた。真っ直ぐに博麗の神主と西行妖のところへと向かう弾幕。
「...リ...絞リ取ッテヤル! キサマノ生命ヲ! 」
「吹き飛ばしてやんよ!! その穢れたる野望全部なぁ!!」
それは白い光となって、2人を包み込むのであった。
To be continued...
駄神主を含む東方の主要キャラをスタンドで例えてみた
(異論は受け付けますが、あくまで作者の思い付き+主観ですのであまり間に受けないで下さい)
霊夢 ストーン・フリー
(何となく。割と共通点が多いので)
魔理沙 タスク
(マジシャンズレッドにしようと思ったけど、後に出てくるキャラと完璧に被るので断念)
咲夜 ザ・ワールド
(言わずもがな。寧ろこれ以外があったら聞きたい)
妖夢 シルバーチャリオッツ
(剣を持ったスタンドがこいつしか居なかったので...え? アヌビス神? 知らない子ですねぇ)
神主 ウェザー・リポート
(色んな意味で彼に最もぴったりなスタンド)
-主要キャラではないけど-
紫 クリーム
(いともたやすく〜 と凄い迷った。異論は認める)
幽々子 ノトーリアス・B・I・G
(何方かというと彼女より西行妖の方がしっくりくるけど...ま、いっか)