「んん〜...何処だここは?」
博麗の神主が目を覚ましたのは、囲炉裏や木でできたタンス等が存在する昔懐かしき民家の様な場所だった。
「...」
少しばかり考える神主。先程まで自分は吹雪が突き刺さる雪景色のど真ん中にて異変解決の為飛んでいた筈。なのに今居るのは暖かい家の中。
「...あ」
そこまで状況を整理して思い出した。自分が何故こういった状況に陥ったのかを。
それは少しばかり時間を遡っての出来事だった。
〜約10分前〜
「くろまく〜」
いきなり出現した女性の、その言葉を聞いて博麗の2人はお互いに顔を合わせる。
「おい...」
「ええ、わかっているわ...」
そして同時に同じ事を口走る。
「「こいつを倒せばいいんだな!!」」
こたつを壊された恨みを丁度晴らそうと思った所に黒幕と思われる人物の出現。思わず黒い笑顔を浮かべてしまう2人の様子はおよそ主人公とは思えない程である。
兎も角、中々やる気を出さないコンビに闘志にも殺意にも取れる様なそれが浮かび上がった。
「じゃあ俺がやってやらぁ!! 丁度ムカついてんだよ!! メイドや妖精に馬鹿のされるわこたつ壊されるわでな!!」
明らかに殺る気まんまんで前に出る駄神主。動機が動機なので誰1人として感心の一つする事はなかった。
「春眠暁を覚えず...ってところかしら?」
立ちはだかる冬の妖怪...レティ・ホワイトロックは駄神主にそんな質問を投げかける。
「どっちかっつーとテメェの永眠だ。くたばれ」
それに対して駄神主は主人公が言いそうにない、寧ろ悪役が好んで言いそうなセリフを吐き捨てる。やはりこの駄目人間はいつも通り平常運転だった。それを聞いて流石のレティも少しばかり怯んだ。
「そ、そう....所で人間は冬眠しないの? 哺乳類なのに...」
「するBBAもいるが...俺は生憎しないタイプの人間じゃボケェ!!」
そうは言うが、駄神主の場合年中昼寝という名の冬眠をしているので嘘である。寧ろこんなにアクティブな事自体滅多にない事なのだ。
「...だったら安らかな眠りにつかせてあげるわ...」
『寒符 リンガリングコールド』
彼女が宣言をすると、白と青の冷気を纏った弾幕が襲いかかってきた。避けようにもこの吹雪の中で強化されたそれは一筋縄ではいかないだろう。仮に弾幕自体を避けれたとしても、寒さに弱い種族である人間は冷気までは防ぐことは出来ない。
「だったら全部ぶっ飛ばせば問題ねぇだろ」
彼女の失敗は、駄神主の存在である。いわば天敵である存在故にこの後為すすべもなく文字通り吹き飛ばされてしまった。
『冷熱 水蒸気爆発』
駄神主の失敗は、油断である。その一瞬の油断により、小さな...ほんの小さな氷の粒が鼻をくすぐってしまった。
「これでおわ...は...は...ハックション!!!」
「「「「え?」」」」
宣言中のくしゃみは、威力の調整を行う事が出来なかった。それはつまり駄神主が放った水蒸気を中心に、山一つ簡単に吹き飛ばせる程の爆発が発生したのだった。
「「「「うわああああああ!?」」」」
剛音とともに白い光が雪の大地ごと空を覆った。
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そして現在に至るという訳だ。つまりはこの駄神主が全ての元凶である。
「...とりあえず、面倒くせぇが探すとしようか」
面倒くさがり屋の神主にしては珍しくまともな意見。しかしその実態は、
「黒幕は多分ぶっ飛ばしたし。さっさとあいつら見つけてさっさと寝よ」
なんて事ない。ただのいつも通りの平常運転、駄神主、駄目人間の動機である。
襖を開けて部屋を出て、廊下の先を見てみると気絶しているだろうメイドの姿が彼の視界に映った。それを見て暫く考え込む駄神主。十六夜咲夜とは前世で何かあったんじゃないかってレベルの仲の悪さである彼は、底意地の悪い笑みで手の平に冷気を溜めた。
「名付けて、冷凍目覚まし時計」
じわり、じわりと近づく駄神主。絵面がアレなので敢えては言わないがそれはそれは醜悪な光景である。やがてすぐ近くまで来た彼は冷気の溜まった手の平を彼女の首筋に当てた。
「起きろ駄メイドぉぉぉぉぉぉ!!」
「!? 曲者!!」
首筋のひんやりした違和感にすぐさま飛び起き時間を止めてナイフを投げつけるメイド。得体の知れない恐怖に一瞬怖がっていたこともあり約1秒という速さでこの一連の動作を終えてしまった。
「...成る程、そういうことですか」
止まった世界の中で、自分に何かをした犯人を理解した彼女。当然、目の前のクソ野郎の為に態々投げつけた数本のナイフを回収なぞする筈もない。
「そして、時は動き出す」
その言葉とともに駄神主の断末魔にも良く似た悲鳴が屋敷内に響き渡ったのだった。
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「あのさー、俺はちょっとふざけただけなんだ。なのに何でナイフで刺される事になってんのかなぁ?」
「あんな事をされれば普通はそうなります。というか何で生きてるんですか?」
全身に刃物が刺さって出血はしたが、ギャグ展開だったという事もあり駄神主は一命を取り留めた。とはいえ完全に止血した訳ではなく傷口から少しずつではあるが血が滲み出ている。
「...まぁ、そんな事よりも此処は一体何処なんですか? 先程から妙に...猫が多いのですが」
茶色、ぶち、三毛、黒、見渡す限りの猫景色は見る人が見ればそれはそれは癒される光景であろう。
「おい!? こっち来んな?! 傷口が開く!?」
それらが全て駄神主に群がって居なければ。ネコ科の一応肉食獣に分類される為に血の匂いに誘われてこうなっているのか、はたまた単純に懐かれたかはわからないが、兎も角駄神主は鬱陶しそうにして居た。
「くそっ...この猫どもの懐きよう、やっぱり此処は「兄様ー!!」ヤベェ!?」
どうやら駄神主はこの場所に心当たりがあるらしく、廊下の向こうから響き渡る声を聞いてすぐさま避ける体勢に入ろうとする。だがしかし、猫がひっついている事で避けようにも避けられない。
「俺の...俺の...オレのそばに近寄るなあ----ッ!!」
最早、避け切れないと悟った駄神主はせめてもの抵抗に某第五部のギャングのボスの如き叫び声を上げた。だが、それでも止まる事を知らない茶色い影。そして、それは弾丸の様な速さで駄神主の脇腹に激突。
「ゴフゥ!?」
その2人の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!! 血反吐を吐きながら神主は全身の骨が折れる感覚を確信してしまった。
「嗅ぎ覚えのある匂いがしたから来てみたらやっぱり零治お兄様だったんだね!!」
「て...テメェかやっぱり...つまり此処は...ま...よひが...」
折れた。身体がではない。今この瞬間折れたのは駄神主のただでさえ脆い精神力そのものであった。それ故に視界が再び真っ白に成っていく。
「あれ? お兄様...お兄様!? 何でこんなに血塗れ?! それに何で死にかけなの!?」
先程突っ込んで来た猫耳を生やした少女...橙はそんな駄神主の様子を見て狼狽える。そして、その光景を一部始終見てた紅魔館のメイドはというと。
「(お兄様...まさかアレと兄妹...いや、それは無いわね。つまりは...駄神主どころかロリコンとは...つくづく救い様がありませんねこの神主は)」
気絶している彼に対して割と失礼な結論を心の中で容赦無く叩きつけてたのだった。
To be continued...