博麗の(やる気の無い)神主   作:執筆使い

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プロローグ
依頼だ? 面倒くせぇ


 

 

 

 ここは幻想郷。忘れ去られた者達が最終的に行き着く場所は、のどかで、平和で、まさに全てを受け入れてくれる楽園そのものである。

 

 

「ひ、ひぃっ!? 助けてくれ?! 人間を襲ったのは...必要以上に食べちまったのは謝るから!?」

 

 

 そして...それはそれは残酷な話だ。余程のことが無い限り、管理者や調停者(巫女)が動こうとしないこの場所では『決して手を出してはいけない人物』が存在する。

 

 

「ふわ〜あ。めんどくせ〜。ったく何で霊夢の野郎じゃなくて俺を呼んだんだよあのBBA」

 

 

 博麗の神主...そう呼ばれている存在は、基本的には巫女同様種族間の面倒事には関与したりはしない。だがしかし、ひとたび彼が動いてしまえば、逃げる事すら出来ずに死を味わうこととなってしまう。

 

 人間離れした速さで逃げ惑う妖怪。とはいえ森の中という事もあってか中々思うように進めなく、所々木々や岩に引っかかって無数の小さい傷が出来ている。そんなのも御構い無しに走り続ける彼であったが、

 

 

「痛っ、しまっ、ひぃっ!? 助けてください許してください助けてください許してくださいッッッッッ!!」

 

 

 一際大きいそれに躓き、とうとう追いつかれてしまった。見上げるとそこにいたのは自分の力が一切通じなかった恐怖の象徴である。プライドとかの類は最早彼にはなきに等しい。

 

 

「許して欲しいのか?」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 黒いボサボサの髪、死んだ様な目、まるでやる気一つない男に怯える妖怪。ひと回りもふた回りも巨大な筈の彼は、惨めに縮こまって土下座までする始末である。

 

 そんな時に出てきた提案。それは妖怪にとっては天国から地獄に吊るされた蜘蛛の糸であった。喜びを現しながら必死に目の前の神主のご機嫌を取ろうとする妖怪。

 

 だが、無常かな

 

 

「だが断る」

 

 

 そもそも釈迦の蜘蛛の糸など目の前の外道が吊るすわけがない。やるとしても、目前で自前のハサミで切り落としてその様を見つめながら愉悦に浸っている。まさしく人の皮を被った悪魔である。

 

 

「ぇ」

 

 

 人里から少し離れた森の中。断末魔をあげる暇もなく、一つの巨大な爆発音が生じて、妖怪の腰から上の部位が綺麗さっぱり消滅したのだった。

 

 

「ふわぁ〜あ。人里の連中も面倒くせぇ依頼をしやがって...スペカなり、上白沢に頼むなりしろっての」

 

 

 依頼人曰く、ずっと昔に封印された類の妖怪である為スペルカードルールが適応されないし、実力的に彼が言う人物では対応出来なかったから泣く泣く頼み込んだらしいが、そんな事情博麗の駄神主には関係ない。

 

 

「まぁいいや。とりあえずこいつ連れて行こ」

 

 

 妖怪だったものを少しばかり刻んで討伐の証拠を見せて報酬を得る為に人里へと向かう。その際紫色の血がこべりついてしまい、神主が着る様な白い着物が汚れてしまうが御構い無しである。

 

 

「とりあえず茶菓子でも頂くか。腹減っちまったし」

 

 

 ..................................

 

 ....................

 

 ...........

 

 

「オラよ。こいつが証拠だ」

 

 

「あ、ありがとうございます...ひぃっ!?」

 

 

 またか、神主はそう心で呟く。周囲から向けられる視線...それはもう慣れたし、何も言いはしないがそれでも気にしてしまう。

 

 確かに彼らの気持ちは解る。自分は外からやって来たよそ者、それも能力者だ。これが普通の人間だったり、それ程強力な能力者でなければこの様な視線を受ける事もなかっただろう。

 

 

「...んじゃ、用は済んだんでこの辺で」

 

 

 だが、いちいち気にするだけ面倒だと考えている神主は報酬を貰ったのを確認し次第その場を後にする。外を出ても見渡す限り鬱陶しい視線。それでも彼は目くじら一つ立てる事無く何時もに場所へと早足で赴いた。

 

 

 

 

 やがて、目的地に着く駄神主。そこは自分が住んでいる博麗神社でもなければ、時折暖をとりに赴いているマヨヒガでもなく

 

 

「ゼェ...ゼェ...おばちゃん! 何時もの10人前で!!」

 

 

 甘味処(欲望を満たす所)である。この神主、日も暮れはじめの夕飯時にまさかの寄り道である。しかも補給する栄養分は糖分一色という駄目っぷり。

 

 

「全く...博麗の巫女が帰りを待ってるんだろ? それなのに道草食っていいのかいアンタ?」

 

 

「良いんだよ。どうせあいつはぐーたらでものぐさな奴だ。まるで ダメな みこ 略してマダミのあいつが俺の心配なんざするわけねぇだろうが」

 

 

 口でボロクソという駄神主。一応居候させて貰っている立場だというのにマダミ呼ばわりするあたり、相当な外道である。甘味処のおばちゃんも、相変わらずの平常運転である目の前の駄目人間に敢えて何も言わずに巨大サイズの団子を10本箱に詰めて差し出す。

 

 

「あん? おばちゃん、今日はお持ち帰りじゃなくて此処で食べるから別に箱に詰めなくて良いんだけど」

 

 

 全部を箱に詰め終わった彼女は人差し指で駄神主の方...彼の後ろをちょいちょいと指差す。

 

 その仕草にもしやと冷や汗を流しながら駄神主は振り返る。そこに居たのは鬼の形相をしていた巫女装束を身に纏いし少女だった。

 

 

「え、えーと...いつからそこにいらしたんでしょうか? 霊夢さん」

 

 

 恐る恐るそんな事を聞いてみる博麗の神主。もし...もしあの言葉を聞かれていれば最悪自分は死んでしまう!? そんな思いが彼の生存本能の9割を占めていた。

 

 

「まるで ダメな 巫女...の所からよ」

 

 

 あ、終わった。今までの走馬灯が彼の脳裏に思い浮かんで行く。もし彼が某有名な漫画の第4部のラスボスであれば、第3の爆弾を発動してやり直したり出来るだろうが生憎この駄目人間にスタンド能力は備わっていない。

 

 

「別に帰りが遅いのは構わないわ、依頼で疲れて寄り道する事ぐらい私だって時々するから。けどね...」

 

 

 いつの間にか彼女の拳には霊力が込められていた。恐らく鬼をも殺せるだろうエネルギーを察知した彼はすぐさま逃走を図る。

 

 

「結界だと!?」

 

 

 だがしかし、彼女の十八番の結界に阻まれて逃げ場を失ってしまう。

 

 

「まぁ、そんな事はいちいち言ってもキリがないからやめとくわ。だから、何か言い残す事はあるかしら?」

 

 

 笑顔...物凄く黒い笑顔で博麗の巫女が問いかける。

 

 

「...出来心だったんですはい」

 

 

 その言葉のすぐ後、轟音が鳴り響き、幻想郷最強の男の悲鳴(断末魔)が聞こえたのは言うまでもない。

 

 

 

 


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