天帝の眼が開眼しました。   作:池上

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第8話です。いつもありがとうございます!
後書きにお知らせがあるので気になる方は見てください。
では、どうぞ~


第8話 俺たちは進むだけ

あれからすぐして協会からの通達は突発的なことですでに手を打っていたことから部としてのお咎めもなく厳重注意という形で言い渡された。

 龍と優人、それに桜庭には暴力沙汰があったその日のうちに学校側が停学処分3日を言い渡した。それと、黒部先生も部活動への無期限謹慎も加えて……。そんなこともあってサッカー部内では少しギスギスするかと思ったけど、インターハイ予選に出られることで少しホッとする部員たちがほとんどで暴力沙汰を起こした3人には冷ややかな目で3日ぶりに学校に来て謝りに来た龍と優人を見ていた。また、桜庭に関しては全く謝りもしなかったことから部内の評価はガタ下がりだった。

 

「で、最近龍と優人と何か話してるのか?」

「いや、何も」

 

 部活前、練習着に着替えている時にナベケンからそう聞かれた。あれからもう早いもんで3,4週間か……。

 

「最近、あいつらあれ以降も土手下の方でサッカーしているって聞いた。これ内緒な」

「分かっているよ」

 

 ナベケンも知っていたようでここだけの話にとどめてくれた。その土手下でやっているメンバーはすでにサッカー部を抜けたドロップアウト組だと聞いた。それを周りが聞いたら龍たちにとって悪影響だと言うだろうけど、俺やナベケンはそうは思わないだろう。あいつなら、どんな奴でも本気にさせてしまうからな。現にしてしまったし。

 

「それにしても、インターハイ予選も始まったけどあんまり実感がないな」

「はっ? 試合に出ているのに?」

「あぁ、プリンスと違ってマークの寄せが甘いからかな……。なんでだ?」

「いや、試合に出てない俺に聞くなよ」

 

 でも、このまま順調に勝ち上がれば同じプリンスリーグに所属する同地区のライバル・聖和台との対決が待っている。その試合までに最高のコンディションで臨みたかった。

 そして、いつものように練習が始まってすぐのことだった。

 

「おっ、優希サンキュー」

 

 水分補給のボトルを優希から受け取った時に小言で話しかけられた。

 

「(翼くん、やばいのかな……)」

「(何が?)」

「(友坂さんが事情聴取を受けてるの。龍ちゃんたちの件、黒部先生に知れたみたい)」

 

 やっと気づいたのか。逆に遅いぐらいだ。

 

「(大丈夫、何も悪いことをしているわけじゃないから)」

 

 優希にそして自分自身に言い聞かせるようにそう答えた。

 その後、土手下に向かい様子を見た黒部先生たちは龍たちを呼び寄せて話し合う前に、すでにしっかりと出来上がった体を見て部への復帰を認めたのだった。

 

『ウォ――――プレッシャー!!』

 

 龍たちが復帰を認められてすぐのインターハイ予選準々決勝、対埼玉文理戦。

 

「そいつを止めろ!!」

 

 試合は4-0と武蒼が圧倒的に試合を進めていた。この試合、俺の調子はさらに上がりトップフォームに近づく勢いだった。

 

「くっそ――――!!」

 

 ドリブルから一気に勝負を仕掛けて最後はGKとの1対1を冷静に上へループシュートでゴールへ流し込んだ。

 

『決まった――――!!』

『これで5点目!!』

『この試合赤星がハットトリック! 強すぎる武蒼!!』

 

 この得点の後、相手がキックオフで再開したところタイムアップ。武蒼は、インターハイ予選準決勝へと駒を進めた。

 

 

「今日もお疲れ」

「あれ? 待っててくれたのか」

 

 練習が終わり、日が沈んだころ。昇降口の前で一人傘を持って待っている優希がいた。どうやら、俺が黒部先生と話して長くなっているのと傘を持ってないこと知っていたようで待っていてくれたようだった

 

「悪い悪い、入らしてもらうな」

「うん」

 

 早いものでもう6月の梅雨の時期に入った高校生活。最初は順風満帆に見えた俺たちだったけど、龍と優人たちが喧嘩沙汰でサッカー部での立ち位置を失った時は色々考えたな……。でも、あいつらはしっかりと受け止めてまたすぐに戻って来た時は本当にうれしかった。

 

「なんか、あれだな。2人で一緒に帰るなんていつぶりだろうね」

「そうだな。なんだかんだいつも4人かナベケンが加わっての5人で帰っていたからな~」

「そ、そうだね……」

 

 シュンっとなる優希。何かあったのだろうかと思ったけど、ここで無粋に聞いたらいつものことのように右のストレートが飛んでくるだろうと思いやめた。

 

「それにしても、2人で一緒にこうして並んで歩くのも妙に懐かしいもんだ」

「う、うん」

「いつも、龍と優人がいたからな」

 

 本当にいっつも一緒にいるよなと思う俺に優希も笑って答える。これからも一緒に歩いていけると俺は信じつつ、帰り道を進む。

 優希は本当にマネージャーとして真摯に取り組んでくれているので、周りの部員たちからも評価が高く俺も自分のようにうれしかった。他のマネさんもそうだけど。

 

「翼くん、先生と何話してたの?」

「ん? あぁ、そのことね。一応企業秘密的なことだから。いずれ分かるよ」

「そうか、じゃあ楽しみにしておくね」

 

 優希は多分だけど俺が隠していることも何故かわかっている様子だった。まぁ、今日の練習と試合のことを見ていたからわかっているのだろうけど。

 

「翼くん、もう完全にチームのエースだね」

「そうか? レノンさんを中心にしたDFにマコさんの高さ。それに比べたら――」

「いやいや、チーム最高の7得点を叩きあげている人が言うことですかね?」

 

 おっ、俺をおちょくろうとしているな。優希の奴。だが、俺をおちょくるのはまだまだな。

 

「なぁに、スタンドの監督さんに比べたら……まだまだ」

「も、もう!」

 

 だって、こいつ試合中のスタンドからよく声が響くからピッチにいても聞こえるんだよな。前の試合なんて、そりゃもう……笑いが止まらない。

 

「ご、ごめん。ププッ」

「何よ! 一人で笑ってさ!」

「思い出し笑い。主に優希さん監督のせいで……ププッ」

「そうですか、そうですか! 私の声援はさぞおもしろおかしいでしょうね!」

 

 ありゃ、拗ねてしまった。フォローフォロー……!

 俺はこの時、後ろ斜めからくる車に気付いてさっと優希の体を引いて守った。

 

――――ブロオオォォ……

 

「わ、悪い。急に引っ張って」

「あ、ありがとう……。守ってくれて」

 

 ちょうど優希の近くに大きな水たまりがあったからと車が危ない運転をしてたから守った。俺はずぶぬれになってしまった。はぁ~さっさと帰って風呂にでも入るか。

 

「あっ、タオル」

「ありがと、気が利く優希さん。さすが。でも、お気に入りのタオル汚れていいのか?」

 

 優希はいいと言うけど、一応確認だけを取ってタオルを借りた。あぁ~。お日様の香り。

 

「翼くん、いつもありがとね」

「どうした、急に改まって?」

「いや、そうでもないよ。今回、龍ちゃんと優人が土手下に行った時もあまり接してないように見えてフォローしているのを見ていたからさ。それに試合用のユニフォームの件とかも」

 

 あぁ、確かにあの時期はあんまり龍と優人に話しかけるのをやめておいたんだよな。へんにサッカー部の話をすればつらいだろうし。それと、土手下でサッカーの試合を始めると言った時にユニフォームを借りればいいじゃないかと優希に提案したら、アイツはいわく付きのオレンジ色のユニフォームをサッカー部から借りてきたからな。あの時の行動力には驚かされた。

 

「まぁ、あいつらも遠回りしたように見えていい経験だったみたいで良かったよ」

「フフっ、翼くんも2人が戻って来てから練習楽しそうだからね」

 

 まぁ、優希も気づくようにそれまでアイツらがいない部活はちょっとばかり面白くなかったからな。今は、また戻ってきてBチームにまで上がって来たから楽しいことばかりだ。

 

「それに、優希の笑顔も戻って嬉しいよ」

「!」

 

 ど、どうした!? 今、顔の上から蒸気なるものがボフッ! となったみたいに顔が真っ赤だぞ。

 

「おでこ出してみろ」

「うん……!」

 

 うん、おでこを合わしてみたらちょっとばかり熱が上がっているな。ここ最近、雨の中でマネージャーの仕事をしていたからな。

 

「よし、優希。カバン持ってやるから」

「いいよ、重いから」

「大丈夫、お前も分かっているだろ。俺がそんな軟じゃないことを」

 

 優希は分かってくれたのか素直にカバンを差し出してくれた。さて、早く帰って冷えただろう体を暖めなければ……。

 

△▼

 

 久しぶり、いや高校になって初めて翼くんと一緒に帰った帰り道は色々ありすぎて困っちゃいました。

 

「おでこ出してみろ」

 

 私は言われた通りおでこにかかる髪の毛を避けて差し出すと翼くんの顔が近かった……!? あまりの突然のことだった。目の前に翼くんの顔があってどういう顔をしたらいいのか私は分からずに目を閉じた。

 

「よし、カバン持ってやるから」

 

 翼くんはどうやら私が風邪気味で熱があるもんだと勘違いしていた。その前だよ。翼くんが嬉しそうに私の笑顔が戻ってくれたことに笑顔を向けて話したからだよ。それと、私を抱き寄せて守ってくれたことも。まったく、困った幼馴染の1人だ。

 

「優希、タオル肩にかけておけ。これで少しは寒くないだろ」

「あ、ありがとう……」

 

 優しく大きなタオルを私の肩にかけてくれた翼くん。小学校の時から中学校の時からちょっとおもしろおかしな翼くんだったけど、ここ最近は大人な感じで成長しているのが私に見えた。そんな翼くんに私は――

 

「優希、もうすぐ家だ。今日はさっさとゆっくりしろよ」

「うん、ありがと。翼くん」

 

 この熱い胸に残る気持ちはいつか伝えられる時が来るのだろうか。いや、伝えたい。いつの日か来るだろうその時に。

 

▼△▼

 

「おばさん、ただいま」

「ただいま」

 

 俺たちは雨の中を帰って来て、おばさんを呼ぶとすぐにタオルを用意してくれていた。

 

「お帰り。2人とも。あら? 優希、顔赤いわよ」

「おばさん、優希からだ冷えたみたいだから」

 

 とりあえず優希を早めにあったかいお風呂に入れさせてあげようと思い、おばさんにお願いしたら気を利かしてすでにお風呂を焚いていてくれたので、優希はすぐに浴室へと向かった。

 

「ありがとね、翼くん」

「いえいえ、あぁ。カバン優希の部屋の前に置いておきますね」

 

 俺はとりあえずズブ濡れの服を着替えるために自室へと向かい着替えた。

 

「翼くん、優希のお風呂後すぐに入ってね」

「ありがとうございます」

 

 俺はすでに食事を摂っていた龍と優人、それにおばさんとおじさんが待つ食卓に加わった。

 

「大丈夫だった。優希の奴?」

「あぁ、多分体が冷えただけだろうから大丈夫だと思いたい」

「確かに最近雨続きで大変だったからな」

 

 優人と龍も心配してくれていたようだな。

 

「おじさん」

「ん? どうしたの?」

「あとでDVDデッキ使いたいんだけどいいかな?」

「うん、いいよ。何見るの?」

「聖和台の前の試合を」

 

 俺は先生にお願いして焼き増ししてもらった準決勝の相手・聖和台の試合の映像を見たいと思い後でおじさんに操作を教えてもらうことにした。

 

「お先~」

「優希、夜ご飯はどうする?」

「う~ん……。今日は横になっておくよ」

「そう、だったらしっかりと布団にかぶって――」

 

 どうやら優希は思ったより大丈夫そうだった。最悪1日休んでもすぐにまた戻れるだろう。

 

「ねぇ、せっかくだから今から観ようよ。聖和台の試合」

「俺も見たい」

 

 結局、聖和台の試合を夕食後ではなく、前倒しで見ることになった。さて、どんなチームかをしっかりと把握しておこう。




第8話でした。
一気に次はインターハイ予選の準決勝へ飛びます!
そこで前もってお知らせをしたいのが早くてもインターハイ本戦、遅くても選手権(出場した場合)の全国の対戦相手からオリキャラ出るかもしれないということです。そんなに主要となるキャラは出さないつもりですが、出す場合が高いのでまたタグにオリキャラを追加しようかと思っています。
そういうことなので、今後もお付き合いのほどよろしくお願いします。
では、次回から不定期になるかもしれませんが、またまた!

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