天帝の眼が開眼しました。 作:池上
正直に言いますと今、ストックがなくなりマズい状況だと言うことだけは報告させていただきます。ホントに、すまない!
では、どうぞ~
インターハイ予選準決勝の当日、ベンチ入りメンバーたちは近くの駅前で集合だった。
「おはようございます」
「おせぇ!」
「どうもどうも。あれ、久米さんと黒部先生は?」
いつもなら“おっしゃ――気合入れろよ!!”と試合前からバカ騒ぎしているはずの久米さんがいなかった。何かあったのだろうか?
「赤星……、久米が今朝事故に遭った……」
「え?」
どうやら久米さんはケガでアウトらしい。そうなると……
「おせぇっ! 渡辺!」
「す、すみません!」
今遅れてやって来たナベケンにゴールマウスを守ってもらうことになった。突然のこととこういう形で出番が回って来たことに驚いていたナベケン。でも、俺はその後しっかりと試合に出る準備をしたナベケンなら任せられると思った。
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試合会場である競技場に散らばる武蒼イレブンたち。そこにはいつものメンバーとは違い2人の選手が入っていた。春畑さんとナベケンだ。ボランチの森さんが累積で出場アウトによって春畑さんが入り、今朝のけがで久米さんに代わってナベケンがスタメンに名を連ねた。
「さぁ、今日は山場だ! 勝って次に進むぞ!」
『しゃぁああ!!』
円陣を組んでキャプテンの倫吾さんの掛け声に声を合わせて気持ちを入れた武蒼イレブンたちはポジションに散らばっていく。俺はいつもの左サイドでなかった。
――――ピィ~~!
試合はキックオフ。相手・聖和大ボールで始まった。聖和台のサッカーはしっかりと後ろで回しビルドアップから押し上げて攻めていくチームだ。だからDFラインでも守備力もありつつしっかりと足元の技術を備えた選手がいた。なので、今も竜崎さんがボールを追ってもそう簡単には奪われないどころかしっかりとつないで中盤に預けた。
「おっ! 期待のルーキーが俺のマッチアップか」
「どうも」
この試合、ボランチの森さんが累積処分で試合に出られないのでボランチ1枚が空席となっていたところに俺が入った。その代りの左サイドはここ最近調子を上げていた春畑さんが入る形でいつもの4-4-2システムで組まれた。
「あんまり、手加減出来ねぇから気を付けろよ」
「そうですか。だったら失望させないでくださいね」
俺はさっきから話しかけてきた相手の中心選手である小早川忍にそう言いつつ最後に“いろんな意味で”と意味深な発言をしておいた。
「小早川に渡った!」
そして、さっそく相手の4-3-3システムの右インサイドハーフに入る小早川に渡る。対面では俺がしっかりとマークについて簡単に前には出させず、後ろに下げさした。
「へいっ!」
でも、すぐにリターンを受けて前を向いた小早川。このパターンも前の試合で多く見られたパターン。でも、ちょっとした誤差はパススピードの速さで前を向かれた。
(くっ、左方向に入ったせいで遅れた)
俺の死角になってしまう左側を抜けようとする小早川だったが、それでもそこまでの圧倒的なスピードはなくチギられるほどではなかった。
「タテ消せ!」
ポールさんの言う通り縦に簡単には出させないようにしっかりと体を寄せた。でも、一瞬だった。
「え?」
小早川は俺を腕で上手く反動で押し返すと少しの距離感が出来た。この人、中々体の使い方が上手いと感心していると、1本のパスを外の裏へと通された。
「サイド破られる……」
サイドを破られてクロスを相手の7番の選手が上げた。中では長身の9番とレノンさんが競っていたが危なかった。
「おるらぁ!」
そこに割って入ったのは急遽出場のナベケンだった。ナベケンはクロスをキャッチしてピンチを凌いだ。
「ナイス! ナベケン!」
今の動き出しを見る限りナベケンの試合の入りは問題なかった。それよりも小早川のマークが甘かったな。今もこっちをニヤニヤ見て舐められた感は否めない。だったら、こっちも仕掛けるか。
「おいおい、武蒼がポゼッション?」
ショートパスを細かくつなぐ最後尾から繋ぐ俺たち武蒼。いつもならロングボール一辺倒かサイド攻撃が中心だった。でも、今日は違った。
「チェイス!」
相手もボールを細かくつなぐ俺たちに食いついてきた。
「へいっ!」
そんな中で上手くズレを活かしてフリーとして受け手になった俺にパスが回った。
「行かせるかよ!」
そこに小早川がすぐにチェイスで体を寄せようとしたが――
「温いよ」
「なっ!?」
俺は小早川にさっきやられたことをそのままやり返した。小早川の勢いを殺して反動から寄せを躱す動きを。
「っ!」
「遅い!」
俺は左足で一気に右サイドで中に入った白川さんの囮で空いたサイドのスペースを走るレノンさんへ預けた。
「キタぁ――! うちの形!」
「っち!」
ざまぁねぇは。調子に乗って笑っている暇があるなら次のプレーの対策でも考えているんだな。3年坊主が。
『一気にレノンがサイドを駆け上がる!』
「止めろ! 遅らせろ!」
一気に遅攻から速攻へのスイッチが入ったことに相手の聖和台DFは少し後手に回っていた。その隙をついてレノンさんは一気にサイドを駆け上がって右足でクロスを上げる。その先にはセンターFWの竜崎さんが待ち構えていた。
「らぁっ!」
竜崎さんの高さが勝ったが、最後はシュートコースにいた相手DFに当たってこぼれ球も拾えずクリアされた。
「いいっすよ」
俺は前線に最少人数で一気にフィニッシュまで攻めたことに親指を立てて称える。最初から全員攻撃を仕掛けるほど攻勢に出る時間帯でないだけに。
俺の横を通り過ぎる小早川は明らかに俺に対して敵意むき出しの表情を向けていた。今も、通りかかった時に肩をぶつけてきたがさっと避ける。
「っ、調子に乗るなよ1年が」
「そうっすね。“3”ってところかな」
「なんだと? おい、どういう意味だよ」
「さぁ?」
俺は適当にトラッシュトークみたいな感じで小早川の心理面を揺さぶった。まぁ、もっと上のレベルなら汚い言葉や挑発がほとんどだろう。だから、俺の挑発なんて可愛らしいようなもので世界からしたら大したことじゃないだろう。でも、小早川の今のレベルならちょうどいいさじ加減だった。
「あぁ――!? 小早川のパスが流れた」
さっそく俺の戯言が聞いたのかパスミスをする小早川。若い若い。今も、パスミスを俺のせいだとみているけど、結局やっているのは自分自身だし自分が下手ってことだよ。ちなみにさっきの“3”はピッチ上の格付けだった。
「ジョージさん!」
「おうよ!」
そして、パスミスで流れたボールを受けたジョージさんにすぐにパスを出すように受け手となって指示を出す。
「やろっ!」
すぐに足を投げだす小早川だった。結構審判に隠れて見えないことをいいことにスパイクの裏を見せてきた。汚ねぇ野郎だ。
「っと」
「なっ!?」
そんなちょろい危険なタックルわざわざ受けるほど俺はお人よしじゃないからな。ワントラップで後ろからのDFをかいくぐって前を向いた。
「春さん!」
俺は一気に1本の斜めのパスを左サイドで待つ春畑さんへ送る。それを受けて春畑さんは中に切れ込み連動してサイドから一気にポールさんがオーバーラップ、いい形で攻撃がしっかりとできてまたサイドアタックからクロスかと思ったがポールさんはしっかりと見えていた。俺がバイタルエリアまで上がってボールを待っていたのを。
(よしっ! 前を向いて――)
「行かせるかよっ!」
そう言って迫ってくる小早川、本当にどこにでも湧き出てくる嫌な選手だということは認めてあげよう。
「よいしょっと」
「っ!」
ハッキリ言って見え見えのファウルなんて見苦しいもんだ。そんなファウルにさっきも同様受ける理由がわざわざなかった。
俺は右後ろからのタックルを左へボールを受け流し躱して一気に前へ行く。
「クロっ! 止めろ!!」
一気にエリア内に入った俺。ここは使うか、天帝の眼を!
「うっ、ぐ!?」
左右にシザースを入れて軸足に重心が傾いたところで一気に右へ振り抜く。
「そのまま座ってろ」
「!」
こけながらも後ろからボールへ足を延ばす黒田という選手、諦めないCBとしての気持ちの強さはDFの鏡だろう。だが――
「え!?」
今、俺の眼の前では無力に過ぎなかった。
GKとの1対1、俺は冷静に複数のゴールへの光の道筋が見えた。後はそこへ流し込むだけだった。
『入ったぁ~~!! 武蒼が先制!!』
『最後は赤星の2人抜きの個人技でGKはまた抜き!!』
俺は最後のキーパーの両足の空いたスペースにパスを送るようにゴールへ流し込んだ。先制だ。
『来たぁ~~! 赤星の――ロナウド!』
今大会恒例になった得点後のセレブレーション。反転ジャンプからの仁王立ち、ライトヒアライトナウのロナウドだ。
「この野郎! 圧巻だな!!」
「どうよ、俺のナイスなパス!」
毎度のことながら最終ラインからゴールを称えに来るジョージさんと、俺にマイナスのパスを送ったポールさんが駆け寄って肩を組む。それに遅れてほかのメンバーたちもばらばらとやってくる。
「ナイス、翼」
「あざっす、レノンさん」
まずは1-0。幸先よく先制に成功した。
第9話でした。
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次回も試合描写になると思うので頑張ります。
では、またまた~